تسجيل الدخول死ぬか、生き延びるか。命の沙汰は金次第だ。 長谷川 政秀(はせがわ せいしゅう)は拝み屋を生業にしている。 命の沙汰は金次第。 金させえ積めばどんなヤバい霊も片付けてくれると、一部の界隈では有名な話だ。 そのため、後ろ暗い話ほど彼のもとへやってくる。 今日もまた、彼の元に舞い込んできたのは、そんな厄介な案件で――。 ●第1話 山の上の廃校舎 美都子と英一姉弟と友人の加奈子は、山の上にある廃校を目指していた。 この廃校は彼らの曾祖母が通っていた学校で、もう何十年も人が訪れたことのない場所だった。 不安で何度も帰りたがる弟をなだめつつ、道を進む美都子。 やがて彼らは山の上の廃校舎へとたどり着くが……。
عرض المزيد美都子が案内した場所は、廃校舎の裏庭だった。 廃校舎の影に入っていて薄暗いそこはゴミ捨て場で、頑丈な鉄製の焼却炉が隅に置いてある。ゴミを上から放り込み、焼けたあと、下の口から灰を火かき棒でかき出すという古い型の物だ。赤サビが全体を覆うほど浮いて、煙突部分のアルミが途中でへし折れてしまっているが、交換してサビを落とせばまだ十分使えそうに見えた。「あれか」「……う、ん……」 なんとも歯切れの悪い声だ。「外から校舎を撮ってるときに気付いたんだけど、そのときもなんか、嫌だなーって感じてて。雰囲気? なんか、そういうの。 それから英一を捜してるときにここへ来たら、それがもっと強くなってたの。今も、これ以上近づきたくない。でも、もしかしたら……」「あそこに弟がいるかもしれないと思うのか?」 その問いに、美都子はびくっと、目に見えて分かるほど大きく両肩を震わせた。「分かんない」 無意識といった様子で背中を丸め、両方の二の腕をさすり始める。「そうじゃないって、確認してほしくて……」 じっと焼却炉を見つめ続ける美都子を見下ろして、政秀は「分かった」と焼却炉へ歩み寄った。 何の変哲もない、ただの焼却炉だ。(だが、確かに) 見るからに重そうな赤い鉄のドアの取っ手に両手をかけ、一気に引き開く。中を覗き込み、ついで下の、たまった灰をかき出すための小窓を開く。傍らに落ちていた火かき棒を使って政秀は中の灰をかき出して、灰の山が平たくなるまで広げた。 やがて、灰の中からひとつまみ、何かを取り出す。「……何? それ、まさか……?」「いや。子どもの骨じゃない」 指でもてあそんでいた、親指の先ほどの白い何かを尻ポケットにしまって、政秀はもう一度炉の中を覗き込んで中を確認してから赤いドアを閉じた。 美都子の元へ戻ると、彼女は見るからに安堵した
川原 マサオは、それまでの3人とは少し違った消え方をした。 迎えを待って他の子どもたちと校庭で遊んでいて、気が付いたらいなくなっていたのだ。 他の子どもたちはサッカーボールの奪い合いに夢中で足元ばかり見ていて、ゴールを守っていたマサオを視界に入れている者はおらず、女教師は子どもたちが一緒に遊んでいるのだからと思い、教員室でその日行ったテストの答案用紙の採点を行っていた。 先の3人と違ってマサオは校内で消えたことから、彼らはまず校内を捜索した。 ここで事態は急展開を迎える。 外で行方不明になったと思われていた3人の少女の遺体が、校内で発見されたのだ。 場所は、階段下の掃除道具入れ(物置)だった。そこの奥の壁の1枚が外れるようになっており、そこから校舎の床下へもぐれるようになっていた。 マサオの捜索中、物置をのぞいた女教師が腐りかけた肉のようなにおいを嗅ぎ取り、最近奥の壁板を外した形跡があることに気付いて不審に思い開けると、懐中電灯の光に浮かび上がったのは、腐乱したミツ、ヨシ江、ヨネの遺体だった。 まるで昼寝をしているかのように横たわったその3人の遺体の首には、大人の指で絞められた痕跡がくっきりと残っていた。 犯人は、その夜現場に戻ってきたところを張り込んでいた警察官によって逮捕された。山の反対側に最近建てられた、篠津西保養院(精神病院)の患者で、村上 浩一という55歳の男だった。『ここはもともと軽い疾患の人を短期入院させるための療養所なんです。その中でも彼はおとなしくて、行儀のいい人でした。言っていることもそんなにおかしくはないし、こちらの言うこともよく聞いて、同じ入院患者の世話をみることもたびたびあって。一見、そういった病気の人とは分からないように見えていました』 保養院で働いていた者たちは彼が逮捕されたと聞いて大変驚き、一様にそう語った。『こんなことをしでかす人には見えなかった』 と。 それは、彼を預かる側であった責任をどうにか回避しようという考えもあったのかもしれかなったが。 マ
