Beranda / BL / あやかし百鬼夜行 / 九十九の願い事②

Share

九十九の願い事②

Penulis: 佐藤紗良
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-30 20:00:55
「太郎君、パパが迎えに来てくれるからね。心配いらないよ」

朝のおやつの時間が終わり、外遊びをしている子供たちのなかに、顔を真っ赤にしている男の子がひとりいた。佐加江が就職した年に入園し、ついこのあいだ、三歳の誕生日会をした太郎だ。元気に遊んではいたが、額に手を当てると驚くほど熱い。職員室へ慌てて連れて行き、体温を測ると四十度に届きそうな熱だった。緊急連絡先である父親の携帯に連絡を入れると、すぐ迎えに来ると言う。

「最近、涼しいから風邪ひいちゃったかな」

他の先生たちが出払った職員室で、佐加江はぐずっている太郎を抱っこしながら父親の迎えを待っていた。まだミルクの匂いがする柔らかな身体。背中をトン、トンと優しく打てば、うつらうつらと瞼が重くなっている。

「パパに早く抱っこしてもらいたいね」

返事はなく、代わりに佐加江の水色のエプロンを握る小さな手。佐加江もとても不安で朝、会ったばかりの父親が職員室前の園庭を横切る姿を見て、ホッと胸を撫でおろした。

「太郎君パパ!」

佐加江は声を出さずに職員室の窓を開け、大きく手を振った。あまりこの辺りでは見かけない派手なスタイル。アロハシャツをワイドパンツにタックインし、まん丸なサングラスをかけた服装は今朝と変わりなく、見間違えるはずがなかった。佐加江は太郎を抱っこしたまま準備してておいた荷物を持ち、昇降口へと急いだ。

「佐加江先生、連絡ありがとうございます。太郎、迎えに来たよ」

太郎は、パパの腕の中でもぐっすりと眠ったまま。ずっと抱っこしていた佐加江は、ふっと身体が軽くなりよろけた。

「熱が高いので、様子を見てあげてください。そろそろインフルエンザも流行りだす頃なので」

寝ぼけているのか、太郎が目を閉じたまま嬉しそうに笑っている。そんな姿にホッとした佐加江は靴を履き替え、一緒に外へ出た。

「荷物、車までお持ちしますね」

「ありがとうございます」

年季の入ったワーゲンバスの後部座席に太郎を乗せ、パパは佐加江から荷物を受け取った。

「今年も佐加江先生が担任で良かったです。うち、女手がないもので女性に抱っこされると、すぐニヤけるので困ってるんです」

「太郎君がですか?」

強く吹いたつむじ風が園庭の砂を巻き上げ、目を固く閉じた佐加江は捲れるエプロンを抑えていた。

「先生」
Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • あやかし百鬼夜行   百鬼夜行④

    大げさに転び、わざとらしく痛がる浩太を睨みつけた佐加江はひとり先に帰り、部屋へ引きこもった。 怪我をさせた浩太に謝りもせず、そうなった理由を越乃が尋ねても何も言わず、佐加江は気分が悪いからと部屋から出ようとしなかった。 波風を立てる事が苦手で温厚な佐加江が、これほどまで強固な態度を取るには、それなりの事があったのだろうと越乃はそれ以上、何も言わなかった。「佐加江が、申し訳ない」 「大丈夫ですよ。こんな掠り傷、大したことありませんから。それよりも佐加江さん、大丈夫ですか。気分が悪いって」 開け放たれた窓の外からは、耳鳴りのように松虫や鈴虫の声する。 頬杖をついた浩太はサラダには一切手をつけず、シチューに入っていたカボチャをスプーンの先でグチャグチャと潰していた。「大丈夫だよ。少し疲れただけだろう」 「佐加江さんは、素敵な方ですね。越乃さんが、大切に育てたんだろうなって」「それは、どう言う意味かな」「父の受け売りです。あっ、そうだ! 佐加江さんにシチュー持って行ってあげよう。美味しかったから」 使った皿を持った浩太は、越乃から死角になる台所へ向かった。そこにはバターソテーした海老が五尾ほど残っている。「この海老、食べてもいいですか」 「構わないよ。佐加江は、甲殻類アレルギーだからシチューには入れないでくれるかな」 浩太は食べ残したカボチャがある自分の皿へ海老をすべて入れ、まだ温かいシチューを盛り付けた。「番になる僕の好きなものが食べられないって、どう言うことですか」「アレルギーだ、仕方ないだろう」 腕を組んでいた越乃が浩太を見ずに立ち上がり、夕飯の片付けを始める。「夕飯の支度も、そんな片付けも佐加江さんにやらせれば良いんですよ。越乃さん、あなたにはアルファの誇りがないんですか」「アルファの誇りとは、何かな」「皆が敬うべき存在で

