共有

chapter16

作者: 水沼早紀
last update 最終更新日: 2025-06-13 19:03:33

✱ ✱ ✱

「おはよう、佐倉さん」

「課長!……お、おはようございます」

 会社に出勤すると、ちょうどバッタリ課長と遭遇した。

「どうした?」

「いえ……なんでもありません」

 どうしよう……。昨日のことが気になって課長と顔を合わせるのが気まずいな……。

「昨日は、電話ありがとう」

「……いえ」

 課長は私の肩を叩いてから、仕事場へと歩いて行った。

「あら、おはよう瑞紀」

「おはよう、沙織」

 すると、私の顔を見た沙織が「ねぇアンタ、今日メイク濃くない?」と、自分のデスクに座った途端に、沙織にいきなりそう言われた。

「えっ!そうかな?」

 いつも通りに、メイクしてきたんだけど……。

「どう見ても濃いわよ。アンタ一体、どうしちゃったの?」

「どうもしないよ? ちょっと寝不足で、クマが出来てたから、クマを隠したくて……」

 そう言うと、沙織は「寝不足って……アンタなんかあった?」と、私の顔を見る。

「え? あ、いや……。べ、別に!? ただ友達と電話してたら、遅くなっちゃっただけ」

「ふーん……?」

「え……な、なに?」

 なんか、怪しまれてる……?

「なんか怪しいわね、アンタ」

「えっ!怪しい!?」

「怪しい」

 すると沙織は、「アンタ、なんか隠してるでしょ?」と私を見る。

「えっ!?や、やだなぁ……なにも隠してないって」

 ごめん、沙織……。本当は、沙織に相談したいんだ。

 でもね、沙織やみんなには迷惑をかけたくない。

 だって、課長のことが気になってるなんて言えないよ……。それこそみんなに迷惑かけちゃう。

「ウソつくんじゃないよ。バレバレだよ」

「……やっぱり?」

 沙織は、なんでも分かっちゃうんだな。

「やっぱりって……やっぱ何かあったのね、アンタ」

「うん……まあ」

 やっぱり沙織には、正直に話した方がいいよね……。

「なに? 好きな人でも、出来た?」

「好きっていうか……。ちょっと、気になるんだ」

「気になるって?」

「その人のことが。何ていうか……その人の前だとドキドキしたり、胸が苦しくなったりするの」

 すると私は、「そんなの当たり前じゃない。恋って言うのは、そういうものなのよ」と言う。

「え……?」

「いい瑞紀?恋って言うのはね、ドキドキしたり胸が苦しくなったりするのが、普通なのよ」

 やっぱり、そうなのかな……。

「だからそんなことで、悩まなくて
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter17

    「それは分かります。……でも、不安なんです」 「不安……?」  気持ちは、ちょっと複雑だ。 課長がどこかに行ってしまうような気がして、急に不安になる。「……瑞紀、不安にさせて悪かった」「いえ……そんな」「でも俺は、もう静香とは何の関係もないし、もう会うつもりもない。……だから俺を、信じてほしい」 課長は私を優しく抱き寄せる。「それでも私は、課長のこと……信じたいです」「ああ、ありがとう瑞紀」 課長が信じてほしいと言うのなら私は、課長のことを信じたい。「瑞紀、俺はもう瑞紀のことを、不安にさせたりはしない」  私は、課長のことが好きだ。 好きだって思うから、信じたいと思うんだ。「だからこれからも、俺もそばにいてほしい」「え……?」「俺のそばに、いてほしい」「……でも」 私なんかで、本当にいいのかな……。「瑞紀には悲しい思いをさせてしまったことは、申し訳ないと思ってる。……でも今の俺には、瑞紀しかいないんだ」 本当に……? 本当に……いいのかな?「俺を"課長"としてじゃなく、"男"として見てほしいんだ」「男と、して……?」「そうだ。身体だけの関係じゃなくて、ちゃんと"恋人"として、俺のそばにいてほしいんだ。俺を見てほしい」 課長の恋人と、して……そばに?「……それって」「瑞紀、俺と付き合ってくれないか」 その言葉を聞いて、嬉しくない訳じゃなかった。 本当は、とても嬉しいんだと思う。 でも……。「……少し、考えていいですか」「え?」「少しだけ、考えさせてください。すみません」 私は、そんなすぐに返事を返すことが出来なかった。 課長の気持ちは、すごく嬉しいの。 でもそんなにすぐに、課長のことを信じられる訳じゃない。 課長の過去を聞いた所で、どうにかなる訳じゃないけど、今は少し時間がほしかった。  それに、藤堂さんのこともあるし……。私はまだ多分、課長のことを傷つけたくないんだ。「私はまだ、課長のことを完全に信じた訳じゃありません。……でも課長のことは、本当にいい人だと思ってます」 課長は複雑そうな顔をして、黙り込んでいる。「私は課長を信じたいんです。……課長が私を信じてくれてるように、私も課長を信じたいんです」「なら……どうしてだ?」 課長が口を開くけど、私は「でも今は、課長と向き合う自信が、私にはな

