アイスクリームをつついている。
小夜湖の夏の指の温度が銀のスプーンに伝わって硝子のお皿の中で溶けてゆく。瞳を閉じてのどをバニラが通って行く感触を楽しむ。
(はやく…逢いたいわ、
月乎)
...アイスと同じぐらいあなたがスキよ。いいえ、アイスクリームよりあなたのを飲みたい。
内気な小夜湖は恋心を月乎に伝えられていない。片想い中だ。
月乎には…彼女が居る。情熱的な小夜湖はその事にはこだわっていない。 ふりむいてほしい…泣く人が居るけど、あたし、えらばれるならついて行く。
インターネットのサークルで小夜湖と月乎は知り合った。音楽好きが集うSNSの集まりだ。月乎の恋人である女性はメンバーではないが、あるオフ会の時に月乎が連れて来た。
小夜湖も月乎も離婚歴があり、成人した子どもがいる。月乎の娘は近くに住んでいるが、小夜湖の息子は県外に住んでいてなかなか会えない。
42才の小夜湖は幼稚な性格のせいか若々しく見られる。一方月乎は49才。月乎も50才前にはとても見えぬ程瑞々しい魅力の持ち主だ。 月乎の彼女は45才だという。地味で冴えない感じだ。
(なんでこんな人が良いんだろ)と内心小夜湖は嫉妬以前に疑問を持ったが、性格美人かもな、などと考えている。
小夜湖と月乎は友だちとして仲が良い。人の中に居てうまく話せない小夜湖にさりげない気遣いをしてくれる月乎。
彼女とは遠距離恋愛らしい。だからこないだは特別にオフ会に連れてきたのかな…?
実は小夜湖と月乎は友として食事にも行く仲だ。住んでいる街もわりと近い。 LINE交換もしていれば、電話番号も互いに知っている。
けれど、月乎に想いを告げられない。小夜湖は先に述べたようこだわりがないので彼女に遠慮などはしていない。けれど…恥ずかしいのだ。
(なんでかな~…あたしって... すでにお友だちだからかしら? 月乎とさ)もうアイスはすっかり食べて、ベッドに寝そべっている小夜湖。
仰向けになりボーっと恋煩いにひたっている。 グループのみんなで撮った写真をベッドサイドに飾っている。その中のどこに月乎が居るかなんて、もうすっかり憶えている。うっとり見つめる小夜湖…ベランダでは風鈴が揺れている。
(お外は暑そう... でも...)でも あたしの躰だって、火照ってるよ。8月のせいじゃないわ。 躰をくねらせ、ラメのネイルで彩った中指を自分の中に入れる…クチュ。 水玉のノースリーブを首までたくし上げバストを晒す。 「ン…ンン...」たまらずに小夜湖はおへその辺りやくびれたウエストを撫でまわす。その度に大きなバストが波打つ。そして乳首をキュッとつまんだ。
(月乎ぁ…気持ちイイよぉ)コリコリに硬くなっている。小夜湖はエスカレートしてゆく。バストを揉みしだきアンアン声を上げる。 中に入っていた指を出す。左手で花園辺りを開花させ、濡れた指で果実を転がす。素速くこする。「凄ぃ~!」思わず声が漏れ出る。吐息も止まらない!
…とその時だ、電話が鳴った。 小夜湖は半分ヌードのままスマホの画面を見た。月乎と名前が! 小夜湖はすぐに電話に出た。「小夜湖? どうしてた?」愛しい月乎の声。
そのままテレフォンセックスしたいぐらいだけれど、嫌われたらいやだ。そんなことはできない。
「あぁ! 月乎? う、うん、特に何も…」すると月乎が「そか、それならよかった。今話せる?」「うん良いよ」
小夜湖はこっそりティッシュで大事な処を拭き、座った。 …あれ? と小夜湖は思った、今日は平日だから月乎お仕事じゃないのかなと。 「月乎、今日お仕事じゃないの?」月乎は明るく答えた「有給たまってるから消化さ。メシいかない?」時計を見るとランチタイムだった。休職中の小夜湖は時間を気にしない気ままな暮らし。そか、と思った。「うん、いいよぉ…どこで待ち合わせる?」「OK、じゃあさ、小夜湖が行きたいって言ってた焼き肉の食べ放題行かない?」「ほんと? うれしー!」色気より食い気?
