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Novels by みゃー

私を裏切った億万社長、今はもう一度愛して欲しいと求めてくる

私を裏切った億万社長、今はもう一度愛して欲しいと求めてくる

「もう一度、あなたを愛していいですか?」 ズタズタにされた初恋からの再会愛… 子供の頃から不遇に耐えてきた鈴木智也は、就職してからやっと空間デザイナーとしての道を歩き始め、今はやっとの事、順調な生活を手に入れ安定した生活を送っていた。 しかし―― 過去、最も智也を苦しめ深い地獄に落とした男が、今になって再び智也の前に現れた。
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Chapter: 明かされた真実
智也は、そっと涙を拭き、起き上がりベッドから出た。 「鈴木さん!」 それを見た大成は、いつものクールさの中にも目元が緩み、語尾にも弾むようなものがあった。 ソファから立ち上り、目の前のローテーブルの上にあったリモコンで部屋全体の明かりをつけて智也の側にすぐに来た。 手には、500ミリリットルのペットボトルの水を持っていた。 「喉が渇いているだろう?」 キャップを開け、 そっと智也に差し出す。 智也は、黙ったまま大成と目を合わせないようにする。 実は、 長時間何も口にしてなくて、もう喉はカラカラだった。 でも、大成が座っていた長ソファの上にあった自分のカバンと、背もたれにかかっていた自分のスーツの上着を取った。 「もう大丈夫です。お世話になりました。ありがとうございます」 ビジネスの相手としての声と雰囲気で頭を下げた。 周りにある、大成が6年もの間保存し続けた智也の私物の事すら、何も見なかったように一切スルーもした。 大成は、その粛々とした姿を、どんな感情なのか?目を眇めて見ていた。 智也は、大成の顔を一度もしっかり見ないまま、 その場から早足でドアに向かうため、彼に背を向けようとした。 だが大成は、左手に水を持ち替え、右手で智也の右腕を掴んだ。 すでに大成に触れられた瞬間から智也の鼓動は速ったが…… 二人の距離が近くなり、次の瞬間、大成の体から香るビターで冷たく甘い香りが智也の鼻腔を突き抜け、智也の心臓が爆ぜた。 だが、智也は、冷静になろうと勤めた。 「社長。社長はさっき、体調が良くなったらすぐに帰宅して良いと言っておられました。僕は帰ります」 だが大成は、掴んだ智也の部分に焦っているのかと思うくらい、痛いくらい強く力を込め離さない。 それなのに片や、智也の顔の近くに大成の唇を寄せ、いかにも大人の余裕ぽく囁く。 「鈴木さん。高井からは君の仕事に対してスケジュールなど充分配慮していると報告を受けてるが、じゃあどうしてスタートした直後からあんなに残業をしないとならない?」 それを聞き、智也が唖然として大成の目を見た。 あの高井の組み立てた智也のスケジュールの、一体どこにそれがあるんだろうか? 彼は、何を自分に都合のいい事を勝手に大成に報告してるんだろうかと…… する
Last Updated: 2026-11-01
Chapter: 夕陽
智也は、ベッドから出て自分の作品の前に立った。 「大成……どうして?」 智也から、かろうじて声になっている、小さな小さな囁きが思わず漏れた。 それは、微かに震えている。 大成が、どうして6年間もこんなものを持っていたのだろうか? そう考えて…… 一瞬…… 5日前再会した日の夜、大成が智也に言ってたように…… 6年前、大成は確かに最初は智也を騙して近づいたが…… 本当は大成は、最終的には智也の事を愛してくれるようになっていたのかも…… と言う思いがよぎった。 だが…… 智也は、すぐに首横に振った。 6年前がどうだろうと、大成が6年間この絵を持っていようが、智也は、もう大成を一個人としては信用できない。 