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第1345話

Penulis: 夏目八月
玄甲軍の配備により、都には一気に緊張が走った。

夜間外出禁止令が出され、遊郭や芝居小屋も商売にならなくなった。茶店や酒場は日が沈むと同時に戸を閉ざし、夜の都はまるで死んだ街のようだった。

今の作戦は、敵が動かぬ限り、こちらも動かない。

河川工事は依然として続いている。無理に工事を止めれば、玄甲軍が大規模な包囲を開始し、さくらが先手を打てる。

工事を続けるなら、朝廷にとっても民にとっても利益になる。

両軍の睨み合いこそないものの、戦の気配は既に濃厚に漂っていた。

城門の出入りは日々厳しく調べられている。「黒幕」が都に戻らぬはずがない。全財産と命を賭けているのだから、遠隔指揮など不可能だろう。

さくらは以前から黒幕がすでに都に戻っているのではと疑っていた。しかし紫乃が湛輝親王邸に住み込んでいるにも関わらず、怪しい人影は発見されていない。老親王の身の回りは例の二人の老使用人が世話をしており、他の家人たちは雑用に追われ、買い物に出る者も饅頭に見張られて外部との怪しい接触はない。

本当に頭が痛い。

少し気持ちを落ち着けなければ。親房家の人々が释放され、男子は全員流罪となる。賢一までもが例外ではない。

邪馬台への流罪ならまだましかもしれない。現地には頼れる者もいるだろう。

三姫子と老夫人たちは当面、大きな屋敷は構えられない。三姫子が音無楽章のもとに預けた銀子があるとはいえ、今この時期、彼女らは工房に住むしかなかった。

夕美は工房暮らしを嫌がると思っていた。以前からそうした場所を見下していたからだ。

しかし天牢は人の心を柔らかくするものらしい。夕美は何も言わず、素直に指示に従った。

文絵については、さくらは親王邸に住まわせ、明日香の遊び相手にしようと考えていた。

明日香は武の天才肌で、文絵は聡明な子だ。一人は武芸に長け、もう一人は学問に秀でている。年は離れているものの、きっと良い友達になれるだろう。

文絵は庶民に落とされただけで奴隷身分ではないため、堂々と書院に戻ることができる。庶民の娘でも雅君女学院には入れるのだから。

蒼月の娘と三姫子の他の庶女たちには意向を聞いてみたところ、工房に残って清原澄代から刺繍を習いたいと言う。

女子の学問が必ずしも生計の糧になるとは限らないが、手仕事なら将来食いっぱぐれることもない。

さくらは無理強いしなかった
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