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter16

    ✱ ✱ ✱ 「おはよう、佐倉さん」「課長!……お、おはようございます」 会社に出勤すると、ちょうどバッタリ課長と遭遇した。「どうした?」「いえ……なんでもありません」 どうしよう……。昨日のことが気になって課長と顔を合わせるのが気まずいな……。「昨日は、電話ありがとう」「……いえ」 課長は私の肩を叩いてから、仕事場へと歩いて行った。「あら、おはよう瑞紀」「おはよう、沙織」 すると、私の顔を見た沙織が「ねぇアンタ、今日メイク濃くない?」と、自分のデスクに座った途端に、沙織にいきなりそう言われた。「えっ!そうかな?」 いつも通りに、メイクしてきたんだけど……。「どう見ても濃いわよ。アンタ一体、どうしちゃったの?」「どうもしないよ? ちょっと寝不足で、クマが出来てたから、クマを隠したくて……」 そう言うと、沙織は「寝不足って……アンタなんかあった?」と、私の顔を見る。「え? あ、いや……。べ、別に!? ただ友達と電話してたら、遅くなっちゃっただけ」「ふーん……?」「え……な、なに?」 なんか、怪しまれてる……?「なんか怪しいわね、アンタ」「えっ!怪しい!?」「怪しい」 すると沙織は、「アンタ、なんか隠してるでしょ?」と私を見る。「えっ!?や、やだなぁ……なにも隠してないって」 ごめん、沙織……。本当は、沙織に相談したいんだ。 でもね、沙織やみんなには迷惑をかけたくない。 だって、課長のことが気になってるなんて言えないよ……。それこそみんなに迷惑かけちゃう。「ウソつくんじゃないよ。バレバレだよ」「……やっぱり?」 沙織は、なんでも分かっちゃうんだな。 「やっぱりって……やっぱ何かあったのね、アンタ」「うん……まあ」 やっぱり沙織には、正直に話した方がいいよね……。「なに? 好きな人でも、出来た?」「好きっていうか……。ちょっと、気になるんだ」「気になるって?」「その人のことが。何ていうか……その人の前だとドキドキしたり、胸が苦しくなったりするの」 すると私は、「そんなの当たり前じゃない。恋って言うのは、そういうものなのよ」と言う。「え……?」「いい瑞紀?恋って言うのはね、ドキドキしたり胸が苦しくなったりするのが、普通なのよ」 やっぱり、そうなのかな……。「だからそんなことで、悩まなくて