そして…… 大成も、車でのさっきの態度からしても、もう智也を協力会社の一社員として扱い始めてる。 (それで、もういいじゃないか……) 「もう……6年前の事は、俺は全部忘れたいんだ……」 でも、すぐに衝動に駆られた。 やはり僅かに震える指先で、絵の中の大成の、髪や輪郭、涼しげな瞳のラインをなぞる。 それが 終わるのがおしいのかと思うほどゆっくりと…… そして、又しばらく眺めた後、自然と智也の右口角だけ困惑気味に少し上がった。 やはり、今の智也の描く絵と比べたら、断然まだまだ子供で線や構図に未熟さを感じたから。 だが…… この絵の中に、あの頃の、何よりも強く真っすぐな智也の大成への感情を感じる。 今は確かに智也の絵の技能は上がったかも知れない。 比べ物にならない。 でも多分、これだけの気持ちと同等の熱量を今造る作品には絶対に込められないだろう。 この時以上の気持ちを持ち、再び自分は何かの、誰かの絵を描ける時が来るのだろうか? そんな疑問がふと湧いてしまった。 そうしている内にふと気が付くと、右目から涙が流れ落ちていた。 だが…… 「◯✕◯✕◯✕……」 「◯✕◯✕◯✕◯✕……」 閉まったドアの向こうの廊下の方から、何を言ってるかわからないが、大成と誰かが喋っている声が聞こえてきた。 雰囲気からだが、多分、大成とハウスキーパーが喋っているんだと思う。 6年前、智也が大成とこの家に住んでたからこそわかると言うのが…… 大成のプラ
Last Updated: 2026-10-22
Chapter: 忘れ物
黒塗りの高級車の中の後部座席。 「さあ、中に入れ」 大成が静かで低い声で、すぐ左横にいる智也に促す。 すでに、運転手もわざわざ車を降りて、 智也の横のドアを開けて近くに立っていた。 智也は、目の前にある「入れ」と言われた豪邸を、目を見開いて呆然と見詰める。 そして、ここで大成と暮らした高校時代を…… 自分が幸せだと勘違いしていた日々を思い出しかけて、恥辱と後悔から自己の心を護る為に思考を一旦止めた。 すると、硬直させていた体の一部、指先が震え出した。 そして、更にそうなりかけている唇で…… 世間の誰もが、そのあまりに整った精悍なマスクの大成に見詰められたら、畏怖から目を合わせていられないのに…… 智也は、真っすぐに大成を見て冷静な声で告げた。 「でも、やっぱりタクシーで帰ります。今日は自宅でちゃんと休みますから。僕がプライベートで不破社長の御自宅にいるなんておかしい」 すると…… 普段表情の全く変わらない…… 普段誰も変える事が出来ない厚い鉄面皮の大成の眉が、ピクっと一瞬したかも知れなかった。 それは、ほんの僅かでも、大成のどんな種類のものであれ感情の露出だろうか? でも、智也の見間違いかもしれない。 そして、返ってきた大成の声は、毅然として冷ややかで社長然としていた。 さっきの智也を心配そうにじっと見詰めていたのが嘘のよう。 「……なら……プライベートでなければいい。これは、私がAJの社長として、ホテルプロジェクトの成功のために、あくまで仕事としてしてる。目の前に仕事関係者がいて倒れそうになってるのを社長としてほっとけないだけだ。しっかり体調を整えて仕事してくれ。それが君と私の契約のはずだろう?契約は履行してくれ。少し眠って体調が良くなったらすぐに帰ってくれていい」 大成は、これは社長として……と、そう言うが、そもそも、大成が智也と同じ電車に乗っていた事からして偶然だったんだろうか? それでたまたま、智也を助けたのか? 聞きたいが…… 今の智也には、それすら大成に尋ねられない張り詰めた緊張感がある。 それに…… 確かに今、大成が仕事として智也を助けるだけと言ったのは、智也には有利だった。 そのはずなのに…… 智也は、心の奥で厶ッとしていた。 こ
Last Updated: 2026-10-10
Chapter: 地下鉄