「あたしのせいなの……」 階段の一番下の段に腰を下ろし、両膝を抱き込んで、ゆらゆらと体を揺らしながら美都子は話し始めた。「あたしが、面倒がらずにちゃんと英一と一緒にいたら、こんなことにはきっとならなかった……」「そんなことないわ、美っちゃん」 隣に座った加奈子が手を伸ばしてなぐさめようとしたが、美都子はその手を拒否した。「そうなの! あたしは、あの子のこと邪魔だと考えてたの! すぐピーピー泣くし、口を開けば帰ろう帰ろうって、同じことばっかりぐちぐち言うし、歩くのも遅いし。 もううんざりだった! だからあのとき、加奈子に押しつけて、1人になったの! あの子から離れて、1人になりたかったの……」「……うん。気付いてた」 嫌がる美都子を、それでも強引に引き寄せて、その頭を抱き込む。「なかなか戻ってこないんだもの。そんなに大きな場所じゃないのに、美っちゃん、どうしたのかな? って思って、もしかしてそうなのかな、って」 美都子は電池が切れたように加奈子にもたれたまま、すーっと息を吸い込んだ。「ごめん、加奈子……」「ううん。もしそうなら、いいなって思ってた。あのときの美っちゃん、わたしから見てもちょっと怖かったし、すごく気持ちに余裕がなさそそうに見えてたから。ちょっと離れたほうが美っちゃんのためにもなるって思ったの。わたしは英ちゃんといるの、全然なんともなかったし」「でもあたしは……っ、あのあとも、あたしは――……?」 突然脳裏にひらめいた光景に、美都子は心を奪われた。 ほんの一瞬だったが、それは強烈な衝撃でもって美都子の頭を揺さぶった。 暗い夜の山の中、ナタを持った手で前をふさぐ茂みをかき分けながら走っている自分。ぼろぼろ泣いてえづきながら、ガチガチ鳴る歯の奥で、英一と加奈子の名をくり返し呼
そんなはずない、としびれて真っ白になった頭のどこかが必死に言葉をつなげようとする。(そんなはず、ない……だって、今日はもう……聞いたじゃない……、彼が、車に……乗って、やって来た、ときに……) 少しずつ、少しずつ。情景が浮かんできて、言葉が浮かび、のろのろとではあったが頭が回り始める。 それと同時に「美都子!」と名を呼ぶ政秀の鋭い声も聞こえだした。「動け! 美都子! さっさと立て! まだ目が覚めないのか!」 政秀のほおをはたくような声で、はっと正気づいた美都子は、いつの間にか俯いてしまっていたことに気付いて面を上げる。 とたん、強い赤光が目を射た。 水平線に沈んだはずの太陽が、まだ水平線の上にある。 藍色の空は遠ざかり、明と暗の濃い色が複雑に溶け合った、夕方の空が頭上を覆っていた。 時間が逆回転したとでもいうのだろうか? あり得ない。そんなこと、絶対に起こり得ないはずなのに……その起こり得ないことが、今起きていた。「……どういうこと……?」 知らず知らずに言葉が口をついていた。しかし次の瞬間、夕日に照らされた2階の人影たちの、一番奥の端にいる小さな人物の姿が目に入って、美都子は飛び跳ねるように立ち上がるやいなや、廃校舎に向かって全速力で走った。「えいいちぃーーーっっ!!」「美都子、行くな! ――くそッ」 自分の声が全く耳に入っていないと悟るや政秀は加奈子から手を放して美都子を追った。後ろからTシャツをつかんで引き戻し、それ以上行かせまいとする。「放して! 邪魔しないでよ、英一があそこに――」「ばか! よく見ろ!」「見てるって! おじさんこそちゃんと見てよ! あそ
少女のそんな心中など分かるはずもなく。それで、と政秀は強い口調で言う。「ここで起きていた『霊現象』は、全ておまえたちの仕業だったんだな」「……美っちゃん……」 後ろからTシャツの裾を引っぱられて、少女ははっと現実に立ち返った。 見るからに加奈子はおびえていて、できるだけ少女の影に隠れようとしている。無理もない。相手は強面の大人の男だし、意図してかまでは分からないが、威圧的に見下ろしてきている。そして、ここで彼女たちがしたことを責めているのだから。 石を投げ
――どうしよか。作業員さんじゃないみたいよ? ――同じだよ、どうせあの会社の人でしょ。 声の主は背後の資材の山のどこかに隠れているようだ。 政秀は気付いているそぶりをあえてせず、足元のスポーツバッグを持ち上げて肩に担ぎ上げると、廃校舎を眺めているふりを続ける。 ――でも、作業員さんじゃないなら、今度こそ話を聞いてくれるかもしれないわ。 ――同じだよ! きっと作業を再開できるか、見にきたんだって! ――じゃあ、どうするの……? ――前のときと同じ手でいこう! 加奈子は向
車は資材搬入用に敷かれた凹凸の激しい山道を上った先の、開けた場所で停車した。 風に乗って、町のほうから音質の悪い、ガサついた『七つの子』が聞こえてくる。 音楽につられるようにそちらに目を向けた政秀に男が説明した。「子どもたちに帰宅を促す音楽です。毎日5時に町役場が流していて、なんでも70年の歴史があるそうですよ。お昼時には、また別の曲を流しているんだとか。 まだこんなことをしている所があったんですね」 古くさい田舎の伝統だと言わんばかりの、小ばかにした物言いだった。「まあ、今が何時か知るのには便利だ
●2024/08/25 幹線道路を1台の車が走っていた。 山沿いの道はなだらかな上り坂になっている。見晴らしはよく、信号機はほとんどない。対向車もめったにない。要は田舎道だ。 そういった場所であるならついついスピードを出しがちになるものだが、車は法定速度を遵守し、きっちり60キロで走行している。 黒のセダン。とりたてて特筆すべき特徴のない車だ。そしてその車のハンドルを握っているのもこれまたとりたてて述べるほどのものがない男で、それでもあえて挙げるとするならば、一見しただけで高級品と分かるオーダーメイドスーツと、縁なしの眼鏡をかけ