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter15

     瑞紀は多分知らないし、気付いていないと思うが、俺は瑞紀に惚れている。 あのバーで会ったのも、実はあの時が初めてじゃない。 本当は瑞紀があのバーに通い始めた時からずっと、瑞紀を見ていた。 初めて見た瑞紀の第一印象は"かわいい"だった。お酒を飲む姿はやけに上品で、しかも色気があった。 おまけにお酒が入った瑞紀は、やけに色っぽくて、そこら辺の女なんかよりずっとイイ女だと思った。 だからあの日、俺は瑞紀に声をかけた。 そのまま成り行きで瑞紀をホテルのベッドの上で抱いてしまった時、俺はすぐに瑞紀に惚れているのだと自覚した。 瑞紀の全てが可愛くて、愛おしくて、瑞紀の全てをほしいと思った。 もちろんあの時は静香のことも好きだったし、結婚したいとも思った。 でも瑞紀は、それ以上の感情だった。 静香の時よりも、ずっと瑞紀が欲しいと思った。 瑞紀は俺の部下だけど、このままじゃ本気で瑞紀を愛してしまいそうで怖い。 でも瑞紀は俺の部下で、俺は瑞紀の上司。 俺たちの関係は、それ以上でもそれ以下でもないって、ことだ。「……はあ」 一体なにをしてるんだ、俺は……。あの時"身体だけの関係"と言ったことを、今頃になって後悔している。 俺はなぜ、あんなことを言ってしまったのだろうか。 きっと、それで瑞紀を傷つけてしまったかもしれない。 最近瑞紀は、なんだか元気がない。 仕事中でも上の空な時があるし、ずっとため息をばかりついている。 おまけに普段は、滅多にしないミスをしたりする。 瑞紀が元気のない原因は、きっと俺にある。 最近色々と忙しくて、瑞紀のことをちゃんと見てなかったせいかもしれない。 ガチャと家のカギを開けて中に入ると、部屋の中は静まり返っていた。「……はあ」  とため息をつき、ソファーに腰掛けネクタイを緩める。「……瑞紀」 今無性に、瑞紀に会いたい。「ああ……くそっ」 なんで俺は、瑞紀のことをこんなに苦しめてるんだろうか。 好きな女を苦しめている俺は、最低だな。 瑞紀が好きで仕方ないのに、俺はいつも瑞紀を傷つけてばかりだ。 どうしたら、俺は瑞紀を傷つけずに済むのだろうか……。どうしたら瑞紀に悲しい想いをさせずに、済むのだろうか。 考えてみても答えなんて出なくて、結局どうしたらいいのか分からない。 俺はもう三十三だ。 一度静香との結婚を

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter14

    * * * ピーンポーン。 ある日の夜、俺はとある家のインターホンを押した。「待ってたわ。……入って」「……ああ」 俺は「お邪魔します」と、静かに家の中に入った。「適当に座って。今お茶煎れるから」 俺はソファーに腰掛け、深いため息をこぼした。そしてチラッと静香に視線を向ける。 静香、お前はあの時と変わってないな……。「はい」「……ああ、ありがとう」 静香は俺の目の前に座ると、おもむろに口を開いた。「……恭平さん、さっきごめんなさい。いきなり会社に電話をかけたりして」 静香が俺にそう言うから、俺はあえて「……いや、いいんだ」と答えた。「本当にごめんなさい。……悪気は、なかったんだけど」 俺に向かってそう言った静香に、俺は「じゃあ何で、電話をかけたりしたんだ。しかも会社にまで」と問い詰めるように言った。「……私、もう一度あなたに会いたくて」 下を向く静香に、俺は「静香、俺たちはもう終わったんだよ。……俺たちは、もう夫婦じゃない」と伝える。「そんなの、分かってるわ! でも、でもね……。もう一度、あなたに会いたかったのよ」「分かってるのか?静香。俺たちはもう夫婦じゃないんだ。……俺たちはもう、赤の他人なんだよ」  俺と静香は離婚した。もう夫婦じゃない。 赤の他人になったんだよ、俺たちは……。「恭平さん……」 悲しそうな目で俺を見つめる静香に、俺は「確かに一時は、愛し合った仲だ。……俺だって静香と結婚したいと思ったから、お前と結婚したんだ」と伝える。「……ええ、そうね」「でも俺たちは、きっと価値観が違ったんだ。……だから、離婚したんだよ」 そんな俺に、静香は「恭平さん、聞いてほしいの。私はまだ、恭平さんのことが……」と口を開く。「いい加減にしてくれ、静香。……俺はもう、お前の旦那じゃない」「恭平さん!私はまだ、恭平さんのことが好きなの。……愛してるの、あなたが」 静香はそう言うと、俺に抱き着いてきた。「……やめてくれ、静香」 俺は静香からそっと離れる。「どうして……? 私は恭平さんのことを、愛してるのに……」 静香は俺の体を引っ張り、俺の唇を乱暴に塞いできた。「……っ、静香!」 俺は静香の体を無理矢理離した。 静香の様子がおかしいことは、見て分かる。何かを焦っているようにも見える。「……恭平さん、抱

