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72.ライブの前に

last update Last Updated: 2025-08-10 11:00:00

「リラだって出来るよ ! 」

 シエル、顔に出てる……。すっごい気を使って来るじゃん。

「意外。くくっ ! お前歌えんだ ? 何歌うの ? 」

「知らないわよ ! 」

 冷やかし方腹立つ〜  ! 

 わたしの返答にカイが不思議そうにする。

「知らないってどういう事 ? こう、曲目とかリスト無ぇの ? 」

「さぁ。分かんないけど、いつもセロの気分で始まって、わたしは歌を当てるだけだし」

「はぁ !? 即興って事 ? 」

「まぁ」

 とはいえ、セロは王道的な演奏が多いし。…………そうね。ちょっと今回はおイタが過ぎない ? わたしはやらないって、あれほど言ったのに裏切ったよね。

 でもわたしがボイコットしたらリコが歌えないでしょうし。

 ここはわたしがセロを振り回しても構わないわよね。

 そうよ。以前もわざと力づくのメロディラインでセロをねじ伏せた時があったけど、もう今日は嫌がらせでいいんじゃない ? 

 疲れたらリコと交代するだろうし。

 開幕一曲目。わたしの出番でリコに全投げしよ ! 

 □□□□□

「リコ、出来たよ」

「あ、ありがとう」

 シエルはわたしの解れかかってたローブスカートの裾を縫ってくれていた。

「シエルは凄いね。いつも皆んなのお世話してるの ? 」

「え ? そ、そんなことないよ……。うん、してるけど。なんか急に褒められると照れるよ ! 」

 裁縫道具を片付けながら、シエルは真っ赤になった顔をパタパタと手で仰ぐ。

「リラはそんな事言ってくれないし、カイなんて余計にね〜」

「そう。多分思ってはいるけど言わないのよ。彼女もカイも」

「うん。知ってる。めんどくさいね〜」

「確かに ! ふふふ」

 あと少しで日が傾く。

 ドキドキしてきた。それ
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