Nightfall-拝み屋政秀-

Nightfall-拝み屋政秀-

last updateآخر تحديث : 2025-11-18
بواسطة:  46(shiro)مستمر
لغة: Japanese
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死ぬか、生き延びるか。命の沙汰は金次第だ。 長谷川 政秀(はせがわ せいしゅう)は拝み屋を生業にしている。 命の沙汰は金次第。 金させえ積めばどんなヤバい霊も片付けてくれると、一部の界隈では有名な話だ。 そのため、後ろ暗い話ほど彼のもとへやってくる。 今日もまた、彼の元に舞い込んできたのは、そんな厄介な案件で――。 ●第1話 山の上の廃校舎  美都子と英一姉弟と友人の加奈子は、山の上にある廃校を目指していた。  この廃校は彼らの曾祖母が通っていた学校で、もう何十年も人が訪れたことのない場所だった。  不安で何度も帰りたがる弟をなだめつつ、道を進む美都子。  やがて彼らは山の上の廃校舎へとたどり着くが……。

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オープニング
「やっぱり行くのはやめて、もう帰ろうよ……」 英一はこの1時間で何度目かになる言葉をまたもや口にした。 あたしは前をふさぐ草をかき分けていた手を止めて振り返り、うんざりした顔を英一へと向ける。「帰らないって、何度言ったら分かるの! まだ目的地にも着いてないのよ!」 怒気をはらんだ言葉か、それとも一見して分かるあたしの機嫌の悪さにか。英一はびくっと身をはねさせて、あわてて下を向く。それきり何も言わなくなった英一に、あたしは再び前進を始めたが、数分とたてずにまたもや英一が「でも……」と納得しきれない様子でぐちぐちとこぼし始めた。「英一! 目的の廃校までたった30分よ? たったの30分でも、その口を閉じていられないの?」「でも……30分前にも、お姉ちゃん、同じこと言ったよ……。それに……ほら。風が、変なふうに吹きだしてるよ。雨が降るかも……」「今日はずっと晴れ! 夜も晴れ! 天気予報は確認済みだから!」 あ、と思ったときにはもう遅い。 ぴしゃりと言葉をたたきつけられた英一は、ついに涙をにじませた。「……だって……」 やめて、泣きだしたりしないで、これ以上は勘弁して――そう思ったときだ。「大丈夫よ、英ちゃん。わたしもいるから」 それまで黙々と一番後ろを歩いていた幼なじみで親友の加奈子が、山に入って以来初めて口を開いた。 英一の横について、うつむいた顔をのぞき込む。「怖いなら、手つないで歩こっか?」 ぎゅっと口を引き結んで目をこすりだした英一の姿を見ていられなくてすぐ背を向けたから、加奈子の提案を英一が受け入れたかどうかは分からない。でもきっと、手をつないでいるに決まってる。 あたしは自他ともに認める癇癪持ち。一言多いってよく言われるし、言葉がきついから、決してわざとじゃないけど弟の英一を泣かせてしまうのもしょっちゅうだ。 英一は優しい加奈子が大好きで「かなちゃんが本当のお姉ちゃんだったらいいのに」とこれまでに何度も口にしたことがあるくらいだから、加奈子と手をつなげるのはうれしいだろう。それか、恥ずかしがって断るか。どっちにしても、とにかく英一の泣き言は以後ぴたっと止まった。やれやれだ。 泣かせそうになってしまった後ろ暗い気持ちと相まって、あたしは胸の中で加奈子に感謝して、再び歩き出した。 正直なところを言うと、実はあたしもすでに何
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第1回
●2024/08/25 幹線道路を1台の車が走っていた。 山沿いの道はなだらかな上り坂になっている。見晴らしはよく、信号機はほとんどない。対向車もめったにない。要は田舎道だ。 そういった場所であるならついついスピードを出しがちになるものだが、車は法定速度を遵守し、きっちり60キロで走行している。 黒のセダン。とりたてて特筆すべき特徴のない車だ。そしてその車のハンドルを握っているのもこれまたとりたてて述べるほどのものがない男で、それでもあえて挙げるとするならば、一見しただけで高級品と分かるオーダーメイドスーツと、縁なしの眼鏡をかけていることだろうか。それと、額に一房だけかかった前髪。しかしこれも本人が気付いていないだけで、気付けばすぐ後ろになでつけられるのだろう。