LOGINベッドサイドのランタン型のLEDライトから、本物の火のような柔らかな灯りが零れる。
ぼんやりとした灯に照らされた理玖の顔が艶と色欲に塗れて、凡そいつもの表情ではない。
「ぁ……、理玖さん……」
名を呼びながら耳に口付け吐息を吹き込む。
理玖の体がピクりと震えて、閉じていた目が薄く開いた。
「ん……、ぁっ……ぁ、ん」
腰を緩く動かせば、濡れた唇から嬌声が零れ落ちる。
少し奥を強く突いたら、理玖がまた射精した。腹の上は、もう何度目かも知れない射精で、精液の溜りが出来ていた。
狭いベッドの上と足元には、使用済みのコンドームを何個も放り投げていた。
買ったばかりのコンドームは、もうほとんど残っていない。
「ゴムなくなったら、中に出すよ。俺の子孕んで、結婚しよ、理玖さん」
口付けて、言葉を口から流し込む。
自分の言葉に理玖が縛られてくれたらいいと思う。
握った手をすり抜けて消えてしまいそうな理玖を繋ぎとめる鎖が欲しかった。
「ぅ……、ん……」
理玖が重そうに腕を持ち上げて、晴翔の首に回した。
顔を持ち上げて、口付ける。
半分、寝ているような仕草が、可愛い。
理玖の部屋に帰って、風呂に入って、飯を食って、報告書の話をするつもりだったのに。
晴翔を部屋に招いて照れている理玖を見たら、我慢できなくなった。
『めちゃくちゃに……本気で、抱いて』
そんな言葉を言われたら、押し倒さないはずがない。
かろうじてベッドに滑り込んだのは、正解だった。
空が白み始めた、この時間まで床で抱いていたら、理玖の腰が壊れる。
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「それで、助手のspouseを迎えに来たシェリンフォードは、この後、どうしますか?」 挑戦的な臥龍岡の瞳が理玖を見詰めた。 理玖が口元を覆う晴翔の手を剥がした。「そうですね。貴方相手じゃ晴翔君は勃起しないみたいなんで、連れて帰ります。たまたま隣の部屋に滞在していて、たまたま隣の部屋の声が漏れ聞こえてきただけですが、見つかって良かったです」「理玖さん……」 もう、謝るしかない。 きっと理玖には、臥龍岡とのやり取りを全部、聞かれている。 観念して、晴翔は心の中で何回もごめんなさいを唱えた。「そうですか。ランクの高いホテルを指定したつもりでしたが、部屋の壁は存外、薄いんですね。クレームを入れておきましょう」 臥龍岡が楽しそうに話す。 この状況を楽しんでいる顔に見えた。(想定内って言っていたから、臥龍岡先生にとって理玖さんが乗り込んでくるまでがシナリオだったんだ) 臥龍岡の顔はいつも大学で見るような、張り付いた笑顔だ。(だけど、佐藤さんや折笠先生の話をした時の臥龍岡先生は、ちょっと違った。あれが素なのかな) 折笠を愛していたかと問い掛けた時の臥龍岡は辛そうだった。 一瞬、零してしまった本音なんだろうと思った。(こんな風にすぐ、表情や態度を作れるのは、RoseHouseの教育なんだろうか) 自分の子供に人を騙すような教育を施す安倍晴子の気持ちが、晴翔には理解できない。 まるで道具のような扱いに感じる。 臥龍岡も鈴木も、RoseHouseのdollだ。(理玖さんは可愛がられていたって推
