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2.邸にて

مؤلف: 月山 歩
last update تاريخ النشر: 2025-04-03 12:01:11

「やあ、今日は泣いていないからほっとしたよ。」

 シスモンド卿は私の邸の応接室のソファに腰かけ、お茶を飲みながら、私が来るのを待っていた。

 昼間のシスモンド卿は、整った顔に微笑みを浮かべ、お茶を飲んでいるだけなのに、その所作まで美しい。

「今日いらっしゃると先ほど伺ったものですから、遅くなってすみません。

  私、いつでも泣いているわけじゃないんですよ。

 あの時は特別です。」

 シスモンド卿は私の顔をじっと見つめるようにうかがう。

 整った顔立ちの彼に、じろじろ顔を見られるのは恥ずかしい。

 次第に顔が紅潮していくのが、自分でもわかる。

 私は、彼に比べたら、ありきたりの顔だと思うから。

「この前会った時は、暗がりだったから何となくしかわからなかったけれど、君のことを心配していたんだ。」

「気にしていただいて、すみません。

 ところで、今日はどういった用件で?」

 二人が出会ったあの夜会から、数日が経っていた。

 けれども、私はイグナス様のことで落ち込んでおり、食欲がないし、引きこもりがちで時間の経過もよくわからない。

「この前、君が言っていたこの光景を目に焼き付けるという言葉が、気になってね。」

「わざわざそんなことで?」

「そんなことではないよ。

 抱き合う二人を見て、女性が泣いていたんだ。 

 それでも、目に焼き付けないといけないなんて、よっぽどのことだと思ったんだよ。

 だから、その理由をどうしても知りたくてね。」

「そういうことでしたか。

 あなたが想像する通りのよくあるお話です。

 この邸にいらしたということは、お父様がお許しになった方だとお見受けしますのでお話しますけれど、この前私が見ていた男性は、私の恋人だった人です。

 私がとても好きで、一年前からお付き合いしてもらっていました。

 彼は女性の相談に乗っているだけと言っていましたが、彼の浮気の噂が絶えなくて、彼が女性とどんなふうに接してしているのか確かめたくて、こっそり見に行ったんです。

 そしたら、案の定、女性と抱き合って、キスをしていました。

 だから、私、その姿をこの目に焼き付けて、彼を諦める決心をしたんですよ。

 別れる決意が揺らぐ自分を止めたかったんです。」

「マリアナ嬢、君はあの男性との付き合いをやめたんだよね?」

「はい、そのつもりです。」

「だったら、今度は僕と出かけてみないかい?

 実はね、あらかじめ君の父上にも許可をいただいているんだ。」

「…そうおっしゃっていただけるのは嬉しいのですが、新しく出会った方とお出かけするほど、私まだ心の余裕がなくて。」

「うん、そうだよね。

 デートはまだ先にするか。

 どちらにせよ、僕は君が僕を受け入れてくれるのを待つから。」

 目の前のシスモンド卿は、爽やかでありながらも、一歩も引かないような強い眼差しで私を見つめる。

 私はシスモンド卿に気に入られるほど、美人でもないし、特別な存在でもない。

 彼は失恋した私を可哀想に思って、誘ってくれているのかしら。

「シスモンド卿、私を気の毒に思って言ってくれているのでしたら、それには及びません。」

「まさか。

 それだけの理由では、君の父上から交際の許可をもらわないさ。」

 シスモンド卿ほどの輝ける方が、わざわざ私の父から、お付き合いの許可まで取っているとは、不思議で仕方ない。

 私などどこにでもいる普通の令嬢で、少し影響力のある侯爵位を持つ父がいるだけで。

 だとしたら、私を誘う理由は、彼が父と強い繋がりがあるからなのだろうか?

 私が知らないだけで、実は二人は懇意にしているとか。

 または、私との付き合いをきっかけにして、父との繋がりを深める目的であるとか?

