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「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた

「冗談」を言い訳に、親友が私を傷つけ続けた

Por:  流星群を抜け出したらCompletado
Idioma: Japanese
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結婚式当日、私――水野初音(みずの はつね)は、朝の4時からヘアメイクさんを待っていた。 しかし、7時になっても、誰一人として現れなかった。 焦った私は、親友の清原美咲(きよはら みさき)に電話をかける。 すると、電話の向こうから笑い声が聞こえた。 「初音ちゃん、ほんと抜けてるよね。 昨日の夜、挙式の予定が急に変わったの。みんなもう会場に向かってるって」 私はウェディングドレスを抱え、急いで会場へ向かった。 汗だくになりながら到着した会場には、誰もいなかった。 その時、美咲から再び電話がかかってきた。彼女は笑いをこらえながら尋ねた。 「まさか、本当に会場まで行ったの?嘘でしょ、ただの冗談なのに! 今はリゾート婚が流行りでしょ? 式はとっくに白ヶ島に変更したの。みんな空港で待ってるわよ」 私は重たいドレスバッグを引きずりながら、第1ターミナルから第2ターミナルへと走り回った。 出発ロビーを何度も探しても、見知った顔なんて一つもない。 その時、美咲からビデオ通話が届いた。画面の中の美咲は、笑いすぎて肩を震わせていた。 「初音ちゃん、遅すぎ!もう先に出発しちゃった! ……なんてね。そもそも、リゾート婚なんて嘘だよ。私たちはただ白ヶ島に一週間遊びに行くだけ。式なんて、帰ってから後で挙げればいいじゃん」 画面が切り替わる。 そこには、私の婚約者である神谷湊(かみや みなと)が、美咲の荷物を持って歩いている姿が映っていた。 その二人のすぐ後ろには、父の水野修一(みずの しゅういち)と母の水野恵(みずの めぐみ)が立ち、家族写真を撮った時よりも楽しそうに笑っていた。 青ざめる私を見て、母は不快そうに眉をひそめた。 「ただの冗談だったのに。 やっぱり美咲ちゃんは気が利いて楽しいわね。初音は昔から真面目すぎるのよ。何でも深刻に考えすぎなの」 湊は美咲の肩に自分の上着をかけ、画面越しの私を見た。 「初音、先に帰って待ってて。 旅行が終わったら、ちゃんと戻って結婚してやるから」 画面に映るみんなの笑顔を見つめながら、私はもう、何かを言う気力さえ失っていた。 怒りも、悲しみもない。ただ、心の中が空っぽになっていく。 その場で、式場へキャンセルの連絡を入れた。 もう、この茶番に付き合うつもりはなかった。

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ノンスケ
ノンスケ
よくこんな人たちといて、我慢したね。結婚式の日に会場変更だ、なんだと振り回した挙句、式を延期して主人公だけ置いて旅行に行こうとするとか、こいつらなんだと思っとんの?って感じだった。主人公は仕事で海外に離れ、だんだんと彼らを忘れていくうちに、普通の生活を取り戻したけど、加害者には救済の余地はないな。
2026-09-28 18:40:47
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松坂 美枝
松坂 美枝
一家離散、婚約者も消して羽ばたく話 冗談でもやっていいことと悪いことがあると大人がわからない所からして… 主人公はよく頑張って耐えたよ
2026-09-28 09:34:01
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11 Capítulos
第1話
