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Autor: 美桜
last update Fecha de publicación: 2025-12-30 17:11:11

そしてその時はやってきた。

毎年、後期授業が始まってすぐ、大学では【発表会】が行われている。

これは生徒たちの習熟度を発表する場であり、4年生にとってはこれを通して何らかのスカウトや支援を得たりする、いわゆる自己アピールの場でもある。

【発表会】には毎年10人が出場できるのだが、1年生から4年生の成績上位者の内、4年生の1位から5位、1年生から3年生の1位の人たちは確定で、残りの2枠を1・2・3年生の2位3位の6人で争うのだだった。

争うといっても別に何かを競ったりする訳ではない。ただ講師陣からの推薦を得た者が出場できるのだ。

准は1年生のトップとして既に出場を決めている。

麻沙美は2位の成績だったが、だいたいこういう時は上級生が選ばれることが世の常だと思っているので、半ば諦めていた。だがー

彼女は出場権を手に入れた。

信じられない気持ちもあったが、彼女は自分の実力に自信を持っていたので、推薦してくれた講師の見る目を内心褒め称えていた。

「やったね、麻沙美!」

「ありがとう」

彼女は余裕の笑みを浮かべた。だが次の瞬間、信じられない言葉を聞いた。

「やっぱり伯父さんに言って正解だったわ〜」

「?……どういうこと?」

訝しげに眉を顰めた。

そんな彼女に、華子は邪気のない笑顔で言った。

「伯父さんがね、ここの理事の一人なの。で、あなたを出してもらえるように言ってみたの」

「なんですって…?」

そのあまりの罪悪感の無さに、麻沙美は腹が立った。

「どうしてそんな事を!?私の実力じゃ出ることができないって思ったの!?」

「え…!?」

華子は彼女が喜んでくれると思っていたのに、まさかこんな風に怒鳴られるとは思わなかった。

「ど、どうしたの?なんでそんなに怒ってるの?」

「わからないの!?」

「……」

わからない。だって、麻沙美は本当にピアノが上手だし、1年ってだけで出場できないなんて、おかしいじゃない?

華子は伯父から、残りの2枠は2・3年生の2位の人たちが出るだろうと聞いていた。確定ではないが、おそらくその2人が推薦されるだろうと。

だから言ったのだ。

「麻沙美の方が上手く弾ける」

って。

それで伯父さんが残り2枠を決める会議を開いた時にそんな事実があるのか確認して、先生たちも頷いたから、麻沙美の出場が決まったのだ。

それのどこがいけないの?何も賄賂とか渡した訳でも、無理なとこをコネでねじ込んだ訳でもない。

ただ麻沙美の実力を教えてあげただけ。

華子は納得がいかなかった。

「じゃあ、嫌なら辞退しなよ」

せっかくの好意を無にされて少しばかり腹も立ったのでそう言うと、麻沙美は鬼のような形相で言い返してきた。

「今更そんな事をしたら、私が不正を働いたみたいじゃない!」

「……」

なんなの?結局出たいの?出たくないの?はっきりしなさいよっ。

華子はぶすっとして、もう口を利かなかった。

知らない。もう好きにしてっ。

そしてそのままプイッと教室を出て行ってしまったのだった。

「ちょっと、華子!」

後ろから呼び止められたけれど、彼女は振り向かなかった。

なんなの!?自分が悪いくせにあんな態度を取るなんて!

麻沙美は腹の虫が治まらず、しばらく彼女とは口を利かなかった。

グループの他の子たちからは原因を訊かれたが、どちらも口を閉ざしていて、険悪な雰囲気だけが漂っていた。

そしてあっという間に夏休みに突入し、その間2人は顔を合わせることもなく、麻沙美は他の友人たちと買い物やお茶会などをして過ごしていた。

*

「有賀くん、ちょっといいかな?」

指導講師に呼び出され、麻沙美は楽譜を抱えてレッスン室へと向かった。

「なによ。あんだけ偉そうに言っといて、結局出るんじゃない」

華子の側を通りかかった時、聞こえよがしにそう言われ、麻沙美はピタリ、と足を止めた。

「悪口言うなら陰で言いなさいよ」

「悪口じゃないわ。本当のことでしょ」

平然と言い返されてカッとなった。

「あなたに言われたくないわ!自慢たらしく〝伯父が理事の一人で〜〟とか言ってたじゃない!」

「だから、嫌なら辞退しろって言ったじゃない。美味しいとこだけさらっといて、イチャモンつけないでよっ」

双方共にヒートアップして声高に言い合いをするのに、周りにいた人たちから不満の声が出た。

「ちょっと静かにしてくれない?耳が痛くなっちゃうんだけどっ。ていうかさ、さっきのどういう意味?麻沙美が推薦されたのはコネだっての?」

「そうだ!聞いたぞっ。伯父さんが理事の一人だって!」

「うわ、エゲツなっ。コネで発表会に出るとか、どんだけ必死なんだよ」

「はぁ~、金のある奴はいいね〜」

などなど。

麻沙美はこの屈辱に、顔を真っ赤に染めて拳をギュッと握り締めた。

「コネなんかじゃないわ…」

「は?じゃあ、なんだよ」

嘲るような口調に、彼女は手にしていた楽譜をバンッ!と叩きつけた。

「もういいわっ。辞退する!出たい人が出なさいよ!」

足下に散らばる楽譜を、誰一人として拾おうとはしなかった。

「出たよ、マジギレ。疚しくないなら知らん顔してたらいいのに」

「ほんと、それ」

「っ…」

何を言っても無駄だと分かっていても、生まれて初めてこんなに風にバカにされた麻沙美には、もう我慢がならなかった。

「覚えておきなさい!そんな風に言ったこと、後悔させてやるから!」

そう言うと、彼女はサッと身を翻して教室を出て行ってしまった。

「捨てゼリフとか、悪役じゃん」

「ハハッ、ホントな〜」

「お嬢様だし、プライド傷ついちゃったんじゃね?」

口々に麻沙美を貶める言葉が出るのに、原因となった華子は居た堪れない気持ちになった。

その時ー。

スッと床に屈んで落ちている楽譜を拾う人物がいて、皆一斉に注目した。

あ…。

華子はその人物に気がついて、驚いた。

「何してんの?もしかして、代わりに出ようとしてるとか?」

「やめとけやめとけ。睨まれるのがオチだぞ」

「そうそう。ただの癇癪なんだから、後で拾いに来るさ」

「……」

その人物は周りの声になど構わずに、一枚一枚丁寧にそれを拾い上げて立ち上がった。

そしてくるりと振り返ると、それまで麻沙美の悪口を楽しげに口にしていたクラスメイトたちに向かって、冷たく言い放った。

「嫉妬する暇があるなら練習したらいい。人を貶めて悦に入ってるなんて、軽蔑するよ」

「な…!」

それまで意地悪な笑顔を顔に張り付けていた人たちが、一瞬にして顔色を変えた。

「お前、なんだよ!?本当の事を言って何が……て、真田准!?」

「……」

途端に顔を青褪めさせて挙動不審にキョロキョロと助けを求め始めた男に、准は白けた視線を置いた。

「悪口すら日和見とはね。真実を知りもしないで先走ると、後で痛い目みるよ」

彼はそう言うと、チラリと華子に視線をやった。

「!」

彼女はそれを受けて咄嗟に下を向き、罪悪感に身を震わせた。

謝らなきゃ…。

そう決めると、彼女はよしっと顔を上げて准から楽譜を受け取り、友人の後を追ったのだった。

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