Short
あざとい女を選んだ元カレ、私の結婚を知ると絶望

あざとい女を選んだ元カレ、私の結婚を知ると絶望

作家:  福満完了
言語: Japanese
goodnovel4goodnovel
8チャプター
7.5Kビュー
読む
本棚に追加

共有:  

報告
あらすじ
カタログ
コードをスキャンしてアプリで読む

概要

切ない恋

愛人

ひいき/自己中

クズ男

不倫

妻を取り戻す修羅場

後悔

中村浩平(なかむら こうへい)は、また家の前でひざまずいていた。 雪が彼の体に降りつもっていく。彼の顔は真っ青で、倒れそうだった。 いつもなら、私が彼をひっぱたいて、怒鳴りつけて、それで終わりだったはず。 こんなおかしい状態で、めちゃくちゃな関係のまま、浩平と斎藤紬(さいとう つむぎ)の二人と、一生も収拾がつかないんだと思っていた。 でも、今日、妊娠したのがわかった。 私は、自分の名前である白石夏美(しらいし なつみ)が記された診断書を握りしめ、初めてこんなに穏やかな気持ちになった。 「私、妊娠した。あなたの子じゃない。別れよう、浩平」

もっと見る

第1話

第1話

中村浩平(なかむら こうへい)は、また家の前でひざまずいていた。

雪が彼の体に降りつもっていく。彼の顔は真っ青で、倒れそうだった。

いつもなら、私が彼をひっぱたいて、怒鳴りつけて、それで終わりだったはず。

こんなおかしい状態で、めちゃくちゃな関係のまま、浩平と斎藤紬(さいとう つむぎ)の二人と、一生も収拾がつかないんだと思っていた。

でも、今日、妊娠したのがわかった。

私は、自分の名前である白石夏美(しらいし なつみ)が記された診断書を握りしめ、初めてこんなに穏やかな気持ちになった。

「私、妊娠した。あなたの子じゃない。別れよう、浩平」

浩平は震える手でエコー写真を受け取ると、それをビリビリに引き裂いた。

彼はひざまずいたまま私の前ににじり寄り、かすれた、でもきっぱりとした声で言った。

「そんなはずないよ、夏美。前に流産した時、お医者さんからもう妊娠するのは難しいって言われたじゃないか!

付き合って7年の記念日に、君を一人にして紬さんに会いに行ったのは悪かった。でも仕方がなかったんだ。8年前、俺はトラックにはねられそうになって、紬さんのお父さんが俺をかばって死んだ。死ぬ前に、彼女のことだけは頼むって。