電話が切れた、その直後だった。突然、空港内にアナウンスが流れた。台風の影響により、全便欠航が決まったという。見ると、ファストトラックから湊と美咲、それに両親が歩み出てくるところだった。白ヶ島行きの便も欠航になったようだ。私がウェディングドレスを抱えているのを見るなり、美咲はお腹を抱えて笑い出した。「本当にウェディングドレス抱えて空港まで来たの?初音ちゃん、相変わらずからかいがいがあるなぁ」両親まで一緒になって笑っている。朝4時から待ち続け、ドレスを抱えて式場と空港を走り回った。そんな私の姿も、この人たちには、ただの笑いの種でしかないらしい。すると、美咲がふいに自分のお腹を撫で、意味ありげな顔で私に近づいてきた。「実はね、どうしても結婚式を一週間延期しなきゃいけないのには、もう一つ理由があるの。私、湊の子を妊娠したんだ」さっと血の気が引き、頭の中でけたたましい耳鳴りが爆発する。美咲は笑顔のまま続ける。「もうすぐ3ヶ月になるよ」私は反射的に湊を見る。湊は否定もせず、ただ平然とその場に立っていた。母はため息さえついた。「もうこうなってしまった以上、美咲ちゃんを責めても仕方ないでしょ。ましてや、子どもには何の罪もないんだから」耳鳴りがする。私はぎゅっと拳を握り締めた。指先の震えが止まらない。「じゃあ、結婚式をドタキャンしたのは、二人を結婚させるためなの?」一瞬、辺りが静まり返った。次の瞬間、美咲が吹き出した。湊も呆れたように口元を緩める。両親まで腹を抱えて笑い出した。「まさかまた信じちゃったの?」美咲は私の肩を叩きながら、涙が出るほど笑っている。「私、彼氏すらいないんだよ!誰の子を妊娠するのよ?初音ちゃん、今にも倒れそうな顔してる。面白すぎ」湊は手を伸ばし、美咲の額を軽く小突いた。「そういう冗談で、いつも初音をからかうなよ」一瞬だけ、胸の奥に淡い期待が浮かんだ。けれど次の瞬間、湊は眉をひそめて私を見る。「初音もだよ。美咲が冗談好きなの知ってるだろ。なんで毎回本気にするんだ?」母も面倒くさそうに手を振った。「そんな顔して、どういうつもり?昔から冗談が通じないね。みんな楽しくしてるのに、そんな顔されたら、まるでこっちが初音をいじめて
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第2話
空港の外で、突然大きな雷鳴が響いた。次の瞬間、叩きつけるような雨が降り始めた。湊が車を入口まで寄せると、両親が先に後部座席へ乗り込んだ。美咲は自分のワンピースの裾を持ち上げ、慣れた様子で助手席に座る。私も後部座席のドアに手をかけた。その時、美咲が口を開いた。「待って」美咲は降りて、私の腕からドレスバッグを奪うと、ウェディングドレスを後部座席の空いたところに広げた。「パニエが潰れちゃったら、来週の式で着られなくなっちゃうじゃない?」座席を占領するドレスを見つめ、私は呟いた。「私が抱えて乗るから」すると、美咲は少し困ったような顔で私を見つめ返してきた。「でも初音ちゃん、汗だくじゃん。せっかくのドレス、汚れたら嫌でしょ?」数秒の沈黙のあと、湊が淡々と言った。「初音はタクシーで帰って」私は思わず顔を上げた。「この台風よ?タクシーなんて捕まるわけないでしょ」湊は少し眉を寄せる。「追加料金払って優先にすりゃ、そのうち捕まるだろ。父さんと母さんは年寄りなんだから、こんなところで雨に打たせるわけにはいかない。美咲の靴は20万以上するんだぞ。靴底まで革なんだから。水に濡れたら一発でダメになる。ドレスだって来週の式で着るんだから、トランクに無理やり押し込むわけにもいかない」一気にまくし立てた湊は、それが一番理にかなっているとでも思っているようだった。「初音なら体も丈夫だろ。少しくらい濡れたってどうってことない」思わず自嘲の笑みが漏れた。……そうか。湊にとって私は、ドレスや靴よりも大切にしてもらえない。その程度の存在だった。母が車の中から声をかけた。「湊、もう行きましょう。美咲ちゃんさっきから寒そうにしてるじゃない。風邪でも引いたら大変よ」目の前で、ドアが閉まった。湊は窓を少し開ける。「家に着いたら連絡して」それだけ言い残し、車は雨の中へ消えていった。私は空港の入口に一人残された。配車アプリの待ち時間は、いつの間にか10分から30分に延びていた。画面には、容赦なくドライバーからのキャンセル通知が次々と並んだ。気づけば、服も髪もすっかり濡れていた。濡れそぼった髪が、冷たく頬に張り付く。吹き抜ける寒風に、歯の根が合わないほど体が震えた。立ち尽くす
