無理なんじゃないかな。
どちらかって言うと無理じゃなくて、絶対無理なかって。「よし、村長の紹介状持ったな ? 」
天気は晴天 !
降り積もった雪が真っ白で、目がチカチカするくらい日光を浴びている。すぐ側には砕いた氷のような雪山が連なってる。 村を出て道を川沿いに歩けば麓の村に着く。とは言え、記憶のないわたしにとって初心者の雪中行群だよ。しかも問題はそれだけじゃない。
「う……。あの……流石に今日から急に二人きりって無理があるんじゃないかと思うの」
レオナの勢いに乗せられて、今日からセロと二人で旅をする事になった。
なんで ? いえ、わたしが知りたいくらい。「一箇所に留まってるより、あちこち動いた方がいい ! 掲示板に張り紙して仲間を探した方が絶対早いって。
掲示板の情報は、まとめて情報屋が各ギルドに配り歩くシステムなんだから、いずれ仲間が見たら気付くだろ ? 」聞きたいのはそっちじゃない。
「セロとあの夜の後、一度も話してないんですよ ? 会うの二回目が出発当日って ! 魔物がいるような地域で外に放り出されるなんて ! 気まずいじゃないですか ! 」
「いやいや。あいつは何回顔合わせても気まずいからさ。どーせ喋らないし。
あいつはそういう……草 ? とか〜……ん〜小動物 ? とか、そんな風に見てればいいでしょ。無害よ無害 ! 」必要な物は辛うじて揃ってたからいいとして、まだ見ぬ「カイさん」の双剣も持った。でも魔法用の魔石は使い方が思い出せないし、戦闘能力は皆無に等しいわたし。
それから……歌魔法の魔石。 装備の中、胸元に光る青い煌めき。歌った時は確かに金色だったのに。この詳細も全く分からない。「大体、セロの方が歌の旅に出ようってあんたを指名して意気込んでる訳だしさ。
いやぁ〜、あたしもジルも最初はびっくりしたくらいだよ。あいつにそんな自立心あったんだってさぁ〜。 ま、変な下心を持つタイプじゃないと思うよ」「会話も成り立たないんじゃないかと思うんです。……下心以前の問題ですよ」
でもレオナの言う通り、確かにセロって植物みたいにサラッとしてるイメージだよね。……なんて言うか男性的な視線というか、危険を感じない。
でも、それはそれで感情も読めなさそう。「あ、来たよ。おーい ! 」
ジルとセロの男組がこっちに向かってくる。
「 ??? 」
セロは一度道中で立ち止まると、ジルから離れてふらふらと横道に逸れて行く。
「セロの奴。何してんるんだ ? 」
ジルが何かジタバタして、セロの首根っこを掴んでる。
これ、絶対セロは後悔してるんじゃないの ?「レ、レオナ ! ホントにいいの !?
もう、嫌。こうなったらわたし ! 一人で旅出る ! 既に気まずいし、セロも身体が拒否してるじゃないですか ! 」「待って待って ! あんた、この地域でソロになったらマジで死ぬよ !? いいから麓までは護衛だとでも思ってくっ付けときな」
そんな、セロをアクセサリーみたいに ! それはそれで可哀想 !!
「よ ! リラ、待たせたな ! 」
「ジル、あのね ! 」
「ほらセロ、しっかりしろ」
「いや……あの……」
あ〜〜〜、やっぱり !!
セロも混乱してる。なにか二人に強引に盛り上げられて、その場のノリで言っちゃったんだろうな。 そもそも記憶喪失で何にも出来ないわたしたちがパーティ組むなんて絶望的だよ…… !! だって戦い方も覚えてないもん !「装備付けて ! アイテム持ったな ? 」
言わなきゃ ! わたし !
ここで断らないと、大変なことになる気がする !! レオナとジルに向かってはっきり !!「ジルさん、やっぱりわたし、よく考えた方がいいかなと思ってて ! 」
「「今更なぁ〜に言ってんだ ! 面白……っ違 !
……お似合いじゃねぇか !! 」」出た ……!