彼女は重いうつ病で、発作が起きたんだ。ほっとけるわけないだろ……

約束する、もう二度とこんなことはしないから!」

浩平の約束を聞いて、私は思わず涙が出るほどに笑ってしまった。

「浩平、その約束、あなた自身は信じてるの?」

私が取引先からセクハラまがいの嫌がらせを受けていた時、浩平は紬の誕生日を祝っていた。

私が流産してしまった時、浩平は紬の卒業旅行に付き合っていた。

私が病気で入院した時、浩平はオークションで紬のために大金を使っていた。

いつだって彼はそう約束したじゃない。

何度も何度も、でも結局いつも「次」があった。

浩平は視線をさまよわせ、気まずそうに私の手を掴んだ。「ごめん、夏美、俺は……」

「触らないで、汚れるから!」私は咄嗟ににその手を振り払った。

浩平の目がさっと赤くなった。「汚くなんかない。俺は紬さんと何もやましいことはしてない。彼女に優しくするのは、ただ恩返しのためなんだ……」

そのセリフを、この何年間、彼は飽きるほど繰り返してきた。

私はもううんざりだった。「もうその話はいい。別れよう、浩平」

「夏美、別れるなんてひどいこと言わないでくれ。俺には耐えられない。君、会社を作りたいって言ってただろ?俺の会社の株を全部譲るから、な?」

浩平は私の手を掴もうとして、よろめきながら立ち上がった。

でも、その手が私に触れる前に、彼はそのまま倒れこんでしまった。

私は慣れた仕草で、すぐに119番に電話した。

浩平は意識がないのに、私の袖を強く握り締めて離さず、何度も私の名前を呼び続けた。

仕方なく、私も一緒に病院へ向かった。

でも、ベッドで真っ青な顔をしている浩平を見ても、もう心は痛まなかった。以前なら心苦しかったのに、今になっては何も感じなくなった。

私たちは、小さいころから同じ施設で育った。

私が他の子に半殺しにされても平気だったのは、浩平に一口でも多くご飯を食べさせるためだった。

一方、浩平は私の治療代のためにお金を盗んで、自分の人生を台無しにしそうだった。

紬が現れるまで、私たちはお互いにとって、唯一の恋人で、家族なんだって。愛し合って、一生、そうやって生きていくんだって、信じていた。

「夏美、やっぱり君は俺を見捨てられないって、わかってたよ」

目を覚ました浩平のうれしそうな声に、私ははっと我に返った。

私は近寄ってくる彼の体を押し返した。「浩平、これが最後だから」

「まだ怒ってるんだろ?だったら罵ってもらっていい。殴ってくれてもいい。それで君の気が済むなら、何でもするから」

浩平は無理に笑ってみせて、ベッドから起き上がろうとした。

私は冷めた目で彼を見た。「浩平、バカなふりはやめて。意味ないから。紬がいるかぎり、私たちの問題はなくならない。もうこれ以上、あなたに付き合うのはもう無理なの」

浩平は目を真っ赤にしていた。「そんなことない、夏美。約束する。これから紬さんがどんなにわがままを言っても、もう甘やかしたりしない。彼女のせいで君を悲しませることは、もう絶対にしないから」

