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第四十一話

last update Huling Na-update: 2025-07-31 09:53:39

心地よい重みを感じて目を開けると、私は尋人にギュッと抱きしめられたまま眠っていたことに気づいた。

男にしておくのはもったいないほど綺麗な顔を、チャンスとばかりにじっと見つめる。

こんなに至近距離で、尋人の顔をまじまじと見るのは初めてかもしれない。

「ねえ、尋人。もう一度……結婚してくれる?」

まだ直接的には言えなくて、そっと小さく声に出してみる。

言った瞬間、自分で言ったことに恥ずかしくなって、私はくるりと背中を向けて起き上がろうとした。

――けれど、後ろからまた抱きしめられて、驚いてしまう。

「えっ、尋人……起きてたの?」

「ごめん、弥生」

その言葉を聞いた瞬間、この幸せな朝にまさかの“謝罪”から始まるなんて思ってもいなくて、氷水を浴びたように身体が冷たくなる。

「本当にごめん。どれだけ怒ってもいいから」

「な……に?」

自分の心臓の音がうるさすぎて、尋人の声がどこか遠くに聞こえる。

「……預かった離婚届、出してない」

「え?」

かなり間の抜けた声が出てしまう。へなへなと力が抜け、尋人にそのまま支えられる形で抱きしめられた。

「絶対に弥生を手に入れるって思ってた。だから、預かったまま出してない」

「……よかった……」

無意識にこぼれたその言葉に、尋人はホッとしたように大きく息を吐いた。

「さっき言ってくれた言葉、本気だよな?」

「……え、あの時から起きてたの!? 信じられないっ!」

寝たふりをしていたと知って、恥ずかしくて、悔しくて、私は尋人の腕からするりと抜け出す。

「弥生!」

焦ったような尋人の声に、ふと嬉しくなってしまう。

こんなにも愛されて、大切にされている。

その気持ちが私に、大きな自信をくれるような気がした。

尋人の隣なら、私は私らしく、もっと自分を好きになれる気がする。

「今日もたくさん付き合ってもらうからね。そして、これからもずっと」

そう言った私を、尋人は力いっぱい抱きしめてくれた。

「ずっと一緒に、笑っていこう」

ようやく元通りになった、私たち。

さあ――また、ここから始めよう。

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