「えっと····なんで?」
普通に聞いてしまった。駆け引きや誘導も何もない。芯の真意を知りたい一心で、まっすぐ芯を見ていた。
「はは、先生のそんな顔初めて見たかも。なんだろうな····よく分かんねぇけど、抱きたくない」
僕がお古だからだろうか。それとも、奏斗さんへの反抗の一端なのだろうか。
正直、芯との関係が逆転しない事に安堵した。だが、これは終わりを告げられたも同然だ。芯自身も戸惑っているのだろう。言葉を発する度に躊躇っているように見える。
ようやく、合意で行為に及ぶ事ができるようになったのに。全てが破綻してしまったんだ。僕は、そう思っていた。 けれど、芯の思いがけない一言で希望に指が触れる。「先生、今から俺の事抱ける? 俺さ、先生に抱かれんの結構好きみたいなんだけど」
それは、いつも通り躾ろという意味だろうか。あまり気乗りはしないが、芯が求めてくれるのならば──。
「だ、抱けるよ。酷くしてもいいなら····」
「ふはっ、必死かよ。つぅか酷いのとかいつもじゃん」
芯の屈託のない笑顔。間抜けな僕を見て気分がいいのだろう。
それよりも僕は、自分の発言に驚いた。身体は抱かれる事を望んでいる。なのに、やはり芯を抱きたい。心と身体が、どんどん乖離していくようで気持ちが悪い。僕が拒絶ばかりして、奏斗さんに『もう抱かない』と言われた時を思い出す。その時初めて、僕から『抱いてください』と言った。
その瞬間の僕と心境は違えど、完全に身体を許した証だ。自分が雌である事を理解し、雄を求める。それは同時に、愛を求めているのだ。僕は、そう解釈した。 奏斗さんとの記憶は、今思えば最低なものばかりだ。その所為か、別れてから後ろが疼くことは一度もなかった。 別れたと言っても、そもそも“付き合っていた”と言えるのか、分からない関係ではあったけれど。 奏斗さんを前にした瞬間、あの頃の感覚が全身を巡り、一瞬でダメになってゆくのを実感した。恐怖しか感じず、心臓が壊れてしまいそうだった。それでも、奏斗さんを求める身体に絶望した。 だからなのか、僕は芯に甘えてしまう。今日だけ、そう自分に言い聞かせて、縋るように芯を呼ぶ。「芯、膝においで。僕のこと、優しく抱き締めて」
あぁ、“芯”と呼ぶ事が愛おしい。交わっていない時も、芯を愛しいと想える事が増えた。それが、僕の中で“僕”を根底から塗り替えてゆく。
これが、幸せという感覚なのだろうか。僕は、愛し方を間違えていたのだろうか。 奏斗さんと再会した事で、僕と芯の在り方を今一度考え直せる気がする。悪い事ばかりでないのなら、結果オーライと思っても良いだろうか。「ん··。別にどうでもいいんだけどさ。俺には酷くすんのに、自分は優しくされたいの? ったくさぁ、我儘すぎんだろ」
「ごめんね」
芯の呆れ顔に、焦燥感が足をバタつかせる。
「別にいいつっただろ。····なぁ先生、俺の事マジで好きなの? ずっとさ、抱く為に甘い事言ってただけなんじゃねぇの?」
「愛してるよ、本気で。僕の言う“愛してる”が、正しいのかは分からない。けど、僕はずっと本気だった。芯を抱く為の嘘なんて、囁いた事はないよ」
「あっそ。どうでもいいけど。あのおっさんに負けてんのだけは····なんか腹立つからさ」
強がりなのか、素直になれないのか、頬を紅潮させてむくれる芯。その本心を知りたい。
僕は芯を裸に剥き、心の乱れを整えるように酷く抱いた。奏斗さんを吹っ切れたら、交じ合う時の愛し方も穏やかになってゆけるのだろうか。 今はまだ理解できない事を薄ぼんやりと考えながら、芯の首とペニスを短い紐で結び、身体が丸まるようにした。反れば陰部が千切れるだろう。 横に向けた芯の、片脚を抱えて奥を抉り潰す。これをすると、いつも仰け反って悦ぶ。けれど、今日は流石に反れずに耐えている。相当苦しいだろう。 僕も、同じだったからよく分かる。「芯、もう少しだけ奥····潰すね」
「やめっ··そぇ以上挿ぇたら····反っちゃ··んんっ··待っ──」
