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◇相馬の乱入 141

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-05-18 02:40:06

141

 う~ん、しかし……相馬さんにはああは言ったものの実際は

すごく困り果てていた。

 それと相原さんからメールもらったことについて期待しないでおこうと

決めていたものの、帰り際にまさかの彼の姿を見たこと……おまけに

視線まで合い、実は私のことを待っていたのかもなんて都合のいい考えが

チラッと浮かんだ。

 あまりのジャストタイミングで現れた相馬さん。

 相馬さんの出現がなければどんな展開になっていたんだろうと、

つい詮無いことを考えてしまう。

 相原さんとは交際している範疇に入らないほどで、片手に余るほどしか

2人きりで会ったことはない。

 でも会えると楽しいし、うれしいのはほんと。

 そこへ突然の相馬さんの乱入で気持ちが付いていかない。

 なんか、どっちを向いても宙ぶらりん状態なのを実感してしまう。

 相馬さんからの申し出を先送りし、返事を引き延ばしている自分が

相原さんと今までのような関係性の中で今までのような付き合いをすること

は二股になってしまうのかな?

 この辺のことで少しモヤモヤがあるけれど、どちらとも正式な交際はして

いないのだから二股どころか一股《こんな言い方ないと思うけど》もない

んじゃない? って思いなおしてみたり。

 私は断ることで気まずくなり今の仕事を辞めなくちゃならなくなるのが

怖くて相馬さんにはっきりと断れなかったという側面もあるし、一方で

どちらかが異動になった時に考えてみたいという気持ちも全くの嘘でも

なく、といったところだろうか。

 自分に問い掛けてみて出た結果はそういうところへと落ち着いた。

 とにかく早くモヤモヤのない日常に戻りたい。

          ◇ ◇ ◇ ◇

 そんな花が相馬のことを冷静に対処することができたのは、知らず知らず

相原の存在が影響していたのかもしれない。

 だが付き合ってもいない間柄でそのようなことを自分の中で思うことは

浮ついている中のただの自惚れのなせる業としか言いようがなく、そのよう

に安易に考えることは、恥ずかし過ぎる。

 だからそのような考えは微塵もしてはいけないと、心のどこかで

花は感じていた。
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  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇相馬の乱入 141

    141 う~ん、しかし……相馬さんにはああは言ったものの実際は すごく困り果てていた。  それと相原さんからメールもらったことについて期待しないでおこうと 決めていたものの、帰り際にまさかの彼の姿を見たこと……おまけに 視線まで合い、実は私のことを待っていたのかもなんて都合のいい考えが チラッと浮かんだ。  あまりのジャストタイミングで現れた相馬さん。 相馬さんの出現がなければどんな展開になっていたんだろうと、 つい詮無いことを考えてしまう。 相原さんとは交際している範疇に入らないほどで、片手に余るほどしか 2人きりで会ったことはない。 でも会えると楽しいし、うれしいのはほんと。 そこへ突然の相馬さんの乱入で気持ちが付いていかない。  なんか、どっちを向いても宙ぶらりん状態なのを実感してしまう。 相馬さんからの申し出を先送りし、返事を引き延ばしている自分が 相原さんと今までのような関係性の中で今までのような付き合いをすること は二股になってしまうのかな?  この辺のことで少しモヤモヤがあるけれど、どちらとも正式な交際はして いないのだから二股どころか一股《こんな言い方ないと思うけど》もない んじゃない? って思いなおしてみたり。  私は断ることで気まずくなり今の仕事を辞めなくちゃならなくなるのが 怖くて相馬さんにはっきりと断れなかったという側面もあるし、一方で どちらかが異動になった時に考えてみたいという気持ちも全くの嘘でも なく、といったところだろうか。  自分に問い掛けてみて出た結果はそういうところへと落ち着いた。 とにかく早くモヤモヤのない日常に戻りたい。           ◇ ◇ ◇ ◇  そんな花が相馬のことを冷静に対処することができたのは、知らず知らず 相原の存在が影響していたのかもしれない。  だが付き合ってもいない間柄でそのようなことを自分の中で思うことは 浮ついている中のただの自惚れのなせる業としか言いようがなく、そのよう に安易に考えることは、恥ずかし過ぎる。  だからそのような考えは微塵もしてはいけないと、心のどこかで 花は感じていた。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇束縛されたくない 140