男についての印象を聞かれたなら、品のいい、家庭訪問のセールスマンではないかと、10人が10人そう答えるに違いない。 徹底している。 助手席に座った政秀は、そう結論づけると、ふらりと外の景色に目を戻した。運転席側は山腹を土砂対策のコンクリートブロックが覆った味も素っ気もないものだが、左は打って変わった絶景だ。 この道路も山肌を切り開いて造られており、ガードレールを挟んだ向こうは崖で、その先は密集した甍と庭木が広がっている。そしてその甍の波を越えた先には海が広がっていた。 現在時刻は午後4時半。日の入りまで残すところあと1時間といったところか。黄色がかった朱赤のたそがれ色の空と落ちかけた夕日に染まった海。沖の水面では白波がまぶしく輝いている。全開した窓から入る風からは、かすかに潮の香がしていた。 美しいが、それだけだ。 5分で見飽きる景色だが、助手席に座っているだけでは、他に見るものもなかった。 互いに無言のまま、数分が経過したころ。赤信号で停車させた男が、ぽつりつぶやいた。「読まれないのですか」 男が言っているのは、政秀が膝に置いたままの封筒についてだろう。『向こうに着くまで2時間はかかります。その間に車内で目を通されるといいでしょう』 迎えに来た車
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第2回
 車は資材搬入用に敷かれた凹凸の激しい山道を上った先の、開けた場所で停車した。 風に乗って、町のほうから音質の悪い、ガサついた『七つの子』が聞こえてくる。 音楽につられるようにそちらに目を向けた政秀に男が説明した。「子どもたちに帰宅を促す音楽です。毎日5時に町役場が流していて、なんでも70年の歴史があるそうですよ。お昼時には、また別の曲を流しているんだとか。 まだこんなことをしている所があったんですね」 古くさい田舎の伝統だと言わんばかりの、小ばかにした物言いだった。「まあ、今が何時か知るのには便利だと思いますが。 さて、降りましょうか。廃校舎はここから少し上がった所になります」 シートベルトを外して運転席から出ようとする男を政秀が制止する。「降りなくていい」「案内が必要でしょう」「不要だ。2時間もあればすむ。2時間後に迎えに来てくれ」「しかし――」とっさに反論を口にしかけ、男は思い直したように作り笑顔で言い直した。「分かりました。では、ここでお待ちしていますよ」 道が開通後ならまだしも、こんな田舎で夜2時間も時間をつぶせる場所などあるわけがない。また、外灯のない夜の山道を往復するよりもここで待って、戻ってきた政秀を乗せて帰るほうがいくらか時間を節約できるし、政秀にとってもここで車が来るのを待たなくていいのだから得になる話だと考えての提案だったが。 男に通じてないと知った政秀は小さくため息をつき、「ここに1人でいないほうがいい」と付け加えた。「70年たっているんだろう? 十分ここもやつのテリトリーだ」 その声、口調。男を怖がらせるためにそう言っているわけでないのは明らかだった。 背筋に冷たい震えが走った直後、はっと正気付く。一瞬でも怖じけたことをごまかすように、男は上着のポケットを探った。「では、これをお持ちください」政秀に向けて放った、それはスマホだった。「私のスマホの番号が入っています。それで連絡をいただければ、すぐ――」「いらん」 即座に投げ返されてきたそれを男はとっさに
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第3回
 ――どうしよか。作業員さんじゃないみたいよ? ――同じだよ、どうせあの会社の人でしょ。 声の主は背後の資材の山のどこかに隠れているようだ。 政秀は気付いているそぶりをあえてせず、足元のスポーツバッグを持ち上げて肩に担ぎ上げると、廃校舎を眺めているふりを続ける。 ――でも、作業員さんじゃないなら、今度こそ話を聞いてくれるかもしれないわ。 ――同じだよ! きっと作業を再開できるか、見にきたんだって! ――じゃあ、どうするの……? ――前のときと同じ手でいこう! 加奈子は向こうで準備して。あたしがおびき寄せるから。 ――……ん。分かった。気をつけてね、美っちゃん。 声の主は2人いて、どちらも少女のようだと見当をつけたとき。資材の影から1人が出てきた気配がした。 ひょいと体を横に移すと同時に後ろから飛んできた小石が頭の横を通り過ぎ、前の斜面に当たって転がる。