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第71話

Author: 神雅小夢
last update Last Updated: 2025-08-09 07:01:23

私の心臓はドクンドクンではなく、ドカンドカンと音を立てていた。

りゅ、龍太郎のバスローブ姿、目に毒だな……。しかし、そのバスローブの下を知りたいと思っている自分も存在している……。

「雪音、おれちょっと、まだやることあるから····

龍太郎はバスローブ姿のまま、あの『絶対に見てはいけない部屋』に消えていった。

私は半分ほっとした。まだその時間ときではない。

猶予が与えられたことに安堵と、残念な気持ちが入り混じって複雑な心境だった。

龍太郎、あの部屋でいったいなにをしてるんだろう……。

見たい、知りたい……。

見るなと言われれば、余計に見たくなる。

でも····って、今日は言ってきたよね……。

その待っててってなにを、待つの?

ぎゃあぁぁ~、もうだめだ。期待と興奮でどうにかなりそう!!

「はぁはぁはぁ……」

なにもしていないのに、息が切れる。

……もう考えないようにしよう。

私はテーブルに置いてある新聞になんとなく目を通した。相変わらず、お米がどうのこうの、物価高がどうのこうの、減税問題など、なにやら頭が痛いことばかり書いてあって、現実逃避したくなる。

突然、急激な眠気が襲ってきた。

歩きっぱなし、緊張しっぱなしで、もうクタクタだ……。

「……なんだ、寝たのか。ったく、しかたないな……」

龍太郎の声が聞こえて、自分の身体がふわりと浮くのを感じたが、夢か現実か、もはやわからなかった。

ただ、その腕の中は居心地がいい、まどろみの中でそれだけを感じた。

次の日の朝、ふかふかの布団の中で私は目が覚めた。

……ん、なんだか温かい……。

あれ、誰かが私を背中から抱きしめてる……。

あ、この匂いは龍太郎か……。私はまだ働かない脳で考えている。

えぇ? りゅ、龍太郎……?

天井が白い、私が今借りている部屋の天井とは違う……。

じゃあここは龍太郎の部屋か……。

私は一応確認をする。パジャマのままだ。

身体にも違和感を感じない。

ここに寝てるってことは、龍太郎に運んでもらったんだよね……。

私が寝てしまい、昨晩はなにもなかった……。

そうか……。

部屋の時計を見ると、まだ朝の五時すぎだった。始発までまだ三十分ある。

スースーと子
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