    140     相原の存在があるからだ。 一緒にいると楽しいし、気持ちが和む。 そして相原と親しくするのを意図的に止めてしまうということは 凛を愛でることもできなくなってしまうことをも意味する。  数年先に付き合うかどうかも分からない相馬のために?  それは違うような気がする。 カフェでジャズを聴きながらの食事やコーヒーTimeも失くすの?  そんなのは嫌だ。 付き合ってもいないうちからの束縛はキツイものがある。「ごめんなさい。  多分誰かと交際するようなことはないと思うけど、会ってお茶したり 食事したりすることを制限されるのはきついです。 たまたま昔の知り合いに会って流れでカフェやバーに入るっていう 可能性はゼロじゃないので……」 『そっか、掛居さん、相原さんと食事なんかももうしてたりするんだ』  掛居の話振りからおよそのことが相馬には推測された。「たまに会って食事したりお酒飲んだりするようなボーイフレンドなんか、 いたりするんだ」 「ボーイフレンドって……そういう人はいないけど、男の人とは一緒に お茶したり食事したり飲みに行ったりしちゃあいけないとか、 制限かかること自体ストレスかな。 まぁ制限かけられなくてもそういう機会はほとんどないけど、でも やっぱり嫌ですね。 交際する人ができた時はちゃんと報告します」  俺は唐突に放たれた掛居さんの最後の台詞にビビった。 そんな報告、いらんから。 「いやぁ~ごめん。  少し求め過ぎだよね。 制約のことは忘れてくれていいよ。  どちらかが異動になるまで待つよ。  断られないだけでも有難いよ」 「私こそ、そういうふうに思ってもらえてうれしいです。  ありがとうございます」  そのような会話を交わしたその夜、私たちは食事しただけで解散した。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇即答できません 139

    139「え~と、何か……話があります?」 それとなく水を向けると相馬さんが「今更で言いにくいことなんだけど、うん、あるね」 勿体付けたような分かりずらい返事をしてきた。「なんでしょう?」「俺とのこと考えてみてくれないだろうか」「えっ、それって……」「結婚を視野に入れた交際を考えてみてほしいんだ」「あの最初に私たちで取り決めした約束は反故にするということですか?」「そうなるね」「それって本気なんですか」「……」 相馬さんは無言で頷いた。 驚いたってもんじゃないくらい私は驚いた。『またどうしてそんな気持ちになったんですか』と訊きたかった。 だって予兆などなく、余りにも突然過ぎたから。 でも実際面と向かって相手にそんな無粋なことを訊けるわけもなく。「まずは、そんなふうに言ってもらってありがとうございます。 私、毎日相馬さんとの仕事が楽しくて……それに遣り甲斐も感じてるし、短期間で辞めたりしたくありません。 私は交際していて上手くいかなくなった時に、それでも相手と一緒に仕事していけるほど強い人間じゃありません。 だから……。 一緒に同じ仕事をしている間はお付き合いできません」「違う部署で仕事が絡んでいなければ、俺と付き合ってくれたのかな?」「可能性はあったと思います」「そっかー、そうだよね。 それでお互い恋愛感情を挟まないって約束してたんだもんな」「そうですよ。だから今の話は聞かなかったことにします」「ね、じゃあこういうのはどう? 将来お互いのどちらかが異動になったら付き合うっていうの、 考えてみてくれないかなぁ」「今から約束はできませんけど、その時に考えさせて下さい、というのは駄目ですか?」「いや、いい。可能性があるならそれでいいよ、ありがとう。 ……あのさ、もうひとつお願いっていうか、言っておきたいことがあるんだけど」「何ですか?」「その考えてくれるっていう日まで他の男とは付き合わないでいてほしいんだ」「一緒に食事したりとかも駄目ってことですか?」「まぁ、そうだね」「……」 花は即答できなかった。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇Christmas セットを 138

    138 相馬から頼まれた残業は二人でやっつけると1時間足らずで終わってしまった。「ラスト、私のほうはこれで終わります」「ありがとー、助かったぁ~。お礼に何かご馳走させて」「えーっ、仕事なのでそんなこと気にしないで下さい」「いやまぁ、今日だけのことじゃなくて今までのこともあるしね。 いつか一度飯でもって思ってたから。 でも掛居さん金曜は大抵保育のほうの残業がずっと入ってたからなかなか誘う機会がなくてね。 また来週から夜間保育に入るだろうからそしたら今度いつ誘えるか分からないし、クリスマスもちょうど近いし、少し早いけどクリスマスってことで何か美味しいもの食べよう」「それじゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります。 実はお腹すいちゃってて……」「ははっ、俺も。お腹の虫が鳴いてる」 私と相馬さんがチョイスした クリスマスメニューは、Christmas セットでちょっぴりリッチな温野菜もたっぷりの濃厚クリームソースのハンバーググラタンにパンとケーキそれとコーヒーが付いてる。 ハンバーググラタンまでは2人共無言だった。 だってお腹空いてたのよ。  この後ポツポツ話しながら食事が進んで私の大好きなケーキ&コーヒーTimeになると不意に相馬さんが何か言いたそうな素振り。『いやんっ、ケーキ終わってからに……してほしい』って言うのは酷いかしら? 「ケーキがたまらないわぁ~、美味しい~」 お話引き留め作戦……どうだ。「ははっ、女の人ってケーキ好きだよね」「それっ、食べないならいただきましょうか?」「ぷっ、参ったなぁ~。掛居さん俺を黙らせようとしてない?」「えーっ、何か話したいことあるんですか?  こんな美味しいケーキが目の前にあるっていうのに」「分かりました、俺のケーキもどうぞ。 食べてからでいいから俺の話聞いてね。お・ね・がぁ~い」「ぷっ、相馬さん変な人になってますよ。 あぁ、ありがとうございます。 じゃあもう1個いただきますね。 ちょっとお待ちください。 う~ん、美味しい~」 相馬さんが涙目になって見えるのは気のせいかな。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇会えなくて寂しい 137

    137 そして明けて金曜日の朝、相馬さんと仕事の打ち合わせをする。「相馬さん、私、今日は保育所のほうの夜間保育には入らなくてよくなりましたので、急な仕事がなければ久しぶりに定時帰りしたいと思います」「そうなんだ。んっと……、大丈夫だと思う」『よしっ、久し振りに早く帰れそう、やったー』 ここのところ金曜は定時で帰れたことがなかったのでうれしい。 凛ちゃんと相原さんに会えないのは寂しいけど。 果たして……。 勤務を終えて1階まで降り、1歩外に踏み出すと晴れてはいるものの薄暗く寒風が刺すように肌が痛い。『ぎゃあ~、さぶっ』 言葉に乗せて口からつい出てしまう。 ふと見ると視線の先に相原の姿が……。 少し離れたところに立っているのが見えた。 今日はもう夜間保育もなくて会えないのだろうなという思いと、そう思う一方でメールをもらっていたので少しだけ会えるかもという期待もないわけではなく……みたいな、さまざまな感情に揺さぶられたあとのこと、うれしくなって彼に一声掛けて帰ろうとそちらに向かうと相原が顔を上げたので手を振ろうとした……のだが。  花が手を振ることは叶わなかった。 振るはずの腕を何者かに掴まれたからだ。『えっ』 見ると誰かの手が自分の腕を掴んでいるではないか。 視線を手、腕、肩、そして顔へと辿るとそれは相馬の顔だった。「びっくりしたぁ~、どうしたの?」「いゃぁ~、驚かせてごめん。 実は急ぎの仕事があったのをすっかり忘れていてね。 申し訳ないけど少し手伝ってもらえないかな」「いいですよ。早く片してしまいましょう」 この前向きな言葉を聞き、改めて掛居に対する好感度が更にアップする相馬だった。『あ……そういえば』 驚き過ぎて一瞬相原のことを忘れていた花は相原のいた方を見るも、もはや誰もそこにはいなかった。『声くらい掛けたかったなぁ~、残念』 ほんの少しだけ相馬のことを恨めしく思ってしまう花だった。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇メールの意味 136

    136   最初に変にお互い恋愛感情挟まないで仕事に邁進しようなんて盛り上がったために、今更付き合ってほしいなんてことは言いにくい。 非常に言いにくい。 つくづく世の中はままならないと身に染みた。 正式に交際しているかどうかは分からないが早く手を打たないと手遅れになるかもしれない。 今月は後1週間でクリスマスがあるんだよなぁー。 考えろよ、俺の頭。 何のために付いてんだよ~。 こういう時のために付いてるんだろ、考えるんだ俺の頭~。 そう言うと相馬は頭を掻きむしった。           ◇ ◇ ◇ ◇ クリスマスイブが日曜日でクリスマスが月曜。 週末誘えそうな日は金曜になる。 相原はクリスマス月の週末の金曜は掛居と一緒に食事ができれば、と考えていた。 凛を夜間保育に預ければ帰りに声を掛けられるが、凛がいては食事に誘えない。 それで今週の金曜は凛を姉に預けることにしたのだが、今度はそれだと社内にいる間に直接声を掛けるのが難しいという問題が出てくる。 そのため、メールでそれとなく掛居に探りを入れてみることにした。『明日は残業入りそうですか?』『確か明日は凛ちゃん夜間保育を利用しないんでしたよね。 芦田さんから他には明日夜間保育の利用者がいないので保育所のほうの残業はないと聞いてます。 相馬さんのほうの仕事でもたぶん残業はないんじゃないかと思いますが当日予定が変更になったりっていうのはたまにあるので確実ではないですが……定時で帰るつもりにはしてます。 凛ちゃんはお姉さんに預けるんですか?』『うん、凛は姉にみてもらうつもりなんだ……』『じゃあ明日は相原さん、久しぶりに定時上りできそうなんですね』『俺の方も確実じゃないけどね、じゃあおやすみ』 私の明日の予定を気にしているふうなメールを相原さんからもらって、ちょっと期待しちゃったけど結局残業はお互いになさそうだという話で終わった。 これってどういう意味のメールだったのだろう。 しばらくメールの内容に頭を悩ませたけれど、お誘いはなかったのだから変な期待をするのは止めようと思うことにした。 今週は会えなくて寂しいけれど、また次の夜間保育のある日に会えるのだし。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇青天の霹靂 135

    135  そして、たまたまではなかったことが分かってしまった。 掛居が金曜日に夜間保育の助っ人要員になっていることは 知っていたけれど、まさか……相原と一緒に帰るような仲に なっていたとは。 それは相馬にとって青天の霹靂だった。 自分はこれまで掛居とはいい距離感で上手くやってきており、 ふたりの関係性に満足していた。  恋愛を挟まないからこそのほどよい距離感であり、相馬は職場において 毎日充実していて、この先も最低でも2年から3年ほどは今のままで いられるのだと思っていた。  だが彼女に男ができるとなると話は違ってくる。  確実に……。 予想していたよりも早く彼女が退職してしまう可能性が出てくる。  それは嫌だ……。 いや、それも嫌だが彼女が自分とよりも他の男と親密になるのが すごく嫌だ。 恋愛感情は抜きでと、一緒に仕事するようになって最初にお互い 確認し合った仲とはいえ、時間の経過と共に自分が惚れこんだ相手なら 他の人間だって彼女の人柄の良さに気付くというもので、どうして この先も彼女が誰とも恋愛しないなんて思えたのか……油断していたことが 悔やまれる。  俺は、彼女の仕事場に恋愛感情を持ち込まないという姿勢に 惚れこんでいたわけだが、先週とそしてこの夜彼女の側近くに男の影を 見たことで、自分はいつの間にか恋愛感情で彼女のことを好きになって いたことに気付かされた。 何度も自分に問いかけてみた。 業務上とはいえ、仮にもパートナーの彼女を相原にもっていかれそうだか らという理由で焼きもちを恋心と勘違いしてはいまいかと。 自問自答してみる。 焼きもち焼いているのか?   ものすごく焼いてるな、自覚有り。  掛居さんがヤツのものになるのは嫌か?  すごく嫌だ。  じゃあこの先、掛居さんとずっと一緒にいたいのか?   いたい、と俺の心が告げる。 相原さんは同性から見ても魅力的な人で人間性も素晴らしいと思うが、 ここは、これだけは一歩も引けないと思った。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇お疲れモード全開 134