否 …小夜湖の場合「色気と食い気」は同じほど。「小夜湖すぐ出られるの?」
…小夜湖は綺麗にして逢いたいとおもった、月乎には…だから「出るまで1時間近くかかるよ、汗だくだからシャワー浴びたいの。待てる? 月乎、大丈夫かなぁ...」すると月乎が少し慌てて「え、家に居たんでしょ、エアコンつけてなかったの? ...」ドギマギしている様子。「ンフ♪ストレッチしてたの!」
ちょっぴりふたりの間に沈黙が流れた。「そうなんだ、小夜湖、がんばり屋だからな!」だなんて月乎が言う。そして続けて言う「オレは待てるから気にしないで! あのお店、たしか小夜湖の家が結構近いんじゃない?」「うん♪」「何時に来れそう?」「そうね、自転車でお店まで行っちゃうからさ、1時40分ごろに着くよ」「じゃあそうしようぜ。楽しみにしてるよ!」「うん」
嬉しい! 月乎を恋しがりひとりあそびしてたら電話がくるなんて、運命かもよ? 告白しちゃおっかな~…ンー...まだできないかもな。
極上のボディーソープで体を洗い、小夜湖はウキウキしている。ついでにまた...もぞもぞもしてるけど、いまはアソんじゃダメ。せっかくの月乎とのお食事に遅刻しちゃう。ハミガキもばっちり。 美しくメイクをし、小夜湖は自転車をこぐので桃色レースのスカパンを履いた。生足にビジューで彩られた厚底サンダル。上は白黒のギンガムチェックのパフスリーブ。キュートで良いかも! とわれながらにんまり。長い黒髪はポニーテールにした。 風を切り駅前の焼き肉店へゴー。
到着したのは1時半。すでに店内のウェイティングで月乎は待っていた。
「ごめんね! 待たせちゃった」「大丈夫だよ、小夜湖」優しい笑顔の月乎。
しばらくは…注文したお肉にカルビにモツにと必死でモグモグする小夜湖はしゃべらない。月乎はさほどがっつかず、そんな小夜湖を楽しそうに見ている。「小夜湖ってさー、ほんと旨そうに喰うよな~」小夜湖は今口の中にある牛ロースをモグモグしきって飲み込んだあと「あは!」とひと言。「ネ~、あたしおなかすいてたよ。サラダバー行こうよ、月乎ぁ」「うん、わかった」ふたりで野菜やデザートを吟味する。
ヒョイッと勝手に月乎が小夜湖の皿にキウイとグレープフルーツを入れた。
「小夜湖さぁ、果物食べないじゃん、いつも。食べな」「あんまりほしくないー。…うん、わかった」二人ともニッコニコだ。月乎は千切りキャベツやレタスとポテトサラダをよそった。
席に戻った。おもむろに小夜湖は切り出した「ンー…どしたの? 急に呼び出したりしちゃって、月乎?」月乎は、笑顔で「ンー、べつにぃ。ただ小夜湖とめし食いたかっただけ」「そうなの」
冷静を装ったが顔が赤らむ。少し小夜湖は俯いた。「月乎、電車でしょ? 呑む?…あたしは自転車だから呑まないけど」ふたりは大いにお肉を堪能している。「ん! このタレんっまぃ!」月乎は叫び、すぐに答えた。「ああ、今日は呑まない! 休肝日」「そうなのね」
「ところで小夜湖、バンドもうやんないの?」「…そうね、好きなだけやったからもう良いかな。今は写真撮るのに夢中よ」「そうなんだー」「うん。そういえばさ~、月乎って最近流行ってる音楽も結構聴くよね」「そだな、たまに会う娘の影響もある」「ああそうなんだ~、あたしはほら、離れて暮らしてるからさ。前は息子にいろいろ教えてもらったりもしたけどね」
趣味が合うふたりは話が尽きない。きっと…趣味が違っても話しが尽きない、と小夜湖は内心感じている。いつもそう。お茶する時も。オフ会の時も。小夜湖と月乎が付き合っていると勘違いする仲間が多い。しかしながらふたりは友人関係だ。小夜湖には無論恋人がいない。月乎にホレているので。
(月乎って、今の彼女とどこで知り合ったんだろ?)とか思う時もあるが、小夜湖は自分自身がかなりのヤキモチ焼きだと自覚しているので、あえて訊かないようにしている。知りたくもないし。
音楽の話にとどまらず、お口にお肉や焼き野菜やサラダにフルーツが入っていない時は、月乎の仕事の話もした。月乎は大手自動車メーカーの工場勤務をしている。土日は休めるが、勤務時間が変則的できついんだと前から言っていた。