彼がそう言い終わると、紬が病室に現れた。「浩平さん、具合が悪いの。そばにいてほしい」

浩平は、びくっとしたように私をちらりと見た。「今は夏美のそばにいないといけないんだ。だから、その……」

「父が死ぬ前に、あなたが父とした約束を忘れたの?やっぱり男なんてみんな嘘つき!父も亡くなじゃって、私にはもう誰もいない。もう死んだほうがましよ!」

紬はじだんだを踏むと、泣きながら病室を飛び出していった。

途端に浩平は私のことなど上の空になった。「夏美、話はあとだ。戻ってきたら聞くから」

彼は慌てて紬を追いかけ、またも私を一人にした。

私が相変わらず待っていると、浩平は信じて疑わなかった。

そして、私自身も、少し前まではそう思っていた。
もっと見る
次へ
ダウンロード

最新チャプター

続きを読む

レビュー

蘇枋美郷
蘇枋美郷
このクズ女のお陰(笑)で、長年連れ添ってきた相手がどれだけクズか結婚前に分かって良かったよ。おまけにクズ女が薬を盛ってくれたから逆に愛妻家と結ばれて主人公は幸せ一直線♡クズ達は自業自得の結末でざまぁだわ!
2026-03-02 15:27:29
3
1
松坂 美枝
松坂 美枝
恩を売る女が男を崩壊させる 結婚前で良かったし、女の策略で主人公は幸せ掴んだようなもんだ やり返されてざまあだったしこんな女を庇い、守り続けた男がどうなろうと確かに大したことではない
2026-03-02 09:40:10
10
0
ノンスケ
ノンスケ
これだけウザい女は滅多にいないと思うけど、恩を盾に守り続けるんだから、大したもんだわ。愛よりも強いくらい。どうせならもっと早くに飛び降りてくれれば、みんなおかしくならなかったのに。でも主人公が幸せな家族に囲まれて暮らせるなら、結果よかったよね。
2026-03-02 09:53:58
6
0
8 チャプター
第1話
中村浩平(なかむら こうへい)は、また家の前でひざまずいていた。雪が彼の体に降りつもっていく。彼の顔は真っ青で、倒れそうだった。いつもなら、私が彼をひっぱたいて、怒鳴りつけて、それで終わりだったはず。こんなおかしい状態で、めちゃくちゃな関係のまま、浩平と斎藤紬(さいとう つむぎ)の二人と、一生も収拾がつかないんだと思っていた。でも、今日、妊娠したのがわかった。私は、自分の名前である白石夏美(しらいし なつみ)が記された診断書を握りしめ、初めてこんなに穏やかな気持ちになった。「私、妊娠した。あなたの子じゃない。別れよう、浩平」浩平は震える手でエコー写真を受け取ると、それをビリビリに引き裂いた。彼はひざまずいたまま私の前ににじり寄り、かすれた、でもきっぱりとした声で言った。「そんなはずないよ、夏美。前に流産した時、お医者さんからもう妊娠するのは難しいって言われたじゃないか!付き合って7年の記念日に、君を一人にして紬さんに会いに行ったのは悪かった。でも仕方がなかったんだ。8年前、俺はトラックにはねられそうになって、紬さんのお父さんが俺をかばって死んだ。死ぬ前に、彼女のことだけは頼むって。彼女は重いうつ病で、発作が起きたんだ。ほっとけるわけないだろ……約束する、もう二度とこんなことはしないから!」浩平の約束を聞いて、私は思わず涙が出るほどに笑ってしまった。「浩平、その約束、あなた自身は信じてるの?」私が取引先からセクハラまがいの嫌がらせを受けていた時、浩平は紬の誕生日を祝っていた。私が流産してしまった時、浩平は紬の卒業旅行に付き合っていた。私が病気で入院した時、浩平はオークションで紬のために大金を使っていた。いつだって彼はそう約束したじゃない。何度も何度も、でも結局いつも「次」があった。浩平は視線をさまよわせ、気まずそうに私の手を掴んだ。「ごめん、夏美、俺は……」「触らないで、汚れるから!」私は咄嗟ににその手を振り払った。浩平の目がさっと赤くなった。「汚くなんかない。俺は紬さんと何もやましいことはしてない。彼女に優しくするのは、ただ恩返しのためなんだ……」そのセリフを、この何年間、彼は飽きるほど繰り返してきた。私はもううんざりだった。「もうその話はいい。別れよう、浩平」「夏美