 やはり、父と親しい付き合いがあり、普段から父に私の話を聞いているから私に興味を持つならば、一番納得できる。

「シスモンド卿の事情はよくわかりませんが、どうしてもというのであれば…。」

「うん。

 どうしてもだね。」

「わかりました。

 では、少しずつでお願いします。」

 私はシスモンド卿の誘いを受け入れることにした。

 イグナス様とは、もうどうにもならないし、父と繋がりがあるのならば、無碍に断ることはできない。

 実は、父からは何度もイグナス様の浮気について告げられていたのだ。

 そのたびに、私は「それは間違いよ。」とか、「皆が誤解しているだけ。」と、イグナス様の浮気を否定してきた。

 けれども、それももう限界を感じて、イグナス様の浮気現場に足を運んだいう経緯がある。

 だから、父が彼を勧めるのならば、シスモンド卿と出かけることを承諾してみようと思う。

 父なりに私を心配してくれていることは、痛いほどよくわかっていたから。

「今日からは、僕をシスモンドと呼んで。

 僕はマリアナと呼ぶよ。」

「わかりました。」

「じゃあ、マリアナ、早速三日後の夜会に一緒に行こう。

 あの男性ともう別れるのなら、僕にエスコートさせてくれるね。」

「えっ、エスコートですか?

 それだと公にお付き合いを認めたことになりますけれど、シスモンド様は大丈夫ですか?」

 「もちろん。

 僕としては君と早く付き合いたいからね。」

「…そうですか?

 シスモンド様は父と何か特別な関係がありますか?

 でなければ、私と付き合おうと思ってくださる理由よくがわからないのですが?」

「君の父上とは数年前から時々話をさせていただいている。

 でも、君と付き合いたいのは、あくまで僕の意思だよ。

 僕は君のことが気になっているんだ。」

「はあ…?」

「だって、泣きながら恋人との浮気を見ていても、君は激昂して二人の間に割り込んで、追い詰めて騒いだりしないだろう?