「月乎、最近体調どう? 眠れてる?」「ああ…真っ昼間に寝なきゃなんねぇのがキツイかな、夜勤のときさ」月乎はライン作業の溶接を担当している。「大変ね...休める時は思いっきり休むんだよ?」
「うん、ありがと…ところで、さ…今日の小夜湖、すっごく可愛い」言った後、月乎はソワソワした感じだ。恥ずかしかったが小夜湖は懸命にレディーに「ありがと」と返した。「そんな事言ったら彼女が嫉妬するよ」などという野暮は口が裂けても言わない、なかなかの小夜湖なのだ。
「月乎もいつも素敵だわ…ファッションセンス抜群だし」瞳を見つめて言ってみた。
「そ、そう? オレ、そこらへんにあるもの着てるだけだけど」月乎が照れる。
「ううん、他の人と違ってオリジナリティがあってカッコいいよ!」
「素直に受け取るよ、お褒めのお言葉!」…きっとふたりは知らない人が見れば恋人同士に見えるだろう。
「フ~、おなかいっぱ~い」「オレもめちゃ喰った。美味しかったね」ふたりはレジへ向かった。小夜湖がバッグからお財布を取り出す。「良いって、小夜湖!」「なに言ってんの月乎、じゃ割り勘にしよ?」「ううん、オレが誘ったんだから払わせて、ね!」
小夜湖はまるで彼女になった気分で嬉しい。
「ごちそうさまです」ペコリ。
小夜湖は店の駐輪場に停めた自転車に乗る。「じゃあまたね~」「うん、小夜湖。またお茶でもしようぜ?」「うん、いいよ!」「バイバーイ」… 月乎は曲がり角の所までずっと小夜湖を見送っていた。
「ただいま~」ひとりの部屋に言う小夜湖。
(ハー…「好き」は、今日も言えなかったな...)(でも、月乎…あたしにときめいちゃってたわ♪脈ありね! …て、彼女と旨くいってないのかな??)ヘンに心配し複雑な心地の小夜湖。
(ううん、やっぱ[チャンス]って素直に悦ぼう、うんうん)
夕刻になり、カーテンを閉めようとすると
紅みがかった綺麗な満月が見えた。
(わ~おっきぃ!)しばし窓辺で見つめる小夜湖。 月乎もこのお月様を…いま、見てたら良いのにな…一緒にみたいな。きっとロマンチックよ?
小夜湖はその
夜もたまらずひとりで躰を触って遊んだ。素敵な気分…朝した時よりも生々しいわ。イイ...! だって月乎と過ごせたから。月乎、髪の毛からイイ匂いがしたわ…あたしの躰からもエッチな香りしてたかな? そうなら嬉しんだけど。
朝は途中で月乎が電話をかけてきたから最後までしなかった…でもこれ、すぐどうかなっちゃいそー…小夜湖はソファに座ったままパンティの横から指を入れている。
「こ…んな、ふーぅに...され、たいの」エキサイトし小夜湖の呼吸が乱れている。
「月乎、月乎ぁ こ…んなふうに! いじわるしてぇアハン...」蜜がトロトロと溢れ花園がおねだりをする。
今は写真を見なくても月乎との今日を想いもうダメになってる...ア! ッアァ!!! ソファまで濡らしてしまった。はやく月乎に叱られたいわ。
朝がきた。カーテンを開けると薄曇りだ。
ゆうべの夜空はあんなに晴れ渡ってたのにね。 庭のアガパンサスが花盛り。(花火みたいで可愛いんだよね、この子)
時計を見るともう9時じゃん。良く寝たな~…
と、電話が鳴った。(月乎!?)と予感…スマホに駆け寄ると、大当たり! 「おはよ♪」ふたり一緒に声が揃った。
「シンクロしたね」と小夜湖が笑った。「小夜湖起きてた?」穏やかな月乎の声。
「うん、きのうはありがとー。すっごく楽しかった~」「オレもだよ。こちらこそ付き合ってくれてサンキュー」「なにいってるのよ~月乎、今度はあたしにごちそうさせてね!」「ではでは、そのときはお言葉に甘えて」冗談ぽく返す月乎。
「あ、ところでどうしたの? 月乎、なにかあった?」「いや…なにも。今日は土曜日だしさ、ゆっくり起きた」「そか」「来月のオフ会、お茶会だって
繁が言ってたぜ」「ほーんとぅ? なんだかあたし達らしくないね、変なのー、キャハ! いつもの居酒屋じゃないんだ~」
繁とは、この音楽好きの集まりを取り仕切っているリーダー的存在の男性だ。
