LOGINやっぱり?それってどう言う──。 私が何かを発する前に、御影さんが口を開く。 「当初、茉莉花……お前があんな記事を出したのかと……そう思った。だから、あの記事を出した会社も何も調べなかったのだが……」 「──私が?何のために……意味が分かりません」 「──ふっ、そうだろうな」 私の言葉に、御影さんは何がおかしいのか、楽しそうに笑っている。 「だが、あの記事の発信源はお前じゃないと思い始め……隠し撮りをした者と、記事を書いた者の調査をした」 「そうですか……。でも、別に御影さんはバレても構わなかったのでは?相手は涼子でしょう?私との婚約は大々的に発表していませんでしたし、放っておいても良かったのでは」 「確かに、俺もそう思った。だからこそちゃんと調査をしなかった」 それまで黙って私たちの会話を聞いていた苓さんが、不意に口を開いた。 「なら、どうして急にそんな前の記事の調査を……?御影専務は、何かご自分の中で変化があったようですね?」 ふん、と鼻で笑う苓さん。 そんな不遜な態度を取る苓さんが珍しくて。 私が驚いていると、御影さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。 「──そうだ。確認をしたくて、調査をした。そうしたら、犯人が分かった」 「誰だったんですか、その犯人って」 「涼子だ。……涼子が、カメラマンを使い、あの写真を撮らせて、記事にさせた」 御影さんの言葉に、私は驚いて口を開けてしまう。 どうして、そんな事を──。 そんな事をしなくても、御影さんは涼子一筋なのに、どうしてわざわざ。 「なるほど……外堀を固めようとしたって事か……悪どい女が使いそうな手だ」 ぽつり、と苓さんの納得したような声が落ちる。 まさか、そんな。 私が無意識に御影さんに顔を向けると、御影さんは険しい顔をしていたけど、苓さんの言葉に一切反論しなかった。 それが、もう答えのようなものだ。 御影さんが、涼子を貶されているのに庇わない。 どころか、涼子の所業をわざわざ私に知らせるなんて。 御影さんは一体どうしたのか、と戸惑ってしまう。 「……あれが、涼子の仕業だと知ってあれから涼子を監視させていた。……涼子は普段から中央病院に通院していたんだが……茉莉花は知っていたか?」 「いえ、知らなかったです。……涼子はどこか体の調子が悪いんですか?だから
苓さんも居ていい? どうして御影さんが条件を決めるの? 私はむっとして、腕を組みつつ御影さんに答える。 「苓さんも一緒じゃなきゃ、話は聞きません。それに、場所を変える必要はないのでは?ここで話せない内容でしたら、お断りします」 きっと、御影さんは涼子から離れたがらない。 そうしたら、こんな無駄な時間は終わる。 私は海堂社長に早く挨拶をして、お父様から預かった贈り物をして、早くパーティーから帰りたい。 御影さんは私の言葉を聞き、涼子に顔を向けた。 涼子は御影さんが助けに来てくれると思ったのだろう。 ぱっと表情を明るくしたのだけど──。 御影さんは、そんな涼子に向かって信じられない言葉を放った。 「涼子、俺は少しだけこの場を離れる。……待っていてくれ」 「そんなっ、どうして直寛……っ!」 涙を目にいっぱい溜めて御影さんを呼ぶ涼子。 御影さんが、涼子の傍を離れる──? 信じ難い光景に、私が唖然としていると御影さんが話しかけて来た。 「この場では少し話しにくい。人がいない隅の方に行っていいか」 「──……」 まさか、御影さんがこの条件を飲むなんて。 私は思わず苓さんに顔を向ける。 苓さんも驚いた表情を浮かべていたけど、私と目を合わせてこくり、と頷いた。 「……分かりました。なら、あちらに行きましょうか」 「分かった」 私が示した方向に顔を向けた御影さんが、周囲に人がいない事を確認すると頷いた。 そして頷くや否や、そちらの方向に向かって移動を始めてしまう。 そんなに話したい事があるのだろうか。 私は、苓さんが差し出してくれた腕に自分の腕を絡ませ、御影さんの後を追った。 場所を移動した私たち3人は、会場の隅っこで飲み物のグラスを持って向き合っていた。 御影さんは涼子に背を向ける形。 その対応にも私はびっくりしてしまう。 涼子の姿が視界に入らなくて大丈夫なのだろうか、と私が考えていると、御影さんが口を開く。 「──確認したい事がある。以前……俺とある女性の熱愛記事が出た事を覚えているか?」 「熱愛記事──……?」 御影さんの言葉に、眉を顰める。 そんな事、あっただろうか、と考えて私はあっと思い出した。 確か、あの記事がきっかけで、私と御影さんの婚約は破棄されたのだ。 あの記事のお陰だったのに、すっかり忘れ
