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20.番になる準備

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-06-22 19:00:05

 夕餉の時も紅はいつも通り一緒にいてくれた。

 お風呂にも一緒に入った。最初の一回だけと言っていたのに、体をきれいに洗ってくれた。

 前より入念に、尻の中まで洗われて、ドキドキした。

 一緒の布団に入ると、紅が蒼の頬をじっくりと撫でた。

「蒼のお願いに応えて、毎晩ぎゅってして寝ようね。独り占め、していいよ」

 大きな胸に抱かれて、ドキドキする。

(おかしいな。今までもこんな風にして寝てたのに。前よりドキドキする)

 触れる胸も包んでくれる腕も温かくて安心するのに、鼓動がうるさい。

「そうそう、屋敷周囲の結界は強化したけど、蒼も少しずつ霊能を鍛えようね。この国では自衛は大事だから」

 何とも物騒だなと思うが、紅の言う通りだと思った。

「はい、頑張ります」

 気合を入れる蒼に、紅が眉間にしわを寄せて溜息を吐いた。

「俺も本気で対策を打つよ。今の状態で蒼を喰われたりしたら、本気で蛇々を殺しちゃいそうだし、国も壊しちゃいそうだから」

「え? 国?」

 スケールが違い過ぎる単語が飛び出して、呆けてしまった。

 呆けている蒼の顔を眺めて、紅が思い出した顔になった。

「ん? あぁ……。そういえば話してなかったね。俺には、この国の均衡を保つ役割があってね、俺が暴走すると瑞穂国が消滅しちゃうかもしれないんだ」

 あんぐりと口を開いて、蒼は言葉を失くした。

 王様やってる友人の手伝い、と芯は教えてくれたが、均衡を保つのが手伝いなんだろうか。

「均衡を保つと言っても、国を支える神様の茶飲み友達してるだけなんだけどね。その為に、月に一回は出掛けてるの」

「神様とお話しするために、ですか?」

「そう。仲良しの友人が国の統治者でさ。お願いされてるんだ」

 紅は普段から話し口が軽いので、重い話も何でもないように聞こえる。

 けれど、今日の話は流石に軽くは聞こえなかった。

「紅様は、この国の偉い妖怪だって芯が教えてくれたけど、凄い妖怪だったんですね」

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  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   30.色彩の宝石②

    「色彩の宝石っていうのはね、人間の宝石とは少し違って。いや、全く違う訳じゃないんだけど」 紅優が言い淀んでいる。 焦っているのか、言いづらいからなのか、わからない。 そんな二人を眺めて、黒曜が息を吐いた。「まぁ、色彩の宝石については、流石に話しづれぇわな」 紅優が蒼愛を膝に抱いて、背中を擦ってくれる。 昂った感情をどうしようもなくて、蒼愛は紅優にしがみ付いた。「色彩の宝石ってのはな、元々は瑞穂国の|臍《へそ》を守る|玉《ぎょく》だ」「……臍を守る……玉?」 静かに話し始めた黒曜に目を向ける。 「ああ、文字通り石の方の宝石だよ。この幽世の創世の時には、確かに在った。この国の均衡を保っていた宝石だ。神様ってのは本来はな、色彩の宝石を維持し、守るために存在してるんだ。だが、盗まれて現世に持っていかれちまった。それ以降、色彩の宝石は瑞穂国には存在しねぇのよ」 よくわからなくて、蒼愛は首を傾げた。 そんな蒼愛を尻目に、黒曜が説明を続ける。「どうして宝石の人間が大事にされるかってぇとな。六人の宝石が揃うと、色彩の宝石が作れると言われてんだ。もしまた色彩の宝石が瑞穂国に現れれば、紅優が均衡を守る必要がなくなる」「え? 紅優が? 役割が、なくなるの?」 蒼愛は紅優を見上げた。「俺の役割がなくなる訳じゃないけど、今よりは楽になると思うよ」「今より? 楽に?」 神様の茶飲み友達よりは楽になるのだろうか。「俺はこの国の均衡を守るために、日と暗の加護を受けているけど。妖怪には本来、相容れない加護でね。普通はこの二つの加護を受けると妖怪は浄化されて死んじゃうんだ」「えぇ⁉ 紅優は、大丈夫、なの……?」 紅優が、眉を下げて頷いた。「紅優自身が半分は神様みてぇな妖怪だ。だから平気なんだよ。けど、瑞穂国にそんな妖怪は紅優しかいねぇ。だから、長いこと均衡を保つ役割をしてもらってんだ」

