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第158話

Author: 冷凍梨
天と地がひっくり返るような感覚のあと、私は力なく床に倒れ込んだ。

うっすらと目を開けると、熱い液体が眉骨を伝い、まつげに赤い血の雫をつけて垂れた。

――怪我をしたのだと悟った。

「優月!」

焦りを含んだ呼び声が響き、ぼんやりした視界に、高い影が飛び込んできた。

その人は私を抱き上げ、慌てて手術室の扉を押し開けた。

白衣の裾が視界をかすめ、長く力強い手が私の頬を支えた。血の雫が胸元の名札に落ち、そこに刻まれた「神経外科 紀戸八雲」の文字が目に映った。

――私を抱えて手術室に入ったのは、なんと八雲だった。

距離の近さをはっきりと感じた。手術室のライトは視界の中で光の粒となって砕け、脳裏には良辰の錯乱した姿がよみがえた。

不安に駆られ、思わず問うた。「……唐沢さんは、もう取り押さえられたの?」

「こんな時にまだそんなことを気にする余裕があるのか?」耳元に落ちた叱責の声。

八雲は苛立ちを隠さず言った。「手術室の外には大勢いたんだぞ。お前が出しゃばる必要がどこにある?自分を何だと思っている?」

彼が肩をつかまれていた光景を思い出すと、胸の奥に苦みが広がった。

私は小声で答えた。「私は、医療従事者としてやるべきことをしただけ」

「医療従事者は大勢いた。警備員だっていたんだ」彼の声音はまだ冷たい。「彼がお前を突き飛ばしただけで済んだことを感謝するんだな。奴のポケットにはナイフが隠されていたんだぞ。少しは頭を使えないのか?」

機関銃のように浴びせられる叱責に耐えながら、私は必死に目を開けた。

その視界に飛び込んできたのは、彼が慌ただしく滅菌包装された医療器具の袋を裂いている場面だった。

反論しようと口を開いた瞬間、額にひやりとした感触が広がった。

――八雲がピンセットでつまんだアルコール綿を、私の傷口に押し当てていたのだ。

思わず後ずさりし、後頭部が彼の掌にぶつかった。

濃いアルコールの匂いの中に、彼自身のかすかな香りが混ざり、心臓が一拍遅れて跳ねた。

その時初めて気づいた。八雲が珍しく、私の傷を処置してくれているのだと。

「動くな」命令のような口調が耳に落ちた。

温かな吐息が髪を揺らし、彼の声は少しだけ柔らいだ。「我慢しろ」

持針器が医療用縫合糸を噛み切る音。――幻覚ではなかった。

私はまつげを震わせ、至近距離にある彼の顔を見上げ
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Comments (3)
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カナリア
GPS埋め込まれてるんじゃないかと思うほどの執着だなぁ 仕事しなさいよ 優月もいちいち首突っ込みすぎだし自分からトラブルに巻き込まれて誰が喜ぶの? こんな怪我ばかりする医者怖いわ
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pockykon
こういう人が男達に好かれるのがわからない。 多くの小説にこういうあざとい女が出てきていろいろ掻き回すよね。
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hime kichi
ホンマに葵ウザい。何とかならんの?
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