Chapter: 面会智也は、元々人付き合いは上手くないし苦手だ。自覚もしてる。しかし、空間デザイナーは対人折衝も仕事の内で、智也もこの1年、社会人として人間関係には努力してきた。だが――今から会うのは、外装デザイナーの西畠(にしはた)建築界の天才で雲上人で、マスコミにもよく取り上げられる。それだけでも緊張感があるのに、智也の母より年上で、智也の更に肩に力が入り口の中が乾く。さっきのファイルの写真や過去にテレビのニュースで見た西畠は、流石女性でここまでの地位を築いただけあり、誰から見ても負けん気の強い顔立ちをしていて、智也もそれを感じてもいた。だが――「西畠先生初めまして。鈴木智也です」智也が西畠に深々頭を下げると。「あら~!鈴木君って、写真で見た顔より実際は更に若いわね。まだ高校生って言っても学生証無しで学割り受けられるわよ。でも、写真も実物も本当に凄いイケメンねぇ~アイドルか俳優さんって言っても全然不思議じゃないわね!」意外な事に智也と初めて対面した西畠は、開口一番そう言い、口調は朗らかで、でも快活で、良い意味で知り合いのおばさんのような親しみやすさがあった。「とんでもありません」智也は、再び絶妙な角度で頭を下げると、品位ある清廉な声で返した。そこからは、智也が内心今感じて必死で隠している緊張感は一見したら読み取れず、他人には、智也は顔は学生のように若いが話すと落ち着いたしっかりした社会人と言う印象を与えた。だが、智也の額の髪の生え際には、薄っすらとだが緊張の汗が滲んでいた。それくらい、西畠は智也にとって偉大な人物だった。すると、そんな智也と西畠の会話する姿を近くでしっかりと見ていた大成が、まるで智也の額のそれを感知したかのようにそっと智也の背中に手を当てた。そして西畠に、まるで自分の大切な人を紹介するような、穏やかでありながらしっかりした口調で言った。「西畠先生。私からお願いします。今日から鈴木さんを本当に、どうかよろしくお願いします」そんな、智也を推す大成の声にも、智也の背中の大成の手にも智也は驚く。そして、その大きな大成の手を智也の背中に感じると、智也の緊張感で硬直していた体から、意識せず自然と悪い方の力みだけがストンと抜けた。どうしてそうなるのか自分でもわらかず、そんな自分に智也は戸惑う。「鈴木君。実はあなたのデザインが素晴ら
Zuletzt aktualisiert: 2026-08-06
Chapter: 背中部下も智也の横に乗り込むと、運転手が車を急発進させた。 そして―― 車の後部シートで徐々に遅刻の心配が無くなると、今度は違う心配が智也の頭をよぎり始めた。 やはり、鼓動はずっと速いまま。 (俺は、色々な意味で大成の側でちゃんと働けるのだろうか?) 決心はしたが、AJの本社に着くまでずっと送迎ハイヤーの中で、そしてAJ本社に着いても、智也の頭の中にそれがチラつき続けた。 そしてその度に智也は、自分に落ち着くよう言い聞かせたが酷く緊張し続けた。 しかし―― もう、前に進むしか無かった。 遅刻はせず、8時45分にはAJ本社に着いた。 智也は、しばらく控え室で待たされた後、38階社長室の大成の元に通された。 智也は「おはようございます。不破社長」と頭を下げ上げた後、社長椅子にどっしりと座る、智也と同い年には見えない圧巻の迫力の大成を見据えた。 大成の両隣には大成の部下二人も立っている 「鈴木さん。君はこれから空間デザイナーとして、七人のAJホテル建設プロジェクトチームの一人として働いてもらう。最近はどこの企業でも、時と場合によってはプロジェクトの成功の為に一時期その道のプロを外部から集めてチームを作り、プロジェクト終了で解散する方式を取ってる。君が今から入るチームもそれに当たる。君の任期は、ホテル完成までの約3年。そして、君が入ってこのプロジェクトチームは全員揃った事になり、今日から本格始動してもらう。チームと言うからには、他の六人と連携を取りながら、この巨大プロジェクトを成功に導いて欲しい」 大成は、椅子に座ったまま、彼の目の前に立つ智也にあまりに淡々としていた。 