  • あやかし百鬼夜行   百鬼夜行③

    越乃は幼い佐加江を連れ、頻繁に村へ帰ってきていた。 最後に鬼治を訪れた前の年だったと記憶しているから、十八年くらい前だろうか。その出来事は、いまでも鮮明に覚えている。『今日は、外へ出てはいけないよ』 越乃にそう言われた。 誰もいない、じぃじの家。 昼間なのに雨戸は閉めきられ、いつも開いている玄関に鍵をかけて越乃は出かけて行った。 電気がつけっぱなしの居間で、佐加江は遊んだ。一人でも平気だったのは、この家に我がもの顔で住む、かすりの着物を着たおかっぱ頭の座敷童子がいたからだ。 大好きなアニメが映し出されるテレビの前で三角座りをしながら、二人でオープ二ングの曲を元気に歌っていると雷鳴が聞こえた。 このころの佐加江は、鬼を連想させる雷が嫌いではなかった。 佐加江はピカッと光る稲妻を見ようと雨戸に走り、隙間から外を覗き見た。が、外はキンとは冷えた冬晴れ。雨すら降っていない外に見えたのは、白装束を着た醜い鬼の大行列だった。雷鳴かと思ったのは、太鼓の音。神輿を先頭に鬼の行列は鬼治稲荷へと続き、雄叫びをあげ、神輿を壊しにかかろうとする恐ろしい鬼達の様子に、佐加江はおもらしをしてしまった。 それから一年近くして鬼治を訪れたのが、青藍と最後に会った時だ。『佐加江?』『はい』『ああ……。会わない間に、こんなに大きくなって。すっかりお兄ちゃんだね。先生は良くしてくれてる?ご飯はきちんと食べているの?』 鬼治稲荷へ向かおうと、人目を盗んで外便所の裏に隠れていた佐加江に話しかけてきたのは、見知らぬ男性だった。やせ細っていて、腹だけが妙にぽっこりと突き出ている。隠れていたことを笑ってごまかそうとした佐加江は、その胸に抱きしめられた。 懐かしい匂いがして、なぜだか鼻の奥がツンとした。 やつれた男性は「ごめんね」と何度も繰り返し、佐加江のクルッと緩くカールしてしまうくせっ毛を梳いた。佐加江と同じような髪の男性は寂しげではあるが優しく微笑みながら、目に焼き付けるように佐加江を暖かい眼差しで見つめていた。『これからも、先生の言う事をきちんと聞くのですよ』 先生とは、きっと越乃の事だ。白装束を着た男性は腹を摩りながら、たくさんの村人が出入りする蔵へとーー。 佐加江は浩太のジーンズの泥を払う手を止め、遠い日の鬼治での出来事を思い出していた。「な、何?!」

  • あやかし百鬼夜行   百鬼夜行②

    「……なぜ、それを知ってるんですか」 「父から聞きました。実は俺、アルファなんです」 「え?」「おかしいと思いませんか。世の中、アルファもオメガも産まれなくなったはずなのに、家族の中で父と末っ子の俺だけがアルファなんです。母も兄たちもベータなのに」 オメガと診断されてから文献を探して読んだ佐加江にとって、その答えは明白だった。 アルファ男性は、アルファとオメガの男性同士の掛け合わせでしか産まれない。 この簡単な方程式は、佐加江の脳裏に深く刻み込まれていた。つまり、浩太は婚外子。藤堂には妻とは別に、番になったオメガ男性がいるという事になる。「だから佐加江さんのことを聞いた時、他人事には思えなくて。俺たちは似てるように思いました」「そんな。アルファなら浩太さんはお勉強もスポーツも、何でもできるでしょう。僕なんか、駆けっこはいつもビリだったし、勉強もあまり……」「でも、美人だ」「美人ってのは、女の人に使う言葉だよ。それくらいは出来の悪い僕でも分かる」 「佐加江は、出来が良すぎるくらいだよ。小さい頃から素直で誰にでも優しくて」 フォローしようとしたのか、越乃が佐加江の肩に手を置いて笑っていた。「二人は歳も近いから、うちで預かって欲しいって村長に言われたんだ。仲良くできそうで良かった。部屋は佐加江の隣の部屋を使ってもらうおう。浩太君はこの村は初めてだから、荷物を置いたら案内してあげなさい」「うん。浩太さん、行きましょ」 案内すると言っても商店も駅もない。「きっと都会の人にはこんな田舎、退屈でしょうね」 自分も二年前まで東京に住んでいたと言うのに、佐加江はすっかりこの村の人間のような口ぶりだった。 物置代わりの蔵や外便所を案内し、敷地を出た。ゆるくカーブした道をいろいろな話をしながら浩太を連れ、佐加江はのんびり歩いた。「あそこが神社ですか」 浩太が指差したのは桜とともに植えられている常緑樹が、こんもりと小山のようになっている鬼治稲荷だった。その裏には岩肌が見える切り立った崖。そこへは案内したくない、そんな気持ちから佐加江は田んぼの畦道を通り、遠回りしているところだった。「鬼治稲荷神社です。太古の昔、鬼を治めるために狐の神様と一緒に祀られたの」 祀られたのは、青藍ではない。荒くれ者だった先代の鬼だ。「太古の昔?」 浩太は鬼治稲荷

