LOGIN清司はうなずいて言った。「こんな場所にしては、人が多いな」清司の声は、玲奈には聞き覚えがある。清司だとわかると、玲奈は顔を上げようともしなかった。凜音と礼二は、清司の声を聞き分けられなかったが、「村田さん」という呼び声を聞いた瞬間、清司のことを思い浮かべた。声の方を振り返ると、本当に清司だった。凜音は肘で軽く玲奈をつつき、耳元で囁いた。「村田清司だ」玲奈が返事をする前に、凜音はまた口を開いた。「清司が来てるんだから、智昭とあの女も来てるんじゃない?」彼らが来るか来ないかは、玲奈は気にしていない。その時、清司も彼らに気づき、ちょうど礼二と視線が合った。瑛二と翔太も、清司とは知り合っている。清司は翔太が長墨ソフトで働いていることも知っている。一方、瑛二については……瑛二が礼二と話しながら、玲奈や礼二たちと一緒にテントを組み立てている様子を見て、清司は驚きを隠せなかった。瑛二はいつから礼二たちとこんなに親しくなったんだ?瑛二も清司に気づいた。そんなに親しい関係ではないが、同じ社交界の人間だ。顔を合わせた以上、挨拶はしておくべきだ。瑛二は清司に向かって軽く会釈した。「村田さん」「田淵さん」清司も会釈し、続いて聞いた。「田淵さんは休暇中か?」「うん」瑛二と軽く言葉を交わした後、清司は礼二にも挨拶した。「湊社長」礼二は淡々とうなずいた。「村田さんか、奇遇だな」「そうだな」話しながら、清司の視線は玲奈に落ちた。玲奈は気づかないふりをして、荷物からテントの部品を取り出して、礼二に手渡した。礼二はそれを受け取り、周囲を見回してから小声で言った。「どうやら、智昭たちは……来てないみたいだな?」「さあ、どうかしらね」「清司が来てるんだから、あいつらが来ないわけがない。まだ到着してないだけかもしれない」瑛二と翔太は二人の会話を聞き取れなかった。しかし、礼二が清司を快く思っていないことは感じ取れた。瑛二と翔太も清司とはあまり親しくないため、瑛二は言った。「村田さん、私たちには用事がある。また後で話そうか?」清司もただ社交辞令を言っただけで、その話を聞くと頷いた。「そうしよう」そう言うと、清司は振り返って歩き去り、少し距離を置いてから、玲奈と礼二たちをちらりと見た。瑛二と翔太
玲奈が駐車場を探して、誰のスマホかを確認しようとしたところ、ちょうど茜から電話がかかってきた。玲奈が電話に出ると、向こうから智昭の声が聞こえてきた。「俺だ。スマホをお前の車に忘れたみたいだ」玲奈は淡々と言った。「後で位置情報を送るから、取りに来て」「わかった」玲奈は駐車場を見つけ、位置情報を送ってから数分後、智昭が駐車場に到着した。茜は眠っているから、降りてきたのは智昭だけだ。玲奈から渡されたスマホを受け取り、智昭は「ありがとう」と言った。玲奈は淡々と答えた。「別に」言い終えると、玲奈は窓を閉め、出発しようとした瞬間、智昭が急に言った。「近々出張に行くけど、できるだけ早めに戻ってくる」玲奈は動きを止めた。彼らの離婚手続きはもうすぐで終わるのだ。玲奈は、智昭が手続き完了までに戻れないかもしれないが、それほど長引くことはないと理解した。今までは色んな事情で離婚できなかったのは、どっちにも責任があるから、今智昭がこう言っても、冷たい言葉が出ることはなく、ただ「わかった」と答えた。そう言い残して、玲奈は車を運転してその場を去った。裕司の四人家族には別の予定があるため、翌日の午後、玲奈は礼二と彼の友人二人、そして仕事を終えて帰国したばかりの凜音と、一緒にキャンプに行った。昨日翔太から、今日はキャンプに来る人が多いかもと言われたが、まさにその通りだ。一行が到着した時、すでに多くのテントが張られ、賑やかな雰囲気だった。翔太は彼らより早く到着していたので、彼らが到着すると近づいてきた。「来た?」凜音が翔太を見ると目を輝かせ、玲奈の耳元で囁いた。「あら、イケメンじゃない?知り合いなの?」玲奈が頷いて、続けて話そうとした瞬間、別の声が割り込んできた。「湊社長」玲奈は声の方に振り向くと、瑛二の深い眼差しに合った。翔太は瑛二を見つけた瞬間、表情が秒で冷え切った。まさか瑛二まで来るとは思っていなかった。瑛二が来る理由は、礼二には明白だった。礼二は軽く咳払いをして笑った。「これは田淵さんじゃないか、奇遇だな」瑛二は微笑んだが、視線は玲奈に向けたままに挨拶をした。「玲奈、久しぶり」「……久しぶり」凜音は一瞬で何かを悟り、興味津々で玲奈の耳元に寄って、笑いながら言った。「まさか、瑛二はあなた目当てなの?あなたたち……いつから——」玲奈は眉をひそ