智也に向けられた大成のその落ち着いた口調。 冷ややかにすら感じる冷静かつ威厳のある視線。 一つの隙も無く光沢のある上質のスーツをきちっと着込んだ姿。 それは、まさしくAJの社長のもので、智也を他の社員と同じように扱っていると思えた。 だが同時に、その大成から漂うのは完璧で染み出るような大人の男の色気で、智也の気持ちを根底から激しく揺さぶる。 (このAJ本社にいる間だけでも、大成の求愛の事を考えず、一人の社会人として私情抜きに自分の仕事だけに打ち込まないと)――と、智也に強い緊張感が生まれたと同時に―― やはり今目の前にいる男が、
Zuletzt aktualisiert: 2026-07-30
Chapter: 決心智也は、タクシーで自宅に帰ると、すぐにシャワーを浴びた。 智也の体に纏わりつき残る、大成の蠱惑的な香りを消し去りたかった。 同時に、智也の記憶に残る、昨晩の、智也を抱く大成の強い腕、優しい指、甘い吐息、智也を穿つ太い幹も、全て洗い流せたらと、立ったまま頭からひたすら浴び続ける。 でも―― どんなにそうしても智也の心臓は、ずっと、血が沸き立つように速い鼓動を刻み続ける―― 忘れる所か、智也の頭は、智也を抱く大成の体や仕草を明確に思い出していく。 そして、智也の素肌からどんどん流れて消えていく大成の香りを思うと、胸が強くギチギチと締めつけられる。 そして―― 智也の陰茎が再び天を向き立ち上がった。 「どうしてこうなるんだ?違う……こんなの、違う……大成は、俺を裏切った男だぞ……」 首を横に振りそう言いながら目を閉じ唇を噛むとその美貌を歪めた。 苦しい、本当に苦しい。 大成が許せないと思う気持ちがあるのに、体は違う反応をする。 実は 智也は、 大学入学した時、将来の就職の事を考えて、大成と別れて中断していた接触恐怖症の治療を再開した。 でも、それは病院を通してではなく自分自身で行った。 できるだけ大学やアルバイト先で、他人がすぐ近くにいる事に慣れる訓練をしたり、他にも試行錯誤した。 だから今ではもう、満員電車で他人と肩や腕が触れてもめまいがしたり吐きそうな位苦しまなくなって大丈夫だし、仕事相手と握手も出来るくらいには、社会生活に不自由ないくらいには回復していた。 かと言っても、大成と別れて6年間、誰とも恋愛めいたボディータッチすら一つもしてこなかったために、智也が接触恐怖症を本当に完治させたかどうかはよく自身でさえわからなかった。 でも例え他人とベッドを共にできるまで智也が接触恐怖症を完治していたとしても、あんな酷い扱いを智也にした大成に対して体が反応するのはおかしい、あってはならないしーー 完治していないのに、裏切った大成の体だけに智也が又まるで抱かれたいかのように反応するのも、それもおかしいし、あってはならない。 それでも智也の手は、我慢できずそっとそこに這っていき、幹からくびれの辺りを強く握り上下に動かした。 同時に大成の顔を思い浮かべると熱い吐息を吐いた。 これほど清廉に見え
Zuletzt aktualisiert: 2026-07-23
Chapter: 夜明け智也は、結局大成の言った通りになり、自分が絵を仕事にする事に複雑な感情はあった。 しかし、1年浪人し、移住した地方で一番優秀な大学に行き、4年間建築デザインの勉強をした。 当然、智也は、大成を許せなかった。 しかし。 (俺が、大成に愛される人間では無かった……) そういう思いから、智也を、智也自身が恨み憎みもした。 そして、忘れよう、忘れようとしながら、毎日、毎日、大成を思い出した。 絵を描く度に、大成が智也の絵を褒めた事を思いだし、 それがやはり全てが偽りだとどこか思えなくて。 決して1日たりとも、彼を忘れた日は、無かった。 やがて1年前、大学を卒業して空間デザイナーとして就職した。 同時に、長かったが、もう5年も経ったと―― 大成は、智也などとうに忘れ去っていると、或いは、きっと大成は、社長令嬢とアメリカにいると思い、再び智也一人でひっそり東京に帰ってきた。 でも、二度と大成に会う気持ちは無かった。 