「ちょ……っ」 私は慌てて胸元を抑える。 どうして見えてしまったのか。 ドレスに隠れている場所なのに。 私の腕を掴んでいた御影さんの手を、苓さんの手が素早く掴む。 「茉莉花さんに触らないでください」 「──お前か!お前がっ」 御影さんは、苓さんをじろりと睨み付ける。 どうして御影さんがここまで苓さんに怒っているのか、本当に意味が分からない。 自分には愛して病まない涼子がいるでしょう?それなのに、どうして今更私に関わってくるのか。 「茉莉花、俺はっ」 御影さんが何かを言おうとした瞬間──。 「きゃあっ!やめてください、何をするんですか!」 その場に、涼子の声が響いた。 「離してくださいっ、わ、私には婚約者が……っ」 「その婚約者ってのは誰だよ、お姉さん。その婚約者、他の女に夢中みたいだけど」 けらけらと笑う、軽薄そうな男が涼子の腕に触れ、話している。 「また、さっきのあの人達か──」 苓さんがうんざり、と言った声を漏らす。 それもそのはず。 さっき、私と苓さんに絡んで来たあの男女4人のグループの内、1人の男性が涼子に詰め寄っているのだ。 涼子が御影さんのパートナーだと分かっている他の女性2人と、もう1人の男性は顔を真っ青にして男性を止めようとしているけど、男性はお酒に酔っているのか、赤い顔をして尚も涼子に話しかけている。 そう、男性は涼子の腕に軽く触れ、話しかけているだけなのだけど、涼子は大袈裟な程怯え、泣きだしてしまいそうな顔をしている。 昔から、涼子はそうだ。 とても弱々しく、少し声をかければおどおどとして泣いてしまいそうな姿を見せていた。 大人になった今でも、そんな様子の涼子を見て、私は呆れてしまう。 今まで、御影さんが涼子を過保護なくらい守っていたのだろう。 だから、大人になった今でも、涼子は自分に降り掛かる何かを、自分1人で対処出来ない。 私は、御影さんがいつものように涼子に駆け寄るのだろうと思ったのだけど。 御影さんはすいっと涼子に視線を向けただけで、すぐにまたふいっと視線を逸らしてしまった。 「──えっ」 「涼子、今俺は忙しいんだ。少しだけ待っていてくれ」 「なっ、直寛っ、私怖いのにっ」 あからさまに涼子の瞳に慌てたような色が映る。 御影さんの変わりように、私が驚いていると、私に視線
「藤堂さん?どうされましたか……?」 「海堂社長。お待たせして申し訳ございません」 ちょうど良いタイミングで、海堂社長が顔を私たちを迎えに来てくれた。 だけど、海堂社長は近くにいる御影さんの姿にも気がついたようで、はっと表情を変えた。 「これはこれは……!御影専務もご参加くださっていたとは……!ご案内が行き届いておらず、大変申し訳ございません」 「いや、今回参加したのは会いたい女性がいたからです。用が済みましたら、すぐに帰らせて頂く予定です」 海堂社長に、御影さんは微笑みを浮かべたまま堂々と答える。 「会いたい女性」と御影さんが口にした瞬間、私をじっと見た事で、海堂社長は私と御影さんの姿を交互に見ている。 お互い、パートナーは別にいる。 何かを察した海堂社長は、一旦挨拶だけをする事に決めたのだろう。 軽く頭を下げ、言葉を続けた。 「そうですか、それでしたらお邪魔をしてしまう訳にもいきませんね。ご挨拶はまた後ほど……。藤堂さん、また後で」 「はい、海堂社長」 にこり、と微笑んで私が答えると、海堂社長はそそくさとその場を去ってしまった。 その場に残された私たち4人。 御影さんは、隣にいる涼子になど目もくれず、先程からじいっと私を見つめている。 その視線が何だか気持ち悪くて、私はそっと苓さんの腕を引っ張った。 「御影専務。お話は以上ですか?それでしたら、私たちはこの辺で……」 「待て、茉莉花」 私が立ち去ろうとしたのが分かったのだろう。 御影さんは、涼子が掴んでいた腕を緩く振り払い、私に近付くとぱしっと腕を掴んだ。 腕を振り払われた涼子は、まさか自分がそんな風にされるとは思わなかったのだろう。 唖然としていて。 そして、その後はっとしたように傷付いた表情を「作った」。 「な、直寛……痛いわ……急に手を払うなんて、酷い……」 涼子のか細く、泣きそうな声が響く。 これで御影さんも手を離して涼子に駆け寄るだろう。 そう思っていたのだけど、御影さんはちらりと涼子に視線を寄越しただけで、すぐに私に視線を戻した。 「ああ、すまない涼子。少し茉莉花と大事な話があるから、席を外してくれ」 「──ぇっ」 涼子が戸惑ったような声を上げる。 それでも、御影さんは涼子には一切目を向けずじっと私に視線を向けたまま。 「私には御影さ
