FAZER LOGIN誰もが羨む平良家の御曹司が、まさか1人の女の子に丸20年も片思いしていたなんて。「祐吏、その無駄に整ったイケメンフェイスで片思いとか、俺たち一般人への嫌がらせかよ?」「本当それ。さっさと自分から動いて、男らしく告白しちゃいなよ」友人たちのからかいの言葉に、祐吏は苦笑いしながらも、その視線はどうしても遠くにいる少女へと吸い寄せられてしまう。そう、彼は京奈のことが好きなのだ。ずいぶん前から。2人の出会いは、幼稚園の時にまで遡る。当時の祐吏は、理恵に甘やかされて育ち、色白でぽっちゃりとした、まるでぬいぐるみのように愛らしい子供だった。幼い子供というのは、相手の弱みを見抜くのが残酷なほどに上手い。祐吏が泣きも喚きもせず、親に言いつける勇気さえないと知るやいなや、いじめっ子たちは調子に乗って容赦なく彼をいじめた。おもちゃを壊され、牛乳をわざとこぼされ、絵本を踏みつけられても、祐吏はただ黙って耐えていた。そんな彼の前に、ピンク色の小さなスコップを握りしめた京奈が現れ、いじめっ子たちを追い払ってくれるまでは。彼女は腰に手を当て、威風堂々と言い放った。「怖がらなくていいよ!この私があなたを守ってあげる!」それ以来、祐吏は京奈の後ろを、まるで健気な子犬のようにぴったりとついて回るようになった。しかし、彼女の目にも心にも、千輝の姿しか映っていなかった。祐吏のことなど、まったく眼中にない。そこで、祐吏は千輝の真似をして彼女のおさげ髪を引っ張ってみた。だが、返ってきたのは彼女からの激しい怒声の嵐だけだった。さらに千輝の真似をして、彼女が完成させたパズルをぐちゃぐちゃに崩してみたが、これが完全に裏目に出た。京奈から、キッパリと絶交宣言をされてしまったのだ。祐吏は狂おしいほどに嫉妬したが、不満を顔に出すことはできなかった。幼稚園から高校まで、2人はずっと同じクラスだった。それでも京奈が彼の想いに気づくことはなく、彼女はただ一途に千輝だけを好きでいた。そして祐吏もまた、これほど長い間、彼女にただ静かに片思いをし続けてきたのだ。京奈の両親が交通事故で亡くなった時。祐吏は大事なコンクールを放棄し、夜通し走って彼女の家へと向かった。しかしそこで見たのは、千輝の胸に寄りかかり、声を上げて泣き崩れる彼女の姿だった。その夜は
京奈と祐吏の結婚式の舞台に選ばれたのは、夢のように美しい海に浮かぶ小さな島だった。眩しい太陽の光が降り注ぎ、心地よい潮風が吹き抜ける。遠くにそびえ立つ真っ白な灯台が、2人の愛を見守っていた。彼女は自らデザインしたウェディングドレスを身に纏い、祐吏は彼女が仕立てたオーダースーツを着こなしている。並び立つその佇まいは神の祝福を一身に受けたかのように完璧だった。手にするブーケは祐吏が自ら手編みしたバイオレットの花束だ。その1輪1輪に、彼の深い愛情が込められている。騒がしい参列者も、形式張った司会進行もいない。この広い世界の真ん中で、永遠の誓いを交わすのは新郎新婦である2人だけだ。祐吏は京奈の腰を強く抱き寄せ、2人の鼻先がそっと触れ合う。「青柳京奈さん。あなたは私を夫とし、共に手を取り合ってこれからの人生を歩むことを誓いますか?健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も。私を愛し、敬い、守り……命果てるその瞬間まで、決して離れないことを誓いますか?」祐吏の愛に満ちた誓いの言葉に、京奈は目頭を熱くし、深く頷いた。「誓います!」続いて、彼女はこほんと小さく咳払いをして、祐吏に向かって口を開いた。「平良祐吏さん。あなたは私を妻とし、この神聖な婚姻を結ぶことを誓いますか?健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も。私を愛し、敬い、守り……命果てるその瞬間まで、決して離れないことを誓いますか?」祐吏の長いまつ毛が微かに震える。そして、掠れた、けれど力強い声で答えた。「とっくの昔に、誓っていますよ」ミントの爽やかな香りと、柔らかな潮風が心地よく交じり合う。この瞬間、京奈は彼と決して離れることはないのだと、確信に満ちた思いを抱いた。祐吏に手を引かれ、京奈は島に建つ別荘へと戻った。2階の半円形のバルコニーには、ゆらゆらと揺れるブランコと真っ白なロッキングチェアが置かれている。手すりの周りにはバイオレットの花が咲き乱れ、甘い香りを漂わせていた。祐吏は目元を優しく和ませ、京奈を見つめた。彼女は自然とその視線を受け止め、ご機嫌に歌を口ずさみながら、彼の熱い眼差しの中で、しなやかに腰を揺らして歩み寄った。祐吏は彼女をぐっと腕の中に抱き寄せ、京奈もまた自然に彼の胸に身を預けた。彼の掌が彼女の頬をそっと撫でる。