むしろ、会わないように目立たないように暮らし、日本だけでなく世界発信されるSNSなども一切してなかった。 そして、仕事も会社の人間関係も順調で慣れてきて、やっと生活も全てが軌道に乗った矢先に―― たまたま、ゼインの企業宣伝のSNSに間違って一回だけ、取り引き先の若いイケメン男性と智也の笑顔のツーショット写真が載ってしまった。 それを智也は知らずにいたら、何故か直後すぐにAJ本社から智也に仕事の打診があった。 更に、昨日大成と6年ぶりに再会し、酒の力があったとは言え、その場の雰囲気に飲まれ流された所があったとは言え―― 一夜ベッドを共にして、今、朝を迎えてしまった。 「もう一度チャンスをくれ。それから君の答えをくれ……」 バスローブ姿の大成が、やはり同じ物を着ている智也を壁に強く張り付けにして押さえつけたままもう一度懇願した。 やはり、朝で声は掠れているが、いつもの大成のセクシーな声質がより増幅され、智也の耳はゾクゾクする。 その声とキスできそうなくらいに近い大成の顔。 昨日の二人だけの懇親会の時はきちっと整えられていた大成の前髮が今は乱れ、大成の男の色香が増している事に、酔いは醒めているはずなのに智也の頭がクラクラする。 そんな大成の憂いを含んだ瞳が、智也に絡む
Zuletzt aktualisiert: 2026-07-14
Chapter: 裏切りしかし―― 「おーっと!不破、待てよ!」 二階堂がそう言い、今度は二階堂が大成の制服の襟を片手で掴み静止させた。 そして、目の前の大成を凝視し念を押す。 「不破……お前、鈴木なんてどうでもいいんだろ?鈴木なんてただのヒマ潰しの遊びだって去年転校してきた時俺にあれだけ言ってたよな……ヒマ過ぎるから鈴木で遊ぶって。遊びならもう鈴木なんてどうでもいいじゃん」 二階堂は、薄ら笑いを浮かべながらも、声の力はやたら強いまま続けた。 「不破、お前さぁ、いつものパターンと違って口説く時間が長くなって、鈴木が好きって優しくする演技しすぎて自分で自分が訳わかんなくなってるだろ?金も時間も腐るほどあるから、テキトーに鈴木と日本の大学入って同居始めてセックスして賭けに勝って、それから鈴木をペットみたいにしばらく飼って何回かセックスしたら飽きるから捨ててアメリカ行く予定だったろ?そうなんだよ。お前は俺と一緒で元々超名家の跡取りで、俺達と鈴木みたいな一般人とは身分が違う。鈴木は、お前にとって最初から遊びでしかないんだよ。遊び。遊びなんだよ」 すると、大成もガバっと二階堂の胸ぐらを掴んだ。 そして、同じような事を大成に言った自分の父親の顔を、一瞬二階堂に重ねた。 大成は、目を見開き眉間を寄せ、口で小刻みに息をして興奮しているようで、今にも二階堂に殴りかかりそうだった。 二階堂は、何故今、大成がこんなに怒ってるのかが理解できなかったが、瞬時に理由を探した。 「アハハ!あ~、そうか、鈴木がどうのじゃなくて、俺との勝負だからか。本当に不破は幼稚園の頃からどんな小さなゲームでも負けんの嫌いで今も変わらないよな。そんな顔すんなよ。いいよ!今回の勝負は無かった事にするから。お前は負けてない。負けてないから。それに、和久井とならいつやってもいい。アイツも所詮俺のセフレみたいなもんだから遠慮すんな。俺から和久井にお前の所に連絡するよう言っとく。それに俺達、今まで散々おんなじ女や男共有してきたし、今更だし。それと、鈴木とダメになったならお前、卒業したらすぐ社長令嬢とアメリカ行くんだろ?またいつか又アメリカから帰る事があればさぁ、また違う新しい奴探して賭けで遊ぼうぜ!」 二階堂が大成の襟元から手を引いた。 それでも大成は二階堂の胸ぐらを離さなかったが。 「不破
Zuletzt aktualisiert: 2026-07-13
