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第10話

Penulis: 流星群を抜け出したら
両親は結局、スタッフに支えられながらホテルへ戻っていった。

けれど、湊だけはずっと雨の中に立っていた。

私が目の前まで歩いていったとき、湊の目はひどく赤くなっていた。

「初音、無理に連れ戻そうと思って来たんじゃない。

動画はもう削除された。ネットで広まったことについても、全部訂正した。初音が失った仕事も、治療にかかった費用も、俺が全部償う。

俺たちの子のことだって……」

そこまで言ったところで、湊の声は完全に詰まった。涙が次々と頬を伝っていく。

「……ごめん。

あの日、初音が俺の服を掴んだとき……お腹が痛いって言ってたの、ちゃんと聞こえてた。俺が一度でも振り返ってれば、あの子は助かったかもしれない」

湊は婚約指輪を掌に載せた。もう、それを私の指にはめようとはしなかった。

「ごめんなんて言ったところで、何も戻ってこないのはわかってる。

それでも……ここにいさせてもらえないか。

せめて、ただの知り合いからでもいい。もう一度だけ……」

目の前にいる、7年間愛し続けた人を見つめた。不思議なほど、胸は痛まなかった。

私はずっと、湊も美咲に騙されていただけなのだと思って
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  • 「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた   第11話

    その後、両親は半月ほどロンドンに滞在した。二人は毎日のように会社の前まで来ていたが、もう私を呼び止めることはなかった。雨の日には、父が傘を差して通りの向こう側に立っていた。私が同僚たちと笑いながら話しているのを見ると、何度かこちらへ歩き出そうとして、結局その場に立ち止まった。二人もようやくわかったのだ。償うというのは、もう一度私の人生に踏み込んで、今さら差し出した愛情を受け取れと迫ることではない。母は十数通の手紙を、会社の受付に預けていった。そこには、かつて母が見過ごしてきた小さな出来事が、いくつも綴られていた。家に戻ってから、アルバムを片っ端から見返したという。そこで初めて気づいた。高校生になってからの私には、一人で写っている写真が一枚もなかったことに。家族で写真を撮るたび、カメラを持って両親と美咲を撮っていたのは、いつも私だったから。どの手紙にも、許してほしいとは一言も書かれていなかった。ただ、何度も同じ言葉が綴られていた。【初音、ごめんなさい】父は仕事を辞め、カウンセリングを受けるようになった。私を突き飛ばしたあの手は、その後もずっと父を苦しめ続けた。カウンセリングの中で、父はこう認めたという。あの「冗談」が私を傷つけることくらい、本当はずっと前からわかっていた。けれど、周りがみんな笑っているのを見ているうちに、私一人の気持ちくらい犠牲にしても構わないと思うようになっていた、と。そして最後には、まだ生まれてもいなかったあの子まで、その犠牲になった。そこで初めて父は、取り返しのつかない傷があることを知ったのだ。二人は老後のために用意していた家を売り、そのお金を賠償として私に振り込んできた。私はそのまま送り返した。二人が私に返すべきものは、最初からお金ではなかった。それに私はもう、二人がどれほど後悔しているかで、自分が愛される価値のある人間だったと確かめる必要もなかった。両親がロンドンを離れる日、母は遠くから長いこと私を見つめていた。飛行機が離陸する前、最後のメッセージが届いた。【もう「家に帰ってきて」なんて言わない。初音がいる場所が、初音の家だから】私は返事をしなかった。けれど、そのメッセージを消すこともしなかった。帰国したあと、両親は美咲をもう娘のように扱うことはなかった。それ

  • 「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた   第10話

    両親は結局、スタッフに支えられながらホテルへ戻っていった。けれど、湊だけはずっと雨の中に立っていた。私が目の前まで歩いていったとき、湊の目はひどく赤くなっていた。「初音、無理に連れ戻そうと思って来たんじゃない。動画はもう削除された。ネットで広まったことについても、全部訂正した。初音が失った仕事も、治療にかかった費用も、俺が全部償う。俺たちの子のことだって……」そこまで言ったところで、湊の声は完全に詰まった。涙が次々と頬を伝っていく。「……ごめん。あの日、初音が俺の服を掴んだとき……お腹が痛いって言ってたの、ちゃんと聞こえてた。俺が一度でも振り返ってれば、あの子は助かったかもしれない」湊は婚約指輪を掌に載せた。もう、それを私の指にはめようとはしなかった。「ごめんなんて言ったところで、何も戻ってこないのはわかってる。それでも……ここにいさせてもらえないか。せめて、ただの知り合いからでもいい。もう一度だけ……」目の前にいる、7年間愛し続けた人を見つめた。不思議なほど、胸は痛まなかった。私はずっと、湊も美咲に騙されていただけなのだと思っていた。いつかすべてが明らかになれば、雨の中、私を背負って病院まで連れていってくれたあの頃の湊に戻ってくれる。そう信じていた。でも、ようやくわかった。私を守ってくれた湊も、本物だった。美咲のために、何度も私を傷つけた湊も、本物だった。相手の優しさだけを都合よく愛して、傷つけられるたびに、その痛みにまで言い訳を与えていいわけじゃない。「訂正も、賠償も、本来あなたが負うべき責任。私に振り向いてもらうための切り札じゃない」湊の手が大きく震えた。私は続けた。「やり直せないかって聞いたよね。でも、湊を見るだけで思い出すの。空港で、私の代わりにドレスが座っていたあの席も。消してもらえなかったあの動画も。生まれてくることのできなかった、あの子のことも。もう一度、湊を信じるだけの力は、私には残ってない」湊は俯いた。涙が一滴、また一滴と、掌の婚約指輪に落ちていった。長い沈黙のあと、掠れた声が返ってきた。「……わかった。今度は、無理強いしない」湊はようやく、私の決めたことを尊重することを覚えた。けれど、それが私たちの最後の別れになった。