続きを読む
第2話
これまでに私は、何度も挫けて彼を追いかけて喧嘩ばっかしてた。浩平と紬を「恥知らず!」とののしり、約束を破った彼をさんざん責めたんだ。いちばんひどかった時は、彼らが入ったホテルまでつけていって、花瓶で浩平の頭を殴って病院まで搬送した。友達の陣内凛(じんない りん)が、「夏美、もう……やめてよ。一人の男の人のために、あなたがボロボロになっていくのを見たくない」と心配してくれたこともある。でも、どうして私が諦めなきゃいけなかったんだろう?浩平が食べるものにも困っていた時、助けたのは私だった。彼が会社を立ち上げる時も、狭いアパートで一緒に暮らして、私の貯金を全部つぎこんで支えた。どん底の頃からずっと一緒にいて、彼が徐々に成功していく姿をすぐ隣で見てきたんだ。浩平が愛してるのは私だけだって、分かっていた。紬に優しくするのは、昔の恩を返してるだけだってことも……私を愛してくれる人と、やっと手に入れたこの良い生活も、どうして他の女の人にゆずらないといけないの?でも2ヶ月前、紬に薬を盛られて、私は陣内大輝(じんない だいき)と一夜を共にしてしまった。そのことを紬に問い詰めたら、浩平に初めて、ビンタされた。その時、私は決めた。世の中に男はいくらでもいる。浩平なんかに、もうこれ以上、時間を無駄にしたくないって。「夏美!」大輝の声で、私ははっと我に返った。ふと顔を向けると、彼のキラキラと輝く瞳が私を捉えている。大輝はいつもこうなんだ。まるで世界に私しかいないみたいに、まっすぐ見つめてくれる。だから、私の気分も少しは軽くなった。「どうしてここに?」と私は聞いた。大輝は、少し遠慮してるかのようにに近づいてきて言った。「君と、お腹の赤ちゃんに会いたくて。それと、ウェディングドレスや式場の準備について、もう一度打ち合わせしたかったんだ。もしかして、邪魔だったかな?」大輝は凛の兄で、いつもはクールで口数が少ない人だ。ただ私に対してだけは内気で優しく、何ごとも私を一番に優先してくれた。そんな、私にだけ見せてくれる特別なところが、私は好きなんだ。私は首を横に振った。「ううん、そんなことない。ただ、一度うちに戻って荷物を片付けなくちゃいけなくて」途端にぱっと顔を輝かせて、大輝が言った。「じゃあ、俺も一緒に行く
続きを読む
第3話
「夏美、俺たちは知り合って25年、付き合って7年になるね。君への気持ちはずっと変わらない。愛してるよ。結婚してくれないか?」会場はきれいに飾りつけられていた。浩平はゆっくりと私に近づき、片ひざをついて指輪を差し出した。周りの人たちも、はやしたてはじめた。「結婚!」「結婚!」私は指輪を受け取ると、そのまま浩平の頭に叩きつけた。「結婚って?そしたらあなたは紬と浮気して、私を裏切るんでしょ!」浩平は私の手を必死に掴んだ。「そんなことしないよ、夏美。俺が愛してるのは君だけだ。紬さんには、ただ恩返しをしてるだけなんだよ。本当だから信じて。もう怒らないでくれ」「浩平さん、そんな女にお願いなんかしないで!」紬が怒った顔で飛び出してきて、私を睨みつけた。「この気の荒い女!性格も最悪なくせに、浩平さんに好かれてるなんてありがたいと思いなさいよ。これでプロポーズは10回目なんでしょ。あんまり調子に乗らないほうがいいわよ、じゃないと……」私はシャンパンを彼女の顔にぶっかけた。「私のやることに、あなたが口を出すんじゃないわよ!」紬のドレスはずぶ濡れになった。浩平はとっさに自分のジャケットを脱いで、紬の肩にかけた。「夏美、俺に怒ってるなら何をしてもいい。でも、紬さんに八つ当たりするのは違うだろ……」またお説教。もう、うんざりだ。私は背を向けて歩き出した。「私たち、もう終わりよ。紬と一緒に、二度と私の前に現れないでちょうだい」私が階下へ向かうと、紬が追いかけてきた。彼女は私の腕を掴んだ。「あなたは、私より先に浩平さんに出会っただけじゃない?何を偉そうにしてるの?彼が本当にあなたを愛してるとでも思ってるの?もし一緒に危険な目に遭ったら、彼は絶対に私を助けるわ!」車が行き交う道路に、紬はなんと私を引きずり込んだ。ちょうどその時、浩平が駆けつけてきた。でも、彼が助けたのは紬だった。なんて馬鹿げてるんだろう。別れを告げた時でさえ、私は浩平の心の中で一番大切なのは自分だと思っていた。ただ、その心の一部を紬に分けてあげているだけだって。なんだ、私の勝手な思い込みだったのね。幸い、運転手の反応が早くて急ブレーキをかけてくれた。だから、軽くぶつかっただけで済んだ。「夏美、大丈夫か?どこか怪我は?」浩平が慌てて駆