Chapter: 裏庭智也は、大みそか、正月三が日は大成の家で大成と過ごした。 ハウスキーパーお手製お節料理や焼肉やカニ鍋を大成と2人で食べたり―― 受験の事はしばし忘れ、リビングで、やはりソファを背もたれにした大成に後ろから抱かれながら、正月番組や映画や動画を見たり、ゲームをしたりゆったりした。 元旦には近所の神社にも合格祈願に大成と一緒に行った。 珍しく車は使わず、二人で肩を並べて。 風は冷たく日暮れは早く、帰りには西の空が、泣きたくなる程切ない薄茜に染まっていた。 「何をお願いした?智也の一番の願いって何だ?」 静まり返り、コート姿の智也と大成しか歩いていない高級住宅街の道。 二人の淡い影が並んで揺れる中、大成がまるで青春小説や青春マンガの主人公のようなテッパンを静かに口にした。 前を見詰めて。 「内緒。言ったら……願いは絶対叶わないんだよ」 智也も、大成の横顔にテッパンで返す。 でも、智也が神様に心から願ったのは―― 大成と、ずっと一緒にいられますように…… ただ一つ。 「そうか?お前はロマンチストだな。現実は、意外と口にした方が叶うかも知れないぞ……俺は、現実主義だから……」 大成は、まだ前を見詰めてそう呟いた。 「そうかなぁ……」 智也は、苦笑いを浮かべなから視線を前に移した。 でも、本当に智也の願いを他人に言ったら神様は叶えてくれないかも知れないし、何より―― 大成が智也に「一緒にいたい……」と言えば智也は頷けるが―― 今の智也は、まだ今は、智也から大成に「一緒にいたい」とは、言えない気持ちになっていた。 智也が努力し、もっとしっかりした人間になり、本当の意味で大成の横に立てるその日までは。 正月が過ぎると、本当に受験が慌ただしくなった。 大成は、淡々と表情一つ変えず受験をこなしていたが、智也には目が回りそうな位の忙しさと緊張感。 でも大成は、そんな智也を察知すると、必ず智也を優しく抱き締めて、智也の髪や顔や唇に触れて、そして唇を重ねてきた。 智也は、安らぎと共に、激しく大成の体を求めて気持ちも体も高揚した。 そして――その都度感じる。 大成が、大成だけが智也の全てだと―― 大成への恋心と欲情と大成の優しさと、受験の苛烈なノルマ。 この四つの激しい波と風に
Zuletzt aktualisiert: 2026-07-07
Chapter: 対峙理久は、クロの部屋で待つ事にして、クロは、翼のいる客室に一人戻った。警備していた騎士達は客室から出され、本当にクロと翼の二人きり。サシで話し合いが始まった。その場の空気は張り詰め、重い。「お前が本当にあのクロなのかまだ実感が無い。1回犬の姿になれよ!」翼は、天蓋付きのフカフカの広いベッドの上で上半身だけ起きあがり腕を組み、すぐ目の前に立つクロに深刻な声で言った。クロは、仕方無いかという表情をすると、途端に体全体が煙幕に包まれ、瞬時に獣人から犬型になった。「はあ……」自分から言っておいて、目の前に現れた見覚えのある大型の黒い犬に、翼から心底深い溜め息が漏れた。心では、まだどこか嘘か悪夢であって欲しいと現実逃避したくなるが、今はそれを押しとどめて話しを続ける。「で、なんでこの世界のお偉い"獣人王様"が俺と理久の世界にいたんだよ?」「お前がこの世界にこれたのは、この世界と理久の世界を繋ぐ魔法の紋章があったからだ。以前俺はたまたま城の中でそれを見つけて、何の魔法陣かもしらないままそこに立って、横に書いていた呪文を唱えてしまって理久の世界に転移した。そこで偶然車にひかれて、この時も意図せず偶然衝撃で犬に変身してしまい記憶を無くして理久に引き取られた。記憶が戻ったのはつい最近だ」犬なのにクロが喋った事に、わかっていた事であるはずなのに、翼は又大きな息を吐いた。「それならお前が本当にクロだったら、理久と一緒に何ヶ月か暮らしてわかるだろ?理久の両親がどれだけ理久をかわいがってるか。理久もどれだけ両親と仲がいいか」「俺は、王家のしきたりで親とは同じ城で暮らしたが家臣に育てられ、理久の家庭を見て初めて普通の親子って言うのが何なのかようやく理解できたからそれはよくわかってる」そう言うと犬のクロの体の周りが又白く煙り、やはり瞬間で獣人のクロに戻った。「お前が理久の両親に会って異世界の王様ですからって、理久と異世界で暮らしますって、理久は贅沢三昧できますからって言ったって許してもらえるかよ。そん時はどう持っていくんだよ、話を」翼はクロを睨む。クロはそれに動じず、迷い無く即答した。「その時は……その時は、俺はこの国の王を退位して、俺が理久の世界に移住する」「……」翼にはその言葉が意外、予想外過ぎて、一瞬思わず黙りこんだままクロを見詰めた。聞き違いか