突然、部屋のベルが鳴った。 ビクリと肩が震えて、晴翔は部屋の入口を振り返った。「鈴木君ですか? それとも別のRISEの子ですか?」 時刻は既に深夜だ。そろそろ日を跨ごうとしている。 今更、誰かが参戦したところで、話は既に終わっている。 晴翔を眺めていた臥龍岡が、息を吐いた。「やれやれ、ですね。てっきり空咲さんが王子様だと思っていましたが。御姫様だったんですか?」「なんの暗喩ですか? 今から俺に何か、させるつもりですか?」 晴翔は顔を顰めた。 例えば、この場に鈴木圭が参戦して興奮剤を持参しフェロモンで酔わせて晴翔を洗脳しても、臥龍岡側に得はないだろう。(今の話を俺が正気で持って帰らなければ、臥龍岡先生が俺を呼び出した意味がない。話しをした上で鈴木君のフェロモンで洗脳して、俺に理玖さんを説得させる気か? 興奮剤を持ってこなかったのは、油断させるためのブラフ?) 考えを巡らせる晴翔を、臥龍岡が流し見た。「貴方自身は一人で来たつもりだったようですね。正直者の空咲さんの誠意は疑いませんよ。貴方の周囲が貴方の状況を放っておかなかっただけでしょう。想定内ですけど、思ったより遅かったですね」 臥龍岡が立ち上がり、ドアに向かった。「それって、まさか、理玖さんが?」 それとも國好だろうか。 昼間は話にも出なかったし、蘆屋は秘密にしてくれると約束したのに。 臥龍岡が振り返って、晴翔の左耳に触れた。「新しいピアスですね。最初から気になってはいましたが。それにネクタイピン。普段はピンなんかしないでしょう」
「有り得ない、そんなの……Spyri`s noteには記載がなかった」「Spyri`s noteには全例失敗の記述のみ。日本での実験なんて、書かれていなかったでしょう。記載なんかできませんよ。文献に残して誰かの目に触れたら、世界中がパニックです。特に向井先生は特別です。私や圭のように、ただのクローンではないのだから」 臥龍岡の口から、クローンという言葉が初めて飛び出した。「レイノルド・シュピリが最も作りたかった人間は、自分以上に高い能力を有した特別なonly。彼はrulerになりたかった。その生態を余すことなく調べ尽くすためにね。レイノルド・シュピリはWO学術界の父とも呼ばれる存在ですが、残念ながらrulerではなかったんです」 恐る恐る顔を上げる。「じゃぁ、理玖さんは、成功例……?」 臥龍岡が頷いた。「レイノルド・シュピリが唯一残したmasterpeace、世界にたった一人しか存在しない、人工的に作られたrulerです」「人工的に……」 響きがあまりに乾いていて、まるで人を指す言葉には思えない。「至高の造形物ですよ。いや、物なんて言い方はmasterpeaceに対して失礼です。人間が神以上の御業で人間を生み出した。その証であり、向井先生自身が人を超越した存在、つまり神です。だから向井先生はRISEにとり、RoseHouseにとり神であり、晴子が最も欲しがる存在なんです」 一番初めに聞いたのは、積木大和の言葉だった。 それすらも晴翔は佐藤の録音データで聞いた。『向井先生は我等の神です』 あの時とは、まるで違った意味に聴こえる。
改めて淹れ直したコーヒーを、臥龍岡が晴翔に差し出した。 晴翔は部屋に来た時のように臥龍岡に向かい合ってソファに座った。(自分の推理が読まれるのは構わないって、理玖さん言ってたけど。何処まで読まれてもいいんだろう) 晴翔なら手の内は隠しておきたい。 そのほうが、どう考えても有利だ。(有利になる必要はないってコトなのかな) コーヒーに映る自分の顔を眺めながら、臥龍岡がクスリと笑った。「空咲さんがそれだけ無防備に私と圭の関係を会話の中に撒き散らしているってことは、少なくとも向井先生と空咲さんの間では共通認識。ソースは私が提示した種以外なら、栗花落礼音、更にもう一つ、向井先生が手に入れた形に残る何か。ソースが礼音なら、警察官の國好明良も把握している」 臥龍岡の目が上がった。 その顔は、すっかりいつもの臥龍岡に戻っていた。「yesなら沈黙で構いませんよ」 咄嗟に反応できなくて、晴翔は黙った。 無理に否定する必要がなくて、言葉が出なかった。(臥龍岡先生の会話運びは巧みだ。俺の小さな心の動きを掴んで利用してくる。まるで心の内を全部見透かされているみたいだ)「最初にヒントを与えたのは私ですし、RoseHouseの真実に辿り着くのは大歓迎です。動かぬ証拠があっても、向井先生は告発しないでしょうから」 臥龍岡が平然とコーヒーを啜る。「動かぬ証拠を、警察官も把握しているんですよ。RoseHouseは、いつガサが入ってもおかしくない状況です」「しないでしょう。國好明良には出来ない。何故なら、栗花落礼音は彼の家族だから」 晴翔は、ぐっと言葉を飲
