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5.シスモンド

Auteur: 月山 歩
last update Date de publication: 2025-04-03 12:01:44

「シスモンド卿、私、あなたとこの後二人きりで熱い夜を過ごしたいわ。」

 知人に招かれて、パーティーで楽しく食事をした後、少し時間が経つと、よくこんなことになっている。

 シスモンドは一瞬で嫌気がさした。

 さっきまでは、男女複数人と仕事についての会話をしていたはずが、気がつくといつの間にか女性と二人きりにさせられている。

 まだ婚約者がいない独身の僕に、周囲は息抜きも必要だと、いらない気を使う。

「いや、僕は仕事仲間と話をしていたつもりだったんだ。

 みんなはどこへ行きましたか?」

 僕は自分にしなだれかかる卑猥な笑みを浮かべた女性から、そっと離れる。

 彼女は襟ぐりの深い胸を強調した真紅のドレスを身に纏い、下から媚びるように僕を見上げる。

「あら、みなさんはそれぞれにお部屋に行って、誰もいなくなりましたわよ。

 私達も空いているお部屋に移りましょう。

 それまで待てないと言うのなら、この場でも構いませんけれど。」

 そう言って、その女性はクスクス笑いながら、僕の手を握り、自分の胸へと導く。

「僕にはそんなつもりはない。

 離してくれ。」

 僕は彼女の手を素早く振り解く。

「シスモンド卿は冷たいのね。」

 またか。

 何故、性的な関係を抜きにして、普通の会話だけをして終わることができないんだ?

 僕は一度も、そんなのを求めたことはないのに。

 どうして、こうやって僕を狙う女性が毎回のように現れるんだ?

 そして、その話に乗らないと、まるで僕が物分かりの悪い人間になった気分にさせられるのは、どうしてなんだ?

 パーティーの終わりになると、主催側の意図なのか、それとも女性達の独断なのかわからないけれど、とにかく女性をあてがわれる。

 そうすれば、仕事が円滑に進むとでも思っているのか、ただ女性が僕と関係したいと思っているのかは不明だけど、この手の危険な罠に囲まれているのは確かだ。

 僕は自分自身でもわかるほど、昔から良くモテている。

 そして、約一年ほど前から、そのモテ方が、純粋な好意から明らかな誘惑へと姿を変えていた。

 物分かりの良い令嬢ならまだしも、こういうタイプの女性は本当にタチが悪い。

 一夜の遊びに見せかけて、弱みを握られて、身動きが取れなくなった男の話なら腐るほどある。

 おかげで酒さえも思うように飲めない生活を送っている。

 酒を飲み過ぎた夜なら、自分だって男だから、目の前であからさまに誘惑されると、理性を保つのが難しい瞬間もある。

 だから、後から後悔するような間違いを犯さないように、より自分に厳しくするしかない。

「何故君は僕と?」

「あら、素敵な男性がいれば、抱き合いたいと思ってしまいますの。

 女だってそんな夜がありますわ。」

「君とはまだ名前も知らない間柄なのに?」

「抱き合うのに、名前が必要ですか?

 どうせ明日には私の名前など忘れているわ。」

 その女性は今度は僕の胸へと手を伸ばす。

「そこまでにしてください。」

 僕は腹が立ち、その女性の手を冷たく振り払う。

「まぁ、どこまでも釣れない方ね。

 シスモンド卿の周りには令嬢がたくさんいますもの、その方達の付き合いで充分満足しているのかしら?」

「まさか、僕は周りの令嬢達と一定の距離を保っています。

 決して彼女達に手を出していません。

 彼女達はいずれお相手の男性と結婚されるのです。

 僕は責任を取れないことはしない。」

「へぇ、さすがシスモンド卿は心まで高潔で、美しいのね。

 ますます惹かれるわ。

 では、私とお付き合いするっていうのはいかが?

 もちろん体だけの。

 そのことは決して口外しないし、責任だなんて小娘みたいなことは言わないわ。

 大人の関係よ。

 シスモンド卿は慎重だから、一夜限りの関係がお嫌なのね。」

「あなたには、言葉が全く通じていないようですね。

 僕が言っているのは、そのような大人の関係すら必要ないと言っているのですよ。」

「もしかして、女性全体が苦手とか?」

「まさか、僕にはそう言った嗜好はないです。

 自分の想う人以外とは、そういったことはしたくないということです。」

「そんなのその方に内緒にして、黙っていればわからないでしょう?」

「僕は余計なことで、大切なものを失いたくないだけです。

 近々、婚約したいと思っている女性がいるんです。」

「まぁ、そうなの?

