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010:背徳の聖餐と白銀の十字架

Autor: 佐薙真琴
last update Última actualización: 2025-12-16 08:42:26

第一章 神の羊と夜の獣(The Lamb and the Beast)

 欧州の辺境、深い霧に閉ざされた森の奥深く。

 断崖の上に聳え立つ古城「ノスフェラトゥの城」は、数世紀にわたり人の侵入を拒んできた魔の領域だ。

 月光さえも凍りつくような寒夜。城の重厚な扉が、軋んだ音を立てて開かれた。

 足を踏み入れたのは、一人の青年だった。

 ノエル。教会の異端審問局に所属する若き祓魔師(エクソシスト)。

 闇に溶け込む黒い司祭服(カソック)に身を包み、銀髪が冷たい風に靡いている。その手には、清められた銀の十字架と、白木の杭が握られていた。

「出てこい、古き血の王よ。……神の御名において、貴様を浄化する」

 広大なエントランスホールに、ノエルの凛とした声が反響する。

 石造りの床、煤けたシャンデリア、そして赤絨毯の大階段。

 その階段の踊り場に、いつの間にか「影」が立っていた。

「……神の御名、か。久しく聞いていない言葉だ」

 絹を裂くような、滑らかで低い声。

 現れたのは、夜の闇を凝縮したような黒いベルベットのマントを纏った男。

 ヴァレリウス。数百年を生きるとされる純血の吸血鬼。

 死人のように蒼白な肌に、鮮血のような唇。そして、見る者の魂を吸い込むような真紅の瞳を持っていた。

「私の眠りを妨げたのが、こんな愛らしい子羊だとは」

 ヴァレリウスが階段を降りてくる。足音がしない。まるで重力から解放されているかのようだ。

 ノエルは即座に聖水を撒き、十字架を掲げた。

「悪しき魂よ、塵に還れ!」

 聖なる光が溢れ出す――はずだった。

 だが、ヴァレリウスは眉一つ動かさず、瞬きする間にノエルの懐へと潜り込んでいた。

「なっ……!?」

 ガキン、と硬質な音が響く。

 ノエルが突き出した銀の十字架は、ヴァレリウスの素手によって、飴細工のように捻じ曲げられていた。

 圧倒的な力の差。

「……ッ、離れろ!」

「良い匂いだ」

 ヴァレリウスはノエルの手首を万力のような力で掴み上げ、その首筋に鼻を寄せた。

「禁欲、祈り、そして隠された絶望……。極上の血の香りがする」

 ノエルが抵抗しようと蹴り上げるが、ヴァレリウスは嘲笑うように彼を床に押し倒した。

 冷たい石床の感触が背中を走る。

 見上げれば、美しい魔物が、嗜虐的な笑みを浮かべてノエルを見下ろしていた。

「殺しはしない。……退屈凌ぎに、
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