LOGIN――モンスターの種類。 独断と偏見で名付けたモンスターを、動画に乗せて紹介する。 ・『ゴブリン』 『ホブゴブリン』 東条を死まで追い詰めた『ゴブリンキング』 ・群れを成して狩りをする『グレイウルフ』 そのボス『ダイアウルフ』 ・恐らく嘗ての東条の仲間達が戦った、たまに空を飛んでいる黒鳥『ヒュッケバイン』 ・東条がまだ彼等と過ごしていた頃から、屋上によく飛来してきた小型の鳥。ノエルの授業にも使われた『チーヴァ』 ・同じくよく飛来してきた、カナブンもどき。ノエルの授業にも使われた『ムグラ』 ・『オーク』 『ハイオーク』 ・大型のムカデ『グランピード』 ・黒色の大型猫モンスター『クァール』 ・領空を犯した外敵全てを数の暴力で殲滅する、四枚羽の鳥『ユパ』 ・そこら中に生え、木、草、蔓、花、様々な形を持つ植物型モンスター『トレント』 ・と一緒によく見る、近くを通った者を捕食する植物。ノエルの授業にも使われた『カーニバル』 ・風呂好きのキュートな中型生物『湯煙ラッコ』 ・東条が女子大にて蹴り殺した大型爬虫類『グアナ』 ・牛頭の魔人『ミノタウロス』 ・サイ頭の魔人『ミノライノス』 ・カバ頭の魔人『ミノポポタマス』 ・二頭の犬『オルトロス』 ・尾に毒蛇を持つ化け雄鶏『コカトリス』 ・単眼の巨人『キュクロプス』 ・そして、絶対的な魔力を纏いながらも、害意を持たず、雨や薄霧と共に移動する超自然的生物『ベヒモス』 ベヒモスの姿を見た藜組の面々は、二人の予想通り目を見開いて固まっている。 画面越しでも分かるその威容は、凡そ人類に勝ち目などない事をまざまざと突き付ける。「……おいおいおい、なんだよこりゃぁ。よく生きて帰ってこれたな」 藜が一息つきソファに凭れる。「敵意がなかった。だからノエル達も気付かなかった。雨が降ってる場所は彼女がいると思っていい」 事実、ノエルの推測は間違っていない。 世界が変わったあの日から、山手線エリアの広範囲は何故か天気に恵まれる。 それは偏に、雨雲が常に一か所に集められているからだ。 雨雲にベヒモスがついていっているのではない。ベヒモスのいるところに雨が降るのだ。 高所から見れば確認できる。移動する暗雲の存在を。「もし遭遇したらどうする?」「楽しかった記憶でも愛でるといい」「はは
東条は思う。こいつの正体は蛇ではなくハムスターだったか、と。 意地汚さ極まる言語崩壊だが、この場所に彼女の言葉のニュアンスを聞き取れない者はいなかった。 特に藜は濁った眼を見開き、再び活力を取り戻し急いでソファに座った。「それは本当か?嬢ちゃん」「んぐ。……嬢ちゃんじゃない。ノエル」「これはすまない、ノエル。で、それは本当か?」 詰め寄る藜を気にした風もなく、余裕綽々と茶を啜る彼女。 自分だけが今最も必要とされている情報を持っていることに、優越感的何かを感じている。 東条は思う。ガキかこいつは、と。いや、ガキだったか、と。「本当」 藜の口が嬉しさに歪む。喜んでいるのだろうが、傍から見ると正直怖い。 それを横目に、東条は呆れたようにノエルを睨んだ。「何でさっき言わなかったんだよ」「お菓子おいしかった」 藜に続き、今度は彼が頭を抱える番であった。 その欲望に忠実すぎる理由に、三人の目が点になる。「ハハハハハッ、おいっ、ノエル嬢にもっと菓子を運んでやれ!」 爆笑する老爺が給仕を呼びつけ、茶菓子の追加を要求する。「いいの?」「あぁ遠慮するな。たんと食え」 ノエルの目が輝く。「おじいちゃん良いじいちゃん」「……おぉ、何か今キュンときたぞ。これが孫というものなのか?のぅボス!」「知らないよ」 真のおじいちゃんに目覚めた老爺が、興奮にはしゃぎだす。 一瞬で空気を弛緩させたノエルを、東条は素直に凄いと思った。……狙ってやったかは別として。 新しく運ばれた菓子を前に、ようやく本格的な商談が始まる。「じゃあ早速聞かせてくれ」 どら焼きを両手に、ノエルが目を細めた。「猿の前に金の話。ノエルの持つ情報がそっちの納得いくものじゃなくても、ノエルは知らない。後からぐちぐち言われるのは嫌い」「ほぅ……」 三人が少しだけ驚いた顔をする。 目の前の少女が、只の食いしん坊ではない事を理解した。「いいね。いくらがお望みだ?」「一億」 芋ようかんを立てて一を表す。「いいだろう。交渉成立だ」 どんな情報かも分からないのに、一億は多すぎだろう。 そんな東条の懸念とは裏腹に、藜は二つ返事でその額に応じた。「支払方法はどうすればいい?聞けば口座がないようだけど、こちらで作ろうか?」 至れり尽くせりの内容に、東条は混乱する。
