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第5話

Auteur: ベーグル・キラー
拍手喝采が鳴り響く中、悠真は美咲の頬にそっとキスをした。

「ここで待ってて。ネックレス、取ってくるから」

そう言ってその場を離れた悠真を見送り、美咲は席を立ち、洗面所へと向かった。

冷たい水で顔を何度も叩き、頭を冷やそうとしていたが、その背後から挑発的な声が響いた。

「高橋さん、別に悪く言うつもりじゃないけどさ、悠真があんたにいくら使ったと思ってるの?もうちょっと女らしくしなよ。いつまでそんな保守的な格好してんの」

顔を上げた美咲の目に映ったのは、鏡越しに軽蔑の色を浮かべた花音の姿だった。

「見てよ、私を」

そう言いながら花音はコートをばっと開き、黒いレースのセクシーなランジェリーを見せつけた。

「男なんて所詮、見た目で動く動物よ。下半身に支配されてんの。

この格好を一目見せれば、悠真なんてあっという間に私のもの。ネックレスだって、喜んで差し出すに決まってるわ」

美咲の肩が小さく震えたが、何も言わずに手を拭き、席へと戻った。

間もなくして花音も戻ってきた。

そして、悠真のそばを通り過ぎる時、コートをわずかに開いてその中身をさりげなく見せた。

悠真の視線が一瞬だけ彼女に向いた。

喉がごくりと動き、瞳の奥が一気に暗くなる。

次の瞬間、彼は何事もなかったかのようにネックレスをポケットにしまい、急に立ち上がった。

「美咲、ネックレスにちょっと傷があったみたい。すぐに直してくるから、ちょっと待ってて」そう言うと、美咲の返事も聞かずに足早にその場を離れた。

そのあとを追うように、花音も立ち上がり、意味ありげな視線を美咲に向けてから歩き出した。

二人の背中が見えなくなるまで、美咲は息を殺して耐えていた。

だが、胸に刺さる痛みは、何度も何度も刃を突き立てるように彼女を切り裂いていく。

苦しくて、ただ一つの願いが心に浮かぶ――悠真を、引きずり下ろしてやる。私と同じ地獄へ。

美咲は深く息を吸い、二人のあとを追った。

階段の踊り場に差し掛かった時だった。

聞き慣れた声が聞こえた。

「ちょっと……痛いってば、鍵もかけてないのに……」

……花音の声だ。

「君がどうしてもって言ったんじゃないか……この場所がいいって」

悠真の声には、抑えきれない欲の気配が混じっていた。

「痛いなら我慢しろ。俺が手加減すると思うなよ」

花音がくすっと笑った。

「ほんと、冷たいんだから……ねえ、あのネックレス。私、欲しいって言ったでしょ?くれるの?」

「持ってきてるだろ。もう答えはわかってるだろ」何かをくわえたままなのか、悠真の声は少しこもっていた。

「動かないで、もっと脚を上げて……」

隙間から見えた二人の交わる影に、美咲の全身から血の気が引いた。

胃が激しくうねり、吐き気が込み上げる。

口を押さえ、震える身体をどうにか支えながら、壁にもたれた。

涙がとめどなく溢れてきて、立っているのがやっとだった。

そして顔を上げたその瞬間――

花音がこちらを見て、唇だけを動かして言った。

「また、負けたね」

美咲の身体がぐらりと揺れた。

もう、これ以上は見ていられなかった。

踵を返し、その場を逃げるように駆け出した。

家に帰った美咲が最初にしたことは、全ての使用人を帰らせることだった。

胸の奥に溜まった怒りを押さえながら、家の中に残されたペアグッズをすべてかき集めた。

これらは、ここ数年かけて少しずつ集めてきたもの。

それらを見るたび、恋人だった頃の悠真を思い出す。

彼は子供みたいにベタベタしてきて、「ペアじゃなきゃイヤだ」なんて言って、嬉しそうに笑っていた。

湯飲み、歯ブラシ、パジャマ――

どれも安物の日常品だったが、悠真はそれが何より嬉しそうだった。

そして、彼が美咲に贈ったものといえば、決まって高価なアクセサリーばかり。

一つひとつが、何十万円、何百万円もする代物だった。

しかし、片付けの最中、美咲の脳裏にふと過去の記憶が蘇った。

23歳の誕生日、悠真は「ちゃんとしたアクセサリーを買ってあげたい」と言って、ジュエリーショップに連れて行ってくれた。

そのとき、美咲が一目で気に入ったのは、ダイヤモンドのネックレス。

けれど、まだ二人の事業は始まったばかりで、そんな高額な買い物はできなかった。

悠真は彼女の手を握りしめ、悔しそうに目を潤ませて言った。

「美咲、こんな思いさせてごめん」

「俺、絶対にいっぱい稼いで、今度はこの商業施設ごと買い取って、君に全部贈るから」

そしてそれは、決して嘘ではなかった。

彼は実際、何十、何百ものモールを買い取れるほどの財を手にした。

だが、その約束に宿っていた愛は、いつの間にか他人と分け合うものになっていた。

これ以上思い出に浸ってはいけないと、美咲はアクセサリーをすべて箱に詰め、寄付する準備を始めた。

最後に手をかけたのは、悠真がプロポーズのときに贈ってくれた指輪だった。

そのときの彼は、子供のように泣きじゃくりながら指輪をはめてくれた。

「絶対に盛大な結婚式を挙げるから」――そう、嗚咽まじりに誓った。

だが今や、全ては変わり果ててしまった。

あの約束の結婚式も、もう訪れることはない。

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