Zuletzt aktualisiert: 2026-08-05
Chapter: 婚約式「クロっ!」理久は、クロが翼の挑発に乗ったんではないか?と心臓を跳ねさせた。まさか……と思い、クロの顔を見詰めた。でもクロは一見、逞しい腕を組んだまま落ち着いている。「理久。今から翼と一対一で話しをする」それでも理久は、まだ挑発に乗った線を捨てきれなかった。2人きりにさせて、クロと翼に何か決定的な争いに発展すれば取り返しがつかない事になるかも知れない。理久の表情に不安が濃くなる。「理久!」その呼びかけに理久は、今度はその声の主の翼に視線を向けた。「理久。俺は、クロと話しがしたいんだよ」翼の真剣な表情と声。でも、それが逆に、翼が何をクロに言うか予想が出来ない、増々理久を不安にさせる。「翼、ちょっと待っててくれ。理久とこの件でちょっと部屋の外で話してくる」クロは、そう言うと理久の瞳を見詰めた。本当は理久の肩を抱いて外に連れ出したかったが、翼を刺激すると余計にややこしくなる。だが、理久が従兄弟を大切に思ってなければ、クロもここまで翼に気も遣ってはいない。こんなに気を回すのは、理久が大切だからだ。「行こう、理久」言葉と視線でも、クロが理久に促した。理久が戸惑いながらも頷いた。でもここはクロを何とか説得して、翼とのサシの話し合いは止めようと思った。翼の表情や口ぶりから、やはりなかなか理久とクロの仲を認めてくれないと感じたし、もう時間をかけて、理久自身が地道に翼を納得させるしかないとも覚悟した。理久は、翼を始め、今まで理久と長く共にあった人達と世界を違えこれから生きてゆく。だから、だからーーせめて、その人達と心まで違え別れたくない。理久とクロがドアに向かい歩きだした。そこに間髪入れず、翼がクロの背中にぶつけた。「おい!王様!逃げんなよ!ちゃんと、ここに戻ってこいよ!」「翼……」理久は、更にわざと煽っているように見える翼に困惑の表情を向け、溜め息が出そうになったのを飲みこんだ。翼の精神状況が良くないと思ってるから、あまり何か強く言えないし。次に、クロがイライラしていないか表情を慌てて確認する。だがクロは、至って冷静だった。さっきまで、あんなにピリピリしていたのが嘘みたいに。でも、クロにどうして心境の変化があったのか?今はそんなに落ち着いてるのか?そこまでは理久にはわからない。「すぐに戻る」クロは、翼に
Zuletzt aktualisiert: 2026-07-19
Chapter: 明言翼は、天蓋ベッドの頭のベッドボードにフカフカの枕を押し当て背もたれにして座りながらで体を固めた。 理久から返ってきた言葉は、翼にとって想像していた待ち望んでいたものとは本当に違った。 「翼と、幼稚園時代に戻りたい……」 今の、クロとギクシャクした理久なら必ずそう言うと思っていたのに。 理久はチョロいから絶対楽勝だと思ったのに。 その横の椅子の理久は、チラリと一瞬、近くで直立不動で立つ、クロが置いて行った猫獣人騎士マッソを見た。 やはりこれ以上彼の前で翼と私的な事を話すのはやはりやめておこうとも思ったが。 理久と翼は、この世界では異世界から来たという事は秘密で、それを知る獣人も限られている。 翼にもその事は、彼が目覚めた時に伝えていた。 だが、マッソは、クロの信任もあつく理久の身辺警護の責任者に任命された男で、理久と翼が異世界人だという事情も知っているので安全だったし―― 何より、今翼に言わないとならない気がした。 「翼。安心して。必ず帰れるから。翼は帰って、必ず将来立派な社長になれる!」 確かに、翼が精神不安の演技をし理久の気を引いていた。 でも―― (えっ?!まさか、理久が"俺"を励まそうとしてんの?!) そんな疑問が浮かんだと同時に、さっきは失敗したが、もう次にどう理久の気持ちをクロからこっちに取るか再び考え始める。 