今、二人の本音出てた !もういい。二人きりになったら切り出そう。レオナとジルは半分冷やかしじゃないの。
「よし、じゃあな。俺達も後を追うから。三日後に麓の村で会おうぜ」
そうよね。
次の村に行くまでだもん、すぐだよね。 道中、よく話し合って綺麗に別れればレオナとジルも諦めつくわよね ?「じゃあ、セロ……。よろしく」
「ん。うん」
「……」
目も合わないよ……。辛……。
「頑張れよーーー !! また会おうぜーーー ! 」
「あんたら ! 気合い入れて人生取り戻せよ !! 」
軽く会釈して遂に村から一歩踏み出す。
わたしとセロは、とりあえず歩き出すと言う雰囲気。うぅ、背中にレオナ達の視線感じる……。
何か会話でも……って、セロはそれが苦手なのか……。会話も最初はジルを通訳みたいに話してたし、どうしたらいいんだろう。 じゃあ……。何か……セロが興味のある話からの方がいいよね。「あの、セロ ! 」
音楽の事なら答えてくれるんじゃないかな。
「……○△△□…………」
「え !? 」
思わず振り返って二度見。
セロがわたしの大分、後ろ〜〜〜の方に離れて歩いてた。「はぁ〜……」
なんか、流石にモヤッとしてきた。これじゃコミュニケーションも取りようが無いじゃないの。
「ちょっと……離れすぎじゃない ?
子供じゃないんだから……。並んで世間話くらい駄目 ? 」セロが一瞬ビクッとして、それでも気を使って早足で近付いて来てくれた。……本当に小動物っぽい。まさに懐き度☆☆☆☆★ !
今までどうしてたんだろう。レオナは気にせず話しそうだし、そんな感じでいいのかな。えーと、音楽の話だよね。
早く切り出さなきゃ ! またセロがモグラみたいになっちゃう !! 音楽かぁ……ん〜。「えと……。こないだは急にステージで倒れてごめん。わたしお酒は駄目みたい。一口くらいだったんだけどね」
「今後は絶対に飲まない方がいい」
「うぅ。ごめん。
あぅ……それでさ、聞きたいんだけど。わたしのDIVAって石の事。本当に何も知らなくて……これはただの宝石だと思ってたし」セロはチラりとわたしの胸元に下がっている魔石を確認して、険しい顔をした。
「それ、隠した方がいい。荷袋に入れて盗まれたら大変だし、そのまま服の中に……見えないように着けた方がいい」
「え !? あ、うん。そうする」
慌てて服の中に入れる。
肌に当たった感触が冷たい。「それは、厳密に言うと魔石じゃない。魔石ではあるけれど、精霊の魔力を持たない独自の魔力があるらしい」
「魔石の……わたしが知ってる基礎知識、確認していい ? 」
「ああ」
あ、割と会話成り立ってる。大丈夫そう。
馬車に乗せられたリコとセロは、水の泉を飛ばし、運良くプラムの村に早目に到着する事になった。医者が手配され、大事には至らなかったが、汚物に塗れた冒険者に村人は呆れ返っていた。 リコ達が食べたベリーはプラムだけではなく、アリアでも他の北国でも群生し、毒があるのは現地の常識だったのだ。「全く、わたしとお嬢様がいなかったらどうなっていた事か」 女剣士が欠伸をしながら、ベッドに寝かされた二人を見る。 その傍で、三つ編みの少女は興味津々な様子でセロの狐弦器のケースを眺めていた。「お嬢様、なにか気になることでも ? 」「マシュラ、この狐弦器のケース、とても高価な物だわ ! 中もきっとそうね。マシュラが彼を持ち上げた時も、無意識でケースを手放さなかったもの」「まぁ、吟遊詩人にとっては商売道具ですからね」 マシュラと呼ばれた女剣士は、護衛対象の娘を見下ろし不安にかられる。「お嬢様、もう夜です。お屋敷に戻りませんと集会に間に合いません。この二人は明日まで目覚めない」「そうね。でも他の人の目に付いたわ。今日は彼女達の護衛についてちょうだい」「いけません ! お嬢様」「マシュラ、お願い。それに、夜のお屋敷は安全よ。村の人より部外者の二人の方が異質なのだから」「……ええ。それはごもっともです……。 では、お気をつけて」 三つ編みの少女は無邪気に笑うと、病室から出て行った。靡いたワンピースの裾が花のようにふわりと翻る。「アナスタシアお嬢様……」 □□□□□□□□□ 村と言うには、どれも豪勢な石造りの建物だ。 地図上に村として記してあるプラムの村は、冒険者にとっては旨味がない辺境である。 財力のない冒険者はグリージオのような支援金制度のある街を目指す。 そして腕に自信のある者たちは、リコのいたレベルの高い魔物のいる高山を目指すが、流石に考え無しに雪山の集落を目指すほど安易ではない。魔物は強くなれば強いほど遭遇率も落ち、勿論一度出会したら命に関わる討伐となる希少生物なのだ。故に一度は
旅に出る前……わたしが雪山の山小屋集落でうじうじしてた頃は何も思わなかった。 ジルから、セロがわたしと旅に出たがってるって聞いた時は、嬉しかった。 レオナの言う通り塞ぎ込むより、自分から仲間を探しに行く旅もいいかもって。 だからあの時、急な状況よりもわたしの心は浮かれてた。細かいことなんて考えなかったもの。 でも旅をしてれば必ずこんな事も起きる。「……っ」「……」「ね、ねえ。セロ。ちょっと先に行っててくれる ? 」「……いや。そろそろ次の森に入る。単独行動は控えてくれ」「ト、トイレよ」「なら……ここで待つ。そこの草の影で……別に見たりしない。鳩を連れてけ」 そういう問題じゃない ! それにあの草、すぐそこじゃん、近すぎるわ !「いや、でも。わたしも……ほらあの草薮は風上だしさ。匂いとか……」 気付いて !「別に気にならんが ? 」 気にして !! そこは気にして !!「わたしは恥ずかしいの ! 」「そうか。じゃあ、風下のそっちで……」「違うの ! もっと距離を !! 」「危険だ」 危険なのはわたしのお腹なの !! うえ〜ん、なんで ? 空腹で急に食べたから ?「なんでそんなに一人になりたがるんだ ? 」 深い意味は無いの !!「あの、あのね !! 」 ギュルルルルルウ…… !「くっ !! 」「もう、腹減ったのか ? 」「お腹壊したの !! 察してよ ! 出来ないわよ !
