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小濁り②/草萌え①

Author: 藍沢咲良
last update publish date: 2026-10-13 05:00:00

「んっ…佐川…くん……はあっ…んんっ!」

佐川は桜汰の名字だ。

家を間違えたのだと思いたかった。

でも鍵は開いたし桜汰の靴はあったし桜汰の名字を呼ぶ艶かしい声。

息が、苦しい…。上手く、息が、出来ない…。

逃げたい!すごく、逃げたい…。

でも…逃げちゃダメな気がする。

このまま現場を押さえずに泣きながら帰るのは、惨めだ。それは悔しい。

だったらせめて。

引っ掻き回すのみ!

ガラッ!

出来るだけ大きな音を立ててドアを開けた。

湿気と体臭が混ざった臭いがする。

そこには醜い生き物が裸で絡み合っていた。

そう、醜い。

ただただ、醜い。

この醜い生き物が、私の彼氏だと思ってた人、桜汰だ。

私の、好きだった人だ。…多分。

醜い男がこちらを向いた。

醜い女もこちらを向いた。

「美咲…なんで…?」

桜汰の掠れた声が薄暗い寝室に響いた。

ドアを開けて良かった。

桜汰、こんなに醜い生き物だったんだ。

嫌悪感が湧き上がる。

逃げ帰らなくて良かった。一人で家で泣かなくて良かった。

涙よりも、ショックよりも、嫌悪感が上回るだなんて。全くの予想外だ。

「美咲…」

全裸のまま、桜汰が私に近づく。

気持ち悪い。

私じゃない女と絡み合っていたであろう全裸の桜汰を見ていたら吐き気がした。

「…近づかないで。吐き気がする。…桜汰。桜汰の、全てが…気持ち悪い」

「美咲」

肩を掴まれる。

「…触らないで」

「佐川くん…?」

ベッドの上の裸の女が口を挟む。

「佐川くん、彼女とは別れたって…」

「別れてません」間髪入れずに髪の長い女に告げる。

「別れてなかったけど、私はもう無理。生理的に無理。良かったらどうぞ?平気で二股かける男で良ければ、ですけど」

全裸のままの醜い男を視界に入れる。

「私の荷物、処分しといてください。二度とあなたと関わる事は無いでしょう。連絡も一切しないでね」

自分の口から、こんなにも冷たい声が出るなんて。知らなかった。

玄関に置いた鞄と食材を手に取ってドアを開ける。

桜汰の為に揃えた食材だった。

あんな醜い生き物の胃に入るかと思うと、それすら嫌だ。

「美咲!」

マンションの部屋を出て廊下で肩を掴まれる。

辛うじて下着とスラックスは身に付けたらしい。

「何?もう用は無いでしょう?」

「俺…別れたくない」

「は?」

本当に、「は」の一文字しか出て来ない。

この状況で私を引き留められると思えるプラス思考が恐ろし過ぎる。

「私は無理。離してくれる?っていうか、気安く触らないでくださる?さっきの人、今も部屋で全裸なんでしょ?お楽しみの続きでもしてこれば?」

私は今、人生で一番冷たい表情をしている自信がある。

「待てよ、美咲」

汚らわしい手でまだ肩を掴まれている。渾身の力を込めて桜汰の手を方から剥がす。

「これ以上付き纏ったら大声を出しますが。それとも警察呼びましょうか?」

それだけ告げて身を翻した。

通常の速度で歩いても、桜汰はもう追って来なかった。

終わったのだ。

桜汰とはもう、終わった。

これでもう、おしまい。

どうやって帰ったのか、覚えていない。

朝の日差しを感じて目が覚めた。

窓の方を見ると、見慣れないカーテン。

え…?

反対側を見てみようと、恐る恐る視線を動かす。

何故?

何故私は、悠さんと一緒に寝てるんだろう…?

文字通り、飛び起きた。

え、何なに?どういうこと?

私、やらかした…?

服は…着てる…。

頭が若干痛い。二日酔いのような感じがする…。

「ん…」

悠さんがこちらに寝返りを打った。

私がいつも寝ているシングルベッドより若干広い。

セミダブルというサイズだろうか。

「…起きた?」

掠れ気味の、気怠そうな低音。色気が爆発していて、更なる動揺を誘う。

「あの、悠さん…。私は一体何を、やらかしたのでしょうか…?」

恐る恐る聞くと、悠さんはゆるく口角を上げた。

「ふうん……覚えてないの?」

「お、覚えてません…」

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