  • あやかし百鬼夜行   百鬼夜行①

    あの後、せっかく良くなった顔色を悪くした青藍は、たくさん謝っていた。そして 、見計らったようにやって来た天狐夫夫と酒盛りになってしまい、青藍はベロンベロンに酔ってしまっていた。 天狐のおかげで、こちらに戻って来れば一時間程度しか時間は経っていなかった。が、疲労感がひどかった佐加江は数日、寝込んでしまった。桐生は番になった今でさえ、子供達同様、たまにこちらに出てこないと体調を崩すことがあるらしい。 本紋がない自分があやかしの世に長居する事が、どんなに難しいか、佐加江は痛感した。 次の発情まで一緒に過ごせない時間を埋めるように佐加江は深夜にコソッと家を抜け出し、鬼治稲荷へ行っている。 ある日の夜、月明りを受け、境内で静かに佇む青藍の姿に見惚れてしまった。おとぎばなしとは違い、鬼とは美しいあやかしだ。 「青藍。僕がここへ来たら祠の扉をコンコンってするから、そうしたら出て来て」 「なぜです。待っていては、駄目ですか」 「誰かに見つかりでもしたら……」 美しい青藍を誰にも見せたくない、それが佐加江の本音だった。改めて家へ来てはダメと言ったのも、青藍が誰かに見つかりでもしたらと思うと気が気ではなく、鬼治稲荷だったら天狐の結界があり安心だからだ。 毎日のように、佐加江は風呂上がりの背中を鏡に映している。 まるで天使の羽根でも生えてくるのではないかと思うほど、本紋がそこへ刻まれる日を心待ちにしている 。その一方で越乃に言い渡された謹慎は、今まで育ててくれた恩返しをしたい佐加江にとって大切な、意味のある時間となっていた。 「佐加江」 「なに?」 「こっちへ来なさい」 深夜に起きているから昼間、眠たくなってしまうのは仕方がなく、昼寝でもしようかと布団に入ったところだった。 「どうしたの?」 つい先ほど、軽トラの音が

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑳

    「――佐加江、大丈夫ですか?」 「なんだかドキドキしてるけど、青藍のそばにいるせいかな」 頬を綻ばせる佐加江を心配する青藍の目は、瞳孔が開いて爛々としていた。互いに何かが違う、そんな気がする。 「青藍……、どうしたの?」 「蠍は精力剤なのです」 「精力剤?」 「天狐様に一服盛られたようです。……鬼には、よく効く」 青藍が口にした蠍の粉末は、相当な量だった。 濃密な匂いだった佐加江のフェロモンに当てられても耳とうのお陰で、青藍は欲をコントロールできていた。こちらに帰ってきて耳たぶが千切れそうで、治ったらまた付ける約束で天狐の呪文で外してもらったところだった。 「ちょ……ッ、青藍」 本人は気づいていないようだが、面を外してしまった佐加江から発情の残り香がする。 「佐加江」 低い声で呼ばれ、ビクッとした肩を桜の幹へと押さえつけられ、強引に唇が奪われた。まるで捕食されるような荒々しさで、シャツから濡れ透ける乳首を指先で捏ねられた佐加江は悶絶してしまった。 「嗚呼、なんて愛おしいんだ。ずっと逢いたかった」 「え?ど、ど、どうしたの、青藍!しっかりして」 発情期の時とは違い、頭はしっかりしている。身体が勝手に火照ってしまって、青藍の振舞いから目を離せなかった。 「待って! 青藍、ここお庭」 青藍は苦しげに、白装束の合わせ目から手を滑り込ませ猛々しい陰茎を隠すことなくさすっている。 「待てぬ、……抱き潰してしまいたかった」 子供の服でも脱がすかのように簡単に服を剥ぎ取られてしまった佐加江は、あられもない姿を庭先で晒