まだ諦めない。 だって、元の世界に帰って"社長"になっても、理久がいなければ意味が無い。 だが、そんな翼を、再び理久の意外な言動がかき乱す。 「俺、昔から……翼の事、いつも凄いなって思ってた……昔からずっと、今も、俺の自慢できる従兄弟だよ」 そこに今、理久と翼のいる部屋のドアの前に丁度クロが戻ってきていた。 翼のいるベッドから扉まで少し距離はあるが、犬獣人のクロは、他の獣人よりとにかく聴力が良い。 ドアがあろうが閉まってようが何だろが関係無い。 理久の本心が鮮明に聞こえた。 だからドアノブにも手をかけていたが今は開けられなかった 赤絨毯の廊下に立ちながら、そのまま聞き続けた。 理久は、クロが促す前に言わなくても、ちゃんと自分から従兄弟としての関係を翼の前でハッキリさせてくれた。 翼は、まだ身動き一つせずただ理久を見詰めていたから、理久はさらに
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-30
Chapter: 思い出話まるで姫君が眠るような純白の天蓋付きのベッドの布団の中に入り上半身起きていた翼。 その少し離れた前方で、彼に対して横を向いて立っている存在に視線をやった。 それは、クロが今この部屋にいる理久と翼が二人きりになるのを阻止して置いていった猫系獣人騎士。 さっきクロが変装した警備兵より地位が高く、体の上下にだけは金属製の鎧を纏っていたが、頭には兜は今は無い。 「そこの獣人の人、ちょっと理久と二人だけで話したいから、部屋出てくれる?」 訳のわからない異世界に来てメンタルをやられて理久に甘えている演技をしているはずの翼が、いつもの彼らしい尊大な物言いをした。 言われた猫系の獣人は、頭の獣耳両方をピクピク一度させたが、表情を変える事なく淡々と返した。 腰には、立派な剣を携帯している。 「それは出来ません。私は陛下より、理久様と翼様に何事もないように……と仰せつかっております故……」 「俺と、理久に何事もないように?……俺が理久に何かすると思ってんの?あんたの、"犬"の王様は?」 翼の言葉の端々に棘を感じる。 猫系獣人は、黙ってジロリと翼を見詰めた。 翼は、今は演技を一旦やめ、その視線を受けても平然としていた。 そして、今自分がいる羽毛のフカフカの布団のベッドの周り、 ところどころの細工にふんだんに本物の純金を使っているだろう、ソファやテーブルや壁。 花々の精巧な彫刻をされた大理石で作られた大きな暖炉。 だだ広い部屋の床一面に敷き詰められる上質で豪華な織物絨毯を見て、クロを心の中でなじる。 (何が!……異世界の獣人王だよ。金は持ってんだろうが……ペットの分際で飼い主に手出しやがったただのクソ犬だろうが……) ベッドの横の椅子に座る理久の方は、翼の心が、異世界に来た事からの弱気からイライラに変わり安定してないと判断した。 だからこれ以上、ゴタゴタしたくなかった。 「翼……別に、今でもこうやって普通に話しできるから……」 小さく息を吐くと、慌てて、しかし、やんわり咎めた。 翼は、気弱になる芝居をもう本当にやめて無理矢理にでも獣人を追い出したい気分だった。 でも今は、理久の気持ちを一刻も早く自分側に引き込む方が、クロから引き離すのが先決だった。 「仕方ないなぁ……」 翼は、わざと大きめの
Zuletzt aktualisiert: 2026-06-17
Chapter: 意地すぐに、昨晩も翼を診察した頭に熊耳の獣人の医師が来て、天蓋付きベッドに横になる翼の腕を診た。 それを、翼から少し離れた所に立って黙って見詰める理久と獣人クロ。 理久とクロ二人は横に並びながら、距離は人一人ぶん空け、互いにまだ緊張感のある空気が流れる。 クロは、さっき、嫉妬から理久を咎めた事を謝りたいのに―― とにかく今すぐ謝りたいのに―― クロが、ここまでするのは、理久だけなのに― 翼や、医師や、侍従や、アビやレメロンもいるこの状況では出来なくて、チラチラと横にいる理久を何度も見る。 理久も、何かクロに言いたげで、チラチラとクロを何度も見る。 