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第3話

Autor: リスボンの海
翌朝7時、私は最後に残っていた書類を受け取るため、学校へ戻った。

校舎に入った途端、背後から嘲るような笑い声が聞こえてきた。

「ほら、全国トップクラスの秀才様がおいでになったよ」

「この子、もともとは榎本朔臣と一緒に白凪市に残るつもりだったんでしょ?なのにあの四人は全員、首都圏の難関大に進学することになって、自分だけ北嶺に行く羽目になったんだって」

「行く羽目になったっていうより、必死にすがったのに相手にされなくて、自分から惨めに逃げていくだけじゃない?」

数人の女子が階段の前を塞いでいた。

先頭に立っているのは、雛乃がつい最近知り合ったばかりの友人だった。

彼女は私を上から下まで眺め回すと、突然、首から下げていたカメラに手を伸ばして引っ張った。「これが、雛乃に貸してあげなかったやつ?」

私は彼女の手を押さえた。「離して」

「何ムキになってるの?」彼女はわざと声を張り上げた。「雛乃の言ったとおりじゃん。男四人と幼なじみだからって、本当に自分をお姫様か何かだと思ってるんでしょ」

すぐに隣の女子が口を挟む。

「残念だったわ。今じゃみんな雛乃のほうを選んでるけどね」

「しかも、どこかの誰かさんは恥ずかしげもなく自分から告白して、たった1日で振られたんでしょ?ウケる」

周囲には次第に野次馬が集まってきた。

私は顔を上げ、廊下の向こう側を見た。

そこには朔臣たちがいた。

岳は雛乃の書類を抱え、理玖は彼女のために提出書類を確認し、奏多は彼女の朝食を持っている。

朔臣も私に気づいた。

けれど、眉をひそめただけで、こちらへ来ようとはしなかった。

以前、学校で「冬月透花は四人の幼なじみを後ろ盾にして威張っている」と言った生徒がいたとき、朔臣はその生徒を放送室まで連れていき、全校生徒の前で謝罪させた。

それなのに今、私は大勢に囲まれ、カメラまで掴まれているというのに、彼はまるで何も見えていないかのようだった。

雛乃が小走りでやって来て、私の腕を掴んだ。「みんな、やめて。透花はただ、今ちょっと機嫌が悪いだけだから」

カメラを掴んでいる女子が鼻で笑った。「雛乃は優しすぎるんだよ。この子、雛乃にみんなが付き添ってくれるのが妬ましくて、子供の頃の動画を何本か貸すことすら嫌がってるんでしょ?なのにまだ庇ってあげるの?」

