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ベンチ

Author: みゃー
last update Last Updated: 2025-10-17 19:48:42

 理久とクロは、理久の世界、すっかり夜になった東京の、理久とクロの世界を繋ぐ扉のある公園の中の木の前に戻ってきた。

 二人の回りを、キラキラ輝く、異世界転移の魔法の粒子がまだ舞っている。

 理久とクロは、まだ抱き合ったまま、唇同士を重ねていた。

 クロは、突発的に理久に付いて来たので獣人のままだ。

 人と同じ体に下半身に尻尾、頭に犬耳がついたまま。

 理久の世界の人間にこの獣人のクロを見られるのは危険だ。

 しかし、理久とクロの唇は、角度を変えて何度も互いに求め合う。

 止まらない。

 そして、クロの腕が尚一層強く理久を抱いた。

 理久はその力に、キスしたまま甘い吐息を漏らした。

 だがそこに突然、クロが背後に何かの気配を感じ、ハッとして理久から唇を離した。

「どうしたの?クロ」

 理久が怪訝そうに尋ねた。

「いや……何でも無い」

 クロは、理久の背中に腕を回したままニコリとしたが、内心穏やかでは無かった。

 確かに何かがいて、すぐ気配が消えた気がしたのだ。

 まさかクロの世界の何かが偶然クロ達に付いて理久の世界に来ていたとしたら、とんでもない事だった。

 それでもクロは、理久を心配させたく無かった。

 そこに、理久がクロを見詰めてシュンとして呟いた。

「クロ……ごめん。やっぱり俺に付いて来なくちゃいけなくなって」

 クロは、クロを見上げる理久の左頬に、クロの右手の平を添えた。

「大丈夫だ、理久。やはり俺が理久の両親にちゃんと会って理久との結婚を許してもらうべきだし……それに……」

「それに?……」

 理久は、少し首を傾げた。

「それに……今離れたら、もう二度と理久と会えない気がした」

 そう言い、クロは理久を強く抱き締めた。

 理久は驚いた。

 クロが、理久と全く同じ事を考えていたからだ。

 そして、それが不思議だった。

「クロ……」

 でも理久はそれ以上何も言わず、クロの逞しい体を抱き締め返した。

 クロは、尻尾と頭の犬耳を隠し人間に扮した。

 理久の方は、たった1日理久の世界を離れてただけだ。

 しかし、まるで何十年ぶりに帰ってきた感覚だ。

 公園内は、所々に電灯があるだけでかなり暗い。

 その中を、理久とクロは手を繋ぎ理久の家へ急ぐ。

 だが理久は、隣にいるクロが握ってくる手の確かな温もりを感じているのに、何故か犬のクロをこの公園で何日も何日も探し回り泣い
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Comments (1)
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ともちー
翼くん、あやしい?早く続きが読みたいです...
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  • いなくなった愛犬を探していたら異世界で獣人王になっていて、俺は愛妃になれと攫われた!(交際0日で獣人王と婚約しました))   翼

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     理久もすぐにクロを抱き締め、体格差からクロの逞しい胸に顔が埋まった。 理久の息はまだ激しく、膝はまだ少し震えている。 それを見て、クロの胸がズキっと痛んだ。 それと同時に、もっと、もっと理久とキスしたい、理久の身体に触れたくて、クロの息も激しいまま興奮は収まらない。 きっと、クロの胸の中の理久にも、クロが理久を求め激しく打つ心臓の鼓動が聞こえてるはずだ。  でも、クロは、理久を大切にもしたい。 強い想いが相反する。 切なく苦しい懊悩がクロの中に激しく渦巻く。  しかしクロは、ただ黙ってクロの性欲を抑えに抑え、一層強く理久を抱き締め続けた。 すると、理久の激しい息が、徐々に、徐々にクロの腕の中で治まってきた。 理久の息がクロの胸の中で安らかになっていくのを感じると、クロの中に温かい充足感が湧き、クロの身体も落ち着いてきた。 やがて、理久の激しい息と膝の震えが治まった。 それでも、クロは、理久を抱き締め続けた。 理久に、今のクロの穏やかな鼓動が聞こえてるだろうかとクロは思った。 ふとよぎったのは、クロが理久の世界で獣の犬だったある日の事。 もうすでにクロは、自分が異世界の獣人王だという記憶が戻っていたが、理久にそれを言えずにいた。 あの時、理久の家の居間のソファで、理久の方がクロを胸に抱いて、一人と一匹でうつらうつらしながら横になっていた。 あの時は、クロの方が理久の心臓の音を聞いていた。 トク、トク、トク、トク…… やがて理久の鼓動とクロのそれが重なり、二つはまるで一つになったようだった。 住む世界が違っても、種族が違っても、そんな思いになれるのをクロは知った。 そして、祖父母や両親を除いた獣人の中に、クロが理久程の安らぎを覚えた者はいなかった。 勿論、人間の中にもいない。 それ所か、クロにとって理久は、クロの祖父母、両親以上の存在だ。 だからクロも、理久にとって安らげる存在でありたい。 だからこそ、クロは理久に、「理久の体に触れる時の獣のような俺が……本当は怖いか?」と、たったその一言を尋ねるべきだったのに、それが怖かった。 クロは戦場や暗殺者も、敵国の王も恐れはしない。 ただ、理久に、クロとキスしたり性交する事への本音を聞こうと思うだけでも、クロの尻尾と頭の獣耳が萎えてしまう。  そうしている内に、