「た、大変お待たせして、申し訳ございません!それに、そちらは小鳥遊建設の小鳥遊部長!ようこそ起こしくださいました」 ぺこぺこと頭を下げる男性の登場に、私たちに声をかけた4人の男女は、呆気に取られている。 私は彼らを気にする事もなく、男性に向き直って微笑んだ。 「いえ、私たちも入る場所を間違えてしまったようで。声を掛けて下さって助かりました」 「とんでもこざいません。こちらの落ち度です。本日、藤堂社長からご事情は伺っております。海堂があちらでお待ちですので、御足労頂いてもよろしいでしょうか?」 「もちろんですわ」 私とその男性の会話に、さっきまで威勢の良かった男女4人は、途端に顔色を真っ青にした。 「待って、待ってよ……藤堂って言った?あの女、藤堂グループの……?」 「待て、あの男も、小鳥遊建設の部長とかって……」 「俺たちなんて足元にも及ばねえ大企業の人間……大財閥の人間じゃねえか」 「ふざけんなよ、誰だよ話しかけに行こうって言ったやつ!」 彼らは内輪揉めを始めてしまったようで、私は溜息を吐き出す。 「茉莉花さん、彼の案内に着いて行きましょうか?」 「ええ、そうね苓さん」 苦笑いを浮かべた苓さんの腕に手を通し、きゅっと抱きつくと、再び私の背後から声が聞こえた。 「──茉莉花?茉莉花じゃないか。こんな所にいたのか」 どこかで、黄色い悲鳴が上がる。 「きゃあっ!御影ホールディングスの御影専務じゃない!」 「滅多にこう言うパーティーに顔を出さないのにっ」 「お近付きになりたいわ!」 周囲がざわざわ、とざわめくのが分かる。 声を掛けられてしまった以上、返事をしなくては失礼に当たる。 私は御影さんに振り返った。 正面にいるのは、御影さんと──彼の腕に手を通している涼子の姿。 涼子は、御影さんに隠れるようにしていた。 「御影さん、こんばんは。奇遇ですね」 「──ああ。いや、お前が参加すると聞いたから今回のパーティーに参加したんだ」 「えっ、直寛!?」 御影さんの言葉に、涼子が反応する。 どうして私が参加すると聞いて、御影さんが来たのだろう。 意味が分からない。 私がそんな事を思っていると、ふと御影さんが笑った。 「いや、直接謝りたかったのと……怪我の具合を聞きたくてな。……先日の怪我は大丈夫だったか?」 どこ
それに気付いた苓さんが、容赦なく女性の手を振り払った。 「許可もなく触ろうとしないでくれ。不愉快だ」 「──なっ!」 羞恥と怒りで顔を真っ赤に染めた女性が、悔しそうに私を睨み付ける。 その女性の友人なのだろうか。 4人の内の1人の男性が、苓さんに詰め寄った。 「ちょっと顔が良いからって調子に乗らない方がいいぞ?お前がどこの会社の社長だか知らねぇが、俺は今話題のIT企業の経営者だ。舐めた口聞いてると──」 「茉莉花さん、場所を移動しましょう」 「ええ、そうね苓さん」 男性が話しているにも関わらず、苓さんは彼を無視するようにふいっと顔を逸らし、私ににこやかな笑顔を向ける。 ここまで綺麗に無視されるとは思わなかったのだろう。 彼らは一瞬呆気に取られたようにぽかんと口を開けていたが、すぐに羞恥に顔を真っ赤に染め上げた。 ──話題のIT企業の経営者だか何だか知らないけれど、初対面の人に対してこんな口調で話す人がトップなんて……先が見えるわね、と私は胸中で溜息を吐く。 それに、話題と言っているけど、彼の顔を私は見た事も無い。 という事は、本当に最近企業したばかりか……それか、それ程の会社ではない。の、どちらかだ。 けど、私と苓さんは彼らに構っている時間は無い。 お父様のご友人方や、主催者に挨拶とお詫びのお品物を渡さないと。 そう考えていた私の頭からは、既に彼らの事なんて消えていた。 だから、私をエスコートしていた苓さんの腕が取られて、歩みが止まってしまった事に、びっくりする。 「待てよ!まだ話は終わってねぇぞ!すかした面しやがって!」 「……執拗いな」 苓さんの声に、苛立ちが混じる。 ああ、もう。 私たちの事なんて放っておいてくれればいいのに──。 そう思いつつ、苓さんに振り向こうとした私の腕を、もう1人の男性が突然掴んだ。 「ねえねえ、お姉さん!顔だけのあいつなんかやめて、俺と遊ぼうぜ。満足させる自信はあるよ?」 「──っ、最低ね」 ぞぞぞっと背筋に悪寒が走る。 このようなパーティー会場で。 大企業の社長だって参加しているこの場で、程度の低いナンパをするような人達がいるなんて。 お父様には参加するパーティーをちゃんと良く考えて、と言わなくちゃ。 私がそんな事を考えていると、不躾に私の手を掴んだ男性の舐めるような