LOGIN近衛の黒真珠と謳われるパーシヴァルは、無実の罪で投獄され、オメガ隷奴へと貶められようとしていた。 牢を破り、夜を駆け、身の潔白を示そうとするが、罠にはまり奴隷商人に捕まってしまう。 オメガ隷奴のオークション会場で、パーシヴァルを購入したのは、オメガ隷奴の制度を廃止しようと奔走しているはずの皇帝・アルトゥールであった。
View More・カレドヴール帝国
大陸の覇者と呼ばれる侵略国家。 戦争と拡大によって国力を増す一方で、国内は階級制度と差別が根強く、オメガに対する偏見・蔑視が公然と存在する。 犯罪者や政治犯への処罰として〝奴隷落ち〟の制度が存在する。・アルカディール連合
砂漠地帯に点在する氏族の連合国家。 オメガを希少な存在として保護対象と見なす文化を持っていたが、カレドヴールによる侵略で属国化。独自の価値観は徐々に失われつつある。・アルトゥール・コンスタンティン・カレドヴール
カレドヴールの皇帝。アルファ。金髪碧眼。 冷静沈着で感情を外に出すことは少ないが、その内に複雑な葛藤を抱えている。・パーシヴァル・シャヒーン
アルトゥールの近衛。オメガ。黒髪にオリーブの肌、金茶の瞳。 カレドヴールとアルカディールのハーフ。・リオン・ソーンウッド
カレドヴール帝国・ソーンウッド家の現侯爵。アルファ。 パーシヴァルとは血縁を持つが、複雑な家族事情により、幼少期以降はほとんど接点を持たなかった。・モルドレッド・クレイモア
パーシヴァルの同僚の騎士。アルファ。 オメガに偏見のあるカレドヴール帝国の騎士団において、唯一パーシヴァルを〝友〟と扱ってくれる。・ヴィクトール・アッシュフォード
アルトゥールの側近。ベータ。伯爵家次男。 通称・ヴィ。有能な右腕であり、幼少の頃からアルトゥールの傍に仕えている。・レイヴン・クロウ
カレドヴールの暗部の長。 アルトゥールの耳目・手足となって働く。パーシヴァルは、温もりの中で目を覚ました。 アルトゥールの腕が背に回され、未だ残る傷を撫でている。「陛下……?」「アルと呼べと、言っただろう」 アルトゥールは、拗ねた感情を乗せてそう言った。「では、この部屋でだけなら……」「うむ。……だが、この部屋を出てもパーシーと呼ぶぞ」「はい」 傷を撫でるアルトゥールの手が止まる。「言っておくが……。俺は次代の皇帝は──」 アルトゥールの口元に、パーシヴァルが指を当てる。「エドワード殿下に、重荷を背負わせず、為政者として育てる覚悟を、僕も持とう」 パーシヴァルの言葉に、アルトゥールは驚いた顔をする。「ユーウェイン殿下と良好な間柄を築いていたアルを、ずっと羨ましいと思っていた。エドワード殿下にしわ寄せや悪意が及ばないように、慎重に距離感を保っていることも。……オメガ隷奴のことも、議会に腐敗が蔓延していることも……。僕は……アルの騎士だ。きみの心を、信念を守るために、盾になる」 ぐいとアルトゥールはパーシヴァルの体を抱き寄せた。 それらが、言うほど容易くないことは、パーシヴァルも理解しているだろう。 常に、その悪意に晒されてきた当人であるのだから、骨身に染みて──。 それでも、パーシヴァルは折れずに未来を見据えている。 アルトゥールの真意を汲んで、共に進むと言ってくれた。「ありがとう……」 アルトゥールは、他に言葉が思い浮かばなかった。終わり。