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第3話
家に着いた頃には、熱で意識が朦朧としていた。どれほど時間が経ったのだろう。湊が足早に部屋へ入ってきた。ソファの上で丸くなっている私を見るなり、その顔色が変わる。「初音?」額に手を当てた湊は、すぐに体温計を引っ張り出してきた。39.2度。「家に着いたら連絡しろって言っただろ。なんで無視したんだよ!父さんたちと美咲を送ってから、わざわざ空港まで引き返して探し回ったんだぞ」苛立ちを押し殺した声とは裏腹に、彼の手つきはすごく優しかった。乾いたタオルで私の濡れ髪を拭い、ソファの傍らにしゃがみ込むと、靴擦れで血の滲んだ踵を消毒し始める。消毒液が傷にしみ、私は思わず身をすくめる。湊の手が、すぐに止まった。「痛いなら言えよ。今日はさすがにやりすぎた。式のことはもうプランナーに連絡してある。来週、改めて準備してもらう。ここ数日はゆっくり休め。あとは俺に任せておけばいい」俯いて手当てをする湊を見つめているうちに、大学時代の記憶が蘇った。あの頃にも一度、豪雨に打たれて高熱を出したことがある。湊は私を背負って2キロ先の病院まで運び、そのまま一晩中そばについていてくれた。翌日、美咲は笑いながらちゃかした。「雨に濡れたくらいでこんな熱を出すなんて。初音ちゃん、湊君に構ってほしくてわざと弱々しいふりをしてんじゃないの?」湊の表情は、たちまち険しくなった。「39度も熱があるんだぞ。何が面白いんだ?二度と初音の体調を冗談の種にするな」そう言うと、湊は私の布団を掛け直し、まだ辛いかと小声で気遣ってくれた。あの頃の湊は、美咲のたった一言のからかいからすら、私を守ろうとしてくれた。それが今は、自分の手で私の苦しみを、みんなの笑い種へと差し出したのだ。不意にスマホが震えた。美咲が新しい動画を投稿した通知だった。【結婚式当日に花嫁を3回連続で騙してみた結果、まさかの全乗り!】冒頭に映っていたのは、迎えを待ちながら、一人きりで家に座っている私だった。続いて、ウェディングドレスを抱えて誰もいない式場へ駆け込み、ドレスバッグを引きずりながら空港を走り回る姿が映し出される。最後は、美咲が湊の子を妊娠したと告げた瞬間。血の気を失った私の顔が、アップになっていた。……朝の5時から、彼らは物陰に撮
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第4話
夜が明けたばかりの頃、突然、部屋のドアが蹴り開けられた。飛び込んできた父に、いきなり頬を張られる。続いて母が、私の目の前にスマホを叩きつけた。画面に映っていたのは、美咲が手首を切る前に投稿した、最後の動画だった。美咲は全身を震わせながら泣いていた。「初音ちゃんが、私と湊のやり取りをネットに流したの。それで、私が泥棒猫って叩かせて……アカウントまで通報されて……全部、私が悪いの。初音ちゃんにあんな冗談なんて言うべきじゃなかった。許してもらおうなんて甘えてた私が悪いの」そんなやり取りが何を指しているのか、私には見当もつかなかった。けれど、美咲が涙ながらに訴えたことで、誰もが私の仕業だと決めつけていた。私が裏で美咲にネットリンチを仕掛け、追い詰めたのだと。母が私を指差し、怒鳴りつける。「初音、これで満足?美咲ちゃんは昨日の夜リストカットして、今も病院で処置を受けてるのよ!」