動かずにいたら、ちょうど頭に当たっていたに違いない。「危ないな」 振り返り、そこにいる少女に面と向かって言う。 TシャツにGパン姿で、日に焼けた健康そうな肌、鼻柱にはうっすらソバカスが散っている。頭の形がきれいに浮き出たショートカットの、見るからに活発そうな女の子だ。 背格好で、中学生くらいか、と政秀は見当をつけた。 一方、少女は石がまとを外れたことに驚いた様子で、石を投げた直後のポーズのままでしばらく固まっていたが、政秀が最初から彼女の存在に気付いていたのだと気付いた瞬間、ぱっときびすを返して逃げようとする。しかしそうすると読んで準備のできていた政秀のほうが素早く動けた。「やっ……、放して!」 腕をつかみ止められ、少女は振りほどこうともがいたが、政秀は少女よりずっと大きく、びくともしない。「放せったら! このばかっ! デクノボー!」 悪口とともにぶんぶん振り回されるもう片方のこぶしをつかんで殴られないようにしたら、今度は蹴りが飛んできた。 とんだじゃじゃ
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第4回
 少女のそんな心中など分かるはずもなく。それで、と政秀は強い口調で言う。「ここで起きていた『霊現象』は、全ておまえたちの仕業だったんだな」「……美っちゃん……」 後ろからTシャツの裾を引っぱられて、少女ははっと現実に立ち返った。 見るからに加奈子はおびえていて、できるだけ少女の影に隠れようとしている。無理もない。相手は強面の大人の男だし、意図してかまでは分からないが、威圧的に見下ろしてきている。そして、ここで彼女たちがしたことを責めているのだから。 石を投げたり、解体に必要な道具を隠したり、資材を崩したり。まさかあれで本当にけがをする人が出るなんて、思わなかったけれど……。 少女はぐっとこぶしを固めて反論した。「だって、しかたないでしょ! だれもあたしたちの話をまともに聞いてくれないんだから! あそこには英一がいるのに!!」「英一?」「あたしの弟! 一緒に来て、あそこで行方不明になったの!」 政秀はふむとあごに手を添える。「男児が不明になった、とは聞いているが」「そう! それがあたしの弟なの!」 少女は勢い込んだ。「英一はまだあそこにいるのよ! なのにあの人たち、あそこを壊そうとするんだもの。あそこには英一がいるんだからやめてって、何度も言ったのに、聞いてくれなくて……。 きっと、あたしたちが子どもだからよ。大人だったら言うことを聞いてくれたはずだわ! お願い、おじさんからあの人たちに言って、ここを壊させないで!」 話しているうちにこれまでのことが思いだされてきたらしい。興奮して前のめりになって声高にまくし立てだした少女に、政秀は片耳をふさぐ。 「うるさい、声を落とせ!」と言いかけた政秀の目に入ったのは、少女の目ににじんだ涙だった。 ふうと息を吐き、舌打つ。「なるほど。おまえ側の意図は分かった。だが、たとえそうだとしても、さっきのようなやり方は危険すぎ
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第5回
「こっちです」 言葉で説明するより見てもらったほうが早い。加奈子は案内するように先に立って歩き出し、政秀は黙って後ろに従った。 ドアのない正面玄関を入ると、がらんとした空間がある。床の変色具合からしておそらく靴箱があったのだろうが、今はなかった。作業員によって運び出され、解体されたに違いない。ほとんどが作業員のものだと推察できる、大人の靴跡だらけの木でできた長い廊下が正面にあり、右側に横並びで3部屋あった。一番奥の突き当たりにあるのが階段だろう。 外から眺めた時点で分かっていたが、この2階建て校舎は部屋数が少ない。建てられた当時18人しか生徒はいなかったのだから、それを鑑みればむしろこれでも多いほうなのだろう。引き戸の上に室名札、廊下の壁に掲示板と、内装は学校だが構造的には民宿に近い。 1階にあるのは教員室、食堂、文芸・工作室。それらの前を通って廊下を進む。大きな窓からそれぞれの室内が覗けた。窓は格子状のすりガラスが嵌まっていたが、どれも経年で変色し、割れるか、ひびが入っている。中の様子は外観から想像していたとおり、廃墟のそれだった。 漂う空気はほこり臭く、かすかにカビ臭い。木製の壁、天井、全てが風雨に浸食されて黒ずみ、割れた窓から入った土とそこから生えた雑草だらけの床に、剥がれた天井板の一部が垂れ下がっている。 