    134 『私も小暮さんに右倣えしようっと』                  *** 昼休みが終わりデスクに向かう私に横から相馬さんが揶揄《からか》ってくる。「掛居さん、朝は幸せオーラ全開だったのにどーしたの? 今度はお疲れモード全開だよ。 こんな掛居さん珍しいよね」「すごい、私のこと観察してるんだ。これからは気が抜けないな」「分かった、分かった。 いつも張り付いて見ないからちゃんと気を抜いてくださいよっと」「相馬さん、私もそれなりに心拍数の上がるようなことがあるんです~。 もう状況は上がったり下がったり、激しい激しい」「そんなの聞くと『それってどんなこと?』って気になるけど訊かないよ、安心して」「はい、お気遣い痛み入ります」 相馬さんと軽口を叩き合い、午後からの仕事はスタートした。 掛居と軽口を叩きあった週の金曜日のこと。 相馬はこの日も残業で残っており、ちょうど20時過ぎに仕事が終わった。 1階に降りたところで『そう言えば掛居さん、今日は夜間保育の日だったな』などと掛居のことを思い出し、保育所のほうを見やると……。 相原が子供を抱いて出て来た。 相原の子供がほぼ毎金曜日、夜間保育に預けられていることを知る由もない相馬は、掛居と相原の急接近のことも知らない。『相原さんも子連れで大変だなぁ』などと感慨に耽る間もなく、少し遅れて掛居が相原のあとを追うような足取りで自社ビルから出て行くではないか。『考え過ぎ? たまたまだろ』 そう思おうとした癖にちゃっかり相馬は二人の後を付けて行った。 そこには興味という名の言い訳とプラスアルファの感情があった。 そしてしっかりと見てしまう。 掛居が相原の車に同乗し、一緒に帰って行くところを。 相馬は考えた。『今回たまたまなのか……それとも』 どうしても確かめたくて次の金曜も2人の行動を注視することにした。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇遠野の世迷いごと 133

    133「たぶん、私が子持ちの相原さんを狙っているなんて微塵も想像してなかったんじゃないかな。 それと裏技使ったから油断したんじゃないのかしら」「裏技って?」 小暮さんの問い掛けに何故か遠野さんは私の顔を窺う。『なんで、私?』 そう思っていたら、とんでもないことを言い出した。「次の休日に休日のサポーター保育員として凛ちゃんを預かることになっていて、一度保育所の上司から住所を教えてもらったけれど、行き方に自信がないから教えてほしいって頼んだの」『きゃあ~、なんて恐ろしい人なの。 呆れるやら、呆れるやら、もっとドンピシャな言い得て妙的な言葉を口に出したいけど、言葉が出てこない。そんな自分が恨めしい』「うっわぁ~、それってバレるとヤバイ案件よ」「落ち着いて! 大丈夫よ。 突撃したから相原さんにはどこかで情報取ってることはバレてるけど訴えられてないしぃ」「う~ん、そういう問題じゃないと思うけど」「そういうのはひとまず置いといて、肝心なのはこの先の話なのよ。聞いて、2人共」「分かったわ。どうぞ」「突撃したら……なんと、女の人がいたのよ。がっかり……奥さんがいたのよ。 あぁ、違うかも、元が付くのかもしれないけど、家に出入りしているみたいだから復縁するのも時間の問題かもね。いやんなっちゃった」「へぇ~、残念だったわね」「だ・か・らぁ~、あなたたちも万が一にも彼を狙っても駄目だからね。 これを教えてあげようと思って招集かけたの」「そっか。私も掛居さんも気を付けるわ」 おだてにも取れるような無難で耳障りのよい言葉をかけると遠野さんは満足顔でブースから出て行った。 呆れ顔で小暮さんが言う。「何か、疲れましたね。 私たちに気を付けてって訳わからんことを話してる自覚なしで。 今後、私は遠野さんとはなるべく距離を置くことにします。 昼食もなるべく一緒にならないようにするつもりです」「うん、そうね。 変なことに巻き込まれそうで一抹の不安を私も感じたわ。 もう放っておきましょう」  私たちの変に濃ゆい昼休みが疲れを伴ってようやく終わりを告げた。

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