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第8話

Author: やし
南人の姿が完全にホールから消えるまで、結婚式場のスタッフたちは慌てて駆け寄り、彼女を支え起こした。

「安井さん、お怪我をされています。病院にお連れしましょうか」

夏美は軽く首を振った。

「いいえ、大丈夫です、自分で行けます」

差し伸べられた手を押しのけた後、彼女は一人で宴会ホールを出て、一番近い病院で傷の手当てを受けた。

主催者から連絡が入り、残り期限はあと2日だと告げられた。

彼女は道路に立ち、人波の行き交う通りを見つめながら、ふっと軽くなったような気持ちになった。

数日前までは、南人を完全に手放せるか心配していたが、今となっては思っていたよりもずっと楽だった。

彼女はため息をついて、帰ろうとした。しかし、振り返った瞬間、背後から棒で殴られ、気を失った。

目を覚ますと、夏美は頭に布をかぶせられ、血の逆流でひどく苦しくなっていた。光を透かして、南人が心音を抱きしめながらバンジージャンプの台に立っているのが見えた。だが、彼女の下には底知れぬ崖が広がっていた。

ボディーガードが動画を差し出し、恭しく言った。

「社長、当時この者が後ろから木村さんを殴って気絶させ、ここに縛り付けたのです」

心音は南人の腕の中で身を縮め、一瞥すると、すぐに顔を引っ込めた。

「南人、怖かったの。あなたが間に合わなかったら、今頃あなたに会えなかったかもしれない」

南人は台に逆さ吊りにされている彼女を一瞥し、冷たく笑った。

「安心しろ。彼女がお前をいじめた分、百倍にして返してやる」

夏美の全身が冷え切った。言葉を発しようとしたが、声が出せず、必死にもがくしかなかった。

「でも南人……もし人が死んだら……どうするの」

南人の目が鋭く光った。

「ただのゴミだ。死んだって大丈夫さ。

それに、お前の兄さんに約束したんだ。

俺がいる限り、誰もお前をいじめられないよ」

次の瞬間、南人の手の合図とともに、猛烈な落下感が頭に襲いかかり、血が逆流して頭が破裂しそうになった。夏美は全身を絶望に包まれ、次の瞬間には死ぬと思った。

「南……助け……」

彼女は必死に叫ぼうとしたが、かすかなうめき声は風にかき消された。

バンジーのロープは何度も上下した。

そのたびに、夏美は意識を失っては目覚め、生き地獄を味わった。

40分もの間苦しめられた末、突然、誰かに引き上げられて地面に投げられた。南人の革靴が彼女の顔を激しく踏みつけた。彼女は屈辱感が胸に押し寄せ、痛みと共に涙が溢れた。

「今回は心音の顔を立てて命は助けてやる。でも、よく覚えておけ!もう一度彼女に手を出したら殺す!」

そう言い終わると、南人のボディーガードたちによる集団暴行が始まった。

何十足もの先の尖った革靴が彼女の身体を容赦なく蹴りつけた。痛みはまるで何本もの刃物が神経に突き刺さるようで、彼女は思わず腰を曲げてしまった。

夏美は何発蹴られたのか覚えていない。ただ全身の骨が砕けたように感じた。

10分後、南人が電話を受けるため背を向けた隙に、心音がこの暴行を止めた。

心音は夏美の覆面頭巾を外し、あえて気の毒そうに装った。

「おやおや、これは夏美さんじゃないの。どうしてここに?

あなたのために、南人が私を追い出そうとしてるよ。そんなのダメね。

夏美さん。取引しましょうか」

心音は飛行機のチケットを彼女の前に差し出した。

「それなら、あなたが私の代わりに海外に行って、私はあなたの代わりに結婚するってのはどう?

そうすれば、今日のことは水に流すけど。そうじゃなきゃ、南人にあんたの足を折らせて、二度とランウェイを歩けなくしてやるわ」

夏美はうなずき、このすべてを心に深く刻みつけた。生きていれば、必ず倍にして返せるからだ。

南人が戻ってくると、心音は再び彼女に覆面頭巾をかぶせた。

「南人、彼女はもう反省してるわ。放してあげましょう。もし兄がいたら、きっと私にもそうさせたはずよ」

「分かった。お前が言うなら放そう」南人は微笑み、ボディーガードに手を振った。

「連れ帰れ。ただし死なせるな」

そう言うと、彼は心音を連れて、一度も振り返らず立ち去った。

彼女は病院の前に放り出された。再び目を覚ますと、何年も会っていなかった親友の小野光莉(おの ひかり)が、心配そうにベッドのそばに立っていた。

「何年も会ってないのに、どうしてこんな姿に」

彼女は軽く笑った。

「迎えに来てくれたの?」

光莉は涙をぬぐった。

「ええ、迎えに来るはずの人が急用で来られなくなったから、私が来たの。歩ける?」

「歩けるわ。今すぐ行こう」

車に乗ると、南人から住所付きのメッセージが届いた。

【夏美、心音の件は俺の誤解だった。明日の夜6時半、話がある。もう一度だけチャンスをくれないか?】

彼女はしばらく画面を見つめ、そのメッセージを心音に転送した後、SIMカードを窓から放り捨てた。

これから先、南人は、もう二度と彼女を縛ることはない。
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