衣服は、とうの昔に脱ぎ捨てられ、ベッドの外へと落とされた。 微かに汗ばんだオリーブの肌から立ち上る、芳しい香り。 鎖骨に胸元に、一つ一つ丁寧に証を残し──。 アルトゥールは、パーシヴァルの体に火を灯す。「パーシー……」 「はい……、ここにおります……」 乳首を舌で転がすと、パーシヴァルの体がびくりと強張った。「怖くはないか?」 「いえ……」 だが、その声は震えている。 パーシヴァルにとって、体を重ねる行為は、一つとしていい思い出が無いだろう。 暴かれたのは、アルトゥールにだけだが──。 下劣な物言いや、下心を持って撫で回されたこともあると聞く。──スラムに居たなら、強姦されかけたこともあるだろう……。 脇腹を撫で、臍にキスを落とす。「ん……っ」 下腹に手を伸ばせば、既にそこは熱を持って立ち上がっていた。 やんわりと握り、幹を撫でながら、アルトゥールは先端を舐め上げた。「あっ……!」 パーシヴァルが反応を示す場所を、わざと音を立てて執拗に触れる。「や……、い……いけません……っ!」 「なにがいかん? 気持ちがいいなら、このままイケ」 「だ……だめ……で……、ああっ!」 びくりと体を強張らせ、パーシヴァルは果てた。 アルトゥールは、その熱情を口内で受け止め、飲み下す。「陛下っ!」 「アルと呼べ」 パーシヴァルの頬が、更に赤さを増す。「不敬では……?」 「番をねだっておいて、今更だろう?」 「……申し訳ありません」 「いい。……パーシーが、俺の気持ちを想って言ってくれたことは、分かっている」 「……それだけじゃ、ありません。……僕は、本当に……」 「それも、分かっている。……パーシーが、俺を求めてくれたことは、心から嬉しく思っている」 アルトゥールの指が、熱で現れた孔に触れる。 フェロモンを含んだ蜜が、トロリと溢れた。 それを、アルトゥールは舌で掬う。「ひゃっ!」 「ふふ……、オメガのこれは、アルファには甘露と聞いていたが。確かに甘い……」 舐め、啜り、吸われることに、パーシヴァルは両手で顔を覆った。 舌でそこをなぶられるたびに、たまらない甘い痺れが、背筋を駆け上る。「あっ! あっ! だ……だめで……す……、だめ……」 「あんなつまらぬ器具で、ここを穢さ
アルトゥールの寝室で、パーシヴァルは横たわっていた。 ヴィの用意した抑制剤を飲ませ、息もだいぶ落ち着いている。 アルトゥールは黙って、パーシヴァルの顔を見つめていた。 様々な感情が胸のうちにある。 しかしどの感情にも、正しい答えは出せないまま──。 ただ、現実としてある結果を前に、アルトゥールは途方に暮れていた。「……へい……か?」 「目覚めたか? 抑制剤で落ち着いたとは思うが、まだ休んでいたほうがいい」 目を開いたパーシヴァルは、半身を起こす。「ここは……、陛下の……」 「済まない。きみには、いい気持ちのしない場所だが、他になくてな……」 「陛下……?」 「アルで、いい。スラムで俺を助けた時に、帰り道で肩車をして、そう呼んでくれただろう?」 「申し訳ありません……、また陛下にご迷惑を……」 「きみは、俺の光で、永遠の英雄だ。迷惑だと、思った事は一度もない」 そう言ってから、アルトゥールは深々と頭を下げる。「済まない、パーシヴァル。結局俺は、またきみを危険に晒した」 「僕があなたの英雄なら、危険を引き受けるのが役目です」 「俺は!」 アルトゥールは眉根を寄せ、苦しげな顔で俯いた。「俺は……、きみを得難い存在だと思っている。……あんな形できみを穢し、きみの矜持を奪い……。今は見世物のように扱って、政治利用している……」 「光栄だと思ってます。陛下のお役に立てるなら、家臣としてどれほどの誉れかと」 「だが、きみは傷ついている!」 「それは……、僕が自分の……オメガ性に負けたような気がしたからです」 「負ける?」 「はい。オメガであるゆえに、世間がなにも認めてくれないことに腹を立てて、僕は一人であがいていました。……でも唯一の理解者だと思っていたモルもまた……僕をオメガと……。彼らにとって、僕は個人ではなくて、オメガなんです」 「いや……、ある意味、オメガの中でも稀少な存在……とは認識しているだろう」 「それでも……。それは僕の人格や、僕自身ではなくて、オメガ性しか見ていません。……僕を……僕と見てくれていたのは、モルじゃなくて、あなただった」 「だが……、結局俺も、きみを穢した存在だ」 「違います。……陛下は……、アルは僕を守るために、あなた自身が傷つくことも構わずに庇護してくれた。僕が命がけ