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   29.色彩の宝石①

     蒼愛の霊能は紅優が思っていたより完成度が高かったらしい。 現時点では、得意な火と水の力を伸ばす方向で訓練が始まった。 霊能の訓練を本格的に始めたかった蒼愛としては、嬉しい。 初めこそ戸惑った顔で驚いていた紅優だったが、蒼愛の霊能が伸びるのを、徐々に喜んでくれるようになった。「蒼愛は覚えが早いし、器用だね。思考も体も柔軟性があって、やっぱり術者向きだよ。霊力量も順調に増えているし、風と土の練習を初めても、いいかもしれないね」 訓練三日目、炎を円にしたり紐のように伸ばしたりする練習をする蒼愛を眺めて、紅優が呟いた。「水は? 水はまだ、炎ほど上手く扱えないよ」 紅優が顎を擦りながら考えている。「昨日、教えたばかりだけど。水の壁、作れる?」 炎を消して、蒼愛は水の壁を目の前に展開した。 得意ではない属性の土より、水で結界を作った方がいいとアドバイスされて、練習していた。「いいね。その水で自分を、ぐるっと囲える?」 言われた通りに、蒼愛は水の壁を球体にして自分を包み込んだ。「上手だね。中から外に向かって、水の飛沫を飛ばして攻撃するのも良いと思うよ」 紅優が指を弾く仕草をする。 蒼愛は首を捻った。「水は、癒しや守りの力にしたいから、攻撃をのせるイメージがうまく湧かないかも」『四人の魔法使い』の本の中で、水の魔法使いは、傷を治したり解毒したりして仲間を癒していた。 紅優が納得したように頷いた。「イメージが湧かなかったり、蒼愛が納得できない力は無理に使わない方がいいね。きっと強い術にはならない」 蒼愛は水の結界を解いて、紅優に駆け寄った。「折角、紅優が提案してくれたのに、ごめん」 紅優が微笑んで、蒼愛の頭を撫でた。「それでいいんだよ。蒼愛が嫌だと思ったりできないと思う事、正直に教えてくれる方が俺は嬉しい。誤魔化さないで本音を教えてくれて、嬉しいよ」 本当に嬉しそうな顔をしている紅優を見上げて、照れ臭くなった。

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   28.ありがとうの相手

     昼食を終えた蒼愛は庭に降りた。 縁側に座る紅優に向かい合って立つ。「まずは、霊力を放出する練習をしよう。体の外に弾き出す感覚なんだけど、出来そう?」 自分の体を見回しながら、蒼愛は頷いた。「多分、出来ると思う」 自分の内側に流れる霊力を感じながら、腹に力を入れて、外側に弾き出す。 強い圧が蒼愛を中心に円状に放出した。地面に砂埃が舞った。「うん、良いね。霊力も練られていて滑らかだ。もしかして、練習してた?」「紅優の妖力と僕の霊力を混ぜたらもっと強い力になるかなって思って。このやり方が正しいかは、わからないんだけど」 部屋で一人の時などに、実は練習していた。 照れくさくて、小さく俯く。 紅優が微笑んだ。「大丈夫、ちゃんと混ざってるし、よく練られてる。これからも続けようね。蒼愛が言ったように妖力と霊力が混ざっていたほうが強くなるし、霊元に集中する程、霊力が練られて更に強度を増す」「わかった」 紅優が蒼愛の胸に手を当てた。「次は閉じる練習。霊力が流れ出る一方にならないように、留めるんだ。霊元が枯れると人は死んでしまうから、開きっぱなしにしないようにね。自分を内側に隠すようにイメージして」 蒼は言われた通りにイメージを始めた。 霊力が霊元に戻って、閉じていく。自分が消えていくような気がした。「そうそう、そんな感じ。霊元を閉じれば気配を消せる。蒼愛の多すぎる霊力は、妖怪にすぐに見つかるけど、こんな風に閉じれば、自分を隠せる。身を守るのに、大事だよ」 霊力の気配を消せれば、蛇々の時のような襲撃を受けても、逃げられるし身を隠せる。(僕が僕を守ることが、紅優の安心にも繋がるんだ。自分をちゃんと守らなきゃ) そう思ったら、気合が入った。「わかった。ちゃんと覚える」 蒼愛の顔を眺める紅優が満足そうに頷いた。「蒼愛は覚えが良いね。真面目で一生懸命な性格が、こういうところで活きるよね」「真面目とかではないけど、夢中になると

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   27.可愛すぎて辛い

     蒼愛と紅優は、テーブルに掛け直した。 目の前の白玉クリームぜんざいに、さっきまでの憂いが吹き飛んだ。 ソフトクリームと餡子を同時に頬張る。なんて贅沢な食べ方だろうと思った。「蒼愛は、美味しいもの食べてる時、良い顔するよね」 今日は紅優も一緒にデザートを食べている。 食べないと死ぬわけではないから、嗜好品のようだが、人間と同じように食べるのも嫌いではないらしい。 甘味が好きらしいというのを、最近知った。「二人で並んで甘いもの食べるの、嬉しいなって、思って」 もっと紅優の好きな食べ物を知りたいと思った。 紅優が蒼愛の口元に舌を這わした。「美味しいね」 艶っぽい笑みを向けられて、ドキリとする。「折角、美味しいぜんざいで蒼愛の気持ちが落ち着いたのに、また話しの続きをしなきゃいけないんだけど、聞ける?」 ぜんざいで落ち着いたのではなく、紅優の言葉と手の温もりで落ち着いたのだが。(紅優は時々、そういう勘違いする。僕が一番嬉しいのは紅優に触れてもらった時って、どうしたら伝わるんだろう) もどかしく思いながら、蒼愛は紅優の手を握った。「もう、大丈夫。僕は紅優が磨いてくれた宝石だから。胸を張って神様に会えるよ。その為に必要なお話は、ちゃんと聞く」 紅優に頭を撫でられた。 いつものような優しくゆっくりな手つきではなく、わしゃわしゃされた感じだ。「番になってから、いや、その前もだったけど、蒼愛がどんどん可愛くなって、辛い」「え? 辛いの?」 驚いたら、またわしゃわしゃされた。 一通り、わしゃわしゃした後に、髪を手櫛で直された。 紅優に髪に触れてもらうのは、やっぱり嬉しいと感じる。「えっと、どこまで話したっけ。水ノ神様の話だっけ」「うん。宝石の人間は、神様の力を受け継ぐ者って言われて、神様に仕えたりするって」「あぁ、そうそう、そうなんだよね。|側仕《そばつかえ》なら、まだいいんだけどさ。優秀だったり、そうでなくても神