机、椅子、棚などといった物がなく、がらんどうの部屋の中央に砕けた一部の木片があるだけなのはいささか不自然に見えたが、おそらくそういった大物はすでに作業員が運び出したあとなのだろう。 廊下も同じで、政秀が足を乗せ、体重をかけるたびにぎしぎしときしみ音をたてる。老朽化がかなり進んでいて、場所によっては真っ黒に腐ってへこんでおり、踏み抜きそうなほど沈み込む所もあった。「こっちだってば! 早く早く!」 政秀と違って何度もここへ入っている美都子には、廃校舎内のそういった一切はもう関心の埒外なのだろう。周囲に目を配りながらゆっくり歩く政秀には付き合えないというように横をすり抜けて前へ出、軽やかな足取りで後ろを振り返って彼を急かしてくる。「おじさんはやっぱり、歩きが遅いなー」「おじさん
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第6回
 話に出た平屋へ向かうため、政秀は外へ出た。 時刻は午後6時。真夏の強い落日が水平線近くの空をえんじ色に燃え上がらせている。対比して、頭上の空は藍色の濃さを増し、星のまたたきが強まっていた。 太陽は、これから沈む一方だ。そろそろ懐中電灯が必要な暗さかと政秀は思ったが、まだ大丈夫だろうと思い直し、校庭の端に設置されている、件の平屋へ向かって歩き出す。「行ったって、英一はいないよ? もう何度も見たもん」「俺はまだ見ていない」 美都子を見下ろして「おまえはついて来なくてもいいんだぞ」と言うと、美都子は「もーっ! 意地悪!」と両手を振り上げて怒る動作をした。   平屋の引き戸は開いたままだった。大方美都子が英一を捜しに来たとき、開けっぱなしのままで閉めなかったのだろう。作業員の手が入っている様子はない。 作業員は会社が下の資材置き場に設置した簡易トイレを使うはずだから、ここに来たのは英一、美都子、加奈子の3人だけだ。「ついてるな」「え? 何が? ついてる?」 きょろきょろと自分の体を点検する美都子はほうっておいて、政秀は担いでいたスポーツバッグを地面に下ろし、チャックを引き開けた。中から5枚の紙札と紐付きの小さなベル型の鈴(手鈴)を取り出す。「これ何? 何て書いてあるの?」 ひょいと脇から伸ばされた手につかまれる前に、政秀はそれを美都子の手の届かない高さに持ち上げた。「だめだ、触るんじゃない」「ケチっ。いいじゃん、ちょっとぐらい触らせてくれたって。減るもんじゃなし!」「おまえは破きかねない」「しないよ!」 ぷーっとほおをふくらませる美都子と、またもや彼女をとりなす加奈子。2人の前で、政秀は平屋の前に片膝をつくと、その紙札――符を、平屋の開いたままの戸口に放射状の円形になるように並べて置いた。 おもむろに政秀の指が下を向いて開かれた。するりと紐付きの鈴が指を伝い下りて、チリン、と小さな軽い音を鳴らす。「えー、なになに
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第7回
 そんなはずない、としびれて真っ白になった頭のどこかが必死に言葉をつなげようとする。(そんなはず、ない……だって、今日はもう……聞いたじゃない……、彼が、車に……乗って、やって来た、ときに……) 少しずつ、少しずつ。情景が浮かんできて、言葉が浮かび、のろのろとではあったが頭が回り始める。 それと同時に「美都子!」と名を呼ぶ政秀の鋭い声も聞こえだした。 「動け! 美都子! さっさと立て! まだ目が覚めないのか!」  政秀のほおをはたくような声で、はっと正気づいた美都子は、いつの間にか俯いてしまっていたことに気付いて面を上げる。 とたん、強い赤光が目を射た。 水平線に沈んだはずの太陽が、まだ水平線の上にある。 藍色の空は遠ざかり、明と暗の濃い色が複雑に溶け合った、夕方の空が頭上を覆っていた。 時間が逆回転したとでもいうのだろうか? あり得ない。そんなこと、絶対に起こり得ないはずなのに……その起こり得ないことが、今起きていた。「……どういうこと……?」 知らず知らずに言葉が口をついていた。しかし次の瞬間、夕日に照らされた2階の人影たちの、一番奥の端にいる小さな人物の姿が目に入って、美都子は飛び跳ねるように立ち上がるやいなや、廃校舎に向かって全速力で走った。 「えいいちぃーーーっっ!!」 「美都子、行くな! ――くそッ」 自分の声が全く耳に入っていないと悟るや政秀は加奈子から手を放して美都子を追った。後ろからTシャツをつかんで引き戻し、それ以上行かせまいとする。「放して! 邪魔しないでよ、英一があそこに――」「ばか! よく見ろ!」「見てるって! おじさんこそちゃんと見てよ! あそ
