Coming Home The Carter Clan

Coming Home The Carter Clan

last updateLast Updated : 2023-05-29
By:  AM SamsCompleted
Language: English
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After a 12-year absence, Austin returns to the horse farm in Wyoming she has always considered her true home. But things have changed, and the farm she inherited comes with some enemies - one of them being the Carter family. Cortland Carter now handles his family's affairs and is determined to get the water rights back from his neighbor, who won them from his grandfather in a poker game. Fate has a funny way of bringing people together, and when Austin saves Cortland's niece, the two finally meet. Despite the feud between their families, they both feel a mutual attraction that cannot be denied. But with their families at odds, is there any hope for a future together? "Coming Home" is a heartwarming tale of love and betrayal.

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Chapter 1

Chapter 1

新しい職場への異動初日。私は、容態が急変した妊婦の対応に追われていた。

看護師たちと懸命に処置を続け、どうにか母子ともに一命を取り留める。

ほっと息をついたのもつかの間、ベッドの上の彼女は、スマホを耳に当てると弾んだ声を上げた。

「ねえ、あなた、男の子だったわよ!」

そのとき、通話口から漏れ聞こえてきた向こうの声。

「よかった、本当によかった」

聞き慣れたはずのその響きに、私の動きはぴたりと凍りついた。

十年間、ずっとすぐ隣で聞き続けてきた音。

――疑いようのない、私の夫の声だった。

……

「古川先生、古川玲奈(ふるかわ れな)先生」

不意に呼ばれた名前に、はっと我に返る。

「患者さんがお呼びですよ」

そう言って、看護師はベッドに横たわる、出産を終えたばかりの母親へと視線を送った。

つられて病床を見やる。若いからだろうか、大仕事を終えた直後とは思えないほど、彼女の血色は良かった。

「先生、うちの子、元気ですよね?」

不安げな問いかけに、喉の奥に込み上げた苦い塊をぐっと飲み込み、私は小さく頷いた。

「ええ。今のところ、母子ともに何の問題もありませんよ」

手元のカルテに目を落とす。そこにある名前は「原田詠美(はらだ えいみ)」。

医師である私の言葉に安心したのか、詠美の頬は、歓喜に熱を帯びてほんのりと赤らんだ。

「もう、うちの人ったらまだ来ないの?遅いんだから。ねえ先生聞いて、うちの旦那様、すっごくお金持ちなのよ。もう四十近いのになかなか子どもに恵まれなくて。だから今日のことを知ったら、絶対に大喜びしちゃうわ」

無邪気そのものなその声が鼓膜を揺らすたび、私の胸の内側は、急速に温度を失っていく。

その時、病室の重いドアが押し開かれ、息を切らして駆け込んできた男の姿が目に飛び込んできた。

「すみません、原田詠美はどこですか!?」

ついさっきまでベッドで大人しくしていた彼女が、弾かれたように甘ったるい声をあげる。

「ここよ、あなた!」

私は、そのすぐ傍らに立っていた。

サージカルマスクに、すっぽりと髪を覆う医療用キャップ。顔の半分以上は隠れているとはいえ、万が一にも気づかれたら――

咄嗟に身を固くし、隣にいた看護師の背後へと隠れようとした。

けれど、それは全くの杞憂だった。

古川健太(ふるかわ けんた)の瞳に映っているのは、生まれたばかりの赤ん坊と、ベッドにいる詠美だけ。すぐ目の前にいる私のことなど、彼の視界からは完全に締め出されていた。

ただ静かに見つめていると、健太は恐る恐る赤ん坊を抱き上げ、その小さな顔をしげしげと覗き込んだ。

「……俺に似てるな」

そう呟いて、今度は詠美へ満面の笑みを向ける。

「よく頑張ってくれた。お祝いに、別荘を買っておいたよ。それから、これ。お前がずっと欲しがってた、五カラットのダイヤだ」

「うそ、最高!」

白いライトを浴びて、その大粒の石が鋭い光を放った。

その光が、私の目に痛いほど突き刺さった。

二人は周囲の目など完全に忘れた様子で、言葉を交わし合っている。傍らの看護師たちが、ひそひそと羨望の目を向けていた。

「出産しただけで別荘って、ちょっと信じられないよね」

「かなりの年の差夫婦っぽかったし。ほんとに『本妻』なのかも怪しいところだけどね」

「いいじゃん、愛人だってあれだけ貢いでもらえるなら大勝利よ。今の時代、下手な本妻より愛人のほうがよっぽどいい暮らししてたりするんだから」

――もう、限界だった。

私は踵を返し、逃げるように自分の診察室へと駆け込んだ。

マスクを引き剥がし、白衣を脱ぎ捨て、キャップを外す。

キャスター付きの椅子に崩れ落ちるように腰を掛け、ただ呆然と宙を見つめていると、何の予告もなく、ふいに涙が溢れ出した。

拭っても、拭っても、止めどなく頬を伝っていく。両手で必死に口元を塞いだものの、抑えきれない嗚咽が指の隙間から、ひっ、と情けない音を立てて漏れた。

泣きじゃくるうちに、空っぽの胃袋がひっくり返るような吐き気が込み上げてくる。

そういえば今日は、朝からろくに食事も摂らないまま、詠美の急変に駆けつけたのだった。

そこでようやく、すとんと腑に落ちた。

先ほどの看護師たちの噂話。あの滑稽な「本妻」という笑い話の主人公は他でもない、この私だ。

夫が外で作った子どもを、医者である私が、この手で無事に取り上げたのだ。

こんな悪趣味な喜劇が他にあるだろうか。

小刻みに震える指でスマホを取り出し、適当なデリバリーを頼もうとアプリの画面をスクロールする。

ところが、震える指先が誤って「緊急連絡先」に登録された名前、健太の番号をタップしてしまった。

無機質な発信音が響く。

我に返り、通話終了の赤いボタンを押した。

やがて注文した食事が届くまで、彼からの折り返しは一度もなかった。

昔は私の電話には必ず一番に出てくれた。どうしても出られない時だって、数分後には必ず折り返してくれたというのに。

今は私なんかよりずっと、大好きな人がそばにいるから。

砂を噛むような気味悪さで、無理やり食べ物を胃の腑へと押し込む。

たとえ夫を失ったとしても。

私はここで、医者として働き続けなければならないのだから。

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