 ますますシスモンド卿が欲しくなったわ。」 

「もう、あなたとは話が噛み合わないようだ。

 僕は失礼するよ。」

 そう言って、不満そうに顔を歪める女性を残して、夜会を後にする。

 最近の僕は、呪われているのかと思うほどに、女性達に狙われている。

 どんな場面でも、最終的には女性にまとわりつかれる。

 そして、知人だと思って信頼していた男性達がいつの間にか姿を消している。

 これでは楽しいと思えたひとときもあっという間に帳消しで、そんなことが続いている内に、少しずつ僕は人間不信になりそうだ。

 先日も、自分の邸の中ですら同じようなことが起こった。

 くつろいでいると、突然侍女が誘惑して来たのだ。

 僕は恐ろしくなって、すぐに解雇した。

 邸内ですら気を抜けないなんて、一体僕は何の目的で、誰に狙われているのかすらよくわからない。

 得体の知れない者が、僕を嵌めようとしていると言ったら、気が狂ったと思われそうで口には出せない。

 マリアナは、恋人の浮気を嫌がって、一年付き合っていたイグナス卿と別れた。

 もし、僕が彼のように誘惑に負けて、女性と関係を持ったら、僕も瞬く間に、マリアナに捨てられるだろう。

 だから、元々遊びの女性に手を出すことはしなかったけれど、今は一層気を引き締めている。

 マリアナと早く婚約してしまいたい。

 そしたら、今より群がる女性が減ってくれることを期待している。

 僕はマリアナだけに愛されたい。

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    「シスモンド卿、私、あなたとこの後二人きりで熱い夜を過ごしたいわ。」 知人に招かれて、パーティーで楽しく食事をした後、少し時間が経つと、よくこんなことになっている。 シスモンドは一瞬で嫌気がさした。 さっきまでは、男女複数人と仕事についての会話をしていたはずが、気がつくといつの間にか女性と二人きりにさせられている。 まだ婚約者がいない独身の僕に、周囲は息抜きも必要だと、いらない気を使う。「いや、僕は仕事仲間と話をしていたつもりだったんだ。  みんなはどこへ行きましたか?」 僕は自分にしなだれかかる卑猥な笑みを浮かべた女性から、そっと離れる。 彼女は襟ぐりの深い胸を強調した真紅のドレスを身に纏い、下から媚びるように僕を見上げる。「あら、みなさんはそれぞれにお部屋に行って、誰もいなくなりましたわよ。  私達も空いているお部屋に移りましょう。 それまで待てないと言うのなら、この場でも構いませんけれど。」 そう言って、その女性はクスクス笑いながら、僕の手を握り、自分の胸へと導く。「僕にはそんなつもりはない。  離してくれ。」 僕は彼女の手を素早く振り解く。「シスモンド卿は冷たいのね。」 またか。  何故、性的な関係を抜きにして、普通の会話だけをして終わることができないんだ? 僕は一度も、そんなのを求めたことはないのに。   どうして、こうやって僕を狙う女性が毎回のように現れるんだ? そして、その話に乗らないと、まるで僕が物分かりの悪い人間になった気分にさせられるのは、どうしてなんだ? パーティーの終わりになると、主催側の意図なのか、それとも女性達の独断なのかわからないけれど、とにかく女性をあてがわれる。 そうすれば、仕事が円滑に進むとでも思っているのか、ただ女性が僕と関係したいと思っているのかは不明だけど、この手の危険な罠に囲まれているのは確かだ。 僕は自分自身でもわかるほど、昔から良くモテている。 そして、約一年ほど前から、そのモテ方が、純粋な好意から明らかな誘惑へと姿を変えていた。 物分かりの良い令嬢ならまだしも、こういうタイプの女性は本当にタチが悪い。 一夜の遊びに見せかけて、弱みを握られて、身動きが取れなくなった男の話なら腐るほどある。 おかげで酒さえも思うように飲めない生活を送っている。 酒を飲み過ぎた夜

  • あなたの浮気を目に焼き付けて、終わりにします   4.夜会

     数日後、マリアナはシスモンド様にエスコートされて、王宮での夜会に来ていた。 彼から送られたドレスは、スミレ色のふんわりとしたデザインで、彼のタキシードと対になっている。「僕の選んだドレスを着てくれたんだね、ありがとう。  スミレ色のドレスが君によく似合っていて、とても素敵だよ。」 シスモンド様は私の全身をうっとりと眺めている。 プレゼントしてくれた服を着ただけで、こんなに喜んでくれる人がいるのね。 私は恥ずかしいけれど、ちょっとくすぐったいような気分になった。「こちらこそ、ドレスをありがとうございました。  シスモンド様が選んでくださったのですね。」 先ほど、邸にシスモンド様が馬車で迎えにいらした時、二人でしばし衣装を褒めあったのだ。 しびれを切らしたユニカに「そろそろ出かけられたらいかがですか?」と言われた時は、二人で思わず笑ってしまった。 時を忘れてお互いを褒め合うなんて、初めての経験だった。 この見せびらかすかのような明確なカップル感、いかにも「私達付き合っています。」と言わんばかりだ。 正直なところ、ここまでの揃いの衣装は、二人にはまだ早い気がするが、シスモンド様が贈ってくれた初めての物だから、断るのも難しく、結局着てきている。 私達の登場に、夜会の会場全体がざわめいた。 令嬢達が口々に、「ディアス侯爵令嬢は、イグナス卿とお付き合いしていると思った。」「シスモンド卿にエスコートされて現れるなんて、どう言うこと?」など、さまざまな憶測と疑念の声が聞こえてくるけれど、直接私達に聞いて来る者はいない。「シスモンド様、やはり私達が一緒に夜会に来るのは、早過ぎたかしら?」「いいや、いずれこうなるんだ。  ちょっと皆が思うよりも、早かっただけだよ。」 シスモンド様が私の耳元で囁きながら、微笑む。 すると、彼の笑みを見た周りの令嬢達が、キャーっと一斉に悲鳴を上げる。 この光景は、私も以前遠くから見たことがある。 シスモンド様に憧れる令嬢達が、彼の笑顔を一目見ようといつも群がっている。 だからこそ、私は最初の出会いであるイグナス様の浮気現場を見ていた時、シスモンド様に声をかけられて、周りにいるはずの令嬢達の視線を気にした。 彼の周りには常に令嬢達がいるはずだから。「そう言えば、初めてお会いした時、お一人でしたよね?  

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