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第8回
「あたしのせいなの……」 階段の一番下の段に腰を下ろし、両膝を抱き込んで、ゆらゆらと体を揺らしながら美都子は話し始めた。「あたしが、面倒がらずにちゃんと英一と一緒にいたら、こんなことにはきっとならなかった……」「そんなことないわ、美っちゃん」 隣に座った加奈子が手を伸ばしてなぐさめようとしたが、美都子はその手を拒否した。「そうなの! あたしは、あの子のこと邪魔だと考えてたの! すぐピーピー泣くし、口を開けば帰ろう帰ろうって、同じことばっかりぐちぐち言うし、歩くのも遅いし。 もううんざりだった! だからあのとき、加奈子に押しつけて、1人になったの! あの子から離れて、1人になりたかったの……」「……うん。気付いてた」 嫌がる美都子を、それでも強引に引き寄せて、その頭を抱き込む。「なかなか戻ってこないんだもの。そんなに大きな場所じゃないのに、美っちゃん、どうしたのかな? って思って、もしかしてそうなのかな、って」 美都子は電池が切れたように加奈子にもたれたまま、すーっと息を吸い込んだ。「ごめん、加奈子……」「ううん。もしそうなら、いいなって思ってた。あのときの美っちゃん、わたしから見てもちょっと怖かったし、すごく気持ちに余裕がなさそそうに見えてたから。ちょっと離れたほうが美っちゃんのためにもなるって思ったの。わたしは英ちゃんといるの、全然なんともなかったし」「でもあたしは……っ、あのあとも、あたしは――……?」 突然脳裏にひらめいた光景に、美都子は心を奪われた。 ほんの一瞬だったが、それは強烈な衝撃でもって美都子の頭を揺さぶった。  暗い夜の山の中、ナタを持った手で前をふさぐ茂みをかき分けながら走っている自分。ぼろぼろ泣いてえづきながら、ガチガチ鳴る歯の奥で、英一と加奈子の名をくり返し呼
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第9回
 川原 マサオは、それまでの3人とは少し違った消え方をした。 迎えを待って他の子どもたちと校庭で遊んでいて、気が付いたらいなくなっていたのだ。 他の子どもたちはサッカーボールの奪い合いに夢中で足元ばかり見ていて、ゴールを守っていたマサオを視界に入れている者はおらず、女教師は子どもたちが一緒に遊んでいるのだからと思い、教員室でその日行ったテストの答案用紙の採点を行っていた。 先の3人と違ってマサオは校内で消えたことから、彼らはまず校内を捜索した。 ここで事態は急展開を迎える。 外で行方不明になったと思われていた3人の少女の遺体が、校内で発見されたのだ。 場所は、階段下の掃除道具入れ(物置)だった。そこの奥の壁の1枚が外れるようになっており、そこから校舎の床下へもぐれるようになっていた。 マサオの捜索中、物置をのぞいた女教師が腐りかけた肉のようなにおいを嗅ぎ取り、最近奥の壁板を外した形跡があることに気付いて不審に思い開けると、懐中電灯の光に浮かび上がったのは、腐乱したミツ、ヨシ江、ヨネの遺体だった。 まるで昼寝をしているかのように横たわったその3人の遺体の首には、大人の指で絞められた痕跡がくっきりと残っていた。 犯人は、その夜現場に戻ってきたところを張り込んでいた警察官によって逮捕された。山の反対側に最近建てられた、篠津西保養院(精神病院)の患者で、村上 浩一という55歳の男だった。『ここはもともと軽い疾患の人を短期入院させるための療養所なんです。その中でも彼はおとなしくて、行儀のいい人でした。言っていることもそんなにおかしくはないし、こちらの言うこともよく聞いて、同じ入院患者の世話をみることもたびたびあって。一見、そういった病気の人とは分からないように見えていました』 保養院で働いていた者たちは彼が逮捕されたと聞いて大変驚き、一様にそう語った。 『こんなことをしでかす人には見えなかった』  と。 それは、彼を預かる側であった責任をどうにか回避しようという考えもあったのかもしれかなったが。 マ
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