  • いなくなった愛犬を探していたら異世界で獣人王になっていて、俺は愛妃になれと攫われた!(交際0日で獣人王と婚約しました))   疑念

     クロの部屋は、王の部屋と呼ぶに相応しい。 あまりに広く… 輝くような純白の壁と… そして、見ただけで高価と分る、装飾の美しいあらゆる調度品に溢れている。 そんな静かなクロの部屋に、理久とクロが抱き合いキスを交わす淫靡な音だけがする。「くちゅっ……くちゅっ……くちゅっ……」 理久の口内に入り込んだクロの舌は、最初理久の舌をあやすように、優しく柔らかく接触してきた。 そしてその内、クロの逞しい体は理久の体を優しく押し、理久の体は、クロと壁に挟まった。 整い高貴でありながらそこに野生味も感じるクロの美貌が、理久のすぐ目の前にあった。 やがてさっきの…… クロの鋭い牙での、理久の唇への甘い甘い甘噛みで感じた気持ち良さも手伝い、理久の膝がカクカクとし始めてきた。 理久は、本当に気持ち良かった。 心地良い温度の湯の中で、理久がクロに甘やかされ、トロトロトロトロ溶かされてゆくようだった。 そして、理久の陰茎は、もうすでに固くなっていた。 その固い陰茎に、理久とクロのズボン越しに、クロはクロ自身のやはり固くなっている陰茎をゆるゆる擦り付け始めた。 クロの陰茎は、理久より固く大きいのが布越しでもハッキリ分る。「ん……んんっ……」 上も下も両方気持ち良くて、理久が快楽に呻いた。 そして、徐々に……徐々に…… クロの舌は、強引に強く理久の舌に絡まってきた。「うっ……うぅん……」 理久がキスの最中なのに、息継ぎすら忘れそうになり、気持ち良さに吐息を漏らすと…… クロは、急に喉を鳴らした。「グルルルッ!」 クロのその、人ならざる低い音は明らかに、クロが獣の血を引く獣人である事を現している。 そしてクロはクロの舌を使い、今度は理久の舌をクロの口内に連れ込もうとした。 激しいクロの舌使い。「んんっ……」 理久は、又交接中の唇から、甘い息を漏らし、クロの誘惑に切ないほどに従順に乗った。 今度は、理久の舌がクロの口内に入る。 すると間髪入れずクロの牙が、今度は理久の舌を甘く甘く甘噛みし出す。 思わず理久は、目を見開いた。 今、クロの鋭い牙で理久の舌が噛みちぎられれば、理久はひとたまりもないだろう。 そしてそれは、ほんの簡単な一噛みだろう。 だが、そう冷やりと感じたのは、やはり一瞬だった。 その感覚はすぐにゾクゾクとした快感に変

  • いなくなった愛犬を探していたら異世界で獣人王になっていて、俺は愛妃になれと攫われた!(交際0日で獣人王と婚約しました))   甘噛み

     クロは、理久を軽々お姫様抱っこしたまま、野生動物並みの速さでクロの部屋へ連れこんだ。 やっと理久とクロは、二人きりになる事が出来る。 理久を抱くクロの背後で、クロが締めた「パタン…」と言う扉の音がやたら大きく理久に聞こえた。 クロは、理久を部屋の床に下ろす。 そしてその時の体勢から自然と前を向く理久の背中に、間髪入れずクロが抱きついてきた。 クロの体格が大き過ぎて、やはり理久はクロ体の中にすっぽり収まった。 クロは、野獣のような力で理久を抱きながら、それでも、手加減している優しさが理久には分る。 多分、本気でクロが理久の体を締めたら、普通の人間の理久など秒でひとたまりもないだろう。 理久の心臓は激しい鼓動を刻む。「理久……ダメだ……オレも一緒にお前の世界に行く。お前が心配で一人で行かせられない。お前の両親にも、きちっとオレからも言わなければ。お前をオレの生涯ただ一人の伴侶にしたいと」 クロが理久を背後から抱きながら腰を折り、理久の耳元に息と共に吹き込むように言った。 クロの息の熱さに、理久はブルりと体を震わせた。 そして理久は、正直その言葉が本当にうれしかった。 そして、このままクロと一瞬でも離れたら、二度と会えないかも知れない、クロと離れたくない不安にも苛まれていた。 だか……どう考えても…… 理久が一人自分の世界に帰り、一言両親に事情を告げる。 クロがこの世界に残り、明日の隣国の王との条約締結を成功させる。 そして明日、理久がこの世界に戻ると言うやり方が最善と思える。 それにさっき、アビが言っていた気がかりな別の事もある。 あの魔法陣は、使う人数が多い程、そして、使う人種や血統の違いによって消耗するスピードが変わるらしかった。 理久には、このアビの説明が全て理解できなかったが…… 簡単に言うと、王族の特別強い血統のクロが魔法陣を使うと、ただの人間の理久が使うよりも魔術陣はより強い力を発動し消耗しなければならないらしい。 それだけクロの血統には重い力があると言う事だった。「でも……魔法陣が消えかかってんのに、又クロが魔法陣を使ってオレと一緒に東京に行ったら、アビさんが最初に言ってたより早くに魔法陣が消えるかも知れない……」 理久は、両手でぎゅっとクロの抱き締めてくる両腕を握って、不安を口にした。「ぐっ……」 

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