12月25日、クリスマス。C市には牡丹雪が舞い、窓の外はすっかり雪化粧をして、純白に包まれていた。マンションの中はぽかぽかと暖かく、祐吏はとっくに京奈のために分厚い防寒着を用意してくれていた。京奈は祐吏が温めてくれた熱いスープを飲み干すなり、待ちきれない様子でマンションを飛び出した。雪はすでに止んでいた。外に出た途端、分厚く積もった雪にズボッと足がはまり、靴の中に冷たい雪が入り込んでくる。「冷たい!」と彼女は思わず身震いした。すると耳元で、からかうような声がした。「おや、どこの可愛い妖精さんかと思ったら、うちの京奈じゃないか」京奈はパッと心を躍らせ、雪をざくざくと踏みしめながら、歩きにくそうに彼の方へ向かった。「祐吏!どうして戻ってきたの?」ほんの数歩歩いただけで、彼女は寒さに震え、服の裾もすっかり濡れてしまった。「雪のせいで、飛行機が遅延してさ」祐吏はやれやれとため息をついたが、寒さで真っ赤になった彼女の顔を見ると、たまらず吹き出した。「バカだなあ」祐吏は軽やかな足取りで彼女のそばまで歩み寄ると、その冷たい頬を軽くつねった。「ほら、早く中に入りな。風邪ひくぞ」京奈は首を横に振り、目をキラキラと輝かせた。「一緒に雪だるま作ろ!」A市はめったに雪が降らないため、彼女は子供の頃から雪をあまり見たことがなかった。このC市でも雪は少なく、これほどの大雪は本当に珍しい。そう言いながら、京奈は無意識に声を上げて笑っていた。祐吏は甘やかすように頷いた。「はいはい、君の言う通りに」2人はしばらくの間せっせと動き回り、雪だるまを作るためのスペースを空けた。祐吏がシャベルで雪を集め、京奈が少しずつ雪だるまの形を整えていく。2人の息はぴったりで、あっという間に雪だるまのベースができあがった。彼女が祐吏に自慢しようと振り向いた瞬間、足元から滑って、そのまま雪の上にすってんころりんと転んでしまった。幸い、京奈のコートは十分に分厚かったため、まったく痛くはなかった。祐吏は慌てて彼女を助け起こそうとしたが、雪の中に座り込んで目を三日月にして笑っている彼女を見て、その場にしゃがみ込んだ。「うちの京奈は本当に綺麗だ」京奈は眉を上げ、そばにあった雪を掴んで彼の顔に投げつけ、無邪気に笑った。「いくら褒めたって、手加減なんてしてあ
3年という月日はあっという間に過ぎ去った。京奈はすでに国内のデザイン業界で頭角を現し、名を知られるだけでなく、自身の会社を設立するまでになっていた。ただ最近は会社の依頼が山のように積み上がり、目の回るような忙しさが続いている。コンコンコン。ノックの音がオフィスの静寂を破った。「どうぞ」ドアが押し開かれたが、入ってきたのはアシスタントではなかった。京奈は驚いて顔を上げ、入り口に視線を向ける。「祐吏?どうしてここに?」「君がお昼休みも返上で仕事してるって聞いてさ。一緒にご飯でも食べようと思って、慌ててすっ飛んできたんだ」祐吏は笑いながら入ってくると、彼女の向かいのソファに腰を下ろした。その言葉に、京奈の胸の奥に温かいものが広がる。口角が上がり、魅力的な笑みがこぼれた。「ちょっと待って!」祐吏が手品のようにパッと手を広げると、そこには手編みのバイオレットの花が1輪握られていた。その少し不器用な編み目を見て、京奈は思わず吹き出した。「自分で作ったの?」「当然だろ!何本も糸をダメにして、やっと一番綺麗にできたやつを選んだんだからな!」祐吏は得意げに胸を張る。2人は祐吏が買ってきたランチを一緒に楽しんだ。京奈がデスクに向かって猛スピードでデザイン画を仕上げる間、祐吏はソファに静かに座り、その姿を見つめていた。京奈が最後の1筆を描き終えたとき、すでに夜の7時になっていることにハッと気づいた。「ずっとここで待ってたの?」京奈は驚いて尋ねた。「彼女の残業に付き合うなんて、彼氏として当たり前だろ?」祐吏は堂々と答える。京奈は笑ってコクリと頷いた。「一緒に帰りましょ」祐吏が車を運転し、2人は自分たちのマンションへと帰った1日中働き詰めで肩が凝ってしまった京奈は、無意識に自分の肩を揉んだ。祐吏がそばに歩み寄り、彼女の肩を優しく抱き寄せる。「疲れただろ?」「うん」京奈は素直に頷いた。彼女はそのまま祐吏の胸に寄りかかり、ゆっくりと目を閉じた。しばらく休んだ後、彼女はふと目を開けて小さく言った。「お腹すいた?今日はすごく冷え込むし、あったかい手打ちうどんでも作ろ!」「へえ、家事なんて一切しない君が、粉から麺なんて打てるのか?」祐吏は眉をひょいと上げ、軽く笑った。京奈は頷く。「もうずいぶん作って