「反ったらどうなるの?」
「ちんこ··千切ぇぅ····」
「千切れていいの?」
「やらぁ····」
「だったら、僕がどれだけ奥に挿れても絶対に丸まっててね。芯のおちんちん、要らないけど千切れるのは可哀想だから」
耳元で囁くと、心底怯えた様子で『ひぅっ』と小さな悲鳴を上げる。可愛い芯。僕は、容赦なく根元まで突き挿した。
結腸口を亀頭で執拗にイジめる。ナカの痙攣が止まらなくなると、カリが引っかかるギリギリまで腰を引く。そこから一気に根元までねじ込み、芯がイキ狂うピストンをする。そして、涙と鼻水でくしゃぐしゃに汚くなった芯の口を、手で力一杯塞ぐ。 目を見開いて慌てる顔を、僕に助けを乞う震えた瞳を、心の底から愛しいと想う。····奏斗さんも、僕にこんな気持ちを抱いた事があったのだろうか。芯は呼吸をするため、顔を振って逃げようとする。それはそれはとても力無く、僕にだけ見せる弱々しい芯だ。
「ねぇ芯、このまま死んでみる?」
仕事の遅い先生を置いて、先に先生の家へ向かう。 で、最後の角を曲がった時、後ろから口を塞いで拉致られた。 薬を嗅がされて、気を失ってたみたいだ。頭痛ぇし気分が悪い。 真っ暗な部屋。ドコだろう。いや、知ってる。先生の部屋だ。先生の匂いが充満してんだもん。てことは、拉致ったのは先生? そんなはずはない。仕事、めっちゃ残ってるってボヤいてたし、先生は薬の類を絶対使わない。「おい、誰だよ」「開口一番喧嘩腰かぁ。威勢がいいねぇ、芯クン」 聞き覚えのある、耳に絡みつくような声。俺をイラつかせる声だ。「テメェ、奏斗だろ」 誘拐犯は、パチッと電気をつけた。一瞬眩む視界。細まった視界に入ったのは、やっぱあのクソ野郎だった。「せ〜いか〜い」 奏斗サンは、学生証を見ながら言う。「徳重芯クン。××高校の3年生か。だーれがハタチだって? ガキじゃん」 これは絶対マズい。状況はよくわかんねぇけど、とにかくマズいのは間違いない。 けど、コイツ案外バカなのかもしれない。聞いてもないのに、ペラペラと犯行の一部始終を話し、本来の計画まで喋り始めた。 本当は、先生を拉致って犯すつもりだったらしい。けど、学校から出てきた俺を見つけて、面白半分で尾行したんだとか。そしたら、俺が先生の家に向かうから、予定を変更して俺を拉致ったと····。 いや、なんでだよ。俺を拉致ってどうすんだよ。 後ろ手に縛られ、片足がベッドに繋がれてる。逃げられはしないみたいだ。 つぅか、待ってりゃ先生帰ってくんだけど。絶対ヤバいやつじゃん。 奏斗サンは、ベッドに腰掛けて俺のズボンを脱がす。「芯クンはさぁ、零をどうやって抱いてんの? 普通に抱いても満足しないでしょ、あのド淫乱」 絶倫ではある。淫乱かどうかは知らねぇし。どうやってって、されてる事をしてるっぽく言えばいいのか? あー··
朝食と一緒に、素っ気ない置き手紙と飾り気のない鍵を置いてきた。噛んだ箇所の手当はしたが、芯はどうせ登校してこないだろう。 昨日の今日だ。きっと、悠々自適にベッドを独占して起きない。 4限目が終わり、昼休みで校内が賑わう。物好きにも、僕しか居ない生徒指導室に遊びに来る生徒が時々いる。 彼女もその一人。松尾 依智華《いちか》は、芯の元彼女だったはず。少しの気まずさを感じながら、それを悟られないように振る舞う。「先生さ、彼女いないの?」「いないよ」「うっそだ~。最近、怪しいって噂だよ?」「····どんな?」 心臓がトクンと跳ねる。芯との事だろうか。「え~。なんかねぇ、ソワソワしながら帰ってるトコ見たって子が何人かいてさ、彼女とデートっぽくない? って」「はは、違うよ。今、仔犬を預かってるんだ。その子が可愛くってね。それで、帰るのが楽しみなだけだよ」 そう、あれはまだ預かっているだけ。まだ、僕のモノではない。 それにしても、そんなに分かりやすく出ていたのだろうか。気を引き締めなければ、どこから露見するか分かったものじゃない。