「『お茶会』っていう響きがさ、茶道でもするみたいでおもしろいよな」すかさず小夜湖が返す。
「ほんとうにそうだったりして? 『結構なお手前で…』とか何とかいうのかな~」
「アッハハハ」実に面白そうに月乎が笑う。
小夜湖は人見知りが激しいが、月乎とはなぜか阿吽の呼吸を感じ、気楽で冗談も飛ばせるのだ。
本来おとなしい小夜湖が、なぜグループなどという、苦手な「人の集まり」に顔を出すのかというと…実は、リアルで逢う前から月乎のことを愛してしまったからだ。そう、インターネットのやり取りだけでとても惹かれ、好きになってしまったのだ。恐らく月乎はそのことを知らない。小夜湖から異性として好かれているということを今も知らないだろう。
小夜湖は、どーしても月乎に逢いたくて、がんばってグループに参加しているのだ。 今では、友達になれたので、オフ会に気合いを入れて行かなくても良いかもしれないが…月乎に逢える喜びが待っているもの。幸せが増えるもの。行かない手はない。
「月乎、冗談はさておき、喫茶店? とかの貸しきりなのかしら? 喫茶店の貸し切りなんて聞いたことないから違うか…」「ああ、貸し切りなんだって。そこはカフェバーでさ、夜はバーなんだ。昼間はカフェのみ」と月乎。
「来月はもう9月ね。あたしがオフ会に参加するようになってからちょうど半年になるわ。」
繁が立ち上げたこのオフ会はだいたい月1ペースだ。来月でちょうど一年。月乎は初めからのメンバーだ。
繁は小夜湖と同い年である。小学校の教員をしているロックオタクだ。フィフティーズからPUNK・ハードロックにメタルにハードコア、なんでもござれで博学だ。小夜湖はこのリーダーの繁が苦手である。悪い人ではないのだが、やけに小夜湖に話しかけてくるのではっきり言って鬱陶しい。
月乎にそれを話したことはないが、何となく感じ取ってくれているようで、会のときに小夜湖が困惑しているとさりげなく助け舟を出してくれる。声を旨く掛けてくれるのだ。
小夜湖が月乎に「あの人イヤ」と言わないのは、仲間を悪く言えない...小夜湖の気の弱さゆえだ。
オフ会は男女半々ぐらいで約15名のメンバーが居る。いつもすべての人が来るわけではない。平均して毎月7名ぐらいで行われる。
「小夜湖…」少しまじめな感じで電話の向こうの月乎が名前を呼ぶ。
「小夜湖、繁の事...キライ?」え!? どうしよう…小夜湖は一瞬ためらった。でも何となく前から月乎は判っていたようだし…
「...うん。そうなの」
「んー…参った!」「なぁに? 月乎? なんで」 「わかっちゃいたんだよぉ…小夜湖が繁を嫌ってることはね。たださぁ...」なんだろう。小夜湖はザワザワしてきた。
「繁にね、キューピット役を頼まれちゃったの」…。「ん? ということは、あたしを?」「そう」
げぇえええ! やだあああぁ。
「それ、お断りするわ」小夜湖はきっぱり言った。小夜湖は月乎のことがスキなのに… よりによってその月乎が他の男とあたしをくっつけようだなんて。月乎にとっては意味不明だろうが、小夜湖は機嫌を損ねてしまった。
「月乎、あたし、これからお洗濯するわ、バイバイ」
「小夜湖? なんか…ごめん、そんなに... オレも知らないでもなかったのに引き受けちゃって。悪かったよ。」
小夜湖はなんだか赤ちゃんみたいに駄々をこねたくなった。
「もう9時も過ぎてるし、早くお洗濯したいの!」「うん、わかった。またね。」ガチャリ。
小夜湖は…自分の恋心を月乎にはやく伝えたほうが良いのかな、とおもった。だのに、なぜか顔を合わせると、恥ずかしいし、いま仲良しなのにおかしな感じになるのも怖いしで勇気が出ない。
そのまま時間が過ぎて行き、9月になったけれど残暑というより酷暑。とても暑い。風鈴チリンチリン…涼を運んでくれている。
あの電話以来、月乎とはおしゃべりしていない。つまり逢ってもいない。 繁の気持ちを知った今、オフ会が嫌になってしまった。会を抜けようと小夜湖は決めた。リーダーだからといって、わざわざ嫌な繁に連絡することはない。
小夜湖は日曜日の午後に「いま電話できる?」と月乎にLINEを送った。返信はすぐに返ってきた。
