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27.美果 スタート

last update Last Updated: 2025-05-27 17:00:00

 冷たい扉がガシャリと閉まる。

 美果は一度深呼吸をし部屋を観察すると、梅乃と同じくカメラスタンドを手にした。

 構造の理解力が早いのか、手早く分解していく。

「この女性は確か……涼川  蛍と同期で参加した者でしたな」

「芸大生よね ? 」

 これに観覧者達は期待にざわめいた。

 美果はまずカメラの一番長い支柱を選び、早苗を床に転がしてスカートを捲りあげる。下着を脱がせ、自分の身に付けていたシャツを裂き脚を開いて固定する。

 次に、分解したスタンドのバリを見つけると、それを使いマットレスの布を綺麗に剥いで行く。

 一枚の白い布。

 これを器用に折りたたみ穴を開け、外したカメラのコードで縫うように成型し、何とか白衣を作り出す。襟まである精密なものでは無いが、小学生の給食着のような簡素なスタイル程度にまで寄せていった。ブラジャーのストラップを外し左右繋げ、ウエストにベルトとして巻き付けることで縫い目になった布部分を重ねて隠す。スレンダーな体型が幸いしたようで、布は足りた。

 更に余り素材の中から細い支柱二本を見つけると、それを交差させる。マットレスの針金で中心部を捻り、ハサミのような物を作り出す。

 スパイラルパーマのかかった髪を綺麗に纏め直し、残りの素材を折り畳んだマットレスの上に神経質なほど真っ直ぐ並べて行く。

 やがて早苗が目を覚ました──美果の「研究員だ」と言う嘘を信じてしまった。

 常連の観覧者は皆分かっていた。

 パニックになった者はすぐに目の前にあるものを信じてしまう。そして会話の出来る存在だと分かると、必ず生き残る手段を交渉してくるのだ。

 □

「う……ん……。あなた…… ? 

    !!? な、何これ ! ここは…… ? どこなの !? 」

 目を覚ました水沢  早苗は予想通り取り乱し、命乞い混じりに泣き喚いた。

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     更に騙され借金が二千万。 住宅と新車のローンも残っている。 それを身重の自分をこんな得体の知れない場所に、金と引き換えに売られたなど考えたくもない。「……信じられない ! 信じないわ ! 何かあるでしょ !? 誓約書とか、承諾書とか !! 」「事務所にはあると思います。 ですが、すみません。作業しないとわたしもここから出れないんですよ」 美果の策。 共鳴。同調。誘惑。「実は……その……。わたしも開業に失敗した医者で……。五十代まではここでタダ働き同然なんです」「はぁ !? 」 なんとも仕方なさそうに、力無く笑って見せる美果。「あ、あなたも閉じ込められてるって事 ? 失礼だけど……わたしより若いわよね ? 」 早苗はその言葉ですぐに落ち着きを取り戻し、耳を傾けようと反応を示してきた。美果も演技を続ける。「父が開業医でしたので、そのまま研修して自分の病院を隣接しようかと……でも、甘い考えでした。いざやってみると、資金繰りが厳しくて。 ここは健全な製薬会社の研究所とかじゃないです……。闇バイトみたいなもので、所謂無認可の施設です。 わたしも最初は捕まっちゃって……。医者だから命があるようなものなんです」「具体的に何を研究する施設なの ? 」「初めは風邪薬とか伝染病の特効薬とかって言われてたんです。でも、最近は体の構造を把握して、肉体改造する錠剤型機械の治験ですよ」「機械 !? 何それ ? 」 怪しげだと言わんばかりに顔を歪める早苗に、美果は頷いて微笑んで見せる。「そう、凄いんですよ ? 身体にメスを入れずに、小さな機械が治療してくれる優れものらしいです

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     冷たい扉がガシャリと閉まる。 美果は一度深呼吸をし部屋を観察すると、梅乃と同じくカメラスタンドを手にした。 構造の理解力が早いのか、手早く分解していく。「この女性は確か……涼川 蛍と同期で参加した者でしたな」「芸大生よね ? 」 これに観覧者達は期待にざわめいた。 美果はまずカメラの一番長い支柱を選び、早苗を床に転がしてスカートを捲りあげる。下着を脱がせ、自分の身に付けていたシャツを裂き脚を開いて固定する。 次に、分解したスタンドのバリを見つけると、それを使いマットレスの布を綺麗に剥いで行く。 一枚の白い布。 これを器用に折りたたみ穴を開け、外したカメラのコードで縫うように成型し、何とか白衣を作り出す。襟まである精密なものでは無いが、小学生の給食着のような簡素なスタイル程度にまで寄せていった。ブラジャーのストラップを外し左右繋げ、ウエストにベルトとして巻き付けることで縫い目になった布部分を重ねて隠す。スレンダーな体型が幸いしたようで、布は足りた。 更に余り素材の中から細い支柱二本を見つけると、それを交差させる。マットレスの針金で中心部を捻り、ハサミのような物を作り出す。 スパイラルパーマのかかった髪を綺麗に纏め直し、残りの素材を折り畳んだマットレスの上に神経質なほど真っ直ぐ並べて行く。 やがて早苗が目を覚ました──美果の「研究員だ」と言う嘘を信じてしまった。 常連の観覧者は皆分かっていた。 パニックになった者はすぐに目の前にあるものを信じてしまう。そして会話の出来る存在だと分かると、必ず生き残る手段を交渉してくるのだ。 □「う……ん……。あなた…… ? !!? な、何これ ! ここは…… ? どこなの !? 」 目を覚ました水沢 早苗は予想通り取り乱し、命乞い混じりに泣き喚いた。

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     予定通りの観覧者とルキの挨拶。『今宵、新女王誕生となるのか ! 挑戦者 山本 美果の登場です !! 』 ルキの紹介と共に、美果の観ていた目の前のモニターがOFFになる。 進行は蛍の際と寸分違わぬ体制で行われた。 ここからは観覧者達がスクリーンを見上げる時間だ。 美果は蛍と同じ条件コンテナの並んだ船室まで案内されていた。 ただ一つの違いは、スミスが美果に公開したホワイトボードの獲物。その中に、大きな赤で『‪✕‬』が付いている者が一人。 美果はスミスから蛍と同じ説明を受ける。「この中から一人……選べるのね ? 質問してもいい ? 」「お答え出来る範囲であれば問題ありません」「ケイくんは誰か……別の子と対戦してたけど、続行不可能で負けたのよね ? 」「はい。山本 美果さんの勝利条件は、現地点で勝利している山王寺 梅乃の42分32秒を下回る事です。 涼川 蛍は獲物を逆上させ、気絶するまで殴られてしまったのでタイムはカウントされません」「42分……。それより早く『死ぬ』って言わせるのか……。 この、‪✕‬が付いてるのはケイくんの獲物 ? その梅乃さんの獲物なの ? 」「この‪✕‬は涼川 蛍の獲物です。江川 春樹と言う獲物は賞金を手にした後、帰宅途中のタクシー運転手に情報を漏らしましたのでルール違反となりました。 山王寺 梅乃の獲物はこちらです。ご覧になりますか ? 」「いいの ? 」 スミスがファイルから、山王寺グループの闇金で首の回らなくなった福田のプロフィールを美果に差し出す。「山王寺さんは昏睡状態からのスタートでしたので、獲物をご自身で選べないのを考慮し、悪い意味での顔見知りを御用意させて頂きました」「そうなんだ……」 美果は福田のプロフィールを流し見ると、再び

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