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忘れられた研究所の秘密 ④

last update 최신 업데이트: 2025-04-20 22:58:32
 リノアとエレナはシオンの研究所の扉を押し開け、北の小径の奥へ向けて足を踏み入れた。

 陽は西へ傾き始め、森の中に柔らかな夕暮れの気配が漂い始めている。リノアとエレナは、ゆっくりと伸びていく木々の影を感じながら歩を進めていた。

 時間に追われるわけではない。しかし、この言いようのない気持ちは一体何だろう。穏やかな情景とは裏腹に、森に立ち込める空気には言いようのない不穏な気配が漂っている。

 リノアは腰の革帯に差し込んだシオンの笛を無意識に握り締めた。

「この笛は僕、そのものだ。リノア、一つあげるよ」とにっこり笑ったシオンの笑顔が忘れられない。その時以来、シオンの笛は私の大切な宝物であり、心の支えとなっている。

 シオンが笛を吹けば、その透き通った音色に誘われるように小鳥たちが集まった。シオンの心はいつも自然と共鳴し、まるで森の一部のように溶け込んでいた。

 シオンは実の兄として、リノアに優しさと安心を与えてくれた、かけがえのない人だった。そのシオンの死はリノアの心に癒えない傷を刻んだ。

 シオンは森の奥で何を見つけたのか? どうして命を落とさなければならなかったのか? その答えがすぐに見つかるわけではない。

 それでもリノアの胸にはシオンの秘密を解き明かしたいという熱い想いが渦巻いていた。

 隣を歩くエレナが年上らしい落ち着きと、凛とした瞳で前を見据えている。だが、その凛とした表情の奥には、シオンの死に対する深い悲しみが隠れていることをリノアは感じ取っていた。

 エレナとシオンは恋人同士だった。二人が寄り添い、言葉を交わす姿は自然で、お互いの存在が当たり前のように感じられた。だけど、シオンはもういない。喪失の痛みを押し隠すように、エレナは前だけを見つめて歩いているのだ。

 木々が迫る小径を抜けた時、リノアの足がぴたりと止まった。

 地面に焦げた土の跡が点在し、黒ずんだ石が辺りに散乱している。冷たく湿った感触が手に伝わり、鼻をつく焦げた臭いが森の清涼な空気と混じる。

 それは、ここで確かに炎が揺らめいていた証だった。

 リノアは膝をつき、石を一つ拾った。

「これ、シオンの焚き火の跡だ」

 リノアは石の表面を撫でて、ざらついた焦げ跡を確かめて言った。

 以前、森で見たものと造りが同じだ。他の村人たちは食料を調達しに来るか、単に通り過ぎるだけ。この場所で火を焚いて、夜を過
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  • 水鏡の星詠   アークセリア ①

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  • 水鏡の星詠   管理された静かな森 ③

     三人は黙々と進み続けた。 徐々に夕暮れが森を橙色に染め、やがて空が深い群青へと染まり始めた。 霧は夜の冷気と混じり合い、ひんやりとした空気が肌に心地よくまとわりつく。 静寂の中、足音だけが規則的に響いた。 集落を後にしたのは、まだ陽が傾き始める前だった。 普通なら、長老たちが旅の危険を説き、引き留めたはずだ。しかし、その発言は聞かれなかった。 その理由はよく分かる。アークセリアに近づくに連れて安全性が高まることを、村の人たちが十分に理解していたからだ。 セラによれば旅人のための宿泊小屋が所々にあるとのことだった。それは、ここに住む人たちが築いた小さな拠点だ。 森の奥へと続く道は確かに険しい。しかし、その先には整えられた小屋が点在し、旅人が安心して夜を過ごせる場所が用意されている。 アークセリアまでの道程を考えれば、夜通し歩くわけにはいかない。 獣道を進むうちに、やがて整備された道が現れ始めた。人の手が加わった証── 石垣が組まれ、獣の足跡よりも人の足跡が多く残る道。進むごとに、その変化はより顕著になった。 三人はその安全圏へと足を踏み入れて、なおも夜の静寂の中を進み続けた。「小屋が見えて来たよ」 セラが木立の中の開けた場所を指さした。 簡素ながら頑丈な造りで、薪が備えられている。水は近くの川で十分に賄える。野生の森と文明の境界を示すかのような存在だ。 そこは大きな岩が風除けになるように並び、寝るには悪くない場所だった。扉は開け放たれており、誰でも休めるようになっている。 遠くの小屋から微かな火の灯りが漏れていた。「ここ良いね。霧濃くて、風が弱い。落ち着いて休めそう」 リノアは肩の荷を下ろし、長い息をついた。 集落を出る時に幾ばくかの食料を貰っている。リノアたちは手を合わせて食事を済ませると、それぞれ落ち着く場所を見つけて、夜の静寂へと身を委ねた。 遠くで獣の鳴き声がかすかに響き、森の鼓動が夜の帳の中で静かに息づいている。 アークセリアには明日、辿り着く。

  • 水鏡の星詠   管理された静かな森 ②

     穏やかな空気の中、リノア、エレナ、そしてセラの三人は静かに歩を進めていた。 冷たい湿気が肌にまとわりつき、薄く張った霧のヴェールが景色を柔らかく包み込んでいる。 三人の影が光の中に溶け込んでいく中、不意に木々の隙間から動物たちの視線を感じた。 ひょっこりと顔をのぞかせる動物たち── 葉擦れの音と微かな足音、そして草むらが波打つ微かな音だけが聞こえる。 彼らは警戒する様子はなく、こちらを見つめるばかり。その姿からは緊張感も敵意も感じられない。 ここは滅多に人が通らない道なのだろう。あまり人間を警戒している様子がない。ただ、動物たちは好奇心に駆られて様子を伺っているだけなのだ。 動物たちが静かに息づいている── 彼らは、リノアとエレナが住むクローブ村に生息する動物たちにそっくりだ。しかし、どこか様子が異なるようにも思える。 リノアたちは、その視線を背に受けながらも立ち止まることなく歩を進めた。「やっぱり霧が薄いね」 エレナが遠くを見据えて呟いた。 集落の周辺も霧が薄いように感じられたが、ここは更に霧の濃度が薄まっている。 これまで歩んできた道に比べると、視界が開けているのだ。クローヴ村の森の濃さとは比べ物にならない。 アークセリアは比較的、大きな街として有名だ。開発が進み、人の手が加えられている。その影響で霧が薄くなっているのではないか。 アークセリアに近づくに連れて、霧が薄くなっているのは、それが原因だろう。 森に変化を加えたら、森の湿度も変化する。霧が薄くなるのも当然だ。「それにしてもセラ、すごいね」 リノアが先を行くセラに言った。 リノアが慎重に岩を登る横で、セラは一瞬の跳躍で頂に立ち、振り返って微笑んでいる。 獣道は険しく、岩や木の根が無秩序に絡み合っているというのに、セラは意にも返さない。「こんな道でも、舞踏の動きが生きるなんて」 舞踏で鍛え上げたしなやかな身体が軽々と岩を跳び越え、木の根を滑るように避けていく。 その姿は、さながら風と共に駆ける鳥のようであり、揺れる草のように軽やかだ。 照れ笑いを浮かべたセラは、肩にかけた布製の袋を優雅に整えると、そのまま軽やかに歩を進めた。 その動きに呼応するように刺繍が施された布地がしなやかに揺れる。「アリシアに教わったの。どんな障害もリズムを掴めば乗り越えられるっ

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