LOGIN病院の対応は、私が想像していた以上に迅速だった。わずか一日で、犯人はすでに特定されていた。少し意外に思いながら、看護師長と桜井と一緒に会議室へ向かう途中、看護師長が笑ってこんなことを口にした。「この件は青葉主任がかなり重く受け止めていてね。だから調査も早かったの。それに、藤原くんの力も大きいわ。あの子、優月ちゃんのことになると本当に落ち着かなくなるのよ」――また浩賢だ。看護師長に言われなくても分かっていた。浩賢は、私のこととなると本当に親身になってくれる。昨日も人に頼んで、私のロッカーを急いで交換してくれたばかりだ。昨夜、彼が私にかけてくれた言葉を思い出し、胸の奥にじんわりと温もりが広がった。こんな友人に出会えた私は、本当に幸運だと思う。会議室に入ると、神経外科の面々を中心に、関係部署の人間もすでに揃っていた。葵は薔薇子の隣に座り、二人で小声で何か話している。ちょうどその視線がこちらとぶつかると、葵の唇に浮かんでいた笑みは一瞬で薄れ、すぐに無関心そうに視線を逸らした。一方、薔薇子はというと――昨夜、雅典の後ろに立っていた時は、どこか私を避けるような素振りを見せていたのに、今日は違った。私を見るなり顎を上げ、まるで勝ち誇ったかのような態度だ。その目には敵意と軽蔑が宿っている。薔薇子はまた低い声で葵に何か囁き、葵は唇を噛みしめながら頷いた。そんな中で、雅典だけは相変わらず穏やかで、私に友好的に会釈をしてくれた。全員が揃うと、人事部の責任者が口を開いた。「今回の件は非常に悪質であり、当院としても重く受け止め、迅速に調査を行いました。その結果、水辺先生に対する悪意ある誹謗中傷の首謀者は、神経外科に所属する看護師であることが判明しました」「看護師?どうして看護師なんですか?」私の隣に座っていた桜井が、思わず眉をひそめ、信じられないという表情を浮かべた。「明らかに、あの人が……」その言葉を聞いた瞬間、私は握りしめていた指をゆっくりと緩め、桜井の手をそっと握った。落ち着いて、という合図だ。看護師で間違いない。この件は葵の仕業ではない。本当の黒幕が誰か、私はすでに心当たりがあった。私の視線は薔薇子に向けられたが、その時、人事部が名前を告げた。「小川慧(おがわ さと)さん、入ってきてください」――小川慧?私は眉をひそめ、俯いてお
八雲の顔色は見る見るうちに険しくなり、そこにあった笑みは跡形もなく消え去った。唇の端は固く引き結ばれ、銀縁眼鏡の下、目尻にはうっすらと赤みが差す。怒りは烈風のように一気に荒れ狂い、激しい波を巻き起こしている。「いいだろう、優月。……本当によく言ってくれたな」私は赤く染まった彼の瞳を真っ直ぐ見返し、一歩も退かなかった。「お互いさま」加藤さんは本当に余計なお世話だ。私にもう一度、八雲にチャンスを与えろだなんて――何のチャンス?皮肉られ、嘲られ、侮辱されるチャンスのこと?もういい。ここまで来たら、何も怖くない。浩賢と私はただの友人だ。浮気だと言うなら、彼と葵の方こそ本物だろう。もう、彼を甘やかす気もない。違約金も、怖くない。どうせ、あと一、二日もすれば私たちは離婚する。私たちの間に渦巻く気配はますます激しくなり、私の血もざわめき始めた。彼は車の中、私は外。明と暗。空気は無音なのに、耳をつんざくほど騒がしい。彼の怒りが爆発し、嵐がこの身に叩きつけられる――そう思った瞬間だった。八雲は突然エンジンをかけた。静まり返った通りに、轟音が荒々しく響き渡る。そして、彼が投げ捨てるように残した最後の言葉が、耳に刺さった。「優月……お前は本当に、心がない女だ」八雲のテールランプは、先ほどの浩賢の車よりも早く夜に消えた。ほんの一瞬で、唸りを上げる車は通りの角に消えていった。走り去る車が巻き起こした風が、私の髪をさらい、それはまるで、見えない平手打ちが容赦なく私の頬を打ったかのようだ。さっきまで高ぶっていた血のざわめきは、彼の車とともに次第に静まっていく。そこへまた夜風が吹き、私は急に、耐え難いほどの寒さを覚えた。思わずしゃがみ込み、体を抱きしめた。一粒の涙がこぼれ落ち、地面に弾ける。それを皮切りに、次々と涙が落ちていった。不思議だ。もう麻痺したと思っていた。もう泣かないと思っていたのに。たぶん――八雲に「心がない」と言われたからだ。私に心がない?いったい、心がないのはどっち?それとも、私の心は、とっくに彼に傷つけられ、削られ、壊され、死んでしまったのだろうか。風は長いこと吹き続け、街灯が私の影を細長く引き伸ばす。ひとりきりで、心細く立ち尽くす中、浩賢からメッセージが届いた。【水辺先生、もうお家に着いた?どうか、