「カイが先か。しかし……人より丈夫だとしても、生身の人間であるカイが先 ? レイ、おかしいと思わないか ? 」 カイは大陸の最西端。 ドラゴンが攻撃を受け、命からがら逃げ惑ったとしても、他の大陸まで逃げ及ぶようなことは無い。本能的に飛龍同士のテリトリーを理解している。 例え討伐中シルドラが大陸を一周したとしても、一番遠いのはカイのはずだ。 何故、シエルの連絡が遅いのか。 レイはポーカーフェイスのまま答える。「シエルは魔力も少なくなってたからな。落ちた時に怪我はなかったが、回復まで時間がかかるのかもしれない」「いや、白魔術師には精霊や神の守護がある。魔力切れ程度では死にはしない幸運者だよ。 身体が不自由になっても、魔力があれば俺たち凡人より出来ることが多いだろ ? 」 エルはシエルの知る術の半分以上を把握している。単純に博識なだけで、シエルが直接言った訳ではない。 最もこれだけ頭が回転しなければ、若くして王になどなれないのだ。 事実、シエルはエルより先に、カイと共にリラとセロの二人に会おうと企てている。 エルがシエルを疑問に思ったところで、レイも勘づく。シエルはリラと合流を優先しているのでは ? と。「……シエルを先に探そう。リラはあとだ」 この言葉に、レイはホッとする。 セロはリラに対して淫らな感情は無い。それ以上に女性嫌いときている。今、懸念するべきは、リラをエルに引き合わせ、強引にセロと引き剥がされることだった。 リラに好意があるレイにとって、リラをセロに預けるままにしているのは気がかりではある。しかし、リラの自由を誰よりも願うのもレイなのであった。 この暴君な王からリラを守りたかった。「シエルの捜索は俺がやるよ。リラも見つかったんだ。いいだろ ? 恐らく、シエルはあの性格だ。どこかで面倒事を断りきれずに足止め食らってるのさ」「……それだけならいいけれど。白魔術師は珍しいからな&he
「これ、木の実だ」 セロが通りすがり、川へと垂れ下がるように育った木を見上げる。樹木に野イチゴのようなツタが絡まり枝の先にモコモコと実をつけている。「食べれるの ? 」「鳩を近付けて見よう。動物が食えば少なくとも死に至る果実じゃない」「よし ! 食って ! 」『ポ、ポポ !? 』 髪に絡みつく鳩を掴んで木に乗せる。 鳩はフンっといいながら、その木の実を咥え、ツッツッと喉へ押し込む。「「食える !! 」」「おい、結構あるぞ !! 」「は、半分食べよ !! 少し持って出発するとして ! 早速食べよ ! 」『ポ……』「「鳩邪魔 !! 」」 両手でむしってガツガツと頬張る。「ん、甘〜い !! 」「ああ。ジャムのようだ」「口の中真っ赤 ! 」「気にしてられん。とにかく食うぞ」「んむ、ング。美味しい……」「はぁ〜。お腹いっぱい。でもまだまだなってるね」「甘いものってそう大量には入らないよな。残った物を包んで持って行こう」 スカーフを取り出すと、食べ切れる分だけを摘んでいく。「実の付きがいい木だな」「ね。でも生き返った ! 」「これでよし。もし食べきれなかったら煮込んでソースに出来る。 プラムを目指そう」「おー ! 」 ふふ、お腹いっぱいになったらなんだか楽しくなってきた。 シエルのお陰で大手を振ってグリージオに向かわず済むし、プラムに着いたらまず宿屋で身体を流して……。「……」「どうかしたか ? 」「あの、さ。わたし達がアリアの聖堂で貰ったチップの金貨って……まさか」「ああ。テントと共に落ちたが ? 」 嘘でしょ…