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑲

    「全部いたしましょう、佐加江」 難しい顔ばかりしている青藍が腰を屈め、花がほころぶようにふわっと微笑んだ。 その笑顔に見とれていた佐加江に、青藍が顔を近づけてくる。 キスをされるのかと思い、目をギュッとつむると佐加江の小指に小指を絡め、青藍は歩き出した。妙に構えてしまった佐加江は、恥ずかしくて顔を上げられずにいる。 「ねぇ、青藍。この指」 「指切りです。佐加江の願い事をひとつでも叶えなかったら、私は針を千本飲んで見せましょう」 「嫌だ、変なこと言わないで。そんなつもりで書いたわけでは……ッ、わぁぁ」 小指を繋がれたまま門をくぐると、そこは地獄ではなく色とりどりの花が咲き乱れていた。 「こぼれ種で増えた者もあれば、地下茎が伸びた者もいます。これくらいは、ささやかな幸せとして赦されたかった。まさか大きくなった佐加江に、この庭の花々を見せる日がくるなど、思ってもいませんでしたよ」 季節感はなく、どういうわけか桜も曼珠沙華も一緒に咲いていた。ふと見れば稲は頭を垂れ、天狐とそっくりな真っ白な仔狐が戯れているタンポポの綿毛が、ふわっと佐加江の前を漂っている。 「素敵なお庭」 「すべて『佐加江』です」 「え?」 「今朝、こやつらの水やりをずっと忘れていたことを思い出したゆえ、失礼したのです」 「えっと」 「佐加江は、私の事など忘れてしまうと思っていました。せめて私だけは忘れぬよう、すべての花に『佐加江』と名付けました。元は幼きお前が祠に供えた花ですよ」 「うそ……」 子供の頃、鬼治稲荷の境内の桜の木によじ登り、枝を折った覚えはある。銀木犀は家の庭に咲いていたものだ。山で拾ったどんぐり

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑱

    ただ、この仔狐ーー。 途中の昆虫屋で足を止め、居眠りをする店主の目を盗んでミミズをペロリ。驚愕の店構えに、佐加江はただ呆然としていただけなのに狐の面を付けていたせいで、目を覚ました店主に親狐と勘違いされ、ひたすら頭を下げる始末。 そして、道の両端にある小さな水路へ降り、渇いた喉を潤すように天狐の真似をして美味そうに水を啜っていたかと思うと、泳いでいる鯉に鼻を吸われ「キュゥゥ」と泣き出した。青藍への土産の生肉を放り出して助けたものの、佐加江だけが水路に落っこちてしまった。 道行くあやかしに笑われながら、びしょ濡れのパーカーの裾を絞る。そんな佐加江を知らんぷりした仔狐は、近くにいたろくろ首姐さんの元へ走って、その豊満な胸元へ飛び込んで目を細めていた。 提灯がぶら下がる真っ直ぐな道がどこまでも続き、いくら歩いても同じ風景だった。 まだ、少ししか進んでないかと背後を振り返れば、桐生といた店は見えなくなっていた。空を見上げれば、逢魔が時の色。寒い暑いも感覚がなく、早く家へ帰らねばと焦る気持ちだけが大きくなっていた。「青藍……」 いつの間にか仔狐を見失い、いま自分がいる場所が来た道か行く道かわからなくなってしまった。面を外し、濡れた顔をパーカーの袖で拭う。道端に所々おかれた長椅子に腰掛け、佐加江はふうっと大きく息を吐きだした。「おや、人の匂いがするねぇ」 「本当だ。これは番を持たぬ……、しかも生身の甲の匂いだ」「珍しや、珍しや」「鬼に唾をつけられておきながら、番にしてもらえなかったのだろう」「ウヒヒヒ……、行かず後家」 どこから声がするのかと辺りをキョロキョロと見回していると、長椅子についた佐加江の手がどす黒く変化していた。「え?」 そばに置いた油紙に包まれた生肉には何も起こっていないのに、あっと言うまに肘あたりまでどどめ色に変わって行く。それは指先から何かが這い上がってくるような感覚で、手を引き剥がせない上に、長椅子と接していた佐加江の腰がズンと重くな