起き上がった臥龍岡が腰を動かして晴翔の股間に自分の股間を押し当てた。「あーぁ、バレちゃいましたね。まさか向井先生ではなく空咲さんに指摘されるとは思いませんでした」 臥龍岡が、いともあっさり誤魔化しもせず白状した。「昼間、鈴木君に興奮剤を持たせて俺を襲わせれば、話は早かったと思いますが。何故、そうしなかったんですか」 洗脳が使える鈴木を使えば早かったはずだ。 わざわざあんな手の込んだ真似をしてまで晴翔を呼び出すのは、二度手間だしリスキーだ。「空咲さんを洗脳しても、無意味だからです。空咲さんには空咲さんのまま、向井先生の隣にいてもらわないと、困ります」 臥龍岡が晴翔の唇に指を押し当てた。「昼間の演出は栗花落礼音の心を折るためでもありましたけど。それ以上に、空咲さんの心を乱す為です。正義感の強い空咲さんは圭のやり方に怒りを覚えたでしょう? 今宵の誘いには絶対に乗ってくれるだろうし、怒りで心を乱したまま、私に会いに来てくれる。交渉を有利に進めるための前座です」 まんまと臥龍岡の戦略にハマったのだなと思った。 実際、晴翔はその通りの心境でこの場所に来た。 そう気が付いても、先程までの怒りも焦りも込み上げてこなかった。「話しているうちに空咲さんが冷静になっちゃったので、切り替えたつもりでしたけど。空咲さんて、向井先生相手じゃないと勃起しないんですか? それとも、フェロモン感じないと勃たないんですか?」 臥龍岡が晴翔の上で腰を振る。 気持ちいいが、欲情しない。「知りませんよ。少なくとも、貴方相手では無理みたいです」 自分でも正直、ビックリしている。 股間が驚くほど反応しない。
コーヒーを煽る晴翔を、臥龍岡が笑んで眺めた。「そのコーヒーに興奮剤が混ざっていたら、spouseの空咲さんでも興奮して、私を押し倒したくなりますよ。ベッドが役に立ってしまいますね」 臥龍岡が楽しそうな顔を向ける。 それは既に白石凌の襲撃で経験済みだ。「薬で興奮すれば、それが導入剤になって私のフェロモンも効果が出ますね。私のフェロモンは特殊なので、たっぷり気持ち善くなれる代わりに私の言葉を疑わない程、私を好きになれる媚薬です」 媚薬、という表現は言い得て妙だと思った。「佐藤さんも、そんな風に取り込んだんですか」 コーヒーカップを持ったまま、晴翔は問い掛けた。 臥龍岡の表情が一瞬、止まった気がした。「どうでしょう。個人的に従順なお人形より、嫌がりながら私の体にハマって沼る殿方を愛でるのが好きなので。空咲さんが、そんな風に私にハマってくれたら楽しいですね」 何とも良い性格をしている。 意外だとも思わない所が余計に臥龍岡の性格のヤバさを感じる。(理玖さんの推理だと、臥龍岡は佐藤さんに自分の特殊なフェロモンを使用していない。それどころか、積木君や秋風君にフェロモンを使っているのは鈴木圭が主だ。何故だろう) 十年前の時点で、花園叶は特殊なフェロモンを佐藤に使用している。 感情を上塗りされて叶を愛した佐藤は、spouse実験に巻き込まれた。 折笠が逃がしてくれなければ、spouseになっていたかもしれない。 ある可能性に気が付いて、晴翔はもう一口、コーヒーを含んだ。「試してみますか? 俺が貴方にハマるかどうか」 もう一口、コーヒーを