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番外編③〈第4話〉

last update Huling Na-update: 2025-06-24 17:15:41

俺は、隠れていた木の後ろから飛び出し、萌果の名前を叫んでしまった。

サングラスを外して、キャップもずらす。

「えっ、うそ……藍!?どうしてここに!?」

俺だと分かった萌果が、驚きで目を丸くする。

「え、この人誰?」

夏樹も驚いたように、俺を見る。

「つーかアンタ、すげーカッコいいじゃん!萌果の知り合いか!?」

「俺の名前は、久住藍。萌果の……幼なじみだ」

本当は、萌果の恋人だってはっきり言いたいところだけど。萌果と交際していることが世間にバレるとまずいから、ここは我慢。

「えっ、久住藍ってもしかして……あの、モデルの!?」

夏樹に言い当てられ、俺はすぐにサングラスをかけ直す。

街中と比べて公園は人通りが少ないけど、念のため。

「すっげー!あたし、芸能人とか初めて見たよ」

夏樹が、興奮したように言う。

ていうか夏樹、今……自分のことを『あたし』って言ったよな?

「ねえ、藍。その格好どうしたの?もしかして、変装?めちゃくちゃ派手だね!」

俺を見て、萌果がクスクス笑う。

「いや、これは……」

「もしかして藍、私のことが心配できてくれたの?」

萌果がそっと、俺の手を握る。

優しい声に、胸がドキドキして。俺は思わず、萌果を軽く抱き寄せた。

「だって、男友達とのあんな仲良さそうな写真を見せられたら、俺……居ても立ってもいられなくなって。そのうえ、萌果が夏樹とキスしそうになってるのを見たら……」

「え、ちょっと待ってよ、藍。私、夏樹とキスなんてしてないよ?」

えっ!?

「ああ、萌果の言うとおり。萌果の前髪に虫がついていたから。驚かせないように、そっと取ろうとしただけだよ」

「ほんとに?」

「ああ。だから、アンタが思ってるようなことは何もないよ」

なんだ、そうだったのか。

「それに、夏樹は男の子じゃなくて、女の子だからね!?」

萌果が、呆れたように、だけど少しだけ怒ったような声でそう言った。

え、うそだろ!?

その言葉が、俺の頭の中に雷鳴のように響き渡る。

それじゃあ、さっきの『あたし』という一人称は、やはり聞き間違いではなかったのだ。

5時間にも及ぶ俺のドタバタ劇は、すべてこの誤解の上に成り立っていたのか……。

俺は、その場で全身から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになった。

「そういうことだから。よろしく、藍くん!」

夏樹が、ケラケラ笑う。

まさか、夏樹が女だったなんて。俺のこの
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