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑰

    「それ以上ツルツルになったら、ゆで卵になっちゃうじゃんか。佐加江君、もっと自信を持ちなって」 「でも……。桐生さん、青藍の好みって知ってます? 僕、なんにも知らなくて」 桐生の子供たちは皆、真っ白な仔狐なのだが、よく見るとずいぶんと性格が違うようだ。そわそわと忙しない子もいれば、それを気にせず桐生が座る椅子の下で眠っている子もいる。桐生の膝にいる仔狐は他の四匹と比べ、ひと回りもふた回りも小さく、生まれて間もないようだった。「俺も知らないよ。鬼君んち、うちの隣なんだけどね。真面目っていうか純情っていうか……。いつも死神しか訪ねて来ないから、浮いた話も出てきやしない」「シニガミさんとデキてるんですか?」「デキてない。仕事のパートナー」 「パートナーいるんだ」しょぼくれる佐加江に、桐生は棗椰子の実を勧めた。甘くねっとりとしていて、餡子のよう味わいだった。「ねぇ、佐加江君って天然?」「天然に気づいてたら、天然じゃないですよ。僕は違います」「ぷは! 確かに。この子、このあいだ熱があったじゃない? 佐加江君に言われた通り、冷たい川の水で濡らした手拭い首に巻いて、脇の下ひやしたら熱が下がったんだ。うちの子で熱が出たの初めてだったから天狐もうろたえて、俺を探し回ってたってわけ。だからすごいんだよ、佐加江君は」桐生に褒められ、お面の下の佐加江の頬がポッと熱くなった。「ーー保育士なんです」「保育士? 佐加江君、保育園の先生なの?!」「はい。子供が大好きで、憧れの仕事だったんです」「憧れの仕事に就けるなんて、すごい! こっちの世界にも保育園できたらいいのにな。そうしたら、天狐とたっくさんデートできる」 ネズの実を食べながら、桐生が懐かしそうに笑っていた。「俺が村にいた頃にさ、佐加江君と同じ名前のお姉さんが近所にいて、その人もすごく優しい人だったな」「僕と

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑯

    「えぇぇぇ! 鬼君が射精しなかった?!」 「桐生さん、声大きいです!」 大宜都比売神の店は、黄色いテントが目印。四六時中、酒が飲めるのが売りで、店内はがやがやと賑わっていた。緑色した液体が入った泡が溢れるジョッキを持った大宜都比売神は、ふくよかな気のいいおばちゃんで、客からは『モッチー』の愛称で親しまれている。前の大通りまで真っ赤なテーブルと椅子が置かれ、桐生が言うには、あやかしの世界では流行りのデートスポットらしい。「ちょっと待ってよ。佐加江君、色っぽくなってるし抱かれたんでしょ? 発情してたのに、鬼君にはフェロモンが効かないってこと!?」「初めての発情が遅過ぎて、フェロモンが足りなかったとか……。抱かれたって言うか、気持ち良くして頂いただけというか」「中出ししなかった、ってだけの話だよね?」 「いいえ」 「まさか、鬼君が挿入しなかったとか言わないよね?」「……ナシだった、と思います」「詰んだ」 「詰みました」 唖然とする桐生に、佐加江は顔を真っ赤にしながら口をへの字にしている。外の席で、風もないのにユラユラと揺れる提灯を佐加江はぼんやり眺めていた。「ありえない、ありえないよ! あやかしにとって人のオメガのフェロモンって絶対だもん。……少なくともうちの天狐にとっては。注文しちゃったし詳しく話聞きたいから、とりあえずお面つけておこうか」 「お面ですか?」「うん。そのお面、うちの子たちの子守する為に鬼君が彫ったやつなの。うまく化けられるように天狐が念を込めてるから、霊力が強いもの身につけておいた方がいいわ」 沈黙が流れ、桐生おすすめの栄養ドリンクが酒の肴と共に運ばれてきた。「とりあえず発情期、お疲れ!」 「お、お疲れ様です」「シケた顔しないの、佐加江君。チームオメガにかんぱ~い!!」 カツーンとジョッキを合わせると、真っ赤な液体がプシュ

Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status