浩賢は、私が答えた途端に目を輝かせた。その声は、先ほどと変わらず穏やかで優しい。「水辺先生、笑っていてほしい。君が幸せでいてくれたら、それでいいんだ」暖色の車内灯に照らされた彼の端正な横顔、ぬくもりを帯びたその微笑みを見つめた瞬間、心臓がふっと拍子を外した。私は思わず笑みを返し、静かに頷いた。「……うん、ありがとう」その言葉を聞いて、浩賢はようやく安心したように手を振り、車を走らせて去っていった。私は、彼のテールランプが夜の闇に溶けて消えていくのを見届けてから、踵を返し、景苑へ戻るために通りを渡ろうとした。――けれど。振り向いたばかりで、まだ一歩も踏み出していないその瞬間、耳元で唐突に、嘲るような笑い声が響いた。「……ふん」もう夜も遅い。この通りはもともと人通りが少なく、この時間帯にはほとんど誰もいない。道端には数台の車が静かに停まっているだけで、そんな中、突然あんな声が響き渡り、正直かなり驚かされた。反射的に腕を抱きしめ、警戒心が一気に高まる。すると、路肩に停まっていた一台の車がふいにライトを点けた。目を凝らした瞬間、先ほどまでの不安はかなり薄れた。半分下ろされた窓の向こうに、輪郭のはっきりした男の顔が現れたからだ。――八雲。どうして、彼の車がここに?しかも様子からすると、少し前からここに停まっていたように見える。今夜は、葵に愛情たっぷりの夕食を届けていたはずだ。この時間なら、甘いデートの真っ最中か、彼らの愛の巣に戻って、幸せな夜を過ごしている頃ではないの?ライトの光に包まれ、彼の顔には淡い陰影が落ちている。いつものような鋭さは影を潜め、どこか柔らかく――私が彼に恋をした、あの頃と同じ表情だ。その顔に、私は抗えず引き寄せられ、歩み寄ってしまった。だが、少し近づいた瞬間、かすかな光が目に刺さった。八雲の銀縁眼鏡が反射した光だった。思わず瞳が縮み、もう一度見た時には、レンズ越しの墨色の瞳がはっきりと見えた。冷たく、鋭い眼差し。そして、彼が吐き出された声もまた、氷のようだ。「水辺先生は、本当に男の扱いがうまい。どうすれば男が惚れるか、よく分かっている。道理で、水辺先生に出会った男は、一人残らず落ちていくわけだ」頭から氷水を浴びせられたようで、同時に鋭い刃が胸を貫いたかのようだ。冷たくて、
胸の奥に、また深い温もりが広がった。浩賢を見つめながら、私は何と言えばいいのかさえ分からない。彼は気にも留めず、軽く手を振った。「早く行ってきて」――ほら、違いはこれほどはっきりしている。結婚して三年になる夫は、私が理不尽に傷つけられているのを目にしても平然としていて、それどころか、彼の大事な葵につらい思いをさせた私が悪いのだと責めた。八雲は私を愛していない。だから、私の居心地の悪さも、悔しさも見えない。当然、私のためにこんな些細なことをしてくれるはずもない。――友人である浩賢にさえ、及ばないのだ。家まで送ってもらう途中、スマホが震えた。加藤さんからのメッセージだった。【優月、今夜のことだけど、私が見るに誤解なんじゃないかしら。八雲くんは、やっぱり私たちにご飯を届けに来たんだと思うのよ。あんなに大きな箱だったし、朝も昼も届けてくれたでしょう?夜だけ来ないなんて考えにくいわ。意地を張らないで、もう一度彼とちゃんと話してみたら?】――考えすぎだ。あれが誤解なわけがない。返信しようとする間もなく、また一通届いた。【でもね、無理に自分を我慢させる必要もないわ。一度チャンスをあげればいいの。それで大事にしないなら、それまでよ。私は浩賢くんもすごくいい人だと思うし、あんたのことも大切にしてる。私たちは、愛してくれる人に困ってるわけじゃないんだから】私はスマホを握りしめ、唇をきゅっと結んだ。文字を打っては消し、打っては消し――結局、何も送らずに画面を閉じた。胸の奥が、ひどく重たい。「チャンスをあげる」?加藤さんは、私以上に幻想を抱いている。けれど、八雲にはチャンスなど、必要ないのだ。私が長く黙り込み、顔色も冴えないのを見て取ったのだろう。浩賢が、少しためらいがちに口を開いた。「水辺先生、八雲は……最近いろいろうまくいかなくて、気持ちが荒れてるんだと思うよ。それで性格まで変わってしまったのかもしれない。今夜のこと、気にしないでね」私の感情に気づき、心配してくれているのだ。私は微笑んだ。「気にしていないよ」気にしていない。本当は――慣れてしまっただけだ。東市協和病院に来て、まだ一、二か月。私はこの目で見てきた。私の夫・八雲と葵が、最初は互いに好意を抱く先輩後輩だった関係から、今では甘く寄り添う恋人同士へと変わ
