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第6話 フジという男

Author: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-06-01 21:00:06

帰りの馬車の中。

ルピナスは向かい側に座るフジを見つめていた。

フジは窓の外を見ている。

無言。

ひたすら無言。

静かだった。

あまりにも静かだった。

ルピナスは耐えられなくなった。

「フジ」

「なんだ」

返事は早い。

「趣味は?」

「剣術」

「それ仕事では?」

「そうだな」

会話終了。

ルピナスは困った。

ダリアがいたら笑っていただろう。

「好きな食べ物は?」

「米」

「子供?」

「違う」

会話終了。

ルピナスは天井を見上げた。

何この人。

難しい。

しばらくして。

フジが口を開いた。

「お前」

「なに?」

「なぜ王子を振った」

ルピナスは固まった。

核心だった。

聞かれると思っていた。

だが答えられない。

『未来で処刑されるからです』

とは言えない。

「なんとなく」

「そうか」

フジは納得した。

早い。

「聞き返さないの?」

「聞いてほしいのか?」

「聞いてほしくない」

「なら聞かない」

ルピナスは少し笑った。

変な人。

屋敷へ着く。

馬車から降りる時だった。

ルピナスの足が少しもつれた。

「あっ」

倒れそうになる。

その瞬間。

ぐいっと腕を掴まれた。

気づけばフジが支えていた。

「大丈夫か」

「え、ええ」

「まだ本調子じゃないな」

ルピナスは驚いた。

風邪が治ったばかりなのは事実だ。

でも誰にも言っていない。

フジは平然としている。

「無理するな」

「……はい」

なぜか素直に返事をしてしまった。

その頃。

王宮。

ローゼンは執務机に突っ伏していた。

「なぜだ……」

またである。

側近達はもう慣れていた。

「殿下」

「なんだ」

「本日二十七回目です」

「何がだ」

「なぜだ、です」

ローゼンは黙った。

数えていたのか。

怖い。

「本当に意味が分からない」

「何がでしょう」

「ルピナスだ」

側近達は全員ため息をついた。

また始まった。

「俺は何かしたか?」

「していないのでは?」

「そうだろう?」

「はい」

「なのになぜだ」

誰も答えられなかった。

翌日。

学院。

ルピナスは元気に登校していた。

未来が変わり始めている。

それだけで楽しい。

そこへ。

「ルピナス様」

マーガレットが現れた。

金色の髪を揺らしながら微笑んでいる。

前世の処刑台を思い出し、ルピナスの笑顔が引きつった。

マーガレットは気づかない。

「殿下を困らせているそうですわね」

来た。

ルピナスは思った。

来たわね。

未来の敵。

「困らせているつもりはありませんわ」

「ですが殿下は傷ついています」

「そう」

「可哀想だとは思いませんの?」

ルピナスは首を傾げた。

そして本気で考えた。

可哀想か。

うーん。

「思いませんわね」

マーガレットが固まった。

「え?」

「え?」

「殿下ですのよ?」

「そうね」

「王子ですのよ?」

「知ってるわ」

「王子を振ったんですのよ!?」

「振ったわね」

ルピナスは紅茶を飲むような気軽さで答えた。

マーガレットは言葉を失った。

その時。

後ろから低い声が響く。

「断る自由はある」

二人が振り向く。

フジだった。

マーガレットが眉をひそめる。

「フジ様」

「嫌なら断る」

フジは淡々と言った。

「それだけだ」

マーガレットは言い返せなかった。

ルピナスは感動した。

(この人、強い)

そしてフジは続けた。

「それより」

「なんですの?」

「朝食は食べたか」

ルピナスは瞬きをした。

話が飛んだ。

「食べたわ」

「そうか」

フジは満足そうに頷いた。

マーガレットは思った。

この人達、何なのかしら。

ルピナスも思った。

この人、本当に何なのかしら。

そして遠くからローゼンがこちらを見ていた。

「なぜだ……」

本日一回目である。

(第7話 王子、尾行する)

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