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第5話 友達になりましょう

Author: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-06-01 20:58:00

ダリアは頭を抱えていた。

目の前には満面の笑みを浮かべたルピナス。

意味が分からない。

本当に意味が分からない。

「友達になりましょう」

「断りますわ!」

即答だった。

教室中が頷いた。

当然である。

普通ならここで終わる。

だが。

ルピナスは普通ではなかった。

「そう」

「そうですわ」

「じゃあ明日また聞くわ」

「聞かなくて結構です!!」

ダリアは思わず叫んだ。

ルピナスは感心したように頷く。

「良い声ね」

「何を言ってますの!?」

「将来有望だわ」

「何がですの!?」

ダリアは混乱していた。

授業終了後。

ルピナスは帰宅準備をしていた。

そこへ。

ローゼンが現れる。

「ルピナス」

「結構です」

「まだ何も言っていない」

「予防です」

「何の」

「未来の」

ローゼンは意味が分からなかった。

最近ずっと意味が分からない。

「少し話を」

「結構です」

「聞いてくれ」

「結構です」

「頼む」

「結構です」

「なぜだ」

「なぜだじゃありません」

ルピナスは立ち上がった。

ついに来た。

前世では言えなかったことを言う時が。

「王子」

「なんだ」

「女性に断られたら引きなさい」

教室が静まり返る。

ローゼンも固まる。

「……え?」

「しつこい男性は嫌われます」

「しつこくない」

「今しつこいです」

「そんな」

「今です」

ローゼンは傷ついた顔をした。

少し可哀想だった。

少しだけ。

本当に少しだけ。

そこへ。

「殿下」

またしてもダリアが現れた。

救世主である。

「もう帰りますわよ」

「ダリア」

「授業は終わりました」

「そうだな」

「帰りましょう」

ローゼンは諦めたように去っていく。

ルピナスは感動した。

「ありがとう」

「何がですの」

「助かったわ」

ダリアはため息をついた。

「別に貴女を助けたわけではありません」

「優しいのね」

「違います」

「優しいわ」

「違います!」

ルピナスは微笑んだ。

前世の記憶が蘇る。

ダリアはいつも一人だった。

高飛車で。

誤解されやすくて。

口が悪い。

でも。

困っている人を見ると放っておけない。

そんな人だった。

「ダリア」

「なんですの」

「一緒にお茶しない?」

「しません」

「ケーキ付き」

「……」

ダリアの眉が動いた。

ルピナスは見逃さなかった。

「苺のショートケーキ」

「……」

「モンブランもあるわ」

「……」

「プリンも」

「行きますわ」

即答だった。

ルピナスは吹き出した。

「やっぱり」

「笑うな!」

ダリアの顔が真っ赤になる。

その時だった。

教室の外から。

「ルピナス様」

低く落ち着いた声が響く。

二人が振り向く。

そこには。

近衛騎士団長補佐。

フジ・アスターが立っていた。

黒髪。

琥珀色の瞳。

無表情。

だが。

どこか優しい空気をまとっている。

ルピナスは固まった。

前世では接点がほとんどなかった男。

なのに。

なぜか胸がざわついた。

フジは一礼する。

「侯爵閣下から迎えを頼まれた」

「お父様が?」

「ああ」

短い返事。

ルピナスは首を傾げた。

変な人。

ダリアも同じことを思ったらしい。

そしてフジは続けた。

「それと」

「え?」

「風邪は治ったのか」

ルピナスは目を瞬いた。

最初に聞くのがそれなの?

「治ったわ」

「そうか」

フジは少しだけ表情を緩めた。

本当に少しだけ。

ルピナスは思った。

この人。

良い人だ。

そしてダリアは思った。

この人。

ルピナスにだけ少し優しくない?

(第6話 フジという男)

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