自分がどうやってまた席に座り、どうやって再び箸を手に取ったのか、正直よく覚えていない。ただ、無理やり口に運んだその後の一口一口が、すべて苦く、渋く、喉を通るのがやっとだったことだけは、はっきりしている。加藤さんの顔色も冴えなかった。どうやら彼女も気づいたのだろう。――いわゆる「挽回計画」は通用しない、八雲は私に対してまったく好意を示していないし、そもそも離婚を惜しんでなどいない。それどころか、次の結婚相手まで、すでに目星をつけているのだと。「やく……紀戸先生は、いったいどういうことなの?さっきから態度がころころ変わって」憤りを含んだ表情を見せたものの、加藤さんはすぐにそれを引っ込め、ドアの方を一瞥した。「……まあいいわ。送ってくれなくたって構わない。うちは浩賢くんがいるんだから、食べ物には困らないもの」表向きは「食事」の話をしているが、言外の意味は明らかだ。もし十分前だったなら、私はきっと彼女を止めていたと思う。けれど今は、止めない。放任したわけではない。ただ、突然、どうしようもなく無力になってしまい、言葉を発する力すら残っていないのだ。おじも不満げに言った。「この紀戸ってやつは、どうして相変わらずああなんだ。優月、うちは別に借金してるわけでもないだろ?会うたびに仏頂面で、あの松島先生には愛想がいい。まったく、二枚舌もいいところだ」「おじさん、あの人はそういう人なんです。怒らないでください」おじが興奮するのを恐れた浩賢が、すぐに取りなしてくれた。そして私の方を見て、同意を求めるように言った。「……だよね、水辺先生」「……そうよ」喉の奥から、無理やり絞り出したような声だ。ひどく乾いている。その通りだ。東市協和病院・神経外科のエースと呼ばれる八雲は、誰に対しても淡々としていて、近寄りがたい。けれど、ただ一人――後輩の葵にだけは、格別に優しく、格別に気を配る。だからこそ、誰かの嫉妬を買い、私情のために権限を利用したと通報され、停職にまで追い込まれた。それでも八雲は変わらない。朝は葵を庇い、夜は愛情たっぷりな夕食を届ける。理由は一つしかない。八雲は彼女を愛している。葵は、彼の大事な人なのだ。「……ふん、あいつに一つ借りがなきゃ、ほんとに……」おじはそこまで呟いて、言葉を飲み込んだ。加藤さんの視線も、ようやく私の顔か
加藤さんは事情が分からないまま、至って自然に葵の問いに答えた。「ええ、紀戸先生のおかげで、ようやくICUを出ることができたんですよ」「そうだったんですね。じゃあ八雲先輩、水辺先生に食事を届けに来たの?」葵の笑顔は、今にも崩れそうだ。声の調子にも、無理に保っているのがはっきり分かる。「でも……ちょっとタイミングが悪かったみたいだね。藤原先生が先に来てしまって、水辺先生もおばさんも、もう食べ終わりそうだし……」「違う」その時、八雲が突然口を開いた。銀縁の眼鏡の奥で、墨色の瞳はなお感情を激しく揺らしているが、声音だけはすでに穏やかになった。八雲は視線を落とし、隣に立つ葵を見つめた。「俺は他ではなく、葵に食事を届けに来たんだ」「えっ?」空気の中に、同時に二つの声が重なった。加藤さんの顔に浮かんでいた笑みがふっと固まり、その笑顔はそのまま葵の顔へと移っていった。葵は、信じられないという表情と喜びを隠せずに言った。「本当に?でも……そんな、八雲先輩にここまでしてもらうなんて」さっきまでざわついていた私の心は、その瞬間、奈落へと突き落とされた。あまりにも深い谷底で、落ちた瞬間に粉々に砕け散り、冷たい風が吹き抜けて、心の奥に残っていた最後の温もりまで奪っていく。――期待なんて、するべきじゃなかった。どうして私は、まだ期待してしまっていたんだろう。私は自嘲気味に唇の端を引きつらせた。浩賢が持ってきてくれた美味しそうな料理で少し湧いていた食欲も、一瞬で消え失せた。分かっていたはずだ。八雲が、私に食事を届けに来るなんてありえない。私の家族を気にかけるはずもない。私たちは、もうすぐ離婚する。それなのに、どうして私はこんな現実離れした期待を抱いてしまったのだろう。八雲が振り返って、もう一度だけ私を見て、もう一度だけ私を気にかけてくれるのではないか、なんて。関係が最も濃かった、新婚で籍を入れてからのあの一年ですら、彼は私に食事を届けてくれたことなどなかった。ここまでこじれてしまった今、なおさらあり得るはずがない。八雲が気にかけるのは、大事な葵だけだ。だから、その食事が葵に向けられるのは、当然のことだ。朝、加藤さんが受け取った味噌汁も、やはり私が予想した通り――葵が食べなかった残り物だったのだ。……本当に、皮肉だ。人が要らないものを