雛乃の目がたちまち赤くなった。

ようやく朔臣がこちらへ歩いてきた。

けれど彼がしたのは、雛乃を自分の背後へ庇うことだった。「透花、不満があるなら俺たちに言え。雛乃に当たるな」

私が口を開くより先に、背後にいた女子がカメラのストラップを勢いよく引っ張った。

カメラが床に落ちる。

さらに別の女子が「うっかり」掃除用のバケツを倒し、私は汚れた水を全身に浴びせられた。

一斉に笑い声が上がった。

「ごめーん、手が滑っちゃった」

私は顔についた水を拭い、腰を屈めてカメラを拾った。

朔臣は私を一瞥すると、苛立たしげに言った。「服が濡れたなら帰って着替えろよ。学校で騒ぎを起こすな」

そうか。

彼女たちが大勢の前で私を辱めるのは、ただの「手が滑った」で済む。

でも私が追及すれば、「騒ぎを起こした」ことになるらしい。

私はもう彼らを見ることなく、書類を受け取ると学校を出た。

30分後、着替えを済ませたばかりのところで、突然、家のドアが激しく叩かれた。

四人の幼なじみが雛乃を連れ、そのまま家の中へ入ってきた。

「水晶のお守りは?」岳がいきなり本題を切り出した。「さっきまで雛乃が身につけてたのに、気づいたらなくなってた」

私はドアにもたれたまま答えた。「それで?」

奏多が冷たい顔で言う。「学校で雛乃に触れたのはお前だけだ。お前以外、誰が持っていくんだよ」

そう言うなり、彼はまっすぐ私の部屋へ入り、引き出しを開けた。

ほかの三人も、クローゼットや机を勝手に探し始める。

18年間ずっと一緒に育ってきた彼らは、私の部屋に入るときにノックをしたことなど一度もなかった。

昔の私は、それを親しさの証だと思っていた。

でも今なら分かる。

彼らはただ、私のものなら何でも自分たちの好きにしていいと、最初から決めつけていただけだった。

岳がクローゼットを開け、中に数着の服しか残っていないことに気づいた。「なんで荷造りしてるんだ?」

胸の奥がわずかにざわついた。

すると理玖がスーツケースを一瞥し、私の代わりに答えた。「僕たちへの当てつけだろ」

奏多が鼻で笑う。「透花、お前もう何歳だよ。まだ家出ごっこなんてするのか?」

彼らは気楽そうに笑っていた。

私が本当にここを去ろうとしているなど、誰一人考えもしなかった。

朔臣は私の早期受入同意書を見つけたが、表紙をちらりと見ただけで、無造作に机の下へ放り込んだ。「北嶺に行くにしたって、まだ先の話だろ。まさか今日いきなり消えるわけでもあるまいし」

そのとき、雛乃の服の裾が机の角に引っかかり、水晶のお守りが机の隙間に落ちた。

彼女はそれを拾い上げた。「あった!」

雛乃自身で落としていただけだった。

雛乃は顔を赤らめ、私を見た。「透花、ごめんね。私の勘違いだった」

けれど朔臣は、雛乃の髪を優しく撫でただけだった。「見つかったならいい。もう泣くな」

私に謝るべきだと考える人は、一人もいなかった。

やがて雛乃は、パソコンに保存されていた動画ファイルに気づいた。

私たちが10歳のときにタイムカプセルを埋めた日の映像、15歳で海へ行ったときの映像、そしてこれまで毎年の誕生日に撮った映像。

「完全版はここにあったんだ」雛乃の目が輝いた。「これ、私の18歳の記念ムービーに使ってもいい?」

「ダメ」私は前へ出て、パソコンを閉じた。

雛乃の目から、たちまち光が消えた。

岳が私の前に立ちはだかる。「見るくらいいいだろ?お前、ムービーを編集してやるって約束したじゃないか」

「気が変わった」

その瞬間、雛乃の目から涙がこぼれ落ちた。「透花は……私なんか、永遠にみんなの友達になる資格がないって思ってるの?」

朔臣の顔が険しくなり、私からマウスを奪い取った。「雛乃が動画を欲しがってるんだ。お前が映るのが嫌なら、自分が映ってるところだけ消せばいいだろ」

「朔臣、触らないで」

彼は私の言葉を無視し、私の名前がついたファイルをすべて選択した。

止めようと手を伸ばした瞬間、奏多に腕を強く掴まれた。「たかが動画数本だろ。命まで取られるわけじゃあるまいし」

次の瞬間、朔臣が削除キーを押した。

ゴミ箱に移したあと、そのまま完全に削除した。

初めて自転車に乗れた日の映像。

初めてコンテストで賞を取った日の映像。

そして16歳のとき、朔臣がカメラに向かって「将来は絶対に透花と結婚する」と言った映像。

そのすべてが、彼自身の手で完全に削除された。

「これでいいだろ?」朔臣はマウスから手を離すと、冷たい顔で言った。「これから作る雛乃の記念ムービーに、お前が映ることはもうない」

彼はただ、私を怒らせたかっただけなのだろう。

でも彼は知らない。

その言葉が、もうすぐ本当になることを。

国立先端エネルギー研究機構の担当者からメッセージが届いた。

【迎えの車は明朝7時に到着します。】

私はパソコンを閉じ、スーツケースのファスナーを最後まで引いた。

18年という歳月は、詰めてしまえば、たった一つの大型スーツケースに収まる程度のものだった。

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