「マジで? 写真とかないの? めっちゃ見たいんだけど~」「ごめんね。1枚もないんだ」 そんな危険なものを、スマホに保存などできるはずがない。僕の宝物の一部は、然るべき所に保存してある。決して他人に見せたりはしない。 この子はいつまで居座る気だろう。効率よく仕事を片付けて、残業だけは避けたいのだけれど。定時丁度に終えて、早く芯の待つ家に帰りたい。 少し探る気ではいたが、どうやらこんな子供を探る必要もなさそうだ。余計な事を言うのも、時期が悪いだろう。 芯の元彼女ではあるが、性欲の発散に使われただけの器。そう思えば、そういう玩具だったのだと割り切れる。故に、妬く必要もない。 おそらく芯の目には、彼女も他の女の子も同じに見えていたのだろう。けれど、僕だけは違う。そう思える今があるから、僕の心は静けさを
先生は、俺の目を見て『死んでみる?』と聞いた。イカれた恍惚さに、俺は恐怖で震えながらイッた。 どれだけつまらない日々でも、クソみたいな将来《さき》しか見えてなくても、まだ死ぬのは勘弁だ。まだ17だぜ? それに、すっげぇ不本意だけど、放っておけない事もできた。こんな頭のおかしい弱虫を、俺はちょっとだけ好意的に思ってる····かもしれない。とりあえず、それを確かめたい。 わかんねぇ事ばっか遺して、自分の気持ちすら分からないままで投げ出したくはない。先生の言葉を信じたわけじゃないけど、俺がスッキリするまで恋人ごっこをしてやってもいい。 それに、あの奏斗とかってクソ野郎をどうにかしてやりたい。 ひとまず、このサイコ教師に正気を取り戻させないと、そろそろマジで死にそうだ。「んんっ····んー」 けど正気って、どうすりゃいいんだよ。俺の口塞いで、奥抉りながら出しまくってんじゃん。ぐぽぐぽしながら結腸に熱いのを注がれて、腹んナカが火傷してくみたいに痛い。 そもそも、ヤッてる時に先生の正気なトコなんか見たことなかったわ。はぁ····、このまま死ぬのかな。 とか思って、抵抗すんのを諦めたら、あっさり手を離しやがった。遅《おせ》ぇよ。で、また意味のわかんねぇ事を、うっとりした顔で聞いてくる。「芯、どこ噛まれたい?」 噛まれたいって発想がねぇよ。どうせ血が出るまで噛むんだから、めちゃくちゃ痛いもん。バカじゃねぇの?「······腰····右の····」 って、なんで答えてんだ俺。しかも、そこは····。 先生は一旦抜いて雑に俺をひっくり返すと、腰を持ち上げてま
これまで通りに、芯の言動を予想し支配するのは困難を極める。現状、僕自身の心でさえ制御できていないのだ。どう対応するのが正しいのか、今は思考回路が正常に繋がらない。「えっと····なんで?」 普通に聞いてしまった。駆け引きや誘導も何もない。芯の真意を知りたい一心で、まっすぐ芯を見ていた。「はは、先生のそんな顔初めて見たかも。なんだろうな····よく分かんねぇけど、抱きたくない」 僕がお古だからだろうか。それとも、奏斗さんへの反抗の一端なのだろうか。 正直、芯との関係が逆転しない事に安堵した。だが、これは終わりを告げられたも同然だ。 芯自身も戸惑っているのだろう。言葉を発する度に躊躇っているように見える。 ようやく、合意で行為に及ぶ事ができるようになったのに。全てが破綻してしまったんだ。僕は、そう思っていた。 けれど、芯の思いがけない一言で希望に指が触れる。「先生、今から俺の事抱ける? 俺さ、先生に抱かれんの結構好きみたいなんだけど」 それは、いつも通り躾ろという意味だろうか。あまり気乗りはしないが、芯が求めてくれるのならば──。「だ、抱けるよ。酷くしてもいいなら····」「ふはっ、必死かよ。つぅか酷いのとかいつもじゃん」 芯の屈託のない笑顔。間抜けな僕を見て気分がいいのだろう。 それよりも僕は、自分の発言に驚いた。身体は抱かれる事を望んでいる。なのに、やはり芯を抱きたい。心と身体が、どんどん乖離していくようで気持ちが悪い。 僕が拒絶ばかりして、奏斗さんに『もう抱かない』と言われた時を思い出す。その時初めて、僕から『抱いてください』と言った。 その瞬間の僕と心境は違えど、完全に身体を許した証だ。自分が雌である事を理解し、雄を求める。それは同時に、愛を求めているのだ。僕は、そう解釈した。 奏斗さんとの記憶は、今思えば最低なものば