次の日の朝。 智也の体調は悪くなかった。ゼインで働いている時も、顧客の急な対応などで残業はよくある事だし。 いつもと同じようにAJの迎えの車に乗り込む。 すると直後、これもいつものように横に座る大成の部下の木根が何気に呟くように言った。 「今日の不破社長は、朝から夜まで社用でAJ本社にはおられません。それを鈴木さんにお伝えするようにと社長から承りました。しかし何かあればわたくしを通じて社長に御連絡して欲しいとのご伝言です」 「……はい……」 それ以外は智也は返事する事なく、すぐに窓から外を眺めながら考えた。 まるで、智也が大成のスケジュールを知っていてさも当たり前のように一瞬聞こえたが…… でも、もしかしたら、他のプロジェクトメンバーの六人にも同じように言ってるかもしれないし…… 木根を通じて連絡しろと言う所に、大成は社長、智也はその配下のビジネスライクさを感じる。 だからただの普通の業務連絡だと思う事にした。 しかし…… 智也は、AJ本社に着いても、大成からの伝言の意味がずっと気になった。 そして、ふと気付くと、いないとわかってるのに、AJの従業員や客の人ごみの中の遠くに大成に似通った逞しい体型の男性を見ると振り返って見てしまっていた。 そんな自分を責めるように、振り払うように、智也はデスクに着くと仕事に集中し没頭した。 そのお陰で、かなり仕事は進んだ。 そして、今夜も7時近くになっても夕食をとらずデスクに向かっていて、この日は、誰も智也の残業を止める者はいないかに見えた。 なんならもう少し仕事を続けさらに前に進めたかった。 だが…… 7時を少し回った頃。 木根が、智也の仕事部屋をノックした。 今日はその音に気付き智也が返事をすると、入室してきたいつもは冷静な木根の声が慌てていた。 「こんなに寒いのに、どうして暖房をお付けにならないんですか?」 木根は、急いで空調のスイッチを入れた。 「寒い?」 智也は、思わず不思議そうにしたが、仕事に集中するあまり気温の変化に気付かなかっただけで、今ようやく部屋が冷えている事で体を震わせた。 本当に寒い。 でも、それはそうだ。 季節はもう秋で冬はすぐそこ。 昼間は空調無して過ごせても、夜は冷える。 やがて、智也が着
Last Updated: 2026-10-04
Chapter: 会議
 本当にメモを破ろうとした。 まるで大成にとって智也が特別であるかのように少しでも匂わすものは、智也には一切不要のはずだから。 でも、廊下に立ったまま、智也はいつまでもそこに書かれた大成の文字を見詰めて、指先が震えてそれができなかった。 会議は、9時半に予定通り始まった。 AJ側のホテルプロジェクト責任者高井と、智也も含めたホテルプロジェクトチームの七人で。 智也だけプロジェクトチームへの合流が遅く初参加。 だから、AJ責任者とプロジェクトチームの会議はもうすでに2回行われ、今回が3回目だった。 巷の中小企業と違い、AJほどの大きな企業の会議ならスムーズに全てが進むだろう。 そう、智也は事前にイメージしていた。 だが、それは違った。 大成がいない会議は、荒れた。 高井が、智也よりすでに先に仕事に着手していたホテルプロジェクトチームの広報デザイナーの女性筒井と運営総括責任者の男性木田の仕事の成果にあからさまに苛立ちをぶつけた。 三人は対立した。 木田が興奮して思わず椅子から立ち上がり暴言を吐こうとしたのを、その腕を掴み止めたのは横に着席していた智也だった。 止めてなければ、もっと争いは酷くなっていた。 そして、外装デザイナー西畠と建設部門責任者の指原が仲介をして、モメた件は、高井側も、筒井と木田側も再考して来週の会議に持ち越された。 「1回目の会議からあの三人は相性が悪かったから、高井さんだけでは全く話しにならないから、不破社長に仲介者として会議には毎回出席してもらうよう私から直に言ってみるわ」 会議が終わると、西畠が智也と指原と一緒にAJ本社の廊下を歩きながら二人に伝えた。 