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter13

     か、課長、いつの間にそこに居たんですか……! でもよかった……いつもの課長だ。「たまにはリラックスは必要ですよ?」  リラックスか……。「そうですよね。……考えてみようかなと、思います」 「はい。 有給申請を出してもらえばいつでも構いませんので」「ありがとうございます」 そんな会話をしていた時、会社の電話が鳴り響いた。「はいもしもし。みなもと商事でございます」「あの……斎藤恭平さんは、いらっしゃいますか?」「恭平さん?……あ、課長のことですか?」「はい。斎藤恭平をお願いします」 今の電話の人、課長のこと、恭平さん……って言ってたよね?今。 うん、言ってた……。間違いない。「失礼ですが、お名前をお伺い出来ますか?」「藤堂……です」「藤堂さんですね。 少々お待ちください」 一旦保留ボタンを押した私は、「課長、一番にお電話です」と課長に伝えた。「誰ですか?」「藤堂さんという方からです」「藤堂?……分かった。繋いでくれ」「はい」 私は課長に内線の電話を繋いだ。 にしても……さっき課長に藤堂さんという名前を出したら、ちょっとだけ表情が曇ったようにも見えた。 何か……藤堂さんという方と関係があるのだろうか……? そう思った、その時ーーー。「会社には掛けてくるなって言っただろ!」 血相を変えた課長が、急に怒鳴りだした。 えっ……? か、課長が怒鳴ってる!?「……課長、どうしたのかしらね? なんか怒ってるみたいだけど」 沙織が遠慮がちに聞いてくる。「さあ……どうしたんだろうね?」 課長があんなに怒った姿、初めて見た。しかもすごく血相を変えている。 なんか……あったのかな? あんな姿初めてで、ビックリした。「……分かった。今からそっちに行くよ」 電話を切った課長は、ため息をこぼした。「皆さんさっきは、怒鳴ったりしてすみませんでした。 すみませんが急用ができたので、今日は帰らせていただきます。申し訳ない」「あ、課長!見ていただきたい資料が……」「すみません。急いでいるので、机の上に置いといてください。明日見ますから」「あ、あの、課長……!?」 課長はカバンを手にし、早足で急いで出て行った。 課長が帰った後、シーンとした空気が流れていた。「……課長、どうしたんですかね? なんか課長の様子、変でしたよね

  • あなたと紡ぐ永遠の愛は奇跡でした。   chapter12

    ✱ ✱ ✱ その翌日の朝。「先輩、おはようございます」「あ、おはよう英二」 英二は私に近付いてくると、「あのっ……!」と声をかけてくる。「えっ。なに?」 英二は「この前は……いきなりすみませんでした」と頭を下げる。「えっ!ちょっと、英二!?」 いきなりどうしたの!? 「好きだなんて言って、すみませんでした」 私は英二に「い、いいのよ。気にしてないから」と伝えると、英二は「……でも」と私を見る。「ねえ、英二」「はい?」 私は英二に、「あの時の返事……してなかったよね」と伝えると、英二は「……はい」と下を向く。 本当に申し訳ないと思いながらも、私は英二に「ごめんね、英二。……英二の気持ちはすごく嬉しいけど、私……英二とは、付き合えない」と謝った。「……そんなの、分かってますよ」「本当ににごめんね。……でも英二は、本当にいい部下だと思ってるし、本当にいい人だと思ってるからね」  私の言葉に、英二は「先輩……俺はもう大丈夫ですよ」と微笑む。「本当にね、英二の気持ちはすごく嬉しいの。でもね、やっぱり英二は、私の部下だから……」 本当に英二には、申し訳ないと思う。「もういいですよ、先輩」「え……?」「先輩の言いたいことは、分かってますから」 英二は私に微笑みを向けると、「だからもういいですよ、先輩」と優しい言葉をくれる。「……ごめんね、英二。けどね、英二のことは部下として本当に好きだし、信頼してるからね」 英二は「はい。ありがとうございます、先輩」と微笑みを浮かべた。「……私こそ、ありがとう」「え?」「こんな私のこと、好きになってくれて、本当にありがとう」 私が英二に微笑みかけると、「はい。でも……」と私を見つめる。「でも……なに?」 英二は私を見つめると、「先輩のこと、まだ好きでいてもいいですか?」と問いかけてくる。「……え?」「俺、先輩のこと、正直まだ諦められなくて。……そのくらい、先輩のことが好きなんですよね。だから、まだ好きでいても……いいですか?」 私は英二にそう言われて、なんて答えるか迷いながらも「……うん、いいよ。でもきっと、英二には私なんかよりもずっと、相応しい人が現れると思うよ?」と伝えた。「じゃあそれまで先輩のこと、好きでいますね」「……うん、分かった」「ありがとうございます」 

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status