  • 「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた   第9話

    湊が私の姿を見つけたのは、会社の公式サイトだった。掲載されていた写真の私は、すっきりと仕立てられたスーツを身にまとい、プロジェクトの発表会場の中央に立っていた。穏やかに、何の気負いもなく笑っていた。湊にとっては、もう長いこと見ていなかった私の笑顔だった。誰かの顔色を窺うこともない。笑ったあとに、周りが気を悪くしていないか確かめることもない。湊は一番早い便の航空券を取り、ロンドンへ飛んできた。それを知った両親も、あとを追うようにやってきた。発表会が終わった日。会場を出た私は、雨の中に立つ三人の姿にすぐ気づいた。湊はずいぶん痩せていた。その手には、私が置いてきた婚約指輪が握られていた。母は私を見るなり、涙をこぼした。足早にこちらへ近づいてくる。けれど、あと二歩というところで、ぴたりと足を止めた。「初音……お母さん、触らないから……怖がらなくていいのよ」それだけ言うと、母はもう言葉を続けられなくなった。母のすぐ後ろに立つ父は、いつもまっすぐだった背中が、急に何歳も老け込んだように丸く見えた。「あの日……初音を突き飛ばしたのは、お父さんだ。毎晩、夢に見るんだ。初音が目の前に倒れてるのに……お父さんは一度も振り返らなかった」そう言って、父は自分の頬を思いきり叩いた。「殴ってもいい。罵ってくれてもいい。だから……もう一度だけ、お父さんって呼んでくれないか」私はただ、静かに二人を見つめた。「大学入試のとき、私はもう少しで試験に間に合わないところだったよね。あのときも、美咲は私の緊張をほぐそうとしただけだって言った。卒業の年には、お父さんが事故に遭ったなんて嘘までついて、私を呼び戻した。新幹線の中でずっと泣いてた私に、せっかくなのに空気を悪くするなって言ったよね。だから、そのうち泣かなくなった。何も聞かなくなったし、信じてほしいとも言わなくなった。今になって、やっと私の言うことを信じてくれた。でも、もういらないの」母は何度も首を横に振った。泣き崩れそうになりながら、それでも必死に言葉を絞り出す。「違うの……お母さんは初音を愛してる。私たちはただ、美咲ちゃんに騙されていただけで……」「二人が美咲ちゃんに騙されてた。それは事実」私は静かに母の言葉を遮った。「でも、そのたびに美咲ちゃん

  • 「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた   第8話

    飛行機が着陸しても、すぐに新しい生活を始められたわけではなかった。長時間のフライトで、残っていた体力まで使い果たしていた。到着ロビーで意識を失った私は、空港のスタッフに病院へ運ばれ、そのまま一週間入院することになった。そばには両親も、湊もいなかった。それでも、痛みで眠れない夜に、そっと毛布をもう一枚掛けてくれる看護師がいた。隣のベッドには、皮を剥いたリンゴを半分分けてくれる、親切なおばさんもいた。見ず知らずの人たちから向けられる、ほんのささやかな優しさ。それに触れるたび、私は結婚式の日のことを思い出した。私が欲しかったものなんて、最初から大したものではなかったのだ。なのに、この7年間。そんなわずかな優しささえ、我慢して、笑って、相手の機嫌を取らなければ手に入らないと思っていた。半年前、取引のあった海外企業から、「ロンドン拠点のチームに来てほしい」と引き抜きのオファーを受けていた。あの頃は結婚式を間近に控えていて、私は迷うことさえなく断った。入院して3日目。私はもう一度、その会社の担当者にメールを送った。相手はネットで騒ぎになった一件について、何一つ聞かなかった。返ってきたのは、たった一言だった。【私たちが評価しているのは、水野さんご自身の実力です。ポジションは今も空けてあります】その一文を見つめながら、私は泣いた。生まれて初めて、誰かに選ばれたことで涙を零した。退院後、小さなアパートに引っ越した。窓の外に、見慣れた街並みはない。部屋の中にも、私が合わせなければならない誰かの生活習慣はなかった。最初の数か月は、それでも夜中に何度も目を覚ました。夢の中ではいつも、誰かが笑いながら言うのだ。結婚式の場所が変わったから、早く来て、と。私は何度も何度も、息が切れるまで走った。そして目を覚ますたびに気づく。もう、追いかけなくていいのだと。私はカウンセリングを受けるようになり、定期的に診察にも通った。3年間ほとんど使っていなかったSNSも、また開くようになった。朝の霧や、仕事帰りに見かけた街の灯りを、ときどき写真に残した。無理に今すぐ過去を手放そうとはしなかった。ただ、これまで湊を待つために使っていた時間を、少しずつ自分のために取り戻していった。半年後。私が担当した新しいプロジェク