「三人共経歴は優秀でも、いざ仕事するまでは、相性こればかりはわからないから……」 続けて西畠はそう言うと、窓の外を何気に見ながら溜め息をついた。 会議が進まないと、西畠達や智也の仕事にも支障が出てくる。 ホテルプロジェクトチームは、結成最初から暗雲が漂っていた。 智也は、今も破られず智也のスーツの胸ポケットに入っている、大成から受け取ったものを思い出したーー 会議で何が困った事があれば、直に俺に言え。 会議だけでなく、何か困った事があれば、いつでも俺に直に言え。 そう書かれたメモ。 智也も大
Last Updated: 2026-09-21
Chapter: エレベーター
迎えのハイヤーの中で聞いた通り、午前中は会議だった。 AJ側のホテル事業の総統括者と、ホテルプロジェクトの七人とのもので、週に必ず1回行われるらしい。 だが、ここに忙しい大成は1ヶ月に1回しか出席しないようで今日は出ない。 智也は、一度大成から与えられた自室に入り、会議の用意を始める。 やがてタブレットや他の資料のファイルを取り脇に抱え一人会議室に向かう。 もう緊張感はマックスだった。 しかし、社会人としての責任から自分を鼓舞し気合いを入れ直す。 この、厳しい環境のAJで、智也はこれから一人で戦わないとならない。 そう、望んだのは自分だ。 エレベーターで会議室まで行くため、その前で少し待つ。 やがてすぐに扉が開いたがーー すると、そこに大成と、その後ろに若い男女のAJ社員が三人で乗っていた。 「あっ……」 智也は、会社では冷静でいないとと思うのに、大成と目が合ってしまい、思わずギョッとして目を大きく見開いてしまいそうになったがそれを堪えた。 「おはようございます」 そして、何も感じてないかのような顔で、他のAJの社員と同じように普通に大成に対して社長として頭を下げた。 「ああ……おはよう」 大成もすぐに智也から目を離し前を向き、智也に対して普通の社員を扱うような態度をとる。 智也は乗り込んだが、その瞬間、微かに大成の纏う蠱惑的な香りがして脳を電気が走ったように刺激された。 大成の、匂い立つような男の色気から漂うその香りは、僅かとしても他人からしたらもはや劇薬ではないかと思う。 自分でもどうしようもなく、脈動が早くなるのを感じる。 だが、何事もない素振りで男女にも朝の挨拶をして、一番後ろに立つ。 二人の社員も、この大会社の社長であり、妖艶な大人の男の容貌を持ち、若くして厳粛な威圧感を放つ大成と同じ空間にいるのが緊張するのだろう。 シーン……と静まり返った狭い空間に、汗が滲んできそうな強い緊張感が漂う。 やがて、会議室のある階に止まり扉が開いた。 大成は降りない雰囲気だったので、社員二人が大成に頭を下げ先に出た。 智也も後を続こうと動いた。 すると、大成とすれ違いざま頭を下げたその時ーー 大成の香りが一瞬強くなって、智也の胸がギュっと締め付けられた。 そして、その瞬間ーー 大成が、そっと大成のスーツの内ポケ
Last Updated: 2026-09-15
いなくなった愛犬を探していたら異世界で獣人王になっていて、俺は愛妃になれと攫われた!(交際0日で獣人王と婚約しました))

いなくなった愛犬を探していたら異世界で獣人王になっていて、俺は愛妃になれと攫われた!(交際0日で獣人王と婚約しました))

「ただ、一緒にいたいだけなのに……やっぱり異世界同士、人間と獣人は結ばれないのかな?…」 理久は、以前から犬をどうしても飼いたくて、保護施設から訳アリの、でも、キレイな長い黒毛の大型犬を引き取った。 そして、理久と、理久から「クロ」と名付けられたその犬は、一人と一匹、毎日毎日仲睦まじく暮らしていた。 しかし、ある日、そのクロが突然失踪し、理久は悲しみとパニックの中で探し回る。 そして、そのクロ捜索中の悲しみに暮れる理久の目の前に突然、キレイな長い黒髪の長身のイケメンが現れた!
