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第3話

Auteur: 匿名
今の信じられない状況のおかげで、彼氏と親友に裏切られたショックが少し和らいだ。

今更、落ち込んでいる場合じゃない。社長にこんな醜態を見られるなんて、これほど恥ずかしいことはないからだ。見栄っ張りとして、これ以上の失態はない。

辞表を叩きつけることを考えたけれど、私は必死に理性を保った。

社長と目が合った以上、気づかなかったフリはできない。しかも、私はまだ彼の上着を抱えたままなんだ。

私は気持ちを落ち着かせ、深く息を吐いてから、ゆっくりと怜に向かって歩き出した。

しかし、辿り着く前に、行く手を阻む者がいた。

顔を上げると、悠人の罪悪感に満ちた目が私を見下ろしていた。

「小夜……」

彼はいつものように名前を呼び、すがるような声を出した。

私は無表情で彼を見つめ、平静を装った。

「悠人。寧々の婚約者であるあなたが、そう呼ぶのはいかがなものかしら?」

「小夜!」彼は一歩近づいてきた。「何を言っても言い訳に聞こえるのは分かってる。でも、君には謝りたいんだ。こんな場所で話すことじゃないから、静かな場所で話させてくれ、頼む」

もう今更、話すことなんて何もない。

何を言おうと、事実は変えられないのだから。

彼が寧々にプロポーズしたのは事実だし、私との過去を否定したことも、私を傷つけたことも紛れもない現実だ。

すべては、もう戻れないところまできてしまった。

私は眉間にしわを寄せ、後ろへ下がった。

「話すことなんて何もないわ。婚約者のところへ行って。もう私に関わらないで」

そう言い放ち、彼を避けて通り過ぎようとした。

その瞬間、悠人が猛烈な勢いで私の腕を掴んできた。

「小夜、今日は絶対に俺と来てくれ。どうしても君に話したいことがあるんだ!」

返事もできないうちに、脇から誰かが素早く近づいてきて、腕を掴まれて身動きのとれない私の頬を強烈に叩いた。

激しい衝撃で視界が揺れ、倒れそうになった。

すると、耳元で寧々の怒りに満ちた声がした。

「小夜!親友だと信じてたのに、なんて薄汚い人間なの!

さっきプロポーズされるのを見ていたでしょ?祝うどころか、私の婚約者にしがみつくなんて、そんな下劣なことをよくもできるわね!私に悪いと思わないの!」

悠人が慌てて彼女の腕を引き、低い声で怒鳴った。

「いい加減にしろ、寧々!自分が今、どれだけ恥ずかしいことしてるか分かってるのか!

小夜に手を出すなんて、気が狂ったのか?

もう、黙っていろ!」

私は腫れ始めた顔を押さえ、倒れないように耐えるのが精いっぱいだった。

この瞬間、呆れるほどに馬鹿馬鹿しく思えた。

寧々の口からそんな言葉を聞く日が来るなんて、夢にも思わなかった。

彼女は子供の頃からの友達だった。家庭環境で苦労し、成績も振るわない彼女を私はずっと支えてきた。今の部署で部長になった時だって、わざわざ会社に推薦したほどだ。

彼女はいつも甘えてきて、腕にすがってくるような子だった。

「小夜、本当によくしてくれるね。あなたがいないとどうすればいいのか分からない」

「小夜、仕事を紹介してくれてありがとう。私を思ってくれるのはあなただけだよ」

「小夜、あなたって本当にいい彼氏がいて羨ましい。私もいつか悠人さんみたいな人が見つかればいいのに……」

それなのに今は、みんなの前で「薄汚い」「下劣」と罵っている。

私は冷ややかに笑い、彼女に視線を戻した。もう、私の中に彼女への情なんて微塵も残っていない。

「寧々。身の程をわきまえなさい。自分がしたことをよく分かっているはずよ。あまり私を追い詰めないことね」

彼女の目に一瞬だけ怯えの色が走ったが、すぐに強気な態度に戻った。

「小夜、部長だか何だか知らないけど、脅せばいいと思わないで!

私と悠人さんの長年の絆を、あなたなんかが壊せない!どうせ、悠人さんを前から狙ってたのに、私と悠人さんがゴールインするからって逆上してるだけでしょ!

本当、恥知らず!」

甲高い声で罵られ、周りの同僚たちが何事かと一斉に集まってきた。

プロポーズの直後に婚約者に現場を押さえられたのだ。彼らは当然、被害者を装う寧々の肩を持った。

「前々から怪しいと思ってたんだよ。そんな女だったなんてな」

「秋月部長に限ってそんなことあるの?あんなに美人で優秀なのに、わざわざ略奪する?」

「アバズレなんてそんなものよ。人の彼氏を奪うのが一番気持ちいいんでしょ」

「最低だ……」

聞こえてくるひそひそ話が耳元でぐるぐると渦巻く。

青ざめた顔で強気の寧々を見据えながら、すべてをぶちまけてしまいたい衝動に駆られた。

私の理性が崩れる直前、ふいに温かい手が私の肩をそっと包み込んだ。

振り向くと、怜のあの冷淡な顔が、すぐ目の前にあった。

すると、その場にいた全員が、息を呑んで立ち尽くした。

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