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   26.原石

     今日のお昼はオムライスだった。 ケチャップで狐を書いてみたかったのに、出来上がったのはよくわからない何かだった。「今日はデザートがあるよ。白玉クリームぜんざい。蒼愛が好きな餡子系にしたよ」 思わず紅優を見上げる。 きっと目がキラキラしていると自分でもわかった。 紅優が嬉しそうに笑んだ。 自分が和菓子が好きだと知ったのも、紅優の屋敷に来てからだ。 一日一個のお願いで「お菓子が食べてみたい」とお願いしてから、三時のおやつを出してくれるようになった。 それからは時々、食事の後にもデザートが付くようになった。「蒼愛は、どれが好き? って聞いても、全部美味しいです、としか言わなかったから。本当に好きなお菓子を見付けるの、苦労したんだよ」 紅優が困った顔で語る。 蒼愛はオムライスを飲み込んだ。(だって、本当に全部、美味しかったから。お菓子なんて、初めて食べたから) チョコレートなんて、甘すぎて口の中がおかしくなるんじゃないかと思った。 「餡子系のお菓子食べてる時の蒼愛は目がキラキラして顔があからさまに感動してたから、わかりやすかったけどね」 頬をツンツン突かれて、恥ずかしくなる。(それくらい、僕を見ててくれたんだ。紅優って、やっぱり優しい。それに僕よりずっと大人だ) 千年も生きている妖狐なのだから、大人どころの話ではないが。 きっと、蒼愛だけではない。 今まで喰ってきた子供たちも、それぞれをちゃんと見て覚えているんだろう。(なんでも先回りしてくれて、僕が快適に過ごせるように整えてくれて。家事だって……) さっきの子狐を思い出して、蒼愛は顔をあげた。「この家の家事は、紅優の妖術で回してるの? さっき、子狐が洗濯物干してるの、見付けた」「そうだよ。あの子は俺の分身みたいなもの。妖力を固めてるだけだから、話したりはしないけどね」 蒼愛は、少しだけ考えた。(家事とかしたら、体力付くんじ

  • 『からくり紅万華鏡』—餌として売られた先で溺愛された結果、この国の神様になりました—   25.甘い毎日

     紅優《こうゆう》と番になって一週間くらいが過ぎた。 初めて体を繋げてから、紅優の妖力がたくさん流れ込んできた。 キスや口淫だけだった時より、ずっと濃い。 最初は体が火照った感じがして落ち着かなかったが、ようやく慣れてきた。(毎晩だから、慣れたのかな。それとも毎晩だから、火照ってたのかな) 番になった日から、紅優は毎晩、蒼愛《そうあ》を離さない。 (嬉しいけど、体がキツい。エッチって、体力必要なんだ) 紅優に抱かれるまで性的な行為の経験がなかったから、知らなかった。(だって、紅優は色々、おっきぃから……) 閨の紅優を思い出したら、顔が熱くなった。「う、運動しよう! 体力付けよう!」 一人で叫んで、蒼愛は部屋を飛び出した。 廊下に出ると、目の前を子狐が横切った。「え? 今の、小さい妖狐?」 明らかに紅優の気配だ。  追いかけると、子狐が洗濯場から籠を持って庭に飛び出した。 こっそりと後を追いかける。 小さな妖狐が、庭の物干し竿に洗濯物を干し始めた。(もしかして、あの子、紅優の妖術かな。この家の家事って、こんな風に回してたんだ。今まで全然気が付かなかった) 家の中に常に紅優の気配を感じるのは、結界のせいだと思っていた。 子狐の姿を視認したのは、今日が初めてだ。(番になって、紅優の妖力がたくさん混ざったから、わかるようになったのかな?) 体が火照る以外に、これといった変化は感じていなかったが。紅優の妖力は蒼愛が思っているよりも体に馴染んできているのかもしれない。「あ、蒼愛。昼餉の準備、できたよ」 屋内に戻ると、紅優が声をかけてくれた。 何となく、ぼんやりと紅優を見上げる。(違和感とかはないけど。紅優は普通に僕を蒼愛って呼ぶ) 蒼愛も紅優と呼んでいるからお互い様だし、番になったら一文字だった頃の名前は呼べなくなるらしいから、当然の変化なのだろう

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