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Chapter: ノーズキス
同じ頃。 クロの城の赤絨毯の長い長い廊下。 シャツとズボンに着替えて部屋を出た翼は、猫系獣人騎士のマッソの後ろをついてゆっくり歩いていた。 翼の後ろには、マッソと同じような立場にいる、理久と翼が異世界人だと知る、クロが信頼を置く馬耳を頭に持つ獣人騎士がいた。 2人の獣人騎士達は、翼の警護にクロが付けている。 「もう腹減って死にそう。もういい加減早く朝メシにして欲しいんだけど……」 どこまでも広大なクロの城。 翼がどこを見ても、華々しい純金細工に彩られた輝く太い柱、大きな窓、巨大な壁で…… 廊下のどこにも高価そうな絵画や彫像の数々が延々と、延々と並ぶ。 それにもうお腹一杯見飽きたかのように辟易した表情をして、ブツブツイヤミたらしく文句を言って前を向き歩く翼。 仮病はもうやめたので、腕は大丈夫と、魔法治癒師の診察は断った。 今はそれよりも、本当に一刻も早く何か食べたかった。 「只今、陛下と理久様は、昼からのアドオン国国王との謁見の為のご衣装の最終チェックをされておられます。それが終われば朝食かと」 マッソは、騎士の鑑のように表情を変えず姿勢良く歩き淡々と返した。 「ハア……」 翼からは、腹がグーグー鳴ってる現状以上に、理久がもうそんな、"謁見"などする高位な立場になっている事に深い溜め息が漏れた。 翼は、もう理久を手に入れる事は諦めた。 それでも、頭に獣耳、下半身に尻尾を持つ獣人達が普通に歩き回り、小さな妖精達が普通に飛び回り活動する周りの状況を見てるだけでも、やはり理久がこの異世界で本当にやっていけるのか…… しかも、国王の妃なんて…… 心配は尽きない。 大きな大きな溜め息が今にももう一度出そうだった。 これほど翼が心配する存在は、もう生涯理久しか現れないだろう。 そしてあらためて思うのは、翼には、やはり自分が産まれ育った住み慣れた自分の世界が一番だと言う事。 早く自分の世界に帰りたいと言う事。 翼自身はこんな異世界に住むなんてまっぴらごめんで、移住すると言っている理久の気持ちがやはり今もさっぱり理解出来ない。 (こんな所の何がいいのかわからない…) そこに、窓の外からガヤガヤと騒がしい声がし始めた。 ここは城の2階。 翼は、窓際に寄り、外を眺めた。 す
Last Updated: 2026-10-15
Chapter: 衣装合わせ
クロの目の前の理久は、スリムな体型にフィットした、まるでどこかの国の王子様のような純白のロングテールジャケットと同色のスラックスを着用している。 そのどれにも超高価な金色の魔力糸で細部に刺繍を施されていて、例え今ここが真っ暗闇だったとしてもまばゆい光を放つ。 そんな理久を見て、すっかりデレていたクロは、突然真剣な表現になり理久を見詰めた。 でも、獣人王として自分は弁も立つし口は達者だと思っていたクロが、理久のその美しさに言葉を失い、すぐに何も発せなかった。 「へっ……へっ……変かな?……」 理久は、クロが無言なのが気になり、それを誤魔化すように笑って言った。 クロは、ただただ真っすぐに理久を見詰めて、無言で首を横に振った。 「アドオンの国王様にお会いする前に、衣装のチェックだって言われたから着てみた。衣装担当の人達、クロの衣装の最終チェックもしたいみたいだったから、翼との話が終わったらクロの部屋に来て欲しいって」 理久のその言葉の間も、クロは理久のその姿から目を離せず、穴が空くんではないかと思うほど凝視した。 「ああ。わかった。