C市では半月以上もしとしとと雨が降り続き、空はまるで水を吸いすぎたグレーのキャンバスだ。京奈はカシミヤのブランケットにくるまり、大きな窓の前に丸くなっていた。背中に温かい胸がぴったりと密着してくるまで、無意識に冷たいガラスを指先でなぞり続けていた。祐吏が背後から彼女を抱きすくめ、その頭頂部に顎をすり寄せながら低く笑った。「雨の鑑賞会かな?」彼女はそのまま彼の腕の中に寄りかかった。彼特有の心地よいシダーウッドの香りが、鼻先をかすめる。「晴れるのを待ってるの」長い指が不意に彼女の手のひらへ滑り込み、祐吏はうつむきながら、彼女の白くしなやかな指先を弄んだ。「こんなに綺麗な手をしてるのに、絵を描いてないなんて宝の持ち腐れだな」京奈は手を裏返して、彼の手のひらをくすぐり返す。「コンペの結果発表がもうすぐだから、緊張して眠れないのよ」「もし君の作品が落選なんてことになったら……」彼は突然、彼女の耳たぶを口に含んでくぐもった声で笑った。「俺が真っ先に審査員席をひっくり返してやるよ」「なにそれ、過保護すぎるわよ」彼女は笑いながら身をよじったが、彼にうなじをホールドされ、そのまま深いキスを落とされた。互いの熱を確かめ合うように甘く深く唇を重ねる中、窓の外の雨音は次第に激しさを増し、ふと幼い頃の記憶と重なり合っていく――「私がどうしてデザイナーになりたかったか、知ってる?」彼女は不意に口を開いた。祐吏は彼女のうなじを優しく撫でた。「ん?」「子供の頃は、お母さんが絵を描いているのを見て『退屈だな』って思ってた。おばあちゃんはいつも、私がイタズラするのを笑って見てたわ」彼女は雨を見つめて小さく笑った。「後になって知ったの。2人とも、トップクラスのデザイナーだったんだって」彼はうつむき、彼女の髪にそっと唇を寄せた。「今は、君が彼女たちよりもずっとすごいさ」雨の雫がガラスを伝って流れ落ちていく。それはまるで、永遠に枯れることのない涙のようだった。……同じ頃、A市。千輝はネクタイを緩めながら、街角のカフェに足を踏み入れた。連日の残業で目元には青暗い隈ができていたが、ドアを押し開けた瞬間、その足がピタリと止まる。チリンと風鈴が軽やかに鳴り、視線を向けた先――ベージュのエプロンを身に纏った1人の女性がつま先立ちで額縁を拭いていた。その横顔の
華やかな光に包まれたオークション会場。京奈は祐吏から贈られたワインレッドのマーメイドドレスを身に纏っていた。会場の明かりを浴びたサテンのドレスは、彼女が身じろぎするたびにとろけるような光沢のグラデーションを浮かび上がらせていた。身体のラインに沿った見事な仕立てが彼女のしなやかな曲線を際立たせ、歩みを運ぶその姿は、まるで夜闇に揺れる1輪の紅い薔薇のようだった。祐吏にエスコートされて入場したとき、会場内はすでに華やかな熱気に包まれていた。思えば3日前、彼女がアトリエで課題に追われていたとき、スマホが突然震えたのだ。【京奈、緊急事態だ。パートナーがいなくて困ってる。付き合ってくれないか?】スケッチブックの上でペン先が止まり、小さなインクの染みができた。彼女は画面を見つめてふっと吹き出し、結局はその誘いに乗ることにしたのだった。今、彼のダークレッドのスーツと彼女のドレスが、互いを完璧に引き立て合っている。差し出された腕には、拒絶を許さない男としての強引さが漂っていた。京奈は自然に寄り添い、彼の袖口を軽くつまんだ。「このドレス、綺麗だけど歩くのがすごく疲れるわ」「来てくれて助かったよ」祐吏は目を伏せて低く笑い、その熱い吐息が彼女の髪をかすめた。「気に入ったものがあれば遠慮なく落としていい。俺が払う」彼女は眉を上げて横目で彼を見た。「さすが平良家の坊っちゃん、太っ腹ね」オークションが中盤に差し掛かり、京奈が展示された油絵を鑑賞している間に、祐吏は気まぐれにいくつかのジュエリーを次々と落札していた。彼女もタイミングを見計らってパドルを挙げ、母親のために極上の瑞々しい輝きを放つエメラルドのブローチを落札した。そして、最後に出品された品が登場する――ベルベットのトレイに乗せられた5カラットのバイオレットサファイアが神秘的な光を放っている。スタート価格は1億円。京奈の目がパッと輝いた。祐吏は即座にその視線を捉え、パドルを挙げながら指の関節で小気味よい音を鳴らした。「1億2000万円」一気に跳ね上がった額に、会場が静まり返る。オークショニアが口を開きかけた。「1億2000万円、1回――」会場の隅から、嗄れた男の声が響く。「1億4000万円」「1億6000万円」祐吏は瞬き一つしない。「1億8000万円」相手も張り合ってくる。