  • 「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた   第7話

    美咲は、すぐには何も認めようとしなかった。無断で撮った動画も、ただの企画だった。ネット上で私への批判を煽ったのは、アシスタントが勝手にやったこと。病室で私の手を掴んだのも、意識が朦朧としていたせい……そう言い張り続けた。けれど、涙よりも証拠のほうが雄弁だった。自分もあの結婚式の企画に加担していた湊は、その計画がわかる記録をすべて公開した。そして、私が撮影に同意したことなど一度もなく、人に美咲をネットで叩かせた事実もないと明言した。両親も初めてカメラの前に立ち、美咲が「冗談」という言い訳を盾にして、十年もの間私を傷つけ続けてきた事実を認めた。私が傷つくと、わかっていなかったわけではない。ただそのたびに、私が傷つくことより、美咲が喜ぶことを選んできたのだ。釈明が公開されると、世間の反応は一変した。美咲のアカウントは永久凍結され、すでに契約していたブランドからも、次々と契約解除と違約金の支払いを求められた。私は弁護士を通じ、プライバシーの侵害や、悪意ある編集による虚偽情報の拡散について美咲を訴えた。最終的に裁判所は、美咲に公開の場での謝罪と、この一件で私に対する損害賠償を命じた。800万円の違約金も、今度ばかりは誰も肩代わりしてくれなかった。美咲は車もブランド品もすべて売り払った。それでも、多額の借金が残った。泣きながら湊のもとを訪ねた美咲は、縋るように言った。「湊……私がこんなことしたのも、全部、湊のことが好きだったからなの。初音ちゃんがいないなら……私たち、今度こそ一緒になれるでしょ?」湊は長いこと美咲を見つめていた。その目にはもう、愛情も憎しみもなかった。「……いや、お前だけが悪いわけじゃない。いつだって、お前の味方をすることを選んでいたのは、俺自身だ。だから、全部お前のせいにするつもりはない。でも、それとこれとは別だ。もう俺の人生に、お前を関わらせるつもりはない」湊は人を呼び、美咲を外へ連れ出させた。それきり、二度と会うことはなかった。けれど、美咲一人が罰を受けたところで、失った赤ちゃんが戻ってくるわけではない。みんなに茶番にされてしまったあの結婚式も、もうやり直せない。湊は以前、美咲を庇うために書き込んだコメントを削除した。そして、自分のアカウントのトップに、一通の謝

  • 「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた   第6話

    湊が美咲の病室へ戻ってきたとき、その目はひどく充血していた。美咲は湊の姿を見るなり、たちまち目を潤ませた。「湊……初音ちゃん、まだ私のこと許してくれないの?退院したら、初音ちゃんの前で土下座して謝ってもいいから……」これまでは、彼女がこうして泣けば、誰もが放っておけなかった。けれど今回は、湊は違った。無言のまま、美咲の前にスマホを置く。「初音が、あのやり取りをSNSに流したって言ったよな。証拠は?」美咲の泣き声が、一瞬止まった。「だ、だって、投稿したアカウントはもう消えてるし……私にも、どうやって証明したらいいのかわからない。でも、初音ちゃん以外に、私をここまで恨む人なんているわけないじゃない」母がとっさに美咲を庇おうとした。だが、父がその腕を掴んで止めた。湊はそれ以上何も言わず、秘書に連絡を入れ、動画が投稿されたプラットフォームへ問い合わせさせた。2時間もしないうちに、記録が出てきた。最初に例のやり取りを投稿したアカウント。そのログイン端末は、美咲が普段動画投稿に使っていた端末と完全に一致していた。さらに、その端末からは、拡散を請け負う複数のアカウントへの送金履歴まで見つかった。振込人として記録されていたのは、美咲の個人事務所で長年働いているアシスタントだった。それだけではない。プラットフォーム側によって、削除されていた元のデータまで復元された。映像は残っていなかった。だが、美咲とアシスタントの通話は、はっきりと録音されていた。「まず業者を使って、私を徹底的に叩かせて。ひどければひどいほどいい。十分に炎上したところで、初音ちゃんがやったことにするの。あの子が否定すればするほど、みんな後ろめたいから必死なんだって思うでしょ」病室から音が消えた。聞こえるのは、医療機器の作動音だけだった。美咲の顔から、みるみる血の気が引いていく。「違うの……あれは、ちょっとどうかしてただけで……」湊は美咲を見ようともしなかった。今度は、院内の防犯カメラの録画を確認した。そこには、全員が病室を離れたあと、目を開けた美咲の姿が映っていた。美咲は私に向かって笑った。そして自分から私の手を掴み、点滴のチューブを乱した。そこへ父が駆け込んでくる。何があったのか確かめようともせず、私を激しく突き飛ば

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