理久とクロは、お互いに、お互いを凄く意識していた。 そんな理久とクロを、翼は診察を受けながらベッドの上で不満そうに見詰める。 そしてさっきの計画通り、わざと辛らそうな演技をして、理久への態度をいつもと変える。 「理久!こっちに来てくれ!不安なんだ!」 理久は、いつもしっかり者の翼の豹変に驚きながらも、それだけ翼が精神的に追いつめられていると、理久にもその責任があると、やはり、翼は理久の従兄弟だと、クロをチラっと気にかけた後、翼のいるベッドの横の椅子に座り、 診察を受ける翼を見守る。 「腕の骨は、多分大丈夫だと思いますが、念の為、魔法治癒師なら骨の状況を透視出来るので、お呼びになるのがよろしいかと……」 医師がそう告げると、翼の不安そうにする演技に拍車がかかる。 「理久!早く帰りたい!俺の世界に! 理久!一緒に早く帰りたい!」 翼は、上半身起きて、理久に抱きついた。 理久は、又チラリとクロを横目で見た。 クロは、グッと堪えてるような表情で、 理久と翼を凝視していた。 でも、翼の表情も不安そうで、理久は翼を抱き締めて安心させようと背中を擦って励ました。 「ごめん、翼……もう少し、もう少し待って。必ず帰れるから。必ず帰して上げるから」 本当なら、クロが婚約者の理久の代わりに翼にそう言って安心させるべきだと、クロは思った。 嫉妬で理久に対しても子供みたいに意地になっている場合では無いと。 しかし―― どうしても、理久の翼への近しい態度から、理久の翼への気持ちが釈然としない。 翼の気持ちに気づかない理久は何も悪くないのに、理久
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-31
Chapter: 仮病(クソ犬っ!許さん!よくも理久を!純粋な理久をたぶらかしてこんな訳わからん世界に拉致した上に、理久の体を!) 翼は、本気の本気でキレた。 頭の中がぐつぐつと煮え立つ。 そして、目を鋭く眇め、早足でクロに向い突進する。 クロを殴る気満々だ。 一発や二発では足りるはずない。 クロも翼の殺気を感じた。 しかし、クロは、余裕の笑みを浮かべそれを受けて立つ気で、理久をクロの背中に隠すと翼に対して真正面を向く。 勿論、ただ黙って殴られる気はない。 だが、理久は、一時は、翼の命を本気で危惧したから、そんな二人の雰囲気が目に入らないくらいに、自分が今上半身裸なのも頭から飛んで忘れたくらいに翼が無事だったのがうれしかった。 「翼!良かった!」 理久が、ヒョコっとクロの背中から飛び出し、翼の目の前に笑顔で駆け寄る。 その理久の表情に、一発で翼の殺気は削がれた。 だが次の瞬間、翼の目に再び、理久の上半身の素肌に残る理久とクロとの愛の交歓の跡が入る。 「理久っ!」 翼は、悔しさの余り叫んで、正面からガバっと理久を抱き締めた。 その光景に、目を大きく開いて驚愕したのはクロだった。 「理久……理久……理久は俺の事、心配だったか?」 翼が、理久を抱き締めたまま、切なそうな声をだした。 「当たり前だろ。めちゃくちゃ心配した!」 理久も翼の背中を抱き締めて、理久にとって従兄弟の翼の無事を実感して本当に安堵した。 だが―― 「理久!翼から離れろ!それから、これを着ろ!」 いつもの優しい声とは違い、かなり殺伐とした感じでクロが言った。 理久に対してクロのこんな本当に冷たい声を聞いた事が無くて、理久はビクっとする。 そして、不安そうに理久はクロを見詰めた。 だがクロは、やはりいつもと違い、理久に向けていた視線も厳しかった。 そして、クロの腕が翼から理久を離して、理久の肩に白の前開きのシャツを掛けた。 そんな二人を見て、翼は思った。 (まだいける……まだ大丈夫……俺は理久を取り戻せる!必ず理久を俺は取り戻す!だから、あの、俺に取りついた化け物の言う通りに行動する!) そして翼は、突然左腕を抑えて、両目を閉じて唸るように言った。 「いっ……痛い……痛い……腕が痛い……早く!早く!俺達の
Zuletzt aktualisiert: 2026-05-24