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あなたを待つ日は、もう終わり
あなたを待つ日は、もう終わり
Autor: 小湯まる

第1話

Autor: 小湯まる
私、花村千歳(はなむら ちとせ)は神崎悠真(かんざき ゆうま)と、私の故郷に古くから伝わる婚姻のしきたりに従って結ばれてから、6年が経った。

7年目を迎えた今年、彼は亡き兄が遺したすべてを受け継いだ。

――兄の妻、神崎紗耶(かんざき さや)も含めて。

悠真は紗耶の部屋で夜を過ごすたび、戻ってくると私を抱き寄せ、優しく囁いた。「千歳、もう少しだけ待ってくれ。紗耶に子どもができたら、その時は君とちゃんと式を挙げる」

それが、一族の当主として認められるために、彼に課された唯一の条件だった。

東都に戻って半年、悠真は紗耶の部屋を52回訪れた。

最初は月に一度だけだったのに、今ではほぼ2日に一度。

そして52回目の夜を、私は一睡もできないまま夜明けまで過ごした。

朝になって届いたのは、紗耶の妊娠を告げる知らせだった。

けれど、それと同時に耳に入ってきたのは――

悠真と紗耶が結婚するという話だった。

「ママ、おうちで誰か結婚するの?」

部屋いっぱいに飾られた祝い飾りを見つめながら、事情も分からず首をかしげる息子を、私は静かに抱き寄せる。「そうよ。パパは、大好きな人と結婚するの。だから、私たちもここを出て行かなくちゃね」

悠真は知らない。

私たちの一族は、もともと婚姻という形に縛られることはないのだから。

……

息子を寝かしつけると、私はスマートフォンを手に取り、故郷に戻る航空券を予約した。

けれど年始の休暇が終わったばかりで、帰省客や仕事始めの人々が一斉に移動する時期だった。

最も早い便でも、出発は7日後。

表示された日付を見つめたまま、私はしばらく動けなかった。

1月11日――私と悠真が故郷の婚姻のしきたりに従って結ばれてから、まる7年の記念日でもあった。

まるで運命が決めた巡り合わせのようだ。

私は苦く口元をゆがめた。

……ちょうどいい。

始まりがこの日なら、終わりもこの日にしよう。

そのとき、不意に濃厚なクチナシの香りが背後から私を包み込んだ。「何を見てるんだ?」

頭上から降ってきた悠真の優しい声に、私は反射的に画面を消す。「宝石の記事を見ていただけよ」

たった半年で、紗耶がまとうクチナシの香りは、今では悠真の体にまで染みついてしまっていた。

私は嫌悪感を覚え、そっと彼を押し返す。「お風呂に入ってから話して」

悠真は自分の服の匂いを嗅ぎ、少し気まずそうに苦笑した。「……すぐ入ってくる。最近ずっと君をないがしろにしてしまって、ごめん。この数日は紗耶のところには行かないから」

紗耶――そんなにも自然で親しげな呼び方。

以前は人前だけでも「紗耶さん」と呼び、体裁だけは繕っていたのに。

今では「さん」もつけない。

事情を知らない者が見れば、紗耶こそが彼の妻だと思うだろう。

やがて浴室の扉が開き、湯気をまとった悠真がバスタオル姿で出てきた。

広い肩に引き締まった腰。

すらりと伸びた体には、この年齢の男には珍しい、どこか少年らしい面影が残っている。

その姿を見ていると、7年前の彼が重なった。

夜露をまといながら、私の故郷に伝わる古い風習に従って、夜更けに私のもとを訪ねてきた彼。

誇らしげに胸を張り、世界中に言いふらしたいと言わんばかりに笑っていた。「千歳、今日から君は俺の人だ。これから先もずっと、俺たちは二人で生きていこう」

私がぼんやり彼を見つめていることに気づくと、悠真は嬉しそうに笑い、私を強く抱きしめた。「千歳、今日は君だけと過ごす。どこにも行かない」

柑橘の爽やかな香りに、わずかに残るクチナシの香りが混ざり合う。

そのちぐはぐな匂いは、胸が悪くなるほど不快だった。

私は静かに目を伏せる。

もう、目の前のこの人は、あの頃の彼ではない。

そのとき、ノックの音が静寂を破った。

「悠真様。紗耶様のご気分が優れません。どうかお部屋までお越しください」

その報告を聞いた瞬間、不機嫌そうな表情は一瞬で消え、悠真の顔は緊張に染まった。

慌ただしく服を着替えながら尋ねた。「どうしたんだ?医者は呼んだのか?」

数歩進んだところで、彼はようやく立ち止まる。

申し訳なさそうに振り返り、ドアにもたれていた私を見つめた。

「紗耶の様子を見てくる。兄が亡くなってから、彼女には俺しか頼れる相手がいないんだ。

すぐ戻るから。千歳は、一番物分かりがいいだろ?」

――「物分かりがいい」。

その一言だけで、私は半年もの間、52回もの夜をひとりで過ごしてきた。

私の故郷には、二人が古のしきたりに従って誓いを交わしさえすれば、それは生涯の伴侶として添い遂げるという契りになる。

だが悠真、私はあなたの世界のしきたりに従って、52回も私たちの誓いを手放してしまった。

私は静かに口を開いた。「悠真」

悠真は眉をひそめ、何か慰めの言葉をかけようとした。

だが、その瞬間。

不意に肩に掛けられた重みに、彼は思わず息を呑む。

私はコートをそっと彼の肩に掛けた。「夜は冷えるから。ちゃんと羽織って行って」

彼は肩のコートを握りしめ、複雑な表情で私を見つめる。「千歳、君……」

胸の奥に込み上げたこの苦しさが何なのか。

彼がそれを理解するより早く――

バタンと、ゲストルームの扉が閉まった。

あと7日。

悠真。

もう、あなたを待つことはない。

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