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288話

Penulis: 籘裏美馬
last update Tanggal publikasi: 2026-03-10 19:06:47

「茉莉花さん、無理をしないで──」

起き上がろうとした私を、心配した苓さんがベッドに戻ろうとさせる。

だけど、今倒れている場合じゃない。

お祖父様があんなに辛い思いをして、そして命を落としたのだ。

ショックだろうと、悲しかろうと、今はのうのうと眠っている場合じゃない。

「いいえ、大丈夫です。お祖父様の無念を晴らすためには、動かないと。考え続けないといけません」

「……茉莉花さん」

「お祖父様は、病院から藤堂の家に帰宅する途中で交通事故に遭ったと……そうでしたよね?」

本来なら、お父様がお祖父様を迎えに行く予定だった。

だけど、お父様は急に工場に行かなくてはならない事案が発生して、お祖父様の迎えに行く事が出来なかった。

そして、お父様は信用できるのは谷島刑事だけだから、と彼にお祖父様の送り迎えをお願いしようとした──。

けど。

谷島刑事が病院に向かった時には、既にお祖父様は退院済で。

自宅に向かう車の中だった。

その帰宅途中、交通事故に遭い、帰らぬ人になってしまった──。

「……まず、お父様が急に工場に行かなくてはいけないような事案が発生した事自体、おか
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    ◇ 「解離性健忘ですね」 「解離性健忘……?」 あれから。 苓さんの診察を終えた担当医と別室に移動して、今の苓さんの状況を話してくれた。 「小鳥遊さんは今日が何月何日か、そしてご自身の年齢、名前も正確に答える事が出来ました。もちろん仕事に関する記憶もしっかりとあります。その中で……特定の人物に対して、全ての記憶を忘れてしまう、と言う症例は……解離性健忘だと判断します」 そこまで話した先生は、私を見て言葉を続ける。 「恐らく、強く頭を打った瞬間に小鳥遊さんの頭の中に藤堂さんの存在が強く残っていたのでしょう。その状態で、強かに頭部を強打してしまい、記憶が……」 「一時的な……記憶喪失のような……そのようなものなのですか?」 何も言葉を発せない私に代わり、圭吾さんが先生に質問してくれる。 先生は気まずそうに私と圭吾さん、交互に視線を向けると答えた。 「……明日になったら記憶が戻る事もあれば、……1年、2年……10年経っても記憶が戻らない事もあります。……過去の事例では、一生記憶が戻らない、と言う報告も」 「──いっしょう……?」 先生の言葉に、私は体から力が抜けてしまう。 がたん、と椅子が大きな音を立ててしまい、圭吾さんにも先生にも心配をかけてしまった。 「……茉莉花さん、もし良ければ……後の説明は俺が聞いておこうか?苓と会ってくる……?」 「──あ、」 苓さんに、会いたい。 だけど、またあんな風に冷たい目を向けられたら。 感情の籠っていない、冷たい声だった。 私を不審がるような苓さんの視線に、私1人だけで耐えられるのか──。 そんな事を私が考えていると、圭吾さんは私に言葉を続ける。 「……苓は、仕事の事については記憶を失っていないだろう?カフェ事業の話を茉莉花さんとしていれば、もしかしたら脳が刺激されて、記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないよ」 「……た、たしかに……。そうです、ね」 不思議な事に、苓さんは私の事を全て忘れてしまったけれど。 藤堂グループと始めた和風庭園カフェの事業については記憶が残っていた。 仕事の話をしていたら、苓さんの記憶も戻るかもしれない。 私はそんな淡い期待を抱き、圭吾さんの言葉に有難く頷いた。 「あ、ありがとうございます。苓さんの病室に戻って、仕事のお話をしてみます……!」 「

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    ドサドサ!と、私たちが脱衣所に倒れる派手な音が聞こえる。 広い脱衣所だから、私たち2人が床に倒れ込んでも十分なスペースがあったみたいで。 私も、苓さんもあちこちに体をぶつける事は無かった。 だけど、絶対に頭を打ってしまうだろう、と覚悟していた私に、いつまで経ってもそんな痛みは訪れなくって。 それに、何だか私の体が温かい──。 私は、無意識に瞑ってしまっていた目をそろそろと開ける。 すると、思った通り、苓さんがあんな状況でも、私を庇うように抱きしめてくれていたみたいで──。 私が後頭部を打たないように、苓さんの大きな手のひらが後頭部に回り、引き寄せてくれていた。 だけど、私を

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    「速水家──いや、速水朱美(はやみ あけみ)に、学生の時に言い寄られた事が、ある」 「速水家の──!?」 お父様から思いも寄らなかった事を聞かされ、私と苓さんはぎょっとしてしまう。 苓さんはお父様の言葉を聞いて、考え込むようにして話し出した。 「速水朱美って言えば……速水商事の一人娘、でしたよね……?男兄弟がいなくて、婿養子を取ったって……」 「ああ。良く知っているな、小鳥遊くん」 「ええ。昔から様々な企業の事は調べていますから……。だけど、藤堂社長が速水商事の一人娘に言い寄られていたなんて……。その……良く逃げられました、ね……」 苓さんが苦笑いを浮かべつつそう話す。 お

    last updateTerakhir Diperbarui : 2026-04-01
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