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28.堕天

last update Dernière mise à jour: 2025-05-28 17:00:00

 更に騙され借金が二千万。

 住宅と新車のローンも残っている。

 それを身重の自分をこんな得体の知れない場所に、金と引き換えに売られたなど考えたくもない。

「……信じられない ! 信じないわ ! 

 何かあるでしょ !? 誓約書とか、承諾書とか !! 」

「事務所にはあると思います。

 ですが、すみません。作業しないとわたしもここから出れないんですよ」

 美果の策。

 共鳴。同調。誘惑。

「実は……その……。わたしも開業に失敗した医者で……。五十代まではここでタダ働き同然なんです」

「はぁ !? 」

 なんとも仕方なさそうに、力無く笑って見せる美果。

「あ、あなたも閉じ込められてるって事 ? 失礼だけど……わたしより若いわよね ? 」

 早苗はその言葉ですぐに落ち着きを取り戻し、耳を傾けようと反応を示してきた。美果も演技を続ける。

「父が開業医でしたので、そのまま研修して自分の病院を隣接しようかと……でも、甘い考えでした。いざやってみると、資金繰りが厳しくて。

 ここは健全な製薬会社の研究所とかじゃないです……。闇バイトみたいなもので、所謂無認可の施設です。

 わたしも最初は捕まっちゃって……。医者だから命があるようなものなんです」

「具体的に何を研究する施設なの ? 」

「初めは風邪薬とか伝染病の特効薬とかって言われてたんです。でも、最近は体の構造を把握して、肉体改造する錠剤型機械の治験ですよ」

「機械 !? 何それ ? 」

    怪しげだと言わんばかりに顔を歪める早苗に、美果は頷いて微笑んで見せる。

「そう、凄いんですよ ? 

    身体にメスを入れずに、小さな機械が治療してくれる優れものらしいです
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  • PSYCHO-w   43.乳母

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