美咲が残した遺書には、私への謝罪がびっしりと綴られていた。ただみんなを笑わせたかっただけなのに、私の結婚式を台無しにしてしまった。許してもらえないのなら、命で償うしかない、と。湊が乱暴に私の手首を掴む。その目に浮かんでいたのは、もう嫌悪だけだった。「たかが一本の動画だろ。そこまでして消させたかったのかよ。美咲の仕事まで潰して……もし美咲が死んだら、お前、一生後悔するぞ」まだ熱が下がっていなかった私は、何も説明できないまま、3人に連れられて病院へ向かった。美咲はすでに意識を取り戻していた。両親と湊が医師を呼びに病室を出ると、それまで目を閉じていた美咲が、ふいに目を開けた。そして私を見て、かすかに笑う。「7年も湊のことが好きで、1年かけて結婚式の準備までしたのにね。私が白ヶ島に行きたいって一言言っただけで、湊は花嫁のあんたを置いて、私についてきてくれた。あんたのご両親だって、実の娘より私のほうが大事みたい」私は怒りで全身が震えた。「やっぱり、あのやり取りもネットの炎上も……全部、あんたの自作自演じゃないの!」その時、廊下から足音が聞こえてきた。美咲の顔から、勝ち誇った笑みが一瞬で消えた。次の瞬間、いきなり私の手首を掴み、悲鳴を上げた。「初音ちゃん、お願いだから点滴抜かないで!ちゃんと謝ったじゃない
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第5話
それを知ったのは、ずっとあとのことだった。流産の診断書を目にした湊は、テーブルの前に長いこと立ち尽くしていたという。書かれている文字は、どれも知っているはずなのに。並んだ途端、まるで意味がわからなくなった。妊娠6週……外部からの強い衝撃による……流産?そのときふいに、病室の床で倒れた私が、必死に自分の袖を掴んでいたことを思い出した。「湊……お腹、すごく痛い。今月、生理も来てなくて、もしかしたら、妊ーー」けれど、最後まで言い切る前に、美咲が湊を呼んだ。湊は私の手を振りほどいた。私の足元に広がり始めていた血溜まりにすら、一瞥もくれなかったのだ。診断書を掴むなり、湊は家を飛び出した。赤信号を三つも無視してアクセルを踏み込み、病院へと車を走らせた。だが、息を切らして駆けつけた病室には、すでに別の患者が横たわっていた。当直の医師は記録を確認すると、眉をひそめて湊を見た。「水野さんの婚約者の方ですか?」湊は喉を詰まらせながら、どうにか頷いた。医師の表情が険しくなる。「水野さんは39度の高熱がある状態で、さらに強い衝撃を受けています。こちらで処置を始めた時点で、すでにかなりの出血がありました。意識が戻ったあとも、付き添いの方は誰もいらっしゃいませんでした。退院の手続きも、お一人でされています。こちらとしては経過観察のため入院をお勧めしたのですが……飛行機に間に合わなくなるから、と」診断書を握る湊の手が震え始めた。「赤ちゃんは……本当に、もう……?」医師は一度、湊の顔を見た。「ご本人も、妊娠していることをご存じありませんでした。もしあの時、誰か一人でも水野さんの異変に気づいて手当てをしていれば……違う結果になっていた可能性はあります」その言葉が、とどめだった。湊は壁にもたれたままずるずるとしゃがみ込み、病院の廊下で初めて、人目もはばからず泣き崩れた。連絡を受けて両親が駆けつけたときも、湊はまだ床に座り込んでいた。父は診断書を受け取るなり、さっと顔色を失った。あのとき。娘を突き飛ばした自分の手。それを思い出したのだろう。父は無意識に半歩後ずさった。母だけは、どうしても信じられないようだった。医師に詰め寄り、何度も同じことを尋ねる。「何かの間違いじゃないんですか?あの
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第6話