僕は半ば諦めて、芯を解放する覚悟を始めた。 こうなってしまっては、芯は離れてゆくだろうから仕方ない。大切なものを失った時は、また僕がどこかで泥に塗《まみ》れればいいだけ。 芯との日々を思い、後悔よりも泣き顔に熱くなる感覚が蘇る。それももう、二度と湧くことはない。そう思ったけれど、反抗期真っ盛りな芯は、ここで上手く作用してくれた。「あっそ。アンタのミスくらい、俺がカバーしてやっから。つかもうアンタのじゃねぇんだわ。だからさぁ、馴れ馴れしく俺のに触ってんなよ」 まさか、芯が僕を取り戻そうとしてくれるなんて、微塵も期待していなかった。僕が流す涙の理由が変わる。 僕が言うのもアレだが、奏斗さんのイカれた雰囲気に物怖じもせず、対抗できる人が居るなんて思わなかった。「はぁ? ガキのクセに、口だけは一端だねぇ。ヒーロー気取りかよ。なぁ、お前なんかがコイツ満足させれてんの? コイツ満足させんの、大変だろ」「あ? 元カレ面ウザイんだけど。ソイツ、もう俺じゃないと満足できなくなってるから。いいからさっさと返せよ。俺のだって言ってんだろ」 芯は僕の手を引いて、奏斗さんから強引に奪い取った。まだ上手く脚に力が入らず、よろけて芯に抱きつく。 芯は僕を抱きとめてくれたが、耳元でこう囁いた。「後で全部聞くからな」「ま~っ、アツいねぇ。連絡先、変わってないよね? また連絡するから、無視··しないでね」 口調は穏やかなのに、重くて逆らえない圧が全身を怯えさせる。 奏斗さんがヒラヒラと手を振るのを、ちらっと盗み見る。不敵な笑みを浮かべているのが怖い。 震える僕の肩を抱く、芯の手にグッと力が入る。「うっせぇ! 連絡してくんな」 芯が悪態をついてくれる。その後は、何も言わずに僕の家まで手を引いてくれた。 かっこいい芯。けれど、やはりこれで芯に触れるのは最後になるだろう。 分かっている。芯の言葉の全てが本心ではない事。大丈夫、分かっている。〜〜〜
急ぎ早に店から離れる。せめて、人通りの多い所へ、早く····。「先生、待ってよ。なんか急いでんの?」 芯が僕の手を引いて止める。立ち止まりたくないのだが、振り払うわけにもいかない。それよりも、いくら人通りがないからと言って、堂々と“先生”はいただけない。「ねぇ芯、外でそう呼ぶのは──」「あれ~? やーっぱお前だ」 背後から耳を劈く、聞き慣れた甘い声。身体が強ばり、瞬く間に自由を失う。頭から足先へと血の気が引き、焦点が定まらない。 けれど、それを芯に悟られてはいけない。僕は、震える唇を噛み締めて振り向いた。「か、奏斗《かなと》さん····」 震える声で、かつて愛したその名を呼ぶ。もう二度と、死んでも会いたくなかった男だ。「久しぶりぃ。そのちっこいの、彼氏?」「お··お久しぶり、です。あ····えっと、その····」 恋人と言ってしまって良いのだろうか。反発した芯が、余計な事を言ってしまえば終わりだ。 奏斗さんは、一歩一歩ゆっくりと歩み寄ってくる。目の前まで来ると、少し前屈みになり僕の耳元で囁く。「俺とは正反対じゃん。可愛いね、お前みたい」 耳を孕ませる低い声。脳を溶かしてしまう濃い雄の匂い。頭が痺れ思考が乱れる。 ちらりと芯を見ると、唇を尖らせている。あぁ、やはり機嫌が悪い。最悪だ。「アンタ何? 鬼無《きなし》さんの元カレ?」 どうして会話を始めてしまうんだ。できれば、適当にあしらってこの場を去りたいのに。 けれど、流石は空気を読める芯。僕を“先生”と呼ばなかった事は、後でしっかり褒めてあげよう。「そだよ。君は? 随分若いねぇ」 勘のいい奏斗さんの事だ。何