翼は今部屋の中で着替えてるから、終わったらマッソに翼をダイニングルームに案内させる。俺達も衣装チェックが終わったら三人で朝食を食べよう」 そう言うとクロは、理久の近くで彼を警護していたマッソに、今度は又翼を守るよう指示した。 マッソは、廊下のドア横に立ち翼が出て来るのを待つ。 「じゃ……俺達は、俺の部屋へ行こう」 クロは、そっと、宝物に触れるように理久の肩を抱いた。 理久とクロは、長い長い赤絨毯の広い廊下をゆっくり歩き出す。 理久は、クロの優しい腕に囲われながら、クロの翼への説得は上手くいったと感じていた。 クロが何も言わなくても、クロの様子からそれが伝わってくる。 きっと翼は、理久が異世界に移住して、クロの伴侶になる事を承諾してくれただろう。 だから今はそれよりも、どうしてクロは理久の着替えたのを見て、いつものクロらしく何か言ってくれないのかの方が心配だった。 (やっぱ……俺、変だったかな……) やがて、クロの自室に着き、クロも着替えた。 「素晴らしい!素晴らしいです!」 一人の犬系の中年男性獣人が目をキラキラさせて両手を握り、うれしさのあまり甲高い声で叫んだ。 彼は、王族の衣装の管理主任。
Last Updated: 2026-09-29
Chapter: 断腸の想い
「私に協力すると言ったのに、裏切ったな……」 低い声がした。 すぐに、ベッドで上半身だけ起き上がる翼と、少し離れてその前に立ち向かい合っているクロの間に、その声の主が現れた。 黄金色に光る丸い魔物。 フワフワと空に浮かびその発色は鈍いが、それでも威圧感を周りに放ち、今どれだけの力を持っているかは予測不可能で、そこが返って油断できない恐ろしい存在になっていた。 そして、魔物には今は目と口があり、視線だけは鋭く、クロの方を向いていた。 クロも、その魔物を激しく睨む。 「裏切るかよ。俺は最初から理久以外はどうでもいいんだよ」 翼は、魔物の丸い背中を見ながらにっと口角だけ上げて笑った。 その瞬間。 鞠程の大きさの魔物を、クロが躊躇なくその両手で捕獲した。 「ん……ググググ……」 魔物は、うめきながら抵抗する。 光はかすかなのに、そのエネルギーが、クロの手の中で膨張するような感覚があった。 やはり、 まだ力がかなり残っているようだった。 元々獣人は身体能力は高い。 しかし、そんな獣人達でも、普通はこの状況なら恐れから手を離すだろう。 でもクロは、恐れずひるまず、眉一つ動かさず冷静な表情で、そのまま逃さず掴み、その強力なクロの握力を左右から与え続けた。 だが、暑苦しくないしなやかで強靭なクロの筋肉が躍動しているのが服の上からでもよくわかる。 翼は、自分も格闘技をしているが、クロの迫力を見て生唾を一度飲みこんだ。 そして、それでもじっと、観察するようにクロを見た。 理久を、本当に任せられる男なのかどうかを見定めるように。 すると、すぐに魔物は意識を無くしたようにグッタリし、光を放たなくなり、ただの白い丸いブニョブニョした球体になった。 「死んだか?」 翼は、あっけらかんとしていた。 「いや。気絶させただけだ。こいつには聞きたい事がある。強力な結界が張ってあり魔物が出入りできないはずのこの城に誰がこいつを入れたか。何の目的があって入れたか聞かないとならない」 魔物を見るクロの目つきが鋭く光る。 「なるほどね……」 翼は、軽口で呟いた。 だが本当は、さっきクロが魔物を掴んで潰すように攻撃しながら、冷静にそこまで考えていた事に寒気がした。 でも、本来"王"とは、これ位
Last Updated: 2026-09-01
Chapter: 対峙