「なにか来る ! 」「何あれ、鳥…… ? って、なんかこっちに急降下してくるわ」 ヒュオ !! 「射落とす ! 」「待って、ただの鳩だよ ! 」 わたしが手を伸ばすと、鳩はスピードを緩める。ここまま抱えようとすると、柔らかな鳩胸をボフっと収めてくれた。『ポプ ! 』 わたしのの手を傷付けないよう、脚をそっと乗せてその瞳をじっと見つめてくる。「……この鳩……なんだか魔力を感じるかも……」 次の瞬間、鳩の目の色が変わる。 真っ赤になったその目玉がふとそばの草むらへと逸れる。釣られてわたしたちは草むらを見ると、薄ら草薮の前に人型が現れた。「な、何 !? 誰っ !? 」「これは……白魔術 ? お前の仲間じゃないのか ? 」 セロの問いに、完全な人型が答える。『僕はシエル。白魔術師で、元パーティのメンバー』「これ、会話できるの ? 」『完全な会話じゃない。思念として送ってる。僕自体の意見や性格は変わらないけど、 会話とは違うんだ』「そういう……魔術なのね…… ? 」『ところで、吟遊詩人になったって本当 ? 』 目の前に現れた十歳程の子供。不釣合いなほど位の高い法衣を着こなし、わたしを見つめる。「う、うん。そうなの。セロは……凄い奏者で、わたしは彼の音楽無しでは生活できない ! 」『……そう。 僕は動物の目を使って遠くを視る魔術が使える。カイは今、モモナ港からグリージオを目指してる。何も状況を知らない。 僕がいるのはすぐ近くのコッパーの村。このままなら一番最初に合流するのは僕とカイ。 この鳩に、二人の状況を聞いたよ。記憶が無いんだね、リラ』 合わせてセロが地図を広げる。「カイが既に出発しているなら……コッパーまでは歩きで一日、二日か……」『リラは魔族の血を引く者。グリージオのエルンスト王は仲間だけど、DIVAを使っての旅は反対するかもしれない。 加えてリラの魔力が凄まじいから、定期的に余った魔力を僕がデトックスする必要がある。 でも極端な話、僕がいればリラはグリージオの聖堂からも追われず、魔力を使い余すことなく、安全に旅が出来るってこと』「あの ! あの……わたし、実はグリージオには……」『戻らない気だね。鳩から記憶を共有した。 リラ、森をひとつ焼くなんてどうかしてる。 でも、健全に音楽がやり
一先ず、近くの木に止まる。『ポーポー !! プェープェー ! 』『煩いよ鳩ちゃん ! 二人の会話が聞こえない ! 』「俺は今のお前が好きだ」 ブポッ !!『ゲフンゲフン ! 何あれ !!? リラの彼氏 !? 』『プェープェー !! 』『え !? 森で噂 ? リラが !? あれ本当に恋人 !? 』『ポププ !! 』『まさかぁ〜 ! リラってレイと仲良いし、カイだって気があるのわかってるのになんで ? 知らない人じゃん ! 』「もし今のお前が消えると言われたら、反対だ。 お前さえ良ければ一緒に逃げてもいい」『ひ、ひえぇえ ! 何あれ ! 本当じゃん !! 鳩ちゃん説明してよ ! 』『ぷぷ ! 』「セ、セロ……」『あ、あんな狼狽してるリラ初めて見る ! 完全に乙女の顔だよ !? 』「俺はお前の歌が好きなんだ」『ぎ、ぎゃああ…… ! 』「セロ ! ま、待って ! その、嬉しいんだけど、ビックリするから変な言い回しやめてよ ! 」『つまり、嫌じゃない……と。確かに、レイもエルとも違う静かなタイプの人だよね……リラって男っぽいってより、仲間内に好みの男性がいなかっただけで、本当はあんな感じなの !? 』「別に変じゃない。言わなきゃ、お前はモヤモヤ考えて、それが(歌の詩にでる)……」『うーん。ところどころ聞こえない』「いつもベストな状態で(歌って欲しいし、それが出来ないなら)俺が不安材料を取り除く 。 後悔させない」『い、一途 !! 』「セロ……ありがとう」『うわぁ、顔真っ赤 !! やっばぁ〜。 面白いことになったけど、レイに会ったらややこしくなりそ。先にカイと話そうかな』