続きを読む
第4話
「こいつを叩き出せ!」大輝は私をぐっと引き寄せて、数歩うしろに下がると、お店の人が浩平を外に追い出した。浩平がお店から引きずり出されると、大輝は急にしょんぼりした顔で私を見つめた。「ねえ、君のウェディングドレスが汚れちゃうと思っただけなんだ。怒ってないよね?」「大丈夫よ。残りのドレスも試着しよう」私は外にいる浩平のほうを気にもとめず、大輝のやきもちにも気づかないふりをした。私を裏切るようなことさえしなければ、大輝のやきもちも、別に構わない。ウェディングドレスの試着が終わると、妊娠中の私を気遣って、大輝は早めに家まで送ってくれた。「こんにちは、パパだよ」大輝が私のお腹に顔をうずめて、ふにゃっと笑う。私はしょうもなく言った。「もう、まだ2か月ちょっとよ。やっと心臓の音が確認できたくらいなのに」大輝は私のお腹にそっとキスをした。「そんなの、関係ないよ。だって、俺たちの赤ちゃんだもん!」彼はぽつりぽつりと話し始めた。「凛が初めて君を家に連れてきてくれたとき、俺はもう一目ぼれだったんだ。その後、取引先の人に絡まれたときも、相手の頭を殴ってケガをさせたでしょ。流産してひとりで救急処置室に入ったときでさえ、落ち着いて仕事の指示を出してたし……君に会うたび、どんどん好きになっていったんだ。でも、あの頃の君には好きな人がいたから、俺なんて全然目に入ってなかったよね。もう一生、俺にチャンスなんてないんだろうなって思ってた」大輝は嬉しそうに、いくつもプレゼントの箱を取り出した。中身は全部、高級ブランドのジュエリーだった。前は贈りたくてもそんな関係じゃなかったから。その分までってことなのか、ダイヤの指輪だけで20個以上もあって、私はもう笑うしかなかった。私は身寄りがなく、ずっと愛する人と幸せな家庭を築くことにあこがれていた。今、その夢がかなったのだ。私は大輝の顔を両手で包み込んだ。「だったら、このチャンスを大事にしてね。絶対に、私を悲しませるようなことはしないで」もしそんなことをしたら、私はためらわずに去るから。「絶対にしない」大輝はそう誓うように、私の唇にキスをした。私たちは肌が汗ばむほど、夢中になっていた。でも、お腹の赤ちゃんがまだ小さいから、それ以上はできない。彼は顔を赤らめながら立ち上が
続きを読む
第5話
「でも、私は嫌。私の子どもの父親は、未来の夫だけがいいの」その言葉に、浩平は笑顔を保てなくなった。「妊娠したって、本当なのか?あんなに俺を愛してたくせに、どうして……」「どうして浮気して他の男と寝たかって?それは紬のおかげよ。薬を盛られて、こんないいご縁をくれたんだから。それから、あの後のあなたのビンタにも感謝しなきゃ。おかげで、すっかり目が覚めたわ!」私が言ったのは、すべて事実だ。でも浩平には耐えられなかったらしく、数歩うしろによろめいて、地面に尻もちをついた。「どうして……どうしてこんなことに?俺は、君が紬さんをいじめてるんだと思って、それで……」浩平は苦しそうにぶつぶつと呟きながら、自分の頬を何度も叩いた。彼を慰める気にもなれず、私は冷たく言い放った。「帰って。もう二度と会いに来ないで。あなたと関わって、私の夫を悲しませたくないの」私が背を向けて立ち去ろうとしたとき、浩平はショックに耐えきれず、バタンと倒れた。でも今回は、救急車を呼んだだけで、そばにいることはなかった。彼の面倒を見るのは、この前が最後だって決めていたから。紬にされたことだって、見過ごすつもりはなかった。