湊が美咲の病室へ戻ってきたとき、その目はひどく充血していた。美咲は湊の姿を見るなり、たちまち目を潤ませた。「湊……初音ちゃん、まだ私のこと許してくれないの?退院したら、初音ちゃんの前で土下座して謝ってもいいから……」これまでは、彼女がこうして泣けば、誰もが放っておけなかった。けれど今回は、湊は違った。無言のまま、美咲の前にスマホを置く。「初音が、あのやり取りをSNSに流したって言ったよな。証拠は?」美咲の泣き声が、一瞬止まった。「だ、だって、投稿したアカウントはもう消えてるし……私にも、どうやって証明したらいいのかわからない。でも、初音ちゃん以外に、私をここまで恨む人なんているわけないじゃない」母がとっさに美咲を庇おうとした。だが、父がその腕を掴んで止めた。湊はそれ以上何も言わず、秘書に連絡を入れ、動画が投稿されたプラットフォームへ問い合わせさせた。2時間もしないうちに、記録が出てきた。最初に例のやり取りを投稿したアカウント。そのログイン端末は、美咲が普段動画投稿に使っていた端末と完全に一致していた。さらに、その端末からは、拡散を請け負う複数のアカウントへの送金履歴まで見つかった。振込人として記録されていたのは、美咲の個人事務所で長年働いているアシスタントだった。それだけではない。プラットフォーム側によって、削除されていた元のデータまで復元された。映像は残っていなかった。だが、美咲とアシスタントの通話は、はっきりと録音されていた。「まず業者を使って、私を徹底的に叩かせて。ひどければひどいほどいい。十分に炎上したところで、初音ちゃんがやったことにするの。あの子が否定すればするほど、みんな後ろめたいから必死なんだって思うでしょ」病室から音が消えた。聞こえるのは、医療機器の作動音だけだった。美咲の顔から、みるみる血の気が引いていく。「違うの……あれは、ちょっとどうかしてただけで……」湊は美咲を見ようともしなかった。今度は、院内の防犯カメラの録画を確認した。そこには、全員が病室を離れたあと、目を開けた美咲の姿が映っていた。美咲は私に向かって笑った。そして自分から私の手を掴み、点滴のチューブを乱した。そこへ父が駆け込んでくる。何があったのか確かめようともせず、私を激しく突き飛ば
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第7話
美咲は、すぐには何も認めようとしなかった。無断で撮った動画も、ただの企画だった。ネット上で私への批判を煽ったのは、アシスタントが勝手にやったこと。病室で私の手を掴んだのも、意識が朦朧としていたせい……そう言い張り続けた。けれど、涙よりも証拠のほうが雄弁だった。自分もあの結婚式の企画に加担していた湊は、その計画がわかる記録をすべて公開した。そして、私が撮影に同意したことなど一度もなく、人に美咲をネットで叩かせた事実もないと明言した。両親も初めてカメラの前に立ち、美咲が「冗談」という言い訳を盾にして、十年もの間私を傷つけ続けてきた事実を認めた。私が傷つくと、わかっていなかったわけではない。ただそのたびに、私が傷つくことより、美咲が喜ぶことを選んできたのだ。釈明が公開されると、世間の反応は一変した。美咲のアカウントは永久凍結され、すでに契約していたブランドからも、次々と契約解除と違約金の支払いを求められた。私は弁護士を通じ、プライバシーの侵害や、悪意ある編集による虚偽情報の拡散について美咲を訴えた。最終的に裁判所は、美咲に公開の場での謝罪と、この一件で私に対する損害賠償を命じた。800万円の違約金も、今度ばかりは誰も肩代わりしてくれなかった。美咲は車もブランド品もすべて売り払った。それでも、多額の借金が残った。泣きながら湊のもとを訪ねた美咲は、縋るように言った。「湊……私がこんなことしたのも、全部、湊のことが好きだったからなの。初音ちゃんがいないなら……私たち、今度こそ一緒になれるでしょ?」湊は長いこと美咲を見つめていた。その目にはもう、愛情も憎しみもなかった。