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chapter18

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-06-15 13:39:01

「……多分、好きだと思う」

「好きなのに? それじゃあアンタは、その人に対してなんて言ったの?」

「時間がほしいって、言った」

 続けて私は「私はその人のことが好きなの。彼はいい人だし、すごく優しい人なのよ。……でも今はまだ、彼と向き合う自信がなくて」と告げる。

「自信、ねぇ……」

「……なに?」

「自信っていうか……それは単に向き合うのが怖いだけなんじゃないの?」

 怖い……?

「多分だけど、アンタは自信がないんじゃなくて、きっと自分が傷つくのが怖いだけだと思うな」

「……傷つくことが、怖い?」

 言われてみれば、確かに……。

「確かに傷つくのは怖いし、辛いかもしれないよ。……でもね瑞紀、どんなに怖くても、私は傷つくことに意味があると思うな」

「傷つくことに、意味がある……?」

 それ、どういう意味……?

「つまり、傷つくことで得るものがあるってことよ」

 傷つくことで、得るもの……?

「……傷つくことで得るものって?」

「それは自分で向き合わなきゃ、分からないことよ」

「向き合うことで、その答えが見えてくるってこと?」

 私がそう聞くと、沙織は「つまり、そういうこと」と言葉を返す。

 傷つくことでもし何かが変わるとしたら、それは自分のためになるのかな……。

 もしそれで答えが見えたら、それは正しい答えと思っていいのかな?

「ねぇ瑞紀、これだけは分かってほしいんだけど」

「うん……なに?」

「傷つくことが決していい答えになるとは、限らないのよ」

「……うん、分かってる」

 分かってるよ、そんなこと。 それが決していい答えになるとは限らないし、傷つくだけしか得るものがないとしても。

 私はそれでもちゃんと、向き合わなきゃイケないような気がする。

 いつまでも課長のことを考えてたって、課長を困らせるだけ。

 それにいつまでも課長から逃げてると、自分が情けなくなるだけだし。 やっぱりきちんと、向き合うべきだと私も思う。

 それが正しいかなんて、私には分からないけど、答えはきちんと出したい。

 自分が虚しくなるだけだってことは分かってるけど、向き合う自信だけじゃきっと……自分に素直にはなれないような気がする。

「……沙織、ありがとう。少しだけ勇気出たよ」

「そう。ならよかったわ」

 安心したような声の沙織に、私は「……私、やっぱりちゃんと向き合
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