理久は、クロの部屋で待つ事にして、クロは、翼のいる客室に一人戻った。警備していた騎士達は客室から出され、本当にクロと翼の二人きり。サシで話し合いが始まった。その場の空気は張り詰め、重い。「お前が本当にあのクロなのかまだ実感が無い。1回犬の姿になれよ!」翼は、天蓋付きのフカフカの広いベッドの上で上半身だけ起きあがり腕を組み、すぐ目の前に立つクロに深刻な声で言った。クロは、仕方無いかという表情をすると、途端に体全体が煙幕に包まれ、瞬時に獣人から犬型になった。「はあ……」自分から言っておいて、目の前に現れた見覚えのある大型の黒い犬に、翼から心底深い溜め息が漏れた。心では、まだどこか嘘か悪夢であって欲しいと現実逃避したくなるが、今はそれを押しとどめて話しを続ける。「で、なんでこの世界のお偉い"獣人王様"が俺と理久の世界にいたんだよ?」「お前がこの世界にこれたのは、この世界と理久の世界を繋ぐ魔法の紋章があったからだ。以前俺はたまたま城の中でそれを見つけて、何の魔法陣かもしらないままそこに立って、横に書いていた呪文を唱えてしまって理久の世界に転移した。そこで偶然車にひかれて、この時も意図せず偶然衝撃で犬に変身してしまい記憶を無くして理久に引き取られた。記憶が戻ったのはつい最近だ」犬なのにクロが喋った事に、わかっていた事であるはずなのに、翼は又大きな息を吐いた。「それならお前が本当にクロだったら、理久と一緒に何ヶ月か暮らしてわかるだろ?理久の両親がどれだけ理久をかわいがってるか。理久もどれだけ両親と仲がいいか」「俺は、王家のしきたりで親とは同じ城で暮らしたが家臣に育てられ、理久の家庭を見て初めて普通の親子って言うのが何なのかようやく理解できたからそれはよくわかってる」そう言うと犬のクロの体の周りが又白く煙り、やはり瞬間で獣人のクロに戻った。「お前が理久の両親に会って異世界の王様ですからって、理久と異世界で暮らしますって、理久は贅沢三昧できますからって言ったって許してもらえるかよ。そん時はどう持っていくんだよ、話を」翼はクロを睨む。クロはそれに動じず、迷い無く即答した。「その時は……その時は、俺はこの国の王を退位して、俺が理久の世界に移住する」「……」翼にはその言葉が意外、予想外過ぎて、一瞬思わず黙りこんだままクロを見詰めた。聞き違いか
Last Updated: 2026-08-05
Chapter: 婚約式
「クロっ!」理久は、クロが翼の挑発に乗ったんではないか?と心臓を跳ねさせた。まさか……と思い、クロの顔を見詰めた。でもクロは一見、逞しい腕を組んだまま落ち着いている。「理久。今から翼と一対一で話しをする」それでも理久は、まだ挑発に乗った線を捨てきれなかった。2人きりにさせて、クロと翼に何か決定的な争いに発展すれば取り返しがつかない事になるかも知れない。理久の表情に不安が濃くなる。「理久!」その呼びかけに理久は、今度はその声の主の翼に視線を向けた。「理久。俺は、クロと話しがしたいんだよ」翼の真剣な表情と声。でも、それが逆に、翼が何をクロに言うか予想が出来ない、増々理久を不安にさせる。「翼、ちょっと待っててくれ。理久とこの件でちょっと部屋の外で話してくる」クロは、そう言うと理久の瞳を見詰めた。本当は理久の肩を抱いて外に連れ出したかったが、翼を刺激すると余計にややこしくなる。だが、理久が従兄弟を大切に思ってなければ、クロもここまで翼に気も遣ってはいない。こんなに気を回すのは、理久が大切だからだ。「行こう、理久」言葉と視線でも、クロが理久に促した。理久が戸惑いながらも頷いた。