だから、とっくに警察には通報済みだ。1週間後、私は大輝と結婚式を挙げた。結婚式の翌朝、警察署から電話がかかってきた。「白石さんでしょうか?以前、斎藤さんに車道へ突き飛ばされた件で、防犯カメラの映像が手に入りました。お手数ですが、一度警察署まで来ていただけますか」「はい、わかりました」朝ごはんを済ませてから、私は大輝と一緒に警察署へ向かった。そこには、1週間前に紬とは縁を切ると誓っていたはずの浩平もいた。大輝が鼻で笑う。「紬のために腎臓を提供したばかりで、体も弱ってるだろうに。それでも付き添って来るなんて……本当にお人よしだな」「でたらめを言うな!」浩平は顔を真っ青にして彼を怒鳴ると、慌てて私に言い訳を始めた。「夏美、俺は紬さんと続いてるわけじゃない。ただ、彼女には身寄りが誰もいないんだ。俺が面倒を見ないと、誰も見てやる人がいないから」「私たちはもう別れたでしょ。私に言い訳する必要なんてない」浩平はいつも違う言い訳をする。そして私は、そのたびに期待していた。だからこそ、最後はあんなに絶望になったんだ。で
続きを読む
第6話
大輝はふん、と鼻を鳴らして浩平を脇へ押しやり、私のあとを追って車に乗った。私たちはそのまま空港へ向かい、新婚旅行のために海外に行った。引き締まった筋肉のサーファーとか、エキゾチックな雰囲気のバーテンダーとか、爽やかなイケメンとか……そういう人たちを、つい目で追ってしまう。ときどきスケッチしたりもした。大輝はもう、やきもちでいっぱいになって。私の顔をぐいっと彼の方に向けさせた。「なんであんな男たちばっかり見てるの?俺じゃだめ?俺を見てよ。俺だけを見て、お願い」私は苦笑しながら答えた。「私が作ってる女性向けの恋愛ゲームなんだよ。男性キャラを全部あなたにするわけにはいかないでしょ?」すると大輝は私の耳元に顔を寄せて、かすれた声でささやいた。「じゃあ今夜、俺が耳としっぽをつける。だから俺のこと、もっと見てよ。君のためなら、いくらでもモデルになるから!」大輝はやきもちを焼くと、すっごく張り切る。その夜も、何着も衣装を変えた。でも、まだ妊娠初期だから、何もできないんだけど。結局、むずむずしてつらいのは彼の方で、また私の胸にすり寄って甘えてきた。普段はカタブツでクールな人が、私にだけこうなんだ。正直なところ、悪い気はしない。妊娠中だから、激しいアトラクションには乗れない。だから景色を見てのんびり散歩するくらいだったけど、大輝はずっと付き合ってくれた。ショッピング中、私がちょっとでも目を向けたものは、彼は全部買ってくれた。まだ妊娠3か月にもなっていないのに、彼はもう赤ちゃんのために服やおもちゃを山ほど買っていた。凛とビデオ通話していると、彼女が笑いながらからかってきた。「うちのお兄さん、子供のころから氷みたいに無愛想だったんだよ。男にも女にも興味なし。私や母と買い物に行っても、ずっと一言もしゃべらないの。だから、一生恋なんてしないんだろうなって思ってた。まさか、ただ運命の人に出会ってなかっただけなんだね」凛が話し終えたちょうどそのとき、大輝がたくさん荷物を抱えて戻ってきた。「夏美、さっきのワンピース、やっぱり君に買ってきたよ。妊娠中は着られないかもだけど、もしかしたら着れるかもしれないだろ?」凛は呆れたように言った。「うわぁ。この顔じゃなかったら、誰だかわかんないところだよ。まさか、これが私のお兄さ
続きを読む
第7話
私はフンと笑った。「当たり前でしょ?あなたみたいに、彼女がいるのに他の異性とぐずぐずした関係を続けることはできないからね」浩平はいつも、「恩返し」を言い訳にしていた。別に浮気されたから傷ついた、というわけじゃないとか。浩平がまだ何か言いたそうだったから、私はイライラして口を挟んだ。「その話、続けるなら食事はやめるわよ」浩平は黙り込んだ。ただ目を赤くして、ひたすら私のお皿に料理を取り分けてくれるだけ。彼自身はほとんど何も口にしなかった。食後、私は株の譲渡契約書にサインして、自分の控えを受け取って席を立とうとした。浩平は立ち上がって、口を開いた。