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第506話

Author: ちょうもも
孝之が健在の頃、彼は会社の採用面接を非常に重視していた。

実際、小林グループには有能な人材が多かった。

だが、どれだけ仕事ができても、どれだけ成果を出しても、結局は莉子の耳元でお世辞を言い、ちょっとした用事を引き受けてやる者が昇進し、給料を上げてもらえるのが現実だった。

昇進や昇給なんて、要は口先一つのこと。

悠良の言葉に、有能な社員たちは一気に血が騒ぎ、ついには自ら声を上げて誓った。

「小林社長、ご安心ください。私たちがここで働くのは、きちんと仕事をやり遂げて昇進昇給を目指すためです。くだらないゴマすりを真似するためじゃありません!」

「そうです!仕事を振っていただければ全力でやります。お世辞を強要されない限り、何でもやります!」

その声を聞き、悠良の決意はいっそう固まった。

必ず、この実直に働く人間たちと共に、もっと遠くまで歩んでいく。

「それから、もう一つ。小林副社長に関する件。調査したところ、以前に会社が赤字を出したプロジェクトがあった。本来なら株主投票で否決されたはずなのに、副社長は相手から200万円を受け取り、こっそり署名して通していた。その結果、会社は2000万円の損失を出した。

人事部にはすでに降格通知を作らせた。今日から小林副社長を停職から正式に降格し、部長職にする。以後、彼女が関わる案件は必ず私が直接チェックしてからでないと動かせない」

それを聞いた莉子は、冷笑しながら歩み寄り、悠良を睨みつけた。

「何の権限で私を降格するの?副社長の座は父が直々に決めたものよ。あなたにそんな資格はないわ。株主たちですらないのよ!」

心の中では余裕綽々だった。

孝之は今や病院で管と点滴につながれ、命を繋ぐのが精一杯。

自分は事前に調べていた。

ほとんど意識を取り戻す時間もない。

悠良が自分を降格させようとするなら、父が直接命じるしかない。

だが父にはそんな余裕はない。

生き延びるだけで手一杯なのだ。

その時、麻生が悠良に歩み寄り、小声で耳打ちした。

「実際のところ......当初、会長はこう考えていたんです。

副社長は後から迎え入れた立場だから、名分が弱く、社内で非難されやすい。だから彼が明言したんです。

『自分以外の誰も彼女をクビにしたり、降格させたりしてはならない』と......」

でなければ、彼女がこれだけ仕事
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