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第8話

Auteur: 冷凍梨
八雲は私の隣の席に座った。

あっという間に、八雲の前の取り皿は母に次々と料理を盛られ、いっぱいになった。箸を動かしながら、母は気遣うように言った。「病院の仕事は忙しいでしょう?ほら、また痩せちゃったんじゃない?」

その婿にへつらうセリフは相変わらずだ。

しかし、八雲はトマトが苦手だということを忘れてしまったようだ。

男の眉がわずかに寄ったのを見て、私は箸を取り、皿の中に入っているトマトを取り除いてあげた。

それを見て、加藤さんは気まずそうに口元を引きつらせた。

「ほら、私ったら……やっぱり優月の心配りには敵わないね」

冷笑の声が聞こえた。八雲は手短に聞いた。「お義母さんは今日、何かご用があるのか?」

加藤さんは私をちらりと見てから、にこやかに笑った。「何でもないわ。会うのは久しぶりだから、みんなで食事でもと思って」

そう言って、私に目配せして、八雲と一杯やるよう促した。

いつもなら、とっくに八雲のフォローに入っていた。外科医だから、タバコやお酒は控えめに、とか、ストイックでいることが大事だから、とか。でも誕生日パーティーで見たあの光景を思うと、私は急に考えを変えた。

赤ワインのグラスを軽く弄び、音を引き延ばすようにして八雲に差し出した。

「ねえ、あなた……一杯、付き合わない?」

八雲のまぶたが、わずかに跳ねたのが見えた。

視線がぶつかっても、私は口角を上げたまま、一歩も引かない。

「明日の朝、当直がある」

八雲は正当な理由で断った。

「また今度にしよう」

予想通りのセリフだったが、聞くとやはり心が刺されたような感じがした。

松島葵の誕生日パーティー当日の夜にだって、病院に行ったじゃない?

結局、名ばかりの妻でしかない私より、その女の子のほうが大事なだけだ。

苦い感情が心に満ちた。グラスを持って、一気に飲み干した。

それを見た加藤さんも驚き、遠回しに言った。「酒はいいけど、こう飲むと酔ってしまうよ」

――そうだね。酔っちゃったら、子作りに影響をもたらすかもしれない。

私は苦笑いを浮かべながら、またお酒を自分のグラスに注いだ。

「紀戸先生はお忙しい中食事に付き合ってくれたんだから。気持ちくらい、示さないと」

言い終わって、またグラスを口元に送ろうとしたら、八雲に止められた。

「飲みすぎると困るだろう」

低く落ち着いた声でそう言いながら、彼は長い腕を、意図するとも無意識ともつかない様子で私の椅子の背に回した。

「今夜はちゃんと優月に付き合うから、な?」

そう言っている時に、八雲は目を逸らさずに私と見つめ合った。黒曜石のような瞳に本気さでいっぱいだった。大切にされているような錯覚すら覚える。

見事な演技だ。

加藤さんはそれを見て、すっかり上機嫌になり、嬉しそうな口調で言った。「じゃあもっと食べて、食事が終わったらすぐに家に帰ってね」

こうして、食事は慌ただしく終わった。

帰る前に、母はランジェリーのセットを私に押し付けて、何度も念を押した。「女が上にいるほうが孕みやすいよ」

穴があったら入りたいくらい気まずかった。

車の中で、私たちはずっと無言だった。しかし、住所に着いたら、なぜか八雲も一緒に階段を上がった。

酔いが回り、ふらつきながら暗証番号を入力するが、二度続けてエラー。

八雲はこのような私を見て、近づいてきて、ぱぱっとドアを開けた。

心の中でほっとした私は、何も言わずに八雲と一緒に中に入ったが、男はいきなり足を止めた。反応できずにそのまま八雲の胸にぶつかった。

後ずさろうとした腰を掴まれ、低く視線を落とすと、浮き出た青筋と整った指が目に入った。

耳元に、熱が触れた。

私は緊張のあまり、ごくりと唾を飲み込んだ。八雲を見上げると、男の喉仏がゆっくりと上下し、吐息は熱を帯びている。

それにつられるように、私の心臓も激しく脈打ち始めた。視線をゆっくりと上へ移すと、男の黒い瞳の奥で、抑えきれない暗い火が揺れているのがはっきりと見えた。

パタッと、手にあったセットは床に落ちた。包装の隙間から、あまりにも挑発的なランジェリーが一角だけ覗き、私と八雲の視界にさらされた。

私が言い訳をする間もなく、身体は八雲に突き飛ばされた。

バランスを崩した私はよろよろと後ろに下がり、最後は玄関の靴箱の前に倒れ込んだ。

――痛い。

困惑しながらで八雲の顔を見たら、男の目には嫌悪感しかなかった。

「これがお前ら親子が俺に打った芝居か?」
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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
辛子明太子
なんかこの女駄目だわ~
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