「夏美……本当に、俺に言いたいことはもう何もないのか?」「あるよ、乾杯しよう。私たちの円満な別れを祝って」私はジュースのグラスを手に取って、浩平のグラスにこつんと当てた。浩平は一気にそれを飲み干した。次の瞬間、彼の顔は真っ赤になり、額には脂汗がにじみ出てきた。浩平は、信じられないという目で私を見た。でも私は、嬉しそうな顔で彼に駆け寄って支える紬を冷ややかに見つめるだけ。そして、大輝と一緒にその場を去った。3時間後、知らない番号から電話があった。取り乱した浩平からだった。「夏美、俺の気持ちは分かってるだろ!俺には君しかいないのに、どうしてこんなひどいことをするんだ!」私はスマホを握りしめ、果てしない夜の闇を見つめた。「覚えてる?2か月前、紬が薬を入れたあのジュース、私に手渡したのは誰だったかしら?」私は施設からここまで歩んできた。どれだけの暗闇をくぐり抜けてきたか、知るよしもない。だから外では、浩平以外、人から渡された飲み物は絶対に口にしない。あの薬入りのジュースは、紬が彼の手を使って私に渡させたものだった。あの時、利用されただけの浩平を責めはしなかった。なのに私が紬を問い詰めたら、彼は私をひっぱたいた。浩平もそのことを思い出したんだろう。苦しさと絶望に満ちた声で「ごめん」とつぶやいた。「その言葉はもう聞き飽きたわ、浩平」「ごめん」の一言で、受けた傷が全部消えるわけじゃない。浩平は力なく笑った。「じゃあ、もう俺にチャンスは二度とないってこと、なんだよな?」「ええ」「だったら、大輝さんが君を悲しませないって、どうして言い切れるんだ?」
続きを読む
第8話
私が落ち込んでるのを見て、大輝はぎゅっと抱きしめてくれた。彼は心配そうに言ってくれた。「大丈夫。俺にとっては、君が一番なんだ。誰と比べても、絶対に君が一番だから!」そして大輝は、口だけじゃなくて、本当に行動で示してくれた。出産はとても順調で、義父や義母、それに凛も、みんな赤ちゃんの誕生期待していた。なのに大輝だけは不安で泣いてばかりで、看護師や医者に何度もお願いしていた。「もしものことがあったら、絶対に妻を助けてください!妻に何かあったら、俺も生きていけません!」と。本当は立ち会い出産するはずだったけど、あまりにパニックになってるから、かえって邪魔だと思われたみたい。結局、分娩室には入れてもらえなかった。出産はとっても順調で、私は2日で退院して家に帰った。大輝は不満そうに、そばに積まれた贈り物を指さした。「浩平からだ。子供に別荘と、かなりの額の株券を贈るんだ。自分は『親戚の叔父』として見守るつもりらしいぞ」浩平と付き合い始めたころ、私たち、まだ貧乏だった。彼は私を抱きしめながら、いつかきっと大金を稼ぐって約束してくれた。「君と子どもと一緒に大きな家に住んで、誰のことも羨ましくないようにしてあげる」って。もう私は大輝と結婚したのに、浩平はあのときの約束を、今になって果たそうとしている。でも、もう浩平とは何の関係も持ちたくなかった。「大輝、全部返してきて。うちの子に、こんなものは必要ないから」「よっしゃ!」大輝は、やきもちを焼いていたけど勝手に決めるわけにもいかなくて、もどかしかったみたい。私の言葉を聞くと、彼は大喜びで贈り物を返しに行った。凛が赤ちゃんを抱っこしながら、私に噂話を教えてくれた。「紬さんのことだけどさ。昔、あなたが彼女のせいで浩平さんとケンカしたとき、あなたのことを心が狭いって言ってたでしょ?それなのに彼らが結婚したら、会社の女性を全員クビにしたんだって。誰でも泥棒猫に見えるらしいよ。それで浩平さんが少しでも注意すると、すぐに『私、重いうつ病なの。もう死ぬ』って言い出すらしいよ。ここ数日は、もっとひどいんだから。浩平さんが女性のクライアントと会食してただけなのに、紬さんがそこに乗り込んできたの。で、そのお客さんを叩いて、『この泥棒猫!』って罵ったんだって。その人、浩平さん
続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status