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第5話

Penulis: スキ
病院の廊下は、白い照明が目に痛いほど明るかった。

誰もが冴香のそばに集まっていた。

朗真は彼女の手を握り、母は白湯を用意し、兄は受付や会計の手続きに追われている。父は病室の入り口に立ち、険しい顔で私に釘を刺した。「もう妊婦を刺激するようなことはするな」

私は一人、廊下の端に立っていた。

手首はまだ痛んでいた。

退院したばかりの傷口は、あちこち動き回ったせいで再び血が滲み、真っ白なガーゼには、うっすらと赤い染みが滲んでいた。

けれど、誰も気づかなかった。

ふと、3年前に流産した日のことを思い出した。

あのとき病室にあったのは、すっかり冷めた雑炊と、鼻をつくような消毒液の匂いだけだった。

朗真は病室の外に立ったまま中へ入ろうとせず、母は泣き疲れてベッドのそばに突っ伏したまま眠っていた。

そんな中、冴香だけが私の手を握り、何度も「ずっとそばにいるから」と言ってくれた。

あの頃の私は、自分はもう十分すぎるほど惨めだと思っていた。

けれど今日になって、ようやく分かった。

もっと惨めだったのは、あのとき唯一縋ることのできた人まで、私を騙していたことだった。

医師が処置室から出てきて、ひとまずお腹の赤ちゃんは無事だと告げた。

その場にいた全員が安堵した。

朗真は目を閉じ、張り詰めていた肩からようやく力を抜いた。

母は小さな声で「よかった」と繰り返し、兄も壁にもたれながら長く息を吐いた。

私はそんな彼らの後ろに立ち、まるでそこにいる必要のない影のようだった。

目を覚ました冴香は、ずっと涙を流していた。

やがて私を見ると、弱々しい声で言った。「寧々、私のことを憎んでるのは分かってる。でも、子供には何の罪もないの」

彼女がそう言い終えると、朗真が私を振り返った。

その眼差しは、見知らぬ人のように冷たかった。

「謝れ」

一瞬、聞き間違いかと思った。

「……私に、彼女に謝れって言ってるの?」

朗真は眉をひそめ、冷えきった声で言った。「君が騒がなければ、彼女だってこんなことにはならなかった」

胸を締めつけられたように息が詰まり、しばらくしてようやく声が出た。「朗真、私のところに勝手に来たのは冴香のほうよ」

すると母まで目を赤くしながら歩み寄り、私の袖を掴んだ。「寧々、お願いだから謝って。お母さんからも頼むわ。もうこれ以上騒がないで。冴香は今、妊娠しているのよ。こんなふうに刺激されたら体がもたないわ」

私は母を見つめた。

この人はかつて、流産した私を抱きしめながら、朗真のことは一生許さないと言ってくれた。

なのに今は、私に冴香に頭を下げろと言っている。

さらに兄が、重い口調で言い放った。「お前はもう一人、子供を死なせてるんだぞ。まさか二人目まで死なせるつもりなのか?」

廊下が一瞬、静まり返った。

全身の血が、一気に凍りついたようだった。

「……私が死なせた?」

兄を見つめ、私は思わず声を荒らげた。「3年前、朗真が不倫して、そのせいで私はホテルの非常階段から落ちて、子供を失ったのよ」

目の奥が熱くなった。

私は一言一言噛みしめるように、兄へ問いかけた。「それがお兄ちゃんに言わせれば、私が子供を死なせたことになるの?」

兄は私から目を逸らした。それでも、無理に自分を正当化するように言った。「あのとき、お前があんな騒ぎを起こさなければ、ああはならなかっただろ」

目の前が真っ暗になった。

冷たい壁に手をつき、どうにか倒れずに立っているのが精いっぱいだった。

その瞬間、もう何も説明したくなくなった。

私は朗真を見た。

そして病室のベッドで弱々しく泣いている冴香にも目を向けた。

胸の奥にかろうじて残っていた最後の温もりが、とうとう完全に消えていった。

「……分かった」

自分の口から、ひどく小さな声が聞こえた。「じゃあ、私が死なせたってことでいいよ」

母の顔色が変わった。「寧々……」

私はもう、その先を聞かなかった。

背を向け、そのまま病院を出た。

今度は背後から、みんなが私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。

それでも、私は一度も振り返らなかった。

家に戻ると、すでに荷造りを終えていたスーツケースを引っ張り出した。

リビングは静まり返っていた。

必要事項を記入した離婚届をテーブルの上に置き、その隣に結婚指輪を置いた。

指輪の内側には、かつて朗真が自ら選んだ言葉が刻まれていた。

彼は、それが私たちの始まりを意味するのだと言っていた。

私は一度だけ指輪を見つめると、3年前の流産に関する診断書と一緒に置いた。

最後に、航空券を取り出した。

行き先はセレヴィア。

かつて私は何度も朗真に、セレヴィアへ行って一面に降り積もる雪を見てみたいと話していた。

そのたびに彼は笑って言った。「この忙しさが一段落したら、絶対に一緒に行こう」

私は何年も待ち続けた。

待っているうちに子供を失い、結婚生活は壊れ、親友だった人までが私の胸を抉る刃になった。

だから、もう待つのはやめた。

……

空港内に搭乗案内のアナウンスが流れたとき、朗真から電話がかかってきた。

画面が明るくなり、やがて暗くなった。

私はそこに表示された彼の名前を見つめたまま、電話には出なかった。

2回目、3回目。

何かに気づいたのか、彼は何度も何度も電話をかけてきた。

私はスマホの電源を切り、係員に搭乗券を差し出した。

飛行機が離陸すると、私は窓際の席にもたれながら、眼下の街が少しずつ遠ざかっていくのを眺めた。

あの街には、かつて私が愛した人がいる。

そして、かつて私が一番大切にしていた親友もいる。

でも、朗真、冴香。私はもう、死のうとはしない。

ただ、あなたたちを捨てるだけ。

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