「……いや、お前だけが悪いわけじゃない。いつだって、お前の味方をすることを選んでいたのは、俺自身だ。だから、全部お前のせいにするつもりはない。でも、それとこれとは別だ。もう俺の人生に、お前を関わらせるつもりはない」湊は人を呼び、美咲を外へ連れ出させた。それきり、二度と会うことはなかった。けれど、美咲一人が罰を受けたところで、失った赤ちゃんが戻ってくるわけではない。みんなに茶番にされてしまったあの結婚式も、もうやり直せない。湊は以前、美咲を庇うために書き込んだコメントを削除した。そして、自分のアカウントのトップに、一通の謝
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第8話
飛行機が着陸しても、すぐに新しい生活を始められたわけではなかった。長時間のフライトで、残っていた体力まで使い果たしていた。到着ロビーで意識を失った私は、空港のスタッフに病院へ運ばれ、そのまま一週間入院することになった。そばには両親も、湊もいなかった。それでも、痛みで眠れない夜に、そっと毛布をもう一枚掛けてくれる看護師がいた。隣のベッドには、皮を剥いたリンゴを半分分けてくれる、親切なおばさんもいた。見ず知らずの人たちから向けられる、ほんのささやかな優しさ。それに触れるたび、私は結婚式の日のことを思い出した。私が欲しかったものなんて、最初から大したものではなかったのだ。なのに、この7年間。そんなわずかな優しささえ、我慢して、笑って、相手の機嫌を取らなければ手に入らないと思っていた。半年前、取引のあった海外企業から、「ロンドン拠点のチームに来てほしい」と引き抜きのオファーを受けていた。あの頃は結婚式を間近に控えていて、私は迷うことさえなく断った。入院して3日目。私はもう一度、その会社の担当者にメールを送った。相手はネットで騒ぎになった一件について、何一つ聞かなかった。返ってきたのは、たった一言だった。【私たちが評価しているのは、水野さんご自身の実力です。ポジションは今も空けてあります】その一文を見つめながら、私は泣いた。生まれて初めて、誰かに選ばれたことで涙を零した。退院後、小さなアパートに引っ越した。窓の外に、見慣れた街並みはない。部屋の中にも、私が合わせなければならない誰かの生活習慣はなかった。最初の数か月は、それでも夜中に何度も目を覚ました。夢の中ではいつも、誰かが笑いながら言うのだ。結婚式の場所が変わったから、早く来て、と。私は何度も何度も、息が切れるまで走った。そして目を覚ますたびに気づく。もう、追いかけなくていいのだと。私はカウンセリングを受けるようになり、定期的に診察にも通った。3年間ほとんど使っていなかったSNSも、また開くようになった。朝の霧や、仕事帰りに見かけた街の灯りを、ときどき写真に残した。無理に今すぐ過去を手放そうとはしなかった。ただ、これまで湊を待つために使っていた時間を、少しずつ自分のために取り戻していった。半年後。私が担当した新しいプロジェク
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第9話
湊が私の姿を見つけたのは、会社の公式サイトだった。掲載されていた写真の私は、すっきりと仕立てられたスーツを身にまとい、プロジェクトの発表会場の中央に立っていた。穏やかに、何の気負いもなく笑っていた。湊にとっては、もう長いこと見ていなかった私の笑顔だった。誰かの顔色を窺うこともない。笑ったあとに、周りが気を悪くしていないか確かめることもない。湊は一番早い便の航空券を取り、ロンドンへ飛んできた。それを知った両親も、あとを追うようにやってきた。発表会が終わった日。会場を出た私は、雨の中に立つ三人の姿にすぐ気づいた。湊はずいぶん痩せていた。その手には、私が置いてきた婚約指輪が握られていた。母は私を見るなり、涙をこぼした。足早にこちらへ近づいてくる。