「オッケーだよ」
ほんの半月話さなかっただけなのに、月乎の声はとても懐かしかしく小夜湖をホッとさせた。
「久しぶりだね、小夜湖。元気にしてたの?」「うん。元気だよ。月乎はどう?」「オレは相変わらずさ、平気さ」「月乎…?」「ン…」「あたしね、音楽サークルやめるよ」
月乎は自分を引き留めるかな~と小夜湖は思った。けれど月乎は、少し黙り「…うん」と言った。
月乎に逢える回数が月に一日以上は…きっと減る。淋しい。でも…でも仕方ないじゃん。
「あ、あの…繁にはあたしの気持ち言ったの? 月乎...」恐る恐る問うた。
「うん、旨く話しておいたよ」
「諦めてくれたかな~」小夜湖は良からぬ事を一瞬想像してしまったのだ。付きまとわれたらどうしよう、だなんて。
月乎はすべてお見通しらしい。
「小夜湖の気持ちをわかってくれたよ、あいつ。何も心配いらない、大丈夫だよ、小夜湖」と言った。「繁は良い奴だからさ」と付け加えた。
「うん...」
そうして、9月のお茶会の日も過ぎた。焼き肉以来月乎とは会っていない。
月乎…彼女と仲良くしてんのかなー、やだなー。またオフ会に連れて行ったのかしら? メラメラ! あたし達の友情が消えたわけじゃないわ。
LINEしてみようかな。えい♪
『月乎またまたご無沙汰しちゃったぁ どうしてますか? 話したいなー』既読はついたけど返信がすぐ来なかった。忙しいのかな。それともデート中かな? メラメラ! めらめら! ...でもお仕事かもしれないわ。平日だし。
なんだか写真を撮りに行く気もしない。森に行けば涼しいけど、向日葵も元気いっぱいなんだけど…あたしってだめね、月乎とかみ合わないと、こう…全部がいやんなっちゃう。
ベッドでゴロゴロしつつ好きなアーティストのCDを流しため息をついている小夜湖。冴えないなって、レースのカーテン越しに外を見るとくっきり真っ青な空を背景に入道雲がモクモク出ている。
入道雲ってなんか蛸みたいでエッチ。
起き上がり小夜湖は音楽を止めた。
お買い物行こ。今日は何作ろっかな~…あ~ダメダメだー、お料理もしたくないわぁ...でも冷蔵庫がおなかすかせてるよ?
夕方のスーパーは賑わっている。カートを押しつつゆっくり物色。あ、あたし最近ヨーグルト食べてないー、なんだか超食べたい! 体が欲しているのだな。ヨーグルト… なかったわ、お家に玉子… と、今日はお惣菜でいいや、ごはんは炊くわ。
小夜湖はふと息子を想った。
(
雪予食べてるかな~、元気にしてるかな)
雪予は母親の過干渉を嫌がるので小夜湖はそっとしている。たまにLINEを送る。
お買い物袋を自転車のかごに載せたその時、ふと舗道を見ると…
あ! 月乎じゃん、どうしたんだろ、ここら辺に居るなんて?
小夜湖が考えながらスーパーの駐輪場から見ていると、月乎が気づいた「小夜湖!? …びっくり~! このスーパーよく来んの?」「うん」ニッコニコの小夜湖と嬉しそうな月乎。「月乎どうしたの? 今日は車? こんなところに居るなんて...」はてな。「ああそう、今日は車さ。LINE既読スルーごめんな!」「良いよ、気にしてない。忙しかったんでしょう」月乎が答える。「うん、まだ仕事中だったからさ」
見ると月乎はそんなにおしゃれをしている風じゃない。「お仕事帰りなのね?」「うん、そう。晩めし買って帰ろうと思って。たまにこの店寄るんだぜ? 会ったことなかったね、小夜湖。」「ほんとだねー」ふたりはわずか1カ月無かった交流を淋しかったと、声に出さずに確認し合うかのように立ち話が終わらない。
小夜湖は…勇気を出した。
「月乎? …よかったら、これからうちに遊びにくる?」
「え」月乎は一瞬かなり驚いて「オレ… あ、うん。じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」と答えた。
小夜湖の胸の中では、小悪魔が諸手をあげ大喜びしている。
「あたし、もっかいお店に入る。今日はさ、お料理の準備がないから、月乎の夜ご飯買うの付き合う~ それで、一緒にうちでたべよ!」「うん、わかった!」