でもここはクロを何とか説得して、翼とのサシの話し合いは止めようと思った。翼の表情や口ぶりから、やはりなかなか理久とクロの仲を認めてくれないと感じたし、もう時間をかけて、理久自身が地道に翼を納得させるしかないとも覚悟した。理久は、翼を始め、今まで理久と長く共にあった人達と世界を違えこれから生きてゆく。だから、だからーーせめて、その人達と心まで違え別れたくない。理久とクロがドアに向かい歩きだした。そこに間髪入れず、翼がクロの背中にぶつけた。「おい!王様!逃げんなよ!ちゃんと、ここに戻ってこいよ!」「翼……」理久は、更にわざと煽っているように見える翼に困惑の表情を向け、溜め息が出そうになったのを飲みこんだ。翼の精神状況が良くないと思ってるから、あまり何か強く言えないし。次に、クロがイライラしていないか表情を慌てて確認する。だがクロは、至って冷静だった。さっきまで、あんなにピリピリしていたのが嘘みたいに。でも、クロにどうして心境の変化があったのか?今はそんなに落ち着いてるのか?そこまでは理久にはわからない。「すぐに戻る」クロは、翼に
Last Updated: 2026-07-19
Chapter: 明言
翼は、天蓋ベッドの頭のベッドボードにフカフカの枕を押し当て背もたれにして座りながらで体を固めた。 理久から返ってきた言葉は、翼にとって想像していた待ち望んでいたものとは本当に違った。 「翼と、幼稚園時代に戻りたい……」 今の、クロとギクシャクした理久なら必ずそう言うと思っていたのに。 理久はチョロいから絶対楽勝だと思ったのに。 その横の椅子の理久は、チラリと一瞬、近くで直立不動で立つ、クロが置いて行った猫獣人騎士マッソを見た。 やはりこれ以上彼の前で翼と私的な事を話すのはやはりやめておこうとも思ったが。 理久と翼は、この世界では異世界から来たという事は秘密で、それを知る獣人も限られている。 翼にもその事は、彼が目覚めた時に伝えていた。 だが、マッソは、クロの信任もあつく理久の身辺警護の責任者に任命された男で、理久と翼が異世界人だという事情も知っているので安全だったし―― 何より、今翼に言わないとならない気がした。 「翼。安心して。必ず帰れるから。翼は帰って、必ず将来立派な社長になれる!」 確かに、翼が精神不安の演技をし理久の気を引いていた。 でも―― (えっ?!まさか、理久が"俺"を励まそうとしてんの?!) そんな疑問が浮かんだと同時に、さっきは失敗したが、もう次にどう理久の気持ちをクロからこっちに取るか再び考え始める。 まだ諦めない。 だって、元の世界に帰って"社長"になっても、理久がいなければ意味が無い。 だが、そんな翼を、再び理久の意外な言動がかき乱す。 「俺、昔から……翼の事、いつも凄いなって思ってた……昔からずっと、今も、俺の自慢できる従兄弟だよ」 そこに今、理久と翼のいる部屋のドアの前に丁度クロが戻ってきていた。 翼のいるベッドから扉まで少し距離はあるが、犬獣人のクロは、他の獣人よりとにかく聴力が良い。 ドアがあろうが閉まってようが何だろが関係無い。 理久の本心が鮮明に聞こえた。 だからドアノブにも手をかけていたが今は開けられなかった 赤絨毯の廊下に立ちながら、そのまま聞き続けた。 理久は、クロが促す前に言わなくても、ちゃんと自分から従兄弟としての関係を翼の前でハッキリさせてくれた。 翼は、まだ身動き一つせずただ理久を見詰めていたから、理久はさらに
Last Updated: 2026-06-30
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