 僕はそんな思慮深い人に惹かれるんだ。

 男女が揉めるのはよくある光景だけど、だからって人前でやらなくてもいいのにと思っていたんだ。」

「私は思慮深いから、二人をただ見ていたわけじゃないんですよ。

 元々、諍いが苦手だし、どちらかと言うと私、最初から彼のことを諦めていたのかもしれません。

 例えば、あの場で二人の間に割って入ったとしても、彼の浮気癖が治るわけじゃないから。

 ただ、目の前の事実を自分の中で受け止めるために、あの場にいたんです。

 じゃないと、今度こそ彼は変わるとか自分に言い聞かせて、いつまでも彼から離れられなくなる予感がしたので。

 彼のことを本当に好きだったから、この先彼と会った時に、言い訳する彼を許したくなる自分を止めたかったんです。

 だからと言って、あの後、彼からは連絡が来ないんですけれどね。

 いつも私が彼に連絡をしていて、そんな付き合い方を続けていたから、ウンザリされたのかもしれません…。」

 ふとした瞬間に、思考の渦に嵌る。

 こうすれば良かったとか、ああしたら違ったかも。

 違う未来を夢見て、探し続ける。

 最近はこの繰り返しで、もうどうにもならないってわかっているのに、抜け出せない。

「君があの男性を本当に好きだったのが見ていてわかったから、日が経つほど君の気持ちが心配でもあるし、君は今頃どうしているのかとますます気になるんだ。」

「まだ、お会いしたばかりなのに、そんなに私のことを案じていてくれたのですね。

 ありがとうございます。

 本当にシスモンド様は優しい方なんですね。

 話し易いからと、細かく話してしまってすみません。

 これであなたの気になることが解消したのなら、いいのですが…。」

「うん、ありがとう。

 君にとってつらいことなのに、聞いてしまって僕こそ申し訳ない。

 だが、君のことを知りたかったんだ。」

 私は気持ちを聞いてくれるシスモンド様に話しすぎたとも思ったが、彼は真摯に聞いてくれていた。

 この話を聞いても私のことを嫌にならないのだから、彼が私と付き合いたいと言う気持ちは、本当なのかもしれない。

 シスモンド様とお父様がどれほど深い関係にあるのか、私にはよくわからない。

 それでも、心の内を打ち明けて、シスモンド様に受け止められたことで、私は自然と彼に心を許し始めていた。

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    「シスモンド卿、私、あなたとこの後二人きりで熱い夜を過ごしたいわ。」 知人に招かれて、パーティーで楽しく食事をした後、少し時間が経つと、よくこんなことになっている。 シスモンドは一瞬で嫌気がさした。 さっきまでは、男女複数人と仕事についての会話をしていたはずが、気がつくといつの間にか女性と二人きりにさせられている。 まだ婚約者がいない独身の僕に、周囲は息抜きも必要だと、いらない気を使う。「いや、僕は仕事仲間と話をしていたつもりだったんだ。  みんなはどこへ行きましたか?」 僕は自分にしなだれかかる卑猥な笑みを浮かべた女性から、そっと離れる。 彼女は襟ぐりの深い胸を強調した真紅のドレスを身に纏い、下から媚びるように僕を見上げる。「あら、みなさんはそれぞれにお部屋に行って、誰もいなくなりましたわよ。  私達も空いているお部屋に移りましょう。 それまで待てないと言うのなら、この場でも構いませんけれど。」 そう言って、その女性はクスクス笑いながら、僕の手を握り、自分の胸へと導く。「僕にはそんなつもりはない。  離してくれ。」 僕は彼女の手を素早く振り解く。「シスモンド卿は冷たいのね。」 またか。  何故、性的な関係を抜きにして、普通の会話だけをして終わることができないんだ? 僕は一度も、そんなのを求めたことはないのに。   どうして、こうやって僕を狙う女性が毎回のように現れるんだ? そして、その話に乗らないと、まるで僕が物分かりの悪い人間になった気分にさせられるのは、どうしてなんだ? パーティーの終わりになると、主催側の意図なのか、それとも女性達の独断なのかわからないけれど、とにかく女性をあてがわれる。 そうすれば、仕事が円滑に進むとでも思っているのか、ただ女性が僕と関係したいと思っているのかは不明だけど、この手の危険な罠に囲まれているのは確かだ。 僕は自分自身でもわかるほど、昔から良くモテている。 そして、約一年ほど前から、そのモテ方が、純粋な好意から明らかな誘惑へと姿を変えていた。 物分かりの良い令嬢ならまだしも、こういうタイプの女性は本当にタチが悪い。 一夜の遊びに見せかけて、弱みを握られて、身動きが取れなくなった男の話なら腐るほどある。 おかげで酒さえも思うように飲めない生活を送っている。 酒を飲み過ぎた夜

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  • あなたの浮気を目に焼き付けて、終わりにします   3.お父様

    「お父様、昨晩遅くまでお酒を飲まれたようですね。」 翌日の朝食の席では、前日の酒の飲み過ぎで頭を抱えた父親のディアス侯爵とマリアナが向かい合って座っている。 ディアス家は、侯爵の中でも特に裕福で、お父様は王宮でも重要な発言権を持つ非常に優れた人物だ。 そのため、お父様は社交的な付き合いでお酒を飲むことが多く、しばしば朝食の席で、眉間にシワを寄せ、辛そうな表情をしている。「頭がガンガンするよ。」「もう、若くないんですから、無理しない方がいいですよ。」「ああ、わかっているんだが、誘われるとつい。」 お父様は食欲もないようで、顔をしかめたままお茶を一口だけ飲んでいる。 仕事が忙しく

  • あなたの浮気を目に焼き付けて、終わりにします   1.別れと出会い

     王宮で夜会が開催されている中、すぐそばの庭園の隅で、イグナス様が女性と抱き合い、キスを交わしている。 ディアス侯爵令嬢のマリアナは、目に涙を浮かべながらその様子を木の陰から見ていると、背後から声をかけられた。「人の逢引きを覗くのは、さすがにやめたら?」 今、このタイミングで話しかけられても冷静になんて返せないし、話し声を聞かれてイグナス様に覗いていることを知られるのも困るわ。「私のことは気にしないでください。  今、この光景を目に焼き付けているんですから。」「どうして、そんな必要があるの?」 その人は更に質問を重ねて、一向に立ち去ってくれる気配がない。「もう、静かにしてくだ

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