137.
サイドストーリー2 厳重注意!
中編
花岡がアクアリウム御徒町店に慣れてきた頃、数名の花岡を狙った男性スタッフがいた。それ自体は当たり前のことで。本当のことを言えばほとんどの男性スタッフが花岡に好意を抱いていたはずである。そのくらい花岡は魅力的な女性であった。
そうなると、今度お茶しようなどの利口なやり方をするやつはいい、常識人として好意を伝えてくるには構わないが、ここアクアリウムにはさすがはアクアリウムというかなんというか、知性の足りない雑魚どもがウヨウヨいた。つまり、上司である能登(のと)からの過度なボディータッチ。セクハラである。
「ちょっと! やめてください!」
「なんだよ、そんなに大騒ぎすることないだろ」
「なんだよじゃないですよ。毎日毎日、何回言わせるんですか! 本当に嫌なんです! いいですか、下着を着用しているであろう位置に同意なしに触れたらそれはもう性犯罪です!」
「ちょっとふざけただけじゃないか」
「ちょっとふざけて触っていいものじゃないんですよ。そんな事もわかりませんか」
こんな軽々しくセクハラが行われるような環境は狂っている。
(もうやだ。……お父さんに会いたい)
そんな逃げたい気持ちも当然あるが、それは違う、私が変えなければ!
「能登マネージャー。あなたのこと、必ず訴えます。私は断固戦いますからね」
────
──
それから数日。
花岡が調べて分かったことだが、ここアクアリウムの従業員はかつて木村紗耶(きむらさや)という女メンバーに無理矢理飲酒を勧めて酔わせて性行為をするという正真正銘の性犯罪。
142.第四話 四風偽装 その日、マナミが『ひよこ』でバイトしていると今日はユウとミサトが偶然にも同卓になった。「あら、誰かと思えばミサトじゃない。麻雀部以外で同卓したのは初めてね」「ユウもフリーで打つようになったのね。フリー雀荘はどう? 色んな人がいて面白いでしょう?」「そーね、とっても楽しいわ」 ユウの麻雀は相手がどう出るか見極めながら刀を構えるような、中間距離を得意とする麻雀だった。間合いに入れば切り捨てられるというプレッシャーが同卓者にかかる。(相変わらず、すごい存在感。何度やっても圧力がビリビリ来るわ。まるでサムライね…… だが!)「ポン!」 受けの構えをしつつもその間合いへと飛び込んで行くミサト。(マナミならバチバチにぶつけて喧嘩を挑むんでしょうけど、私は受けつつ進む柔の雀士だ。危険度の高い牌を出さない方針で前に進む!) ミサトの麻雀は受けの構えでチャンスを掴んだらドガン! と一本の柔の麻雀。 マナミの目にはまるで日本刀を構えたユウの懐に柔道家のミサトが踏み込んで行ったような幻覚が見えたという。そしてその雰囲気は店長も感じていた。「マナミさん。あの井川さんの上家に今座ってる若い子は誰なの? さっき話してたけど」「ああ、あの子は佐藤優。私たち姉妹やミサトと一緒に高校生の頃から毎日麻雀を研究した仲間です。そう言えば私が最初に彼女を誘ったんでした。懐かしいな。今ではタイトルホルダーにまでなっちゃって」「研究って、例の『麻雀部』って呼んでるやつかい? え? タイトルホルダー?!」「そうです。それ、彼女の家のことなんですよ。厳密にはスグルさんの部屋。タイトルは最近新しくできたUUCコーヒー杯ですね。あれの記念すべき第1回を優勝したの
141.第三話 夢への道を一歩ずつ カオリはその日、仕事が終わってからアンとショウコの働いてる喫茶店『グリーン』に寄り道してた。例の麻雀教室計画はどうなってるかなと思ったから。すると、なんと既に店舗(なのか?)があるではないか。店の中から外に続く通路が増設されており、渡り廊下を通ったその先にプレハブ小屋があった。そしてその中には一台の全自動麻雀卓がある。アンとユウはここで麻雀を教えつつ、ネット麻雀の牌譜を添削するなどしていくようだ。「順調に準備が進んでいるようね」「はい! オーナーが支援して下さって、高校卒業後はここで正社員にしてくれると約束もされてるし。驚くほど順調です!」「それは良かった」 ユウとアンの夢は叶っていきそうだ。あと足りないのは集客のための説得力ある実績作りだけだ。そればっかりは一朝一夕には手に入らない。 少女達は夢への道を地道に一歩ずつ進んでいく。(アンたちはすごいね。ねえ、woman)《ですねえ、毎日部室に集まっていた頃がもう今では懐かしいですね》(今日はこのあと予定もないし、久しぶりに部室に行こうか)《いいですね! そしたらユウに連絡しておきますか》 カオリは麻雀部のグループトークに書き込みをした。“今から行くよー”“開いてるから勝手に入ってー” すると野本ナツミからも反応があった。“私もいこーっと” 三人麻雀を主戦場とするナツミが来るのならということでその日はナツミとユウとカオリでヘトヘトになるまで三人麻雀をした。 その後、仕事を終えたアンとショウコが合流したのでユウは「私、これ以上はもうダメ。体力ゲージゼロだわ。ちょうど2
140.第二話 ミサトの麻雀 その日ミサトはバイト前の午前中だけ『ひよこ』で遊んでいた。 ミサトの麻雀は目前のローリスクを受け入れて予測可能な後のハイリスクを回避するものだった。 いまは安全策を使う時ではない。という事をよく使い分ける、その嗅覚が鋭いのである。 それを感じさせた手牌がこれ。ミサト手牌二二三三三四七八九⑦⑧⑨89 親が仕掛けている8巡目にこの手になった。ドラは9索だ。親はテンパイしているかもしれず危険度で言えば二萬切りだ。しかし……「リーチ」打四 これがミサトの選択する守備麻雀である。 その直後追いかけリーチも入りリーチ合戦+親の仕掛けとなる。が。ツモ三「カン」 ミサトがリンシャン牌に手を伸ばす。「ツモ」「…あら、スジの一萬が出ないと思ったらこんなにここにあったのね」ドラ9新ドラ二裏ドラ二新裏二「リーヅモ三色リンシャンドラ7… 三倍満! 6000.12000の4枚です」「ぐわ!」「また新人王の勝ちかよー!」「プロはやっぱり強えわ」「フフ、こんなのはついてただけですよ」 ミサトはそう言うがもちろんそんなことはない。この手、親のプレッシャーに押されて