割れた窓から、レイヴンが飛び込んできた。「なんだっ?」 ほぼ同時に扉が開き、ヴィとアルトゥールが踏み込んでくる。「パーシヴァル!」 床に倒れ、衣服が乱れたパーシヴァルの姿と、部屋に立ち込める香の匂い。 アルトゥールは瞬時に状況を理解し、同時に怒りに全身が焼けるような感覚に襲われる。「陛下っ!」 ヴィの制止は、アルトゥールの耳に聞こえなかった。 そこで、レイヴンと切り合っているモルドレッドを、アルトゥールは無言のまま、その背に剣を打ち下ろす。「ぐあっ!」 振り返ったモルドレッドは、信じられないといった顔をした。 皇帝が、自らその剣で、賊を切ることなどあり得なかったからだ。 アルトゥールは、驚きに見開かれたモルドレッドの目を真っ直ぐに見据えながら、そのままモルドレッドの心臓を剣で刺し貫く。「あ……、が……」 モルドレッドの口から、赤い泡に続いて、液体が溢れ出た。「陛下……」「………………」 呼びかけるレイヴンに返事もせず、アルトゥールはモルドレッドを刺した剣をそのままにして、振り返った。「パーシヴァル殿、助けにきたのです。落ち着いて」「あ……、あ……っ!」 香に蝕まれ、ヒートが加速している。 だが、パーシヴァルは服の前を掴んで、身を縮こませ、手を差し伸べるヴィを拒絶するように壁に身を寄せ、首を振った。「パーシヴァル!」 歩み寄るアルトゥールが一喝すると、ハッとそちらを見たパーシヴァルは──。 相貌を崩し、まるで迎え入れるように手を伸ばす。「ある……」「そうだ、俺だ」 アルトゥールは、そのままパーシヴァルの体をグイと抱き上げた。
「なぜ、ソーンウッドが加担を……?」「リオンは自滅したようなものさ。きみは気づいていなかったようだが、やつは子供の頃から、きみを欲しがっていた」「ありえない……」 子供の頃から、腹違いの兄からは罵倒と蔑みをされた記憶しか無い。「リオンは母親が怖くて……、いや、違うな。あれは〝母親に見捨てられるのが〟怖くて、逆らえなかったんだろう。前侯爵夫人は、半分とは言え血を分けた兄弟を妾にすることを許してくれず、やつは泣く泣くきみを手放したんだ」「|義
騎士時代は、モルドレッドと二人で街の食堂で夕食を取り、エールを交わした。 と言っても、飲むのはもっぱらモルドレッドばかりで、パーシヴァルは果実水を飲んでいたが……。 アルコールは量を過ごせば、ヒートを抑えにくくなる。 オメガに生まれた者は、ヒートを抑えるために|己《おのれ》を律し、それでも本能的にやってくる衝動を、薬で抑える。 それを知るアルファの中には、パーシヴァルに無理矢理アルコールを飲ませようとする輩もいたが。 モルドレッドは、いつもそれを庇ってくれていた。「色々あって、疲
落ち着きを取り戻したアルトゥールは、部屋から出ていったヴィとレイヴンを呼び戻した。 二人は、パーシヴァルの体から器具を外す瞬間を──。 パーシヴァルの羞恥を慮って、座を外していただけだった。「では、こちらをお召しください」 レイヴンが、パーシヴァルの衣服を整えてくれる。「すまない、ありがとう」 身支度の手伝いをしてくれたレイヴンに礼を言い、パーシヴァルは改めてアルトゥールに顔を向ける。「では、私が掛けられたオークションの主催元は、ソーンウッド侯爵家だったのですか?」「うむ
数日が過ぎた──。 その朝も、いつもと同じく執務室に、レイヴンが現れる。 夜毎、アルトゥールはパーシヴァルを抱く。 言葉は交わせない。 ただ、どちらも香によって獣のようにまぐあうだけだ。 それによって、アルトゥールの心が日々疲弊していくのが分かる。 ヴィは、表情一つ変えずに、しかし明らかに憔悴しているアルトゥールを、痛ましく感じていた。「なにか、ございましたか?」 レイヴンが部屋から出ていったところで、ヴィは訊ねた。「別に、なにも……。……ただ、部屋から出るこ