けれど、あと二歩というところで、ぴたりと足を止めた。「初音……お母さん、触らないから……怖がらなくていいのよ」それだけ言うと、母はもう言葉を続けられなくなった。母のすぐ後ろに立つ父は、いつもまっすぐだった背中が、急に何歳も老け込んだように丸く見えた。「あの日……初音を突き飛ばしたのは、お父さんだ。毎晩、夢に見るんだ。初音が目の前に倒れてるのに……お父さんは一度も振り返らなかった」そう言って、父は自分の頬を思いきり叩いた。「殴ってもいい。罵ってくれてもいい。だから……もう一度だけ、お父さんって呼んでくれないか」私はただ、静かに二人を見つめた。「大学入試のとき、私はもう少しで試験に間に合わないところだったよね。あのときも、美咲は私の緊張をほぐそうとしただけだって言った。卒業の年には、お父さんが事故に遭ったなんて嘘までついて、私を呼び戻した。新幹線の中でずっと泣いてた私に、せっかくなのに空気を悪くするなって言ったよね。だから、そのうち泣かなくなった。何も聞かなくなったし、信じてほしいとも言わなくなった。今になって、やっと私の言うことを信じてくれた。でも、もういらないの」母は何度も首を横に振った。泣き崩れそうになりながら、それでも必死に言葉を絞り出す。「違うの……お母さんは初音を愛してる。私たちはただ、美咲ちゃんに騙されていただけで……」「二人が美咲ちゃんに騙されてた。それは事実」私は静かに母の言葉を遮った。「でも、そのたびに美咲ちゃん
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第10話
両親は結局、スタッフに支えられながらホテルへ戻っていった。けれど、湊だけはずっと雨の中に立っていた。私が目の前まで歩いていったとき、湊の目はひどく赤くなっていた。「初音、無理に連れ戻そうと思って来たんじゃない。動画はもう削除された。ネットで広まったことについても、全部訂正した。初音が失った仕事も、治療にかかった費用も、俺が全部償う。俺たちの子のことだって……」そこまで言ったところで、湊の声は完全に詰まった。涙が次々と頬を伝っていく。「……ごめん。あの日、初音が俺の服を掴んだとき……お腹が痛いって言ってたの、ちゃんと聞こえてた。俺が一度でも振り返ってれば、あの子は助かったかもしれない」湊は婚約指輪を掌に載せた。もう、それを私の指にはめようとはしなかった。「ごめんなんて言ったところで、何も戻ってこないのはわかってる。それでも……ここにいさせてもらえないか。せめて、ただの知り合いからでもいい。もう一度だけ……」目の前にいる、7年間愛し続けた人を見つめた。不思議なほど、胸は痛まなかった。私はずっと、湊も美咲に騙されていただけなのだと思っていた。いつかすべてが明らかになれば、雨の中、私を背負って病院まで連れていってくれたあの頃の湊に戻ってくれる。そう信じていた。でも、ようやくわかった。私を守ってくれた湊も、本物だった。美咲のために、何度も私を傷つけた湊も、本物だった。相手の優しさだけを都合よく愛して、傷つけられるたびに、その痛みにまで言い訳を与えていいわけじゃない。「訂正も、賠償も、本来あなたが負うべき責任。私に振り向いてもらうための切り札じゃない」湊の手が大きく震えた。私は続けた。「やり直せないかって聞いたよね。でも、湊を見るだけで思い出すの。空港で、私の代わりにドレスが座っていたあの席も。消してもらえなかったあの動画も。生まれてくることのできなかった、あの子のことも。もう一度、湊を信じるだけの力は、私には残ってない」湊は俯いた。涙が一滴、また一滴と、掌の婚約指輪に落ちていった。長い沈黙のあと、掠れた声が返ってきた。「……わかった。今度は、無理強いしない」湊はようやく、私の決めたことを尊重することを覚えた。けれど、それが私たちの最後の別れになった。
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