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第27話

Author: 空からの雪
一ヶ月後。

私は一つの知らせを受け取った。

玉と桜宮が亡くなったという。

遺体は下流の岸辺で発見された。

すでに腐敗が進み、原形をとどめていなかった。

最終的には、所持品と服装から身元が判明したのだった。

まさか、こんな結末を迎えるとは思っていなかった。

どうして、二人は死んだのか。

その知らせを聞いてから、数日間私は何も喉を通らなかった。

悲しいわけではない。

ただ、変わってしまった現実に、胸が苦しくなった。

かつて愛し合い、憎み合ったあの二人が、こんな形で命を絶った。

若く、確かに生きていた命が、あっけなく終わってしまったのだ。

裕之は私の心を察して言った。

「……なあ、戻って見送ってあげようか。とにかく、最後くらい顔を見に行こう。な?」

今となっては、玉はもういない。

裕之を取り合う必要も、争う理由もなかった。

私は、頷いた。

翌日、私たちは葬儀会場を訪れた。

二人が同じ日に亡くなったため、葬儀も合同で行われることになっていた。

玉の両親は、ひどく悲しみに暮れていた。

そして、桜宮の遺影に向かって怒りをぶつけた。

「この女……玉を殺したんだ……なんて恥知らず!」

「地獄に堕ちろ!来世は飢えた亡者にでもなって、二度とまともな人生を送れないように祈ってやる……」

父は桜宮の葬儀費用を負担したものの、姿は見せなかった。

葬儀会場には、彼女を見送る人の姿は一人もなかった。

唯一の肉親である継母は今も刑務所にいる。

出所までには、まだ何年もかかるだろう。

私は、桜宮の遺影の前に立った。

彼女は、まるで陽だまりのように笑っていた。

もしあの時、間違わなければ……

今とは全く違う人生があったはずだ。

たとえ私が彼女と継母を完全に受け入れられなかったとしても、少なくとも、こんなことにはならなかった。

新しい父親を持ち、裕福な家庭で過ごすこともできたのに。

一度過ちを犯せば、次々と崩れていく。

奈落へ足を踏み入れた者には、もう戻る道は残されていなかった。

玉の母は私の手を握り、泣きながら懇願した。

「明空……玉が悪かった。けど……けど、もういないのよ……

お願いだから、せめて告別してあげて。これが、あの子の最後の願いなの。

……知らないでしょ?あの子、毎晩お酒に溺れて、眠るたびにあなたの名前を呼んでた
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