139.ここまでのあらすじ 女流リーグに参戦した財前姉妹。初戦から井川美沙都や福島弥生といった強敵との対局となり激しい戦いとなる。 対局の後には倒した敵との間に友情のようなものが生まれ。財前姉妹にまた1人仲間が増えるのだった。【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。女子大生プロ雀士。所属リーグはC2読書家で書くのも好き。クールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。神の力を宿す。日本プロ麻雀師団順位戦C3リーグ繰り上げ1位財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。ラーメンが大好き。妹と一緒に女子大生プロ雀士となる。神に見守られている。C2リーグ所属。第36期新人王戦3位佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマったお兄ちゃんっ子。誘導するような罠作りに長けている。麻雀教室の講師になることが夢。第1回UUCコーヒー杯優勝竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。佐藤優の相棒で、一緒に麻雀教室をやることを夢見ている。駅前喫茶店『グリーン』でバイト中。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『富士2号店』という雀荘の遅番メンバー。萬屋の右腕的存在。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているが全く気にしていない。
138.サイドストーリー2 厳重注意!後編 今日は本統括の誕生日だ。その日、本統括は西新宿店に打ちに来ていてたまたま生田と同卓していた。生田は新しいネタはないかとアクアリウムに潜入したわけだったが、その日新しいネタは見事にあった。 常時半ズボンのマネージャーが青いバラを誕生日だからと本統括にプレゼントしたのだ。男同士で花とかすげえセンスだなと思ったし、それより何よりその花の花言葉。 青バラの花言葉は『夢実現』だ。かつてはバラの青は開発不可能とされていて、花言葉は『不可能』だった。作れない花の花言葉があるというのも不思議な話ではあるが。しかし、科学が発達して青いバラの開発もついに可能となった。すると花言葉もその時に『夢実現』に変わったのである。 花言葉で「夢実現しましょうね!」みたいなメッセージを贈るとは…… そのメッセージがまた悪徳宗教くさくてアクアリウムにぴったりだ。いや、普通の人が贈ったならそんな風には見えないのかもしれないが。 その後、本統括が帰ると遅番が出勤してきたがその連中のだらしないこと。まず、今日から赴任したというマネージャーが髭を剃ってきてない! それだけでも舐めてるのに、さらに卓上で欠伸を連発して、しまいには卓上で対局中に寝た。もう一度言うが、赴任初日にである。 要するに、これが麻雀アクアリウムという所なのである。全く他の雀荘とは違う。異質極まりない組織。 花岡と生田はここの空気に心底吐き気がしていた。 そして、このとき潜入調査中の生田をさらに後ろからつけている男がいることに花岡と生田はまだ気付いていなかった。────── ある日、生田は能登(のと)の後をつけていた。ヤツが普段から風俗通いしていてそれで金が無
137.サイドストーリー2 厳重注意!中編 花岡がアクアリウム御徒町店に慣れてきた頃、数名の花岡を狙った男性スタッフがいた。それ自体は当たり前のことで。本当のことを言えばほとんどの男性スタッフが花岡に好意を抱いていたはずである。そのくらい花岡は魅力的な女性であった。 そうなると、今度お茶しようなどの利口なやり方をするやつはいい、常識人として好意を伝えてくるには構わないが、ここアクアリウムにはさすがはアクアリウムというかなんというか、知性の足りない雑魚どもがウヨウヨいた。つまり、上司である能登(のと)からの過度なボディータッチ。セクハラである。 「ちょっと! やめてください!」「なんだよ、そんなに大騒ぎすることないだろ」「なんだよじゃないですよ。毎日毎日、何回言わせるんですか! 本当に嫌なんです! いいですか、下着を着用しているであろう位置に同意なしに触れたらそれはもう性犯罪です!」「ちょっとふざけただけじゃないか」「ちょっとふざけて触っていいものじゃないんですよ。そんな事もわかりませんか」 こんな軽々しくセクハラが行われるような環境は狂っている。(もうやだ。……お父さんに会いたい) そんな逃げたい気持ちも当然あるが、それは違う、私が変えなければ!「能登マネージャー。あなたのこと、必ず訴えます。私は断固戦いますからね」────── それから数日。 花岡が調べて分かったことだが、ここアクアリウムの従業員はかつて木村紗耶(きむらさや)という女メンバーに無理矢理飲酒を勧めて酔わせて性行為をするという正真正銘の性犯罪。