玲奈は、智昭が自分の手を握るとは思ってもみなかったので、少し驚いた。しかし、玲奈は深く考えず、智昭の手を払いのけ、淡々と言った。「自分で歩くわ」そう言うと、玲奈は智昭を見ずに、先にソファの方へ歩いていった。智昭は玲奈にこんなに冷たくされても怒ってなく、ただ笑って、玲奈が座った後、彼女の隣に座った。テーブルの周りのソファは大きいし、席もたくさんあるが、智昭はわざわざ玲奈の隣に座った。玲奈は一瞬戸惑ったが、何も言わず、お茶を飲みながら、向こうで楽器を試している茜を見上げる。智昭もカップを手に取り、お茶を飲む。カップを置くと、智昭は茜を見ず、玲奈の方を見て、何か言おうとしたが、その時、玲奈のスマホにメッセージ通知の音が鳴った。スマホを見ると、翔太からのメッセージだ。翔太は動画を一つ送り、その後補足のメッセージを送ってきた。【専門家によると、30年に一度の流星群があるようだ。明日はキャンプを兼ねて流星群を見る人が多いみたい。僕と友達も行く予定だ。湊さんと君はこういうことに興味ある?】玲奈はしばらくの間、家族や友人と外で遊びに行っていなかった。流星群が見られるかどうかはさておき、みんな集まって、賑やかな雰囲気を味わうのはなかなか良さそうだ。玲奈が読み終え、返信しようとした時、智昭が玲奈のスマホに視線を向けているようだと気づいた。玲奈は一瞬動きを止まり、智昭をちらりと見た。智昭は玲奈が見てきたのに、少しも気まずそうではなく、淡く笑って視線を戻し、ついでに玲奈にお茶を注ぎた。「……」智昭はほとんど玲奈に寄り添って座っているから、わざわざ横を向かなくても、玲奈のスマホの内容が見えるはずだ。玲奈は何も言わなかったが、体をずらして少し離れ、それから翔太に返信した。【私は結構興味があるわ】その時、翔太からまたメッセージが来て、玲奈が返信しようとした時、さらに新しいメッセージが届いた。今度は翔太からのものではなく、瑛二だ。【久しぶり】玲奈が返事を読み終えた途端、瑛二からまたメッセージが届いた。【明日、時間あったら一緒に出かけない?】玲奈はそれを見て、少し躊躇してから返信した。【ごめん、明日はもう予定が入ってるの】瑛二は怒っていないようで、玲奈の返信を見るとすぐに返事が来た。【大丈夫、じゃあまた今度声かけるよ
結菜の言葉を聞いて、優里がスープを口に運ぶ手が一瞬止まった。しかし、優里はすぐに平静を取り戻し、他の誰も彼女の異変に気づかなかった。正雄が尋ねた。「優里ちゃん、智昭は帰ってきたのか?」優里はその言葉に、まつげを軽く震わせた。智昭がすでに帰国していることなど知らないと、言えるはずないでしょ?智昭……そのことを優里にまったく伝えていなかった。今日は何度か電話したのに、智昭はずっと出なかったから、忙しいのだろうと思っていた――優里が口を開く前に、正雄は笑いながら続けた。「この前の件は智昭のおかげで助かった。ずっと家に招いて食事でもと考えているが、智昭は出張で海外に行っていると言うから、言い出せずにいた。今帰ってきたから、聞いてみてくれないか?」大森おばあさんも頷いた。「ええ、確かに智昭にご馳走を振る舞うべきだわ」優里は我に返り、無理やり笑顔を作って答えた。「そうね、分かった。後で智昭に伝えておくわ」その後、話題はまた変わっていく。先ほど結菜が話した、智昭と玲奈が一緒に出かけた件については、遠山家と大森家の誰も気に留めていない。彼らは、智昭は相変わらず玲奈を眼中に置いておらず、玲奈を好きになることなど、絶対にあり得ないと思い込んでいるからだ。だから、智昭と玲奈が一緒に出かけたと聞いても、茜のためだろうと無意識に考えてしまう。さらにこの件は智昭がすでに優里に伝えたと信じ込んでいる。優里はもちろん彼らの考えを分かっている。前までは、優里も同じように考えていたから、玲奈は眼中にない存在だ。だが今は――優里は食べる気がなくなって、食器を置いて立ち上がった。「私、先に上がるわ」佳子はさっき優里の顔色が優れないのを見て、特別にスープを用意させていたが、小さな茶碗サイズのスープさえ完食していないのを見て、言った。「優里ちゃん、もう少し食べたら?」優里は首を振った。「もう食べられないわ」そう言うと、優里は階上へと向かった。部屋に着いた途端、優里は智昭に電話をかけた。電話はつながったが、出ることはなかった。優里のスマホを握る手は、じわりと力を込めていく。電話が自動で切れた後、優里は茜に電話をかけようと思ったが、しばらく考えた末、結局電話をかけなかった。一方その頃。玲奈と智昭たちはすでにドラ
結菜は、智昭の心には姉である優里しかおらず、玲奈のことなど全く好きではないと思っている。だから、玲奈と智昭が一緒にいるのを見ても、彼女はあまり気にせず、智昭と玲奈がここに現れたのは、きっと茜のためだと思っていた。結菜がそう考えているとき、ちょうど玲奈の前に立ち、振り返って玲奈に話しかけている茜を見かけた。それを見て、結菜は冷笑を浮かべる。茜は結菜に気づかず、すっかりドラムセットに興味をそそられている。茜は興奮して玲奈に言った。「ママ、このドラムセットすごくかっこいい!私も習いたい!」茜が習いたいと言えば、玲奈は反対するはずがない。しかし、玲奈と智昭は離婚する予定で、茜の親権は智昭にある。これから茜が何を習うかは、智昭が決めるべきことだ。玲奈は淡く笑って言った。「パパに聞いてね」茜は体を横に向けて聞いた。「パパ、いい?」智昭は笑った。「いいよ」茜は嬉しそうに「やった!」と言い、片手で玲奈を、もう片方の手で智昭を引っ張って言った。「じゃあ今すぐ申し込みに行こう!」しかし智昭は動かず、腰をかがめて茜の頭を撫でながら言った。「申し込みは急がなくていい。習いたいなら、まずは気に入ったドラムセットを選んでみるか?選んだら、先生を家に呼んできて、茜ちゃんに教えてもらう」茜は目を輝かせて言った。「うんうん、じゃあ今すぐ行こう!絶対一番かっこいいのを選ぶ!」そう言って、茜は智昭の手を離し、玲奈を引っ張って人混みから出ると、振り返って聞いた。「パパ、ドラムセットはどこで買うの?」智昭はスマホを取り出し、二人の後ろについて、歩きながら言った。「電話で聞いてみる」「うん!」玲奈は茜に引っ張られ、行かないと言おうとしたが、茜がこんなに喜んでいて、どうしても自分を連れて行きたがっている様子や、智昭が電話で人に聞いているのを見て、行かないとは言えなくなる。智昭が電話を終えると、一歩進んで玲奈のそばに来て、笑いながら言った。「お前の車で行こうか?」玲奈がまだ何も言わないうちに、茜はすぐに「いいよ、いいよ」と言った。「……」この状況で、玲奈が断る理由などあるだろうか?玲奈は何も言わず、茜と智昭と一緒に、広場を離れ、地下駐車場に向かった。結菜は玲奈のことを気にしなかったが、今の三人が幸せな家族のように見える光景を見
あの日、玲奈が智昭に返信してから数日経ったが、智昭からは何の返事もなかった。代わりに、茜が二回連絡してきた。金曜日の夜、玲奈は茜を連れて遊びに出かけた。夕食を食べて、宝探しゲームを終えた後、茜がタピオカミルクティーが飲みたいと言い、玲奈が注文したミルクティーを渡そうとした時、ふと遠くに智昭の姿が見えた。そして、智昭は玲奈と茜の方へ歩いてきた。玲奈は動きを止めた。智昭は玲奈が気づいたのを見て、整った顔に薄笑いを浮かべる。その時、茜も智昭に気づいたが、驚いた様子はなく、まるで最初から彼が来るのを知っていたのようだ。茜は嬉しそうに、智昭に手を振った。「パパ、こっちだよ」智昭が近づくと、茜は手に持っているミルクティーを軽く振りながら聞いた。「パパ、飲む?」智昭は大きな手で茜の頭を撫でた。「パパは喉が渇いていないよ」茜は「そうなの」と言い、自分で楽しそうに飲み始める。すると智昭の視線が再び玲奈に向けられる。「空港から来たばかりだ」「……」別に聞いてないのに。だが、茜もいるから、玲奈は「うん」とだけは応えた。玲奈は智昭を見ずに、俯きながら茜に言った。「茜ちゃん、もう遅いから、そろそろ――」しかし、茜は遠くの人混みに興味を引かれていた。「ママ、あそこ、ドラムを演奏してる人がいるよ!」そう言うと、玲奈が止める間もなく、茜は走り出した。茜が見つけたドラム演奏は、実は近くのドラム教室が生徒募集のために、楽器を広場に運び出し、この辺りのドラムが演奏できる子供たちに、パフォーマンスをさせるものだった。今時の子供はみんな度胸があり、茜と同じ年頃の子が次々と演奏していく。それなりの基礎を備えたらしく、どの子もうまく演奏している。さらに愉快な伴奏と相まって、多くの見物客を集めている。茜はドラムを触ったことがなかったが、同年代の子が演奏するのを見て、かっこいいと思ったらしく、すぐに人混みに紛れ込み、傍らで見入っていた。周りは結構見物客が多くて、玲奈は茜を見失わないように、急いで後を追った。智昭は急ぐ様子もなく、二人の後ろ姿を見ながら、ゆっくりと玲奈の後について行き、そして玲奈の横に立った。玲奈は智昭の接近に気づいたが、何も言わなかった。茜は玲奈が来たのを見て、玲奈の手を握り、興味津々に見ている。