(……こいつは、ヤバい) 今でこそ先までの圧は感じないが、それでも東条の本能は警鐘を鳴らし続けている。 今すぐ逃げろ、と。 でなければ、全力で殺せ、と。 ジワリ、と冷汗が頬を伝った。 通常魔力を知覚できる者は、モンスターも人間も区別なく、魔力量の差で力量を計り、本能的に襲撃か逃走かを決める。 それが最も効率的であり、合理的であるからだ。 では何故東条や快人が、自分より魔力量の多い敵を前に立っていられるのか。 その理由がcell、合理の外にある力を有しているからだ。 自らの力を自覚し、引き出し、覚醒した彼等は、他の生物とは言葉通り『格』が違う。 人間が蟻に怯えない様に、鷹が鼠に怯えない様に、彼等は有象無象に怯えない。 ただし力が隔絶しすぎていた場合、その限りではない。 恐怖が『格』を貫き、心を蝕む。 ジャイアントキリングは何時いかなる時も起こり得る。 話を戻すと、魔法だけを扱えるモノが魔力量という目しか持たないのに比べ、彼等は魔力量に固執することなく、格という目で力量を計ることができる。 敵がcellに覚醒しているかまでは当然分からないが、覚醒者はより詳細に敵の力を見極められるということだ。 そして藜を前にした東条の本能は、この男を自分と同格か、それに匹敵すると訴えている。 奴の危険度は、本気のノエルよりも、上だ。 東条は警戒を表に出さない様に、ノエルを連れ対面のソファに座った。 紅と同じく真赤なポケットチーフをつけているのが残り二人。 目の前の男をボスとして、この三人が最高権力者なのだろう。「いやぁ申し訳ない。あまりにも凄い人が来たもんで、咄嗟に威嚇してしまった」「本当ですよ。一瞬で帰りたくなりました」 声に不自然はないだろうか? 平静は装えているだろうか? 自分の顔が隠れている事に、過去一番の感謝をした。 言葉的に見るなら、相手もそれなりにビビってくれているようだが。「はははは、まぁそう言わずに。商談といこうじゃないの」 タイミングよく、組員の女性がお茶と高そうな茶菓子を運んできた。 机に置かれると同時に、バリむしゃとノエルの口に吸い込まれていく。先の緊張感はもう忘れたらしい。 そこで、声のトーンを変え藜が此方を見る。「単刀直入に聞きたいんだけど、君達、猿に似たモンスターの情報を持ってないかい?
「本部って……」 到着した場所を見上げ、東条は一人ごちる。「驚いたか?」「えぇ、まぁ」 彼が驚くのも無理はない。 何せその場所は、日本の防衛施設の要、防衛省に他ならない。今では旧防衛省と言った方が正しいのかもしれないが。「ここからは私が案内する。お前は戻って私の部屋の掃除を続けろ。呼んだら来い」 部下にコートを脱がせる紅が、康に向けて言い放つ。「……はぁ、分かりました」「何だその溜息は」「な、何でもないです!ではっ」 うっかり漏らした溜息のせいでうっかり殺されるのは御免だと、康はハンドルを切り一目散で去って行った。 まざまざと見せられた覆ることのない上下関係に、二人も同情を禁じ得なかった。 ――「お疲れ様です!」「お疲れ様です!」 一歩進む毎に聞こえてくる定型文。 お疲れ様のゲシュタルト崩壊。 東条とノエルは、何度目かの挨拶にうんざりを通り越して関心すら湧いてきていた。 幹部である紅に向けられる挨拶は、入口を潜った直後から途切れずに続いている。 当の彼女はそれに返事すらしないため、自分達がどういうムーブをすれば良いのか全く分からない。 部下達に見送られエレベーターに乗り、ようやく静かな空間が戻ってきた。「もうすぐだ」「はい」 ベルが到着を報せ、そこから目的の部屋までもう少し歩く。 どんな人が待っているのか。 ヤクザのボスなのだから、ムキムキのスキンヘッドなのだろうか。 そんなことを考えていた、 直後、二人の肌を粟立つ感覚が襲った。 ……目の前にあるのは、一つの扉。「ここだ」「「……」」 二人を一瞥した紅は、遠慮なく扉を開け放つ。「ボス、今帰ったよ」「……はぁ、見ればわかるよ。男の子の部屋はノックしましょうって教えたよね?」 もう何度同じことを言ったか。藜が突っ伏し顔を覆った。「別にいいだろう。その年で自慰している訳じゃあるまいに」 悪びれた様子もない紅が澄ました顔で自分の後ろ付いたことで、これ以上言っても無駄か、と藜も諦める。いつものことだ。 そして、彼は未だ部屋に入ろうとしない二人に目を向ける。「どうした?茶と菓子も用意している。早速話し合おう」 濁り切った瞳で、見定める様な笑みをその顔に張り付けるのだった。
真赤なロングコートの背中についていくと、用意された一台の黒塗りのベンツに乗せられる。 運転席に座るのは、そろそろ親しみが湧いてきた康だ。「出せ」 助手席に座る彼女の一声で、車は静かに動き出した。 ――誰も口を開かない車内。 ノエルのキーボードを弾く音が、辛うじて空気を保たせている。 東条はそんな中、流れる景色を目で追い、その不可解さに少しばかりの疑問と興味を抱いていた。 車が走れるという事は、それだけの道幅があるという事。そしてそれが、一直線で本部とやらに繋がっている。 不規則にトレントが生えるこの区域で、これだけ綺麗な直通路はほぼない。 要するにこれは、人工的に造られた道路だ。 たまに小さく跳ねる車の下には、無理矢理圧し潰された様なトレントの残骸が数多く散乱している。 数mある密度の塊が、厚さ一㎝程までに圧縮されているのだ。 強力なcellに覚醒した者がいると見て、先ず間違いない。 それが目の前の紅なのか、康なのか、他の組員なのかはまだ分からないが、願わくば一目見てみたいと気持ちを高ぶらせる東条であった。「紅、煙草臭い。消して」「ハハハ、断わる」 ノエルに(これ以上刺激するのはやめてくれ)と心の中で念じながら。 §「ボス、焔李の嬢ちゃんがそろそろ着くらしいぞ?」 高官の執務室らしい部屋にいる、二人の男。 長く伸びた白髪を後ろで一つに束ねた老爺が、どっかりとソファーに腰かけ、もう一人に語りかける。 老爺の肌には長き時を生きてきた証が深く刻まれているが、弱弱しさなど微塵も感じさせない程の覇気を身に纏っている。 黒スーツに彼の老いが負けるはずもなく、粛然たる様は洗練され、見る者を引き付ける典麗さへと昇華させられている。 傍らに置かれた一振りの刀剣と相まって、その姿は宛ら現代の侍である。「……あぁ」 ボスと呼ばれた男は杖を手に取り、慣れない足取りで窓際まで進んで行く。 年は四十近くか。 きっちりと着こなされたスーツとは逆に、乱雑に掻き上げられた黒髪と、生え散った無精髭が妙なギャップを感じさせる。 捻れた美しさを持つ彼の一歩は、どこか優雅で、儚く、そして恐ろしい。 やる気の無さそうな風体から漏れ出るエロスが、彼のミステリアスさの根源である。「歓迎の準備をしようか」 ジャパニーズマフィア藜組組長
――康を抱えて外周のトレントを飛び越え、少し進むと、目的である発電所が目に入った。 康と同じく黒いスーツに赤のバッヂを付けた男女が、入口の前で待っている。「ちびるなよノエル?」「はっ、まさなんてもう漏らしてるくせに」「漏らしてねーよ」「あまり怖がらなくても大丈夫ですよ」 入口を通され、大きなソーラーパネルの間を抜け、管理室の様な場所に案内される。 康がドアをノックすると、「入れ」という、凛とした女性の声が中から響いた。「失礼します。姉御」 彼に続いて二人も入室すると、途端に充満したヤニの臭いが鼻を突いた。 室内には大量の空き缶が転がり、灰皿の上には吸い殻の山が形成されている。「姉御、お客呼ぶならもう少し片付けたらどうすか」「それはお前の仕事だろ」「初耳ですけど……」 テーブルから脚を下ろす彼女が、康を無視してすっくと立ち上がる。 身長は百七十以上あるだろうか、東条と殆ど変わらない。 黒いスーツに身を包み、赤いバッヂも他と変わらず。 ただ違うのが、はち切れそうな胸元に差された真赤なポケットチーフ。 そして最も目を引く、腰付近まで伸びた燃える様な深紅の長髪。 獣の様に鋭い目が細められ、銜え煙草の火が燻った。「……挨拶遅れて申し訳ない。が、ノエル殿、先ずはそのカメラを止めてくれないか?」「ダメ?」「ダメ、だ。こいつと会った時から今までの動画を、今ここで削除してくれ」 部屋の掃除をする康を首で指す。(おぉ~何か映画っぽい) 東条の関心を他所に、しょうがないと言った風体でノエルは動画を消し始める。「貴殿等の動画は面白いが、うちの組の内部まで流されては流石に堪らないのでな」「ん。理解」「ハハハ、感謝する」 一瞬ピりついた空気が流れたものの、許してくれたみたいで良かった。 そんなことを考えていた東条と、姉御の目が合う。「……しかしまぁ、本当に頭部だけ黒いな」「セルフモザイクですね」「便利だな。確かに貴殿の名前も、動画内ではモザイクが入っていたな。隠しているのか?」「動画内では一応。普段はまさと呼ばれています」「まさ殿か、ならば私は紅とでも呼んでくれ」「分かりました。……一つ聞きたいのですが、ここをずっと守っていたのは紅さんですか?」 改めてこの質問を、本人だろう人にぶつける。「そうだな」