「ええ。良い香りですね。アールグレイですか?」
「はい。私の好きな紅茶なんです」 用意された紅茶は、最高級品の茶葉だ。 エマの立場では、客人をもてなすときにしか飲めない代物なので、味わって飲んだ。 一口サイズにカットされたサンドイッチやクッキーも、宮廷料理長が手がけたもので、エマがふだん口にするものとは比べものにならないほど美味しい。 料理長が作る料理は、国王や王太子が同席する会食でないと食べられないので、これも噛みしめるようにして食べる。 (すごくおいしい。ナタリナにも食べさせてあげたいな) ちらっとナタリナに視線を向ける。 離れているから表情までは分からないけど、エマを心配する様子は伝わってくる。 「エマ。どうぞ、これも食べてください」 「あ、ルシアン様っ」 「貴方は細いから、しっかり食べないと。倒れてしまわないか心配です」 「大丈夫です。もともと小食ですから」 「では、お腹が空いたら食べてください」 そう言ってルシアンは、エマの皿にクッキーを載せていく。 エマの世話を焼くルシアンの顔は楽しげで、ゆったりと流れる時間が幸せだった。 昨夜はあまり話ができなかったから、今日こそはもっといろんな話をしたい。 そんな思いでルシアンを見つめる。 容姿端麗な貴公子は、ルビーのような赤い瞳で、エマを優しく見つめた。 (やっぱり、ルシアン様は素敵だ) 独身と聞いているが、これほど素敵な方なら、帝国に恋人がいるに違いない。 そう思った途端、胸がチクッと痛んだ。 (ッ……ルシアン様は、親切なだけなのに) エマは自分に言い聞かせ、胸の痛みから目をそらした。 どんなにルシアンに惹かれても、想いが叶うことはない。 (ルシアン様が、僕みたいな平民を相手にして下さるはずがないのに) 甘い夢を見てしまいそうで、エマは奥歯を噛みしめる。 きっと、現実があまりに酷いからだ。 レオナールの非道な仕打ち「おい、見てみろ。メス犬がさっきからよだれを垂らしてるぞ」 「レオナール様へ媚びているのでしょう」 「浅ましいメス犬だ」 「仰るとおりです。レオナール様」 従者はレオナールのグラスにワインを注ぎ、給仕を済ませてから、再びベッドへ近づいた。 エマを見下ろし、蛇のように醜悪な笑みを浮かべる。 「レオナール様。このメス犬が、レオナール様への無礼に許しを請うまで、じっくり躾けましょう」 「コイツは物覚えが悪いからな。しっかり頼むぞ」 「お任せ下さい」 ククッと笑う嫌らしい声に、エマの体が震える。 この男は、エマをいたぶることに愉悦を感じているのだ。 「ッ……ぃ、イヤッ……ッ」 「簡単にイけると思うなよ?」 「ぁぁっ……ッ、ひぁぁぁッ!」 躰の中で暴れる熱に悶えながら、エマは静かに涙を流した。 +++ エマは手足を拘束され、半身に触ることを許されないまま、焼け付くような快楽に屈した。 躰の熱を解放したい一心で、自身を卑下する台詞も、レオナールへ服従する台詞も吐きだした。 悪魔のような男達に弄ばれ、嘲笑される。言葉や態度で蔑まれるうちに、エマの心はすり減っていった。 地獄が終わったのは、一時間ほど経った頃だ。 「ちっ、ここまでか」 レオナールは用事があるらしく、意外にもあっさり出て行った。 枷を外され、エマは自由を取り戻す。 だが、レオナールたちが部屋を出て行くまで、身を丸めたまま半身には触れないように耐えた。 「ッ、ぅっ……、ぁ、はぁっ」 「エマ様っ!」 ナタリナの声が聞こえたとたん、エマは昂ぶりに手を伸ばす。 「ぁぁッ、ッ、あぁぁッ!!」 軽く扱いただけで精が弾け、ピクピクと躰が震える。 フワリとシーツが体を覆い、柔らかな声が届いた。 「エマ様。私は隣の部屋におりま
だがエマは、もう従者など気にする余裕がなくなっていた。 「ぁぁんっ、はぁぁっ、ひゃぁぁッ!」 逃れようと悶えれば、敏感になった肌にシーツが擦れ、その刺激だけでエマの昂ぶりが頭をもたげる。 蕾からは愛液があふれて、収縮を始めた。 淫らに喘ぐエマを、従者は蔑むように見下ろす。 「アァァッ! 熱いっ、ンンッ……いやぁぁッ」 「どんな気分だ? 汚らわしいオメガめ」 「はぁぁんッ、んぁッ、ぁぁ」 「みっともなく腰を揺らして、誘ってるのか?」 「ッ、んんっ、ち、ちが……ぁ」 「ならば、物欲しそうにヒクつく穴はなんだ? 下品な汁を垂らして、媚びているつもりか?」 「うぅッ、……そ、そんなッ……んっ、ぁ、ひぁぁんっ」 ビクビクと躰が跳ね、愛液がとろりとあふれる。 従者の言葉を肯定するような躰の反応に、嘲笑が上がった。 「淫乱なメス犬め! お前の躰は、実に正直だ」 「ぅぅッ……ちが……んぁっ」 エマは違うと首を振るが、従者の嘲りは止まらない。 「さあ、お前がどれだけ淫乱で罪深いメス犬なのか、レオナール様へ懺悔して詫びろ」 「ァッ、はぁッ、んん……ッ」 「言え、メス犬!」 怒鳴りつけられ、ビクッと震える。 (ぅぅッ……こんな、ひどい……ッ) 躰は火照るように熱く、薬で煽られた疼きが、エマの思考を奪ってくる。 卑劣な男たちに従うのは屈辱だが、この状況で逆らえるはずがなかった。 「っ……わ、私はッ、んんっ、淫らで、はしたない、メス犬ですッ……」 「ふん。分かってるじゃないか」 レオナールは唇の端をつり上げ、嘲るようにエマを見下ろした。 「それで、どう詫びるんだ?」 「……ッ、め、メス犬の、私が……ぁんっ、殿下の……んぁっ、婚約者でッ、ぁぁっ……申し訳、ありませんッ」 「婚約者だと?」 従者の声が一段と低くなる。 無造作に髪を掴まれ、怒りの形相で睨まれた。
従者はレオナールの横に立ち、ニヤリと笑いながら命令する。 「裸になって、ベッドに仰向けになれ」 「ッ……」 「返事をしろ! メス犬め!」 「ひっ……も、申し訳ございませんっ」 怒鳴られると、エマは反射的に謝ってしまう。 発情期のたびにいたぶられたせいで、エマは従者の言葉にも逆らえなくなっていた。 着替えたばかりの法衣を脱ぎ、汚れないようにベッドの端に置く。 肌着(シュミーズ)はリネン生地で、膝下までの長さだ。 ふつうの貴族なら、肌着も高級な生地に刺繍が施された、華やかな色合いのものを身につける。 だが、エマは肌着さえも支給品のみでしのいでいた。刺繍のない無地の肌着は、すでに色褪せて、つぎはぎで繕った部分もある。 「みすぼらしい肌着だな」 椅子に座ったレオナールが、冷めた目で見下してくる。 従者も蔑むような目で嘲笑した。 「メス犬には上等な代物でしょう」 「ハハッ、たしかにな」 「……」 エマは唇をかんで、うつむいた。 レオナールが服飾費を使わせてくれたら、いくらでも新調できるのに。 エマを貶めるだけの言葉に傷ついていては、彼らの思うつぼだ。 (こんな人達の命令を聞かないといけないなんて……) 悔しさに耐えながら、エマは自ら肌着を脱いだ。 裸になり、急いでベッドの上に身を横たえる。 古いベッドはギシギシと音を立て、嫌でも過去の行為を思い出させた。 レオナールが持ち込んだ大きな姿見の前で自慰を強要されたこともあるし、ディルドを使い、屈辱的な体勢で痴態を晒したこともある。 卑猥な台詞も、レオナールに服従する言葉も強要されて、まさしく「躾」を受けてきたのだ。 (ッ……今日は、何を言われるんだろう……) 嫌な記憶に支配され、エマはおののきながら命令を待った。 「両手を出せ」 ベッドに移動した従者が、金属製の手枷を見せつける。 エマが両手を持ち
思いがけずルシアンから鎮静剤をもらうことができ、それだけでも嬉しかったのに、エマの体を気遣って早めに切り上げてくれた。 それに、用意したお守りも、受け取ってくれたのだ。 エマはフワフワした気持ちで館の離れに戻ると、普段着の簡素な法衣に着替えた。 今日はあちこち歩き回ったせいか、少し疲れが出たようだ。 「エマ様、今日は早くお休み下さい」 「うん」 ナタリナに促されて、ベッドで一休みしようと思ったが、そこへ前触れもなくレオナールがやってきた。 乱暴に扉を押し開けて、ズカズカと中に入ってくる。 「貴様ッ! このオレを差し置くとは、いい度胸だなッ!」 「で、殿下ッ!?」 突然の闖入に驚いたエマは、反射的に片膝をつき、頭を垂れて臣下の礼を取った。 婚約者同士であれば、本来、こんな礼は必要ない。 だが、レオナールは例外だった。 エマを平民と罵り、見下すような男なのだ。礼を欠けば、さらに逆上するのは目に見えている。 ナタリナも、エマの後ろで同じように膝をつく。 レオナールは跪くエマに向かって、大声で怒鳴り散らした。 「貴様! 兄上が不在だからと、皇太子の案内役を買って出たそうだな!? 何様のつもりだ!」 「お、恐れながら。王太子殿下の命により、承っただけでございます」 「口答えをするな! オレに恥を掻かせようと、わざと連絡しなかったのだろう!?」 「そのようなことは、決して……」 「黙れッ! 卑しい平民の分際が! 身の程を知れ!」 恫喝され、ビクッと震える。 レオナールの言い分は、完全な八つ当たりだ。 けれど、エマが反論すれば、余計に怒らせてしまう。 「申し訳ございません。殿下」 「あの場を仕切るのは本来、オレの役目だったのだぞ! 辞退すれば良いものを! 平民風情が、王族の一員になったつもりか!?」 大声で罵られ、髪を乱暴に掴まれる。 「あぅッ!」 ギリギリと引っ張られ、痛みに顔を歪
カァッと頬を赤く染めて、エマは視線を逸らした。 「フフ。またいずれ、その機会があれば」 「っ! 本当ですか!」 バッと勢いよく振り返る。 ルシアンは驚いたように目を丸くした。 「ぁ……す、すみませんっ!」 エマは耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆った。 (バカバカ! ただの社交辞令なのに!) 本気にするなんて、恥ずかしすぎる。 エマが羞恥に黙り込むと、ルシアンがクスクスと笑った。 「可愛いですね、エマは」 「ぁぅっ」 プシューっと頭から湯気が出てきそうだ。 「エマ。今日はここまでにしましょう」 「?」 「可愛い貴方を愛でるのに夢中で、無理をさせてしまいましたから」 「ぁッ……いえ、そんな」 「疲れたでしょうから、今日は休んで下さい」 優しい笑顔で、いたわりの言葉をかけてくれる。 ルシアンの言うとおり、体が重いのは事実だ。 「……はい。ルシアン様」 頷いたものの、ここで別れるのは寂しい。 先ほどまでぴたりと触れあっていたのだから、離れる寂しさに胸が痛んだ。 そんなエマの様子に気付いたのか、ルシアンが微笑む。 「私の美しい薔薇。また明日、お会いできるのを楽しみにしてますよ」 「ッ、はい、ルシアン様っ」 明日こそは、王立美術館へ案内しよう。 ルシアンとの約束ができて、エマはホッと息をついた。ルシアンの手を借りて立ち上がると、もう一度身なりを整える。 先ほどは、ルシアンの外套を敷いてくれたおかげで、汚れもなく安心した。 お茶の席に戻る前に、ルシアンが四角い袋を差し出してくる。 「エマ。これは貴方のものですか?」 「あっ!」 リネンで作った地味な袋は、エマが用意したお守りだ。 中にカードが一枚入っているだけの、飾り気のない袋。 「貴方の足元に落ちていたのですが」 「あ、これは……」 渡そうと思って持
背中から抱きしめるような体勢で、エマの両手を幹に押しつける。 エマは抵抗を封じられ、蕾の奥がキュンと甘く疼いた。 (ルシアン様が、……僕をっ) 昨夜、この躰に触れた手を思い出し、昂ぶりが勢いを増す。 (ぁぁッ、もっと、気持ちよくして……ッ) ルシアンの香りに飲まれて、期待に胸を震わせた。 いちど快楽を知った躰は、自らを支配する相手にたやすく媚びる。 エマは腰を振って、ルシアンにねだった。 「ぁん、ァッ、んぁぁっ」 「可愛いですね」 「ひゃんっ」 尻を撫でられ、喘ぎ声がもれる。 ルシアンに小さな尻をもみしだかれて、さらに疼きが酷くなった。 「る、ルシアンさまぁッ」 「何ですか、エマ」 「ひゃぅぅっ」 耳たぶを舐められ、ピクッと跳ねる。 ルシアンの舌がねっとりと耳の形をなぞった。 「ぁ、ぁぁっ、んッ」 「今日もまた、こうして貴方を愛でられるなんて、私は幸せですね」 「ひぁッ、ぁん、はぁぁんッ」 「貴方の甘い声が、癖になりそうですよ」 「っ、んん、るしあん、さまッ」 耳元で囁かれるたびに、ビクビクと躰が震える。 左右の耳を交互に舐められ、尻を優しく揉まれながら、エマは何度も果てた。 「はぁ、はぁっ……ぁぁん、やぁっ」 「エマは敏感ですね。もうこんなにイって」 「ひぅぅっ」 「触れてもいないのに……淫らな躰だ」 「ッ……ぁ、ァァッ」 ルシアンの吐息が耳に触れ、甘い声で囁かれると、頭の芯まで痺れるようだ。 ルシアンの香りと体温に、思考を溶かされる。 「ぁんっ、きもちい……ッ」 「どこがイイですか?」 「ひゃんっ、ぁ、み、耳っ」 「他には?」 「お、おしり、ぎゅぅって……」 答えるそばから、蕾がまた愛